船旅
ユールリアたちは船に乗って海に出た。トリフォが舵に糸を巻いて、その糸を使って船を操縦する。
「危険なことなんて何もないね。それともこの穏やかな海を作り出しているのは、オスヴァルトの力だったりするのかな?」
キルシュが船の手すりを掴んで海を見る。ティルターシャは彼女の横に立って、波の隙間に見える光を目で追った。
「分かんないの? ここはとっても怖いところよ。だってさっきからずっと、天気が変わってないんだもの」
ユールリアがオスヴァルトを見上げた。
「どうして天気が変わらないんだろう。オズは、理由を知ってる?」
彼は不思議そうな顔をした。
「天候が変わらないのは当たり前だ。この海は、世界の裏側と繋がっているからな」
「世界の裏側?」
「そうだ。そこは理想郷だという人間もいるが、それは間違っている。あの場所には何もない。同じ海と大陸はあるが、それだけだ。国もなければ人もいない」
「そこに行くことはできる? 裏側に渡れば、葛くんも流石に諦めると思うんだけど」
「私とユールリアだけであれば、裏側に行くことは可能だ」
「……ティルは?」
オスヴァルトが目を細める。彼はティルターシャに視線を向けて呟いた。
「難しいだろうな。ティルターシャは精霊の末裔だが、その血は既に薄れている。世界の裏側に渡れる者は、世界と強い縁を持つ者だけだ。ユールリアは私の宝だから、裏側に行っても何も起きないと思うが……。他の人間は、たとえ裏側に行けたとしても、無事では済まないはずだ」
ティルターシャが目を見開く。彼女は慌ててユールリアの腕を掴んだ。キルシュがそれを見て苦笑する。
「大丈夫だよ。君を置いて逃げるほど、お姫様は臆病じゃないから」
トリフォが無言で糸を引いて、船をその場に留まらせた。ユールリアが鋭い眼差しをキルシュに向ける。彼女は笑って受け流した。
「そんなに怒らないでよ。ボクが誰の味方なのか、君には分かっているよね?」
「……分かってます。キルシュさんとトリフォさんは、葛くんの部下ですからね。機会を見つけて、私を葛くんのところへ連れていく気なんでしょう。でも、そんなに上手くはいかないと思いますよ。私たちはもう、海の上にいるんだから。食料や燃料を調達するために陸に戻るとしても、それはほんの一時のこと。そんな短い時間では、何もできません」
「そんなことは、彼が1番よく分かっていると思うよ」
キルシュが笑みを深める。ユールリアはため息をついた。
「そうですね。彼なら……葛くんなら、私が考えていることくらいは読んでいると思います。だから彼は、必ずどこかで仕掛けてくる。そうと知っているからこそ、私はあなた方を警戒し続けなければならないんです」




