手紙
その手紙がノアルミナに届いたのは、5人が海に出てから10日も経った後のことだった。カズラは手紙に記された名前を見て、目を見開いた。
「ユールリア……!」
彼は慌てて自室に戻り、小さなナイフを使って手紙の封を開けた。
『葛くんへ。元気そうで何よりです。私も元気に旅を続けています。キルシュさんとトリフォさんから葛くんの話を聞いて、とても驚きました。葛くんが私のためにそこまでするとは思わなかったから。昔のことに拘っているあなたには悪いけど、私は今の生に満足してるの。だから葛くんも私のことなんて忘れて、他の人と幸せになって。前世の恋は前世の私たちだけのもので、今の私たちには関係ないんだから。それじゃあ、また今度。いい人が見つかることを祈ってるわ』
手紙の文字を追って、カズラは目を動かした。その口元に笑みが浮かぶ。
「そうだね。君が僕のことを思い出したら、きっとそう言うんじゃないかって思っていたよ」
彼は手紙を読み終わると、丁寧に畳んで封筒に入れた。
「残念だけど、君の思い通りにはならない。もう外堀は埋めてあるんだ。今の君に僕のことを好きになってもらうために、ここまで頑張ってきたんだからね」
彼は孤児だ。頼るべき家がないことを、他人は不幸なことだと言う。けれど彼は、それを幸運なことだと考えた。
(僕にはこの力がある。適当な貴族の家に養子に入って、彼女を探すための基盤を整えるためには、親がいない方が都合がいい。本当は公爵家よりも伯爵家や子爵家の方が楽で良かったんだけど、オスヴァルトのことを調べるためなら仕方ない。まあ、この家は家族揃ってお人好しだったから、丁度良かったけど)
ユールリアは大きな勘違いをしている。カズラが陽奈との思い出を追い続けているのは事実だが、彼女に執着している理由はそれだけではない。
(君はきっと知らないんだろうな。僕が君に出会ったときから、君のことを愛していることなんて)
ユールリアと真山陽奈。2人はとても良く似ている。魂が同じなのだから当然だ。そしてカズラは、ユールリアに会った瞬間に、そのことに気づいていた。簡単に言えば一目惚れというやつだ。カズラは昔から、彼女の笑顔に弱かった。
(何回だって好きになるさ。君と同じ世界に、同じ時に生まれることができたんだから。これは運命なんだ。僕と君は、転生しても愛し合う宿命を持っているんだよ)
カズラは手に持った手紙を机の引き出しにしまって、楽しそうな笑みを見せた。




