思い出
ユールリアたちは、オスヴァルトに連れられてテントに戻った。テントの前で立ち止まったティルターシャが、背後にいるキルシュの方を見て問いかけた。
「トリフォさんとキルシュさんは、悪い人なの?」
「そんなことないよ。そりゃあ、昔は色々とやったけど……。カズラさんと出会ってからは、暗殺の仕事は受けてないし」
「じゃあ、船を買うお金は……」
「カズラさんから貰ってるんだ。それも公爵家のお金じゃない。彼が賞金首のお尋ね者を捕まえて稼いだ、正式なものだ。だから君たちは、何も気にしなくていいんだよ」
キルシュはそう言って笑った。ユールリアが目を細める。
「そうね。葛くんは昔から、用意周到な男の子だったから。キルシュさんとトリフォさんを護衛として送り込んできたのも、私との繋がりを保っておきたかったからだと思うわ」
ティルターシャが目を丸くして、ユールリアの方を見る。
「ユー、その人のこと思い出したの?」
「まあね。……その子の話を聞いて、もしかしたらって思ったのよ。葛くんとは子供の頃からずっと一緒だったから、彼のことなら私は誰よりもよく知ってるわ。まあ、船に乗ることにしたのは正解なんじゃない? 海の上で、彼と連絡を取ることなんて出来ないと思うから。だってそうでしょ? キルシュさんとトリフォさんは暗殺者。人を思い通りに動かすことはできても、自然に干渉することはできないわ。危険だって言われてる海に出れば、他の人に会うことはないでしょ?」
ユールリアは笑っていた。キルシュが真顔になる。
「……流石だね。カズラさんが君を追いかけ続ける理由、やっと分かったような気がするよ」
彼女が短剣を握る。オスヴァルトがユールリアを守ろうとして前に出る。ユールリアは平然とした表情で言葉を発した。
「大丈夫。葛は私に甘いから。彼に何を命令されてたとしても、私がお願いしたってことにすれば怒られないわ」
キルシュの動きが止まる。ティルターシャが不安そうな顔で、ユールリアに抱きついた。
「何の騒ぎだ?」
そこにトリフォが帰ってきた。キルシュは振り返らずに告げる。
「お姫様がカズラさんの狙いに気づいちゃったんだ。海の上じゃあ、ボクらには何もできないって言われちゃってね」
「だから暗器を持ち出したのか。今回は荒事を避けるように、カズラに言われていただろう」
トリフォはキルシュの手から短剣を取り上げた。ユールリアはそれを見て微笑んだ。
「そうなんだ。変わってないね、葛くん。どうせ手紙を送るなら、私が書くわ。そうしたら、彼も納得すると思うから」




