医師の告白
医師の自宅は小さく、門番や使用人もいなかった。カズラはその家の扉を開けて、声をかけた。
「こんにちは。オスヴァルトさんのお話を聞かせていただきたいのですが、よろしいですね?」
家の中にいた人間が顔を上げる。彼は疲れきった表情で、椅子に腰掛けていた。
「私は何も話しません。オスヴァルトの話を聞きたいのなら、他を当たってください」
「構いませんよ。僕は勝手に推測で話しますから、それが合っていたら肯定してください」
「……なんですって?」
目を見開いた彼に向かって、カズラは笑いかけた。そして家の中に入って扉を閉めた。
「オスヴァルトさんは、子どもができない体だったそうですね。そしてそれは、生まれた時から分かっていた。……彼には、あるべきものがなかったのでしょう? 人間ならば誰でも持っている、ある部分が欠けていた。違いますか?」
「……なぜ」
医師が震える声で呟く。
「なぜ、そのことを。誰にも……彼自身にさえ、告げていないのに」
「簡単なことです。諦めるのが早すぎる。彼の体が人間と同じ作りなら、何かできることがあると思うはず。生まれた瞬間から何もできないと思うのは、彼が人間とは違う体だったからなのでしょう?」
「何もかも分かっているということですか。それなら何故、ここに来たのです?」
「聞いておきたかったのですよ。あなたの口から、彼の体の特徴を。ご安心ください。僕は彼を貶めるつもりなどありませんから」
「……体の特徴、ですか。実のところ、私にもよく分かっていないことの方が多いのですよ。それでも……?」
「構いませんよ。分かっていることを聞かせてください」
医師はため息をついた。
「……分かりました。彼は長男だということになっていますが、実際には性別を示す器官がなく、男か女かも分かっていません。毒も薬も効果がなく、病にもならず怪我もしない。1度、彼が私の目の前で石を飲み込んだことがありましてね。私は慌てたのですが、彼は全く動揺していませんでした。1年間飲まず食わずでも死ねなかった。食べられないはずのものを飲み込んでも無事だった。そう言っていたのです。……あれが化け物でなくてなんだというのでしょう。誰よりも彼自身が、強く思っていたのですよ。自分は人間ではないのだと」
カズラは目を細めた。
「なるほど。だから、彼が逃げたと聞いて怖くなったんですね。彼の秘密を知っているのはあなただけ。あなたが死ねば、その秘密は永遠に守られ続けると考えて」
「……そうです。私は彼に恨まれていたと思いますから」
「そうですか。では、情報料として良いことを教えてあげますよ。彼は誰かを恨むような生物ではありません。もしも彼がそんな生き物であれば、とっくにこの世界は滅んでいますから」
カズラはそう言って出ていった。医師は戸惑ったような表情で、彼を見送った。




