世界のシステム(後編)
オスヴァルトは人間ではない。彼がそのことに気づいたのは、洞窟に入った時だった。
(本当は、すぐにここから消えるべきなのだろうな)
彼は自分の体にしがみつくユールリアを見た。
(私はずっと死にたいと思っていた。……そして今なら、その方法も分かっている。それに、本当に死ぬわけではない。大陸を支えている生き物と合わさって、共にこの場所を守るだけだ。だから……)
彼はそのことをユールリアに伝えようとした。けれど何も言えなかった。彼も海に沈んだ生き物と同じように、宝物を見つけたから。
(そう、その生き物は不老不死だ。なのに海に沈んだまま、動かないでいる理由はただ1つ。宝物を守っているからだ。卵の欠片から生まれた動物や植物を、今もずっと守り続けている)
それはオスヴァルトが見つけた真実。そして、王家がずっと秘匿している事実だ。その事実を知るために動いていた人物は他にもいる。そしてようやく、そのことをつきとめた。彼がいる場所はノアルミナ王国。王宮の最奥にある宝物庫だ。そこに残されていた古書を読んで、彼はそのことを知った。彼が宝物庫に入ったのは、オスヴァルトのことを調べるためだ。宝物が山のように置かれた部屋の片隅。古い本棚の前で、その男……カズラは、手に持っていた本を閉じた。
「そして、この生き物に子孫はいない。本当に王家がその生き物の血を継いでいるというのなら、王家の人間は不老不死になるはずだ。長い年月をかけて血が薄れたとしても、その特徴が1つも残らないなんてことがあるだろうか。特別なのがオスヴァルトだけなら、そもそも前提が間違っているんだ」
オスヴァルトに子供ができないことは、ノアルミナでは公然の秘密となっている。それなのに、その理由は家族にすら伝えられていない。
「オスヴァルトは公爵家の嫡男で、ノアルミナの英雄。1人の医師から無理だと告げられた程度で、子を成すことを諦めるなんて。おかしな話だとは思っていたけど、そういうことか。医師は本当の原因を知っていたんだ。そして誰にも言えないまま、ずっと抱え続けた。その推測が正しいとしたら……次に行く場所は、もう決まったようなものだね」
カズラは読み終わった本を棚に入れて、宝物庫の外に出た。彼は門番と軽い世間話をして、大通りに出る。彼が目指している場所は、医師の自宅だ。その医師は、オスヴァルトが幼い頃から彼のことを診てきた。そして彼が出ていった日から自宅に閉じこもって、誰とも会わないと言い続けている。




