神殿跡
ユールリアたちは大陸の東西を分ける川に沿って歩いていた。
「……あれ? これ、何だろう」
大陸の南端。海が見える道で、ティルターシャは白い石の破片を拾った。石には何かの絵が描かれている。顔のあるべき場所が割れていて、それが何かは判別できなかった。けれどそれが長い体を持つ生き物で、隣に丸い図形が描いてあることだけは分かった。
「ねえ。それってもしかして、蛇の絵なんじゃない?」
ユールリアが横からその絵を覗き込む。ティルターシャは不思議そうな顔をした。
「確かに、体の形は蛇に似てるね。この石の端に描いてあるのは太陽かな。でも、蛇って空を飛ばないよね?」
「この絵に描かれてるのが蛇じゃないとしたらどう? 例えば龍。蛇みたいな長い体で空を飛ぶ、伝説上の生き物よ」
「ティルは聞いたことないよ、そんな名前。ユーはどうして、そんなことを知ってるの?」
「そういう生物がいるって聞いたことがあるの。生まれる前の話だけどね。蛇みたいな姿で、羽がないけど空を飛べるのが東の龍。トカゲみたいな姿で、羽があって飛べるのが西の龍。この絵の生き物には羽がないし、蛇に近い姿だから東の龍の方が近いと思うよ」
「西と東で違う生き物なの? どうして?」
「いや、知らないけど……。でも、この絵に描かれてるのが卵から生まれた生き物だとしたら、それは龍だったのかもしれないね。この辺りの地面には柱の跡が残ってるし、これと同じ白い石があちこちに散らばってる。多分ここには、神殿が建っていたんじゃない?」
ユールリアは周囲を見回して言った。オスヴァルトが彼女の横に立って地面を見る。
「なるほどな。確かに、ここに神殿があった可能性は高い。神殿の壁に、太陽と共に描かれているもの。それが卵から生まれた生き物だと考えるのは自然なことだ。そして、それが神の姿なのだとしたら……。王家に神の血が流れているという話は、嘘だということになるな」
「ううん、それも本当だよ。だって、龍は人間の姿になれるんだから」
ユールリアはオスヴァルトの目を見て告げた。ティルターシャが彼女に驚きの視線を向ける。
「蛇が人間になるの?」
「いや、蛇じゃなくて龍だけど……。まあ蛇が人間になる話もあるから、この生き物は空を飛べる蛇なのかも。そういう生き物がいるって話、聞いたことない?」
「えっと……ティルがお父さんから聞いたのは、この世界を今でも動かしてる力の話だけなの。それは世界を作った生き物の力で、お父さんもその生き物が何なのかは知らないって言ってたよ」
「そっか。でも、これが体の長い生き物で、大陸がその生き物の形になっているんだとしたら。生き物の顔があるのは、北か南の端だと思う。私たちが辿ってきた川は、その生物の血管だったんだろうしね」
ユールリアはそう言って、目の前に広がる海を見た。




