転生者の思惑
3人が橋を渡っていた頃。カズラは公爵家の大広間で、義理の家族と顔を合わせていた。
「オスヴァルトにも困ったものだ。黙って家から出ていくとは」
ローゼンフェルト公爵がため息をつく。公爵夫人は俯いて涙をこぼした。
「全て私たちのせいだわ。私たちがオスヴァルトに無理を言ってしまったから、こんなことになったのよ」
カズラは黙ってお茶を飲んだ。オスヴァルトの弟であるレオポルトが、カズラに近づいて囁いた。
「すまないな。父上と母上は、今も兄上のことを忘れられていないんだ。カズラが養子になったとしても、それは変わらないのだろう」
「そんなことは分かっていますよ。それに僕は、オスヴァルトさんの不在を利用して公爵家の養子になったようなもの。彼が抜けた穴を埋められるとは、初めから思っていませんから」
カズラは彼の声量に合わせて小声で言った。彼が苦笑を浮かべる。
「そうか。それなら良かった。同じ英雄だからという理由だけで公爵家の養子にするという話を聞いたときは、何の冗談かと思ったが……」
「仕方がありませんよ。僕は孤児で、家名を持っていなかったんですから。公爵家に引き取っていただけなければ、英雄にもなれなかった。僕はその程度の男ですよ」
「そんなことはないさ。カズラには、兄上と張り合えるほどの強さがある。それに、俺はカズラが来てくれて良かったと思っているよ。お前はどんなときでも落ち着いている、頼れる男だからな」
レオポルトは悪戯っ子のような笑みを見せた。カズラが目を細める。
(公爵家の人たちは、心の底から僕のことを信じている。僕の力が働いている証拠だな)
カズラには、対面した人間の敵意を失わせて相手の懐に潜りこむという能力がある。オスヴァルトたちと出会ったときも、彼はその力を使っていた。
(この力があったから、ユールリアが僕のことを覚えていなくても問題ないと思ってたんだ。彼女の友人や保護者も、僕のことを受け入れてくれるはずだった。けれど、あの男には……オスヴァルトには、僕の力が通用しなかった。オスヴァルトと血が繋がっている彼らには、問題なく作用しているようだから……特別なのは、彼だけだ)
カズラは鋭い眼差しをレオポルトに向けた。レオポルトが首を傾げる。
「カズラ? どうかしたのか?」
「……いえ、大したことではないんです。オスヴァルトさんのことを考えていて、少し。家を継げないと言い残して出ていったのに、こんなに両親から愛されているなんて……幸せすぎて、羨ましいくらいです」
「そうか、カズラは孤児だという話だったな。確かに両親は、兄上のことをとても大切にしていた。子供ができない体だと医師から宣告されても、養子を取って家を継いでくれと頼み続けていたくらいだ。だけど、そんなことは気にしなくていい。カズラはこれから、俺の弟になるんだからな。父上と母上は、必ずお前を愛してくれる。俺が保証するよ」
レオポルトが笑みを浮かべてカズラの頭を撫でる。カズラは大人しく、撫でられるままになっていた。




