橋を渡る
「ここまでだ。ユールリアのことは諦めろ。そうすれば、命までは取らない」
オスヴァルトは淡々とした声をだした。盗賊の首領が笑みを深めて剣を振り抜く。オスヴァルトはその瞬間に上に飛んで、首領の体を飛び越えて背後に回った。
「命と金。どちらが大事なのか、よく考えるんだな」
オスヴァルトが後ろから手を回して、首領の喉に剣の刃を当てた。首領が大剣を地面に落とした。大きな音がして、土煙が舞い上がる。オスヴァルトは剣を少し動かして、首領の首に浅い切り傷をつけた。首領はその傷に触れて、笑みを浮かべた。
「……なるほどな。どうやらテメエは、オレよりよほど強えらしい。それで? テメエは、オレたちを役人に引き渡すつもりか?」
「いや、私にも事情があるからな。役人に関わるのはやめておく」
「そりゃあいい。オレたちにとっちゃあ大助かりだ。しっかし、なんで役人に関わろうとしねえんだ? テメエも娘も身なりが良いし、どっかの貴族の子供なんだろ?」
「お前たちには関係ない。私はただ、ユールリアとティルターシャを守りたいと思っているだけだ」
「そうかよ。まったく、よく分かんねえヤツだぜ。それほどの力があるってのに、あんな小娘に良いように使われてるなんてな」
首領が呆れたように呟く。オスヴァルトは低い声で告げた。
「何とでも言え。私は2人に救われた。その恩を返すのは当然だ」
「そんな話には興味ねえよ。オレはただ、金が欲しかっただけだ。ま、テメエには敵わねえってことが分かったからな。あのガキが何で金になるのかは知らねえが、オレはもうテメエらには関わらねえよ。約束するぜ」
首領は目を閉じて、戦い続ける意思がないことを示した。オスヴァルトはそれを見て、首元に添えていた刃を下ろした。首領が口元を笑みの形に歪める。
「まあ、オレみてえな人間はいくらでもいる。次からは気をつけるこったな。宝を運んでるなんてこたあ、口に出さなけりゃあ分からねえんだからよ」
「ああ、そうだな。感謝する」
オスヴァルトは真顔だった。首領がため息をつく。
「……正気かよ。オレはテメエが死んでも構わねえと思ってたんだぜ。そんな人間に感謝するとは、おめでたいヤツだな」
オスヴァルトがその場から離れる。彼は遠くで見守っている少女たちに視線を向けたまま、振り返らずに告げた。
「だが、私は死ななかった。そうだろう? それに、忠告は素直に受け取っておくべきだ。これから先、2人と共に旅を続けるのなら尚更な」
川に架かる大きな橋。その橋の側で、少女たちが待っている。ユールリアの小さな手が、オスヴァルトに向かって伸ばされた。オスヴァルトは彼女の手をしっかりと掴んだ。少女たちはフードを目深に被って、オスヴァルトと共に橋を渡った。3人はこうして、南へと下っていった。




