戦闘
太陽の光が降りそそぐ、崩れかけた砦。その前に立ったオスヴァルトは、鞘から剣を抜いて砦の中に入っていった。砦の中心にある螺旋階段を上る足音が、建物の壁に反響する。その音は、ユールリアたちがいる部屋にも聞こえてきた。キルシュと名乗った女が、扉の方に目を向けた。
「トリシャにも聞こえてるよね、この音。あの人が来たんだったら良いけど……」
「違う」
窓の前に立っている男……トリシャが短い言葉を発した。キルシュは懐からナイフを取り出して身構えた。トリシャがゆっくりと窓から離れる。窓の周囲には白くて細長い糸が張られていて、その糸はトリシャの指に結ばれていた。ティルターシャがユールリアの耳元で囁く。
「ねえユー、オズは大丈夫かな。この人たち、強そうだよ」
「……大丈夫だよ。オズを信じて、ここで待とう」
ユールリアは、声をひそめて呟いた。少女たちは密着してベッドから出る。2人はそのまま、部屋の端に向かって移動した。キルシュが扉から離れて、2人に近づく。
「お姫様はそこから動かないで。君に会わせたい人は、まだここに来ていないんだ。その人が来るまで、君にはこの砦にいてもらう必要があるんだから」
「……じゃあ、その人の名前を教えてください。それとも、私に名前を教えられない理由でもあるんですか?」
キルシュがユールリアの目を見つめる。少しして、彼女は観念したように両手を上げた。
「分かったよ。あの人の名前は……」
その瞬間のことだった。扉の外から、大きな音が聞こえてきたのは。キルシュが慌てて扉から離れる。扉が外からの衝撃を受けて吹き飛んだ。ティルターシャがユールリアにしがみつく。ユールリアは扉の外に立つ人影を見て、大きな声で叫んだ。
「オズ! 助けて!」
その人間はユールリアの声を聞いて、口元に笑みを浮かべた。
「ああ、そのつもりだ」
部屋の中にオスヴァルトが踏み込む。キルシュが彼の死角から現れて、ナイフを振りかざした。オスヴァルトはナイフを紙一重で避けて、少女たちに向かって手を伸ばした。その手が、少女たちに届く寸前で止まる。彼と少女たちの間に、白い糸が張られていた。その糸を操っているのはトリシャだ。オスヴァルトが右手の剣を使って糸を切ろうとする。その剣にナイフが当たった。キルシュが投げたナイフだ。キルシュは2本目のナイフを取り出して、オスヴァルトに突きつけた。
「仕方ないな。ちょっと予定とは違うけど、君とはここで戦うことになりそうだ。トリシャは、そこでお姫様を守ってて」




