廃墟
その砦は古くなっていて、壁も崩れかけていた。朝の日差しが砦の中に差し込んで、少女たちが目を覚ます。
「……ユー? ここ、どこ?」
「分かんない。古い砦みたいに見えるけど……」
2人は寄り添って、周囲を見回した。そして同時に、その女の存在に気づいた。女は2人と目が合うと、楽しそうに笑って口を開いた。
「お姫様のお目覚めだね」
「……え?」
ティルターシャが首を傾げる。
「お姫様って、ユーのこと? 確かにユーは貴族の子だけど、お姫様なんかじゃないよ?」
「やだなあ。お姫様っていっても、言葉通りの意味じゃないよ。ボクらの主人が、ずっとその娘を捜していたんだ。君の友達のことをね」
ティルターシャは不安そうな表情になって、ユールリアの方を見た。
「……ユー、知ってる? その人のこと」
「知らないけど。そもそも誰なの? その人って」
ユールリアは戸惑ったような顔をして言った。彼女の言葉を聞いた女が笑みを深める。
「それはまだ秘密。会ってからのお楽しみだよ」
少女たちは顔を見合わせて、周囲を見た。放棄された砦にしては、室内が綺麗に整えられているように感じる。2人が寝かされていたベッドは、部屋の中央に置かれていた。部屋の入口には扉を背にするように立っている女がいて、その反対側にある窓の前には男がいる。長髪の男は、ユールリアと目が合うと軽く会釈をした。
「ごめんね。ソイツ、無愛想な男でさあ。よく喋るのは、あの人と話す時だけなんだよ」
女が笑いながら呟く。ユールリアはため息をついた。
「だから、あの人って誰なんですか? 私には、心当たりがないんですけど」
「それは会ったら分かるんだって! 彼はこれからここに来るから、楽しみにしてなよ」
ユールリアが目を細める。
「……分かりました。その人の名前は聞きません。その代わり、あなた方の名前を教えてください」
「いいよ。といっても、本名はムリなんだけど。ボクらは親に疎まれて捨てられた子供だからね。名前もないし、帰る家もないんだ」
「でも、呼び名くらいはありますよね?」
「もちろんあるよ。あの人から貰った、大切な名前がね。ボクはキルシュ。彼はトリシャだ。よろしくね、お姫様」
「ええ。よろしくお願いします」
ユールリアはティルターシャを強く抱きしめて頷いた。彼女は真剣な表情になって、キルシュと名乗った女を観察した。女は扉の前から動いていない。ユールリアには、その理由が分かるような気がした。少女たちは、テントの中で眠っていた時に連れて来られている。当然、一緒にいたオスヴァルトも気づいているはずだ。テントの中にいたはずの少女たちが、どこかに連れていかれたということに。




