家出
公爵夫妻との話し合いは、表面上は和やかに終わった。少女たちは使用人の手で、客室に案内された。
「ありがとうございます。少しだけ、2人きりにしてもらえますか?」
ユールリアは物分りの良い少女のフリをして、使用人に話しかけた。
「分かりました。では、何かあればお呼びください」
使用人はそう言って、部屋から出ていった。ティルターシャが使用人を見送って、そのままユールリアの方を見る。
「ねえユー、どうやって抜け出すの?」
「ちょっと待ってて」
ユールリアはティルターシャの手を引いて、窓に近づいた。窓にかけられている布を外すと、外の景色が見える。今は夜だ。月は雲に隠れていて、外に人がいるようには見えない。大人では通れない、小さな窓。けれど今のユールリアは子供だ。
「ここから出られるよ。大丈夫」
ユールリアはそう言いながら、窓の隙間に体を押し入れるようにして通り抜けた。ティルターシャもユールリアの手を借りて、外に出る。その時だった。暗がりから、小さな声で呼びかけられる。
「こちらだ。来い」
そこに居たのはオスヴァルトだった。彼は目立つ鎧を脱いで、暗い色の服を着ている。少女たちは無言で、彼の後についていった。庭を通って裏口に出る。オスヴァルトはそこで足を止めた。ユールリアがティルターシャの手を引いて、茂みに隠れる。裏口の前に、3人を出迎えた青年が立っていた。
「レオ。気づいていたのか」
「当たり前でしょう。何年、兄上を見てきたと思っているんですか」
青年が腰に下げていた剣を抜く。
「ここを通りたければ、僕に勝ってください」
オスヴァルトは無言で剣を構えて、斬りかかっていった。ティルターシャが目を背けて、ユールリアにしがみつく。ユールリアはティルターシャを抱きしめながら、彼らの勝負を見守った。体の動き。剣が合わさる硬質な音。足元で舞う土ぼこり。アニメや映画で見たことがある現実味のない戦いが、目の前で繰り広げられている。アニメや映画と違うのは、自分が実際にその戦いを見ているということだけだ。戦いの趨勢は明らかだった。オスヴァルトは無表情で、汗を流してすらいない。レオと呼ばれた青年は、ユールリアの目から見ても明らかに疲れている。
「……何故ですか? 何故、兄上が家を出なければならないのですか」
「レオ。お前はその理由を、誰よりも分かっているはずだ」
「その子たちが居るでしょう。僕たちには、それだけでいいのです。他のことは望みません。ローゼンフェルト家は、僕が必ず……」
「それなら」
オスヴァルトが剣を鞘に納める。レオが両足を地につけた。
「お前が継いで、残してくれ。父上と母上を頼む」
オスヴァルトはその言葉を残して、地に付した弟を置いていった。ユールリアとティルターシャは、彼に気づかれないようにそっとその横を抜けていった。




