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プロローグ

父が死んだ。


「お前なんかを庇うから、お父様は死ななければならなくなったのよ。お前がお父様を殺したの」


後妻として嫁いできた女性は、目を尖らせて声高に叫んだ。ユールリアは義母(はは)の前で、(うつむ)いていた。


(お父様を殺したのは、お母様でしょう?)


ユールリアは前妻の娘だ。義母と父の間には、別の娘が生まれている。半分だけ血が繋がっている妹は、ユールリアのことを嫌っている。


(ウィアー家はもう、私の家ではないのね)


寂しかった。悲しかった。それでも、ユールリアはその事実を受け入れた。


(家も地位も人も、全て私から奪っていくつもりなのかしら。別に、それならそれでいいけれど)


ユールリアは全てを諦めていた。彼女は父のことを愛している。父は前妻と同じくらい、後妻のことも大切にしていた。姉妹に優劣をつけたこともない。ユールリアは、父が大切にしていたものを、同じように大切にしたかった。義母と妹は仲が良い。ユールリアが居なくなれば、全ては丸く収まるのだ。


「……お母様は、私にどうしてほしいのですか? 死ぬべきだと言うのなら、私は死にます」


彼女は覚悟を決めていた。義母は、そんな彼女を苛立(いらだ)たしそうに見つめた。


「お前が死のうが生きようが、そんなことはどうでもいいのよ。だけどね、少しは役に立ってもらわないと困るの。お前には、地下室で暮らしてもらうわ。大丈夫よ。何もできない無能な娘にも、価値はあるの。全て(わたくし)に任せなさい」


ユールリアは、義母の言葉を素直に聞いた。地下室に入った彼女は、土壁に持たれるようにして座った。昼でも夜でも薄暗い地下室で、彼女は父のことを思いながら目を閉じた。疲れきっていた彼女は、そのまま眠りについた。そうして、彼女は夢を見た。見たこともない景色の中を、1人の少女が歩いている。両親に愛されて育った少女は、大人になって愛する人と結婚した。ユールリアは少女が見聞きしたことを、自分が経験したことだと確信した。転生という言葉が浮かんでくる。それは少女が知っていた言葉だ。人の魂は、死んでも消えることはない。違う場所で、違う形で、人として生まれ変わる。ユールリアは気づいていた。少女は自分自身だ。自分は生まれる前のことを思い出したのだと。魂は次に生まれる場所を選べない。それでも、ユールリアは生きている。父と共に死にたかった娘は、もうそこには居なかった。彼女は決意した。夢の中の少女のように、自分の幸せのために生きることを。

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