1.転生初日
巷で流行りの異世界転生なるモノをした。今世の私は公爵令嬢、身分が強い。ぶっちゃけ人生イージーモード。
…ただし、ミステリー小説の黒幕に、だ。
しかもこの黒幕、属性はサイコパスである。戦況は良くない。
とはいっても、よくある異世界転生モノのように運命に抗おうと努力したり、ましてやそのままストーリー通りに動く気はさらさらなかった。だってめんどくさいし。私は私だし。
第一、私が行動を起こさなければ基本何の事件も起きないはずなのだ。なるようになるだろう、きっと。
原作は原作、現実は現実。私はただ公爵令嬢として生き、公爵令嬢として死ぬ。そう思っていた。
貴方に逢うまでは。
◆
目を覚ますと、そこはレースの海だった。
いや、正しくは視界一面に広がる天蓋付きベッドのレースカーテン、だ。
天蓋付きベッド?一庶民の私の部屋にそんなものがあるはずがない。
………ふむ。
夢か、転生か。おそらくそのどちらかだろう。
前世の私はラノベ大好きミーハー多沼オタク。状況把握と受け入れの速さには自信がある。
まぁいい、今はとりあえず。
「…おなか空いた」
朝ごはんを食べに行こう。
さて、ここで今の私を紹介しよう。
髪は金。金管楽器顔負けの、それはもうゴージャスな金髪。ちなみに手櫛?朝飯前ですが?なサラサラストレートヘアだ。前世の私はプラスチック製の櫛の歯が何本も犠牲になるような癖毛だったのでこれはちょっと嬉しい。
瞳は紫。いかにも高貴な感じがする。これがあの友人の絵描きがク○スタで塗ってた宝石眼か…なんか感慨深い。いや感慨深いって何だよ初めましてだよ。
そしてもちろん美少女。これは自惚れてもナルシストになっても仕方がない顔だわ、だって顔が良い。正直とっても私の性癖どストライク…自分の顔だけど。でも転生した先が前世より不細工だったら誰だって嫌だろうし、私なら泣いて暴れる。よしよし私美少女ラッキーひゃっほう。正直、今の見た目が気に入りすぎて夢オチだったら割と本気で落ち込むかもしれない。夢なら覚めないでくれ。
今朝から中身がまるっきり変わってしまったわけだけれど、どうやら今のところ以前の私とそれほど差異はないらしい。転生モノの定番、「あの我儘だったお嬢様が…?!」みたいなことにはならなかった。すごいな、“私”。私がこの見た目だったら間違いなくナルシーお嬢様一直線だ。さすがに今からじゃならないけど。
…ところで誰か、私の名前呼んでくれませんかね。起きてからずっと「お嬢様、おはようございます」「お嬢様、お召替えを」「お嬢様」「お嬢様」…
…分かったから!私お嬢様なの分かったから、名前教えてよ!
“私”、どこの家の誰お嬢様よ!!
「サフィア、おはよう」
私の名前はサフィアだそうだ。
キラキラしいイケメンが教えてくれた。大変眩しい。
「おはようございます、お父様」
上座に座る彼はきっと私の父なのだろう。
同じゴージャスな金髪にふわりと細められた紫の瞳。私のこの色合いは父譲りなんだね。
「おはよう、サフィア」
「おはようございます、お母様」
向かいに座る美女はたぶんお母様。
父と私よりは淡い金髪に、アクアマリンみたいな薄い水色の瞳。肌なんて前世で見たアルビノくらい白い。儚げな美人だ。
こうして見ると私は全然お母様に似ていない。色合いもパーツも、全てお父様似だ。儚い系美人は遺伝子まで儚いのか…?
「サフィア?じっと黙ってどうしたの?」
「いえ。今日もお父様とお母様はお綺麗だなって」
「あら。ふふ、ありがとう」
お母様は蕾が綻ぶように微笑み、お父様は優しい目でお母様を見つめる。ああ眼福眼福。朝からごちそうさまです。
転生テンプレその2、“問題アリな家庭”じゃなくて良かった!!
食事が終わったら、ドキドキワクワクメールチェック、もといお手紙確認だ。
シャイニーお父様のおかげで名前は判明したけれど、姓が分からない。私はどこの家のサフィアお嬢様だ。
そこで閃いた私は侍女に訊いたのだ、「お友達からお手紙は届いていないかしら?」と。
やだ、私って天才!見た目も頭もハイスペック!時間が経つにつれハイになっている気がしなくもないけれどそこは見逃してほしい。お気楽極楽能天気人間な本来の私が調子を取り戻してきただけだから。
「王妃様よりパーティーの招待状が届いております」
「そう、王妃様から――って王妃様?!」
なんてこった、いきなり超大物、王妃様。こちとら転生初日なんだから勘弁してほしい。それとも王妃様に声掛けられるほど私の家が大きいのか?いやいや前世一般人の私には荷が重いです辞退させてください。頭痛とお友達になる気はないよ。
受け取り封を切ると、ふわりと薔薇の香りが舞った。さすが王妃様、なんてお上品。内容が内容でなければ朝から素敵な香りに幸せな気分になれたのに。
『うちの息子(第2王子)もそろそろ5歳になるし、お嫁さん候補見定めるためにガーデンパーティー開くよ!家族みんなで来てね!(意訳)』
無くならないかな、内容だけに。
内容が無いよう、なんちって。
心の中で何を思ってようと、表に出さなければ無問題なのです。