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死んで花実が咲くものか②


 ここはどこだろう。視界はぼやけているし音もない。そもそも体があるかどうかも分からない。——ああ、夢か。すぐにそう直感した。

 しばらく漂っていると静寂を裂くような子どもの声が耳に飛び込んできた。何だか聞き覚えがあるような気がする。


『こうして蝶々さんとカマキリさんは”幸せな家庭”を築きました。めでたしめでたし……彪香(ひょうか)ちゃんほんとこの話大好きね』

『うん! 大好き! カマキリさんがね、かっこいいの。いつか私もカマキリさんみたいなひととけっこんするの』


 そのやりとりを皮切りに視界や聴覚が鮮明になり始める。これは、保育園のころの私だ。時々こうやって昔の記憶を夢で見ることがある。このころはお母さんも優しくて絵本の読み聞かせをよくしてくれたっけ。もしかしたらお母さんとの最後の楽しい記憶かもしれない。


『やーい妖怪! 妖怪は学校無いんだろ? じゃあ小学校来るなよな』


 ここは、小学校だ。そして三人の男の子に囲まれている泣きそうな女の子が一人。その女の子は髪が白く、側頭部に小さな花がくっついている。大きな髪飾りに見えなくもないが、それが生花で本当にこの女の子の頭から咲いているのを私は知っている。


『妖怪じゃないもん! 何でそんなこと言うの、天道くん』


 「ここで言い返さなければな」という思いが湧き上がる。結果論だし、そんな大人な対応が出来るわけがなかった、と反省会をしても全て今更だ。

 しばらく似たような幼稚な問答が続く。でも三対一だ。論理も何もない子どもの口論、誰が見ても私が負けるのは明らかだった。

 遠巻きにそれを見る周りの子どもたちは誰も助けてなんてくれない。学級委員の野坂さんも、将来警察官になりたいといっていた加藤くんも、いつもペアを組む相手がいない私に声をかけてくれる四条ちゃんも。


『じいちゃんが言ってたぜ、花人は人じゃないって。じゃあ妖怪じゃん!』


 理由は簡単、私が人じゃないから。少なくともこの時の私は周りの子ども達の中で人に似たナニカだった。

 急に場面が大きく変わった。学校は学校でもここは生徒指導室だ。そこには生徒指導だか教頭だか忘れたが、よく怒っていた先生と担任、向かい合うように私ともう一人が座っていた。


『本当に申し訳ございません。うちの娘がとんだご迷惑を——』

「おかあさん……」


 母の顔を見ると頭に電気を浴びたように痛みが走った。なんとなく視線を向けることが出来なかった。それでも夢は進んでいく。

 あの後、男の子の一人を突き飛ばしたんだっけか。それでお母さんが学校に呼ばれた。お母さんはとにかく謝り続けた。向かいに座る教師たちは終始男の子たちの肩を持った。

 

『あっちが先に——』


 過去の私が反論をしようとしたらお母さんに泣きそうな顔で睨まれた。「これ以上迷惑をかけないでくれ」とでも言いたげな表情だ。

 また場面が変わった。私は暗い廊下に立っている。これは昔住んでいた家だ。私の視線の先には泣いているお母さんがいる。たしか、お母さんの泣いている声が聞こえてきたから、心配で見に来たんだ。

 ——耳を塞いで、聞いちゃダメ。今すぐ部屋に戻って。

 どんなに念じても私の声が小さい私に届くことは無い。当然だ。これは夢で、過去の記憶で、絶対に変わることが無い事実なのだから。


『あの子が普通に生まれてたら——』


 私は音を立てないように部屋に戻っていった。

 また視界が滲んでいく。


次は明日の朝

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