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華のある日常②

 こっちの笑いは流し台に水が落ちる音にかき消されてリビングまでは届いていなかったようで、笛吹は箸を並べながらまだ来年の調理実習に思いを馳せていた。どこが彼女の琴線に触れたのか全く分からないのがまた可笑しさを助長させた。


「ほらほら、それは来年になったら考えればいいじゃん。今はこれ食べよう」

「はッ! そうだね、冷めちゃったら台無しだ」

「「いただきます」」


 ハンバーグは我ながら焼き加減が完璧で今まで作った中でも一二を争う出来だった。それもこれも笛吹が手伝ってくれたから調理に集中できたからなのだが。


「おいひぃ……! 昨日からずっと思ってるけど結城くん料理の天才だね」

「作り甲斐あるなぁ」


 自分がかなりの比重手伝っていたことなど忘れてしまったかのようにべた褒めである。一度食べ始めると食事に集中してしまうのか、こっちの呟きはもう聞こえていないようだった。こちらも今は食事に集中しよう。せっかく笛吹が手伝ってくれたんだ。冷めさせてしまうのは不本意だ。


「ごちそうさまでした!」

「はい、お粗末さまでした」


 時間にすると十五分ほどだろうか、夕飯は速やかに終わり今は後片付けと、もうじき帰ってくるサキ姉の分の準備をしていた。笛吹はまた手伝いたがったがそれは丁重にお断りした。彼女は「本当に何もすることない?」と確認してからリビングのソファの方へとぼとぼ退散していった。どうやら居候の身で色々して貰っていることに罪悪感を感じるらしい。

 本当は朝、サキ姉に笛吹が大人しくしてるか見ているように言われたのだが、その気持ちが理解できるから夕飯づくりを手伝って貰ったのだ。だが、もうじきサキ姉が帰ってくることを考えると今は大人しくしていて貰いたかったわけだ。

 

「今日は何してたの」


 諸々の雑事を済ませ、リビングに戻ると笛吹はソファの端で膝を抱えてテレビを眺めていた。熱中して見ていたわけではなかったらしく声をかけるとすぐにこちらを向いた。犬みたいだなという言葉は心の中に留めた。

 三人掛けソファの笛吹とは反対側の端に座る。こちらの質問に対する答えを「色々話したいけどどこから話そう……」と悩んでいる彼女を見て自然と笑顔がこぼれる。家に居ても退屈じゃないかと思っていたがそんな心配は不要だったらしい。

 それから笛吹は起きてからの出来事を時系列順に語り始めた。『そんなに事細かに言わなくても』という言葉も心の中に留める。それだけ一日を共有しようとしてくれていることは嬉しいことだと頭を切り替えた。

 

「それでね、先生と一緒に朝ごはん食べたんだけど、本当に絵本に出てくるモーニングって感じで私感動しちゃって。あっ、もちろん味もおいしかったよ! あとあと、雫さんが親子じゃなくて友達になろうって言ってくれてねそのあと——」

「友達……それはまた母さんらしいな~」


 笛吹の語りは聞いているだけで今日一日が笛吹にとって退屈どころか刺激に満ちていたことが伝わるものだった。思わず相槌にも熱が入る。


「——それで暇してたらちょうど結城くんが帰ってきたって感じ。凄くいい日だったよ」


 本当に俺の見ていなかった分の出来事すべてを話してくれた。半分くらいは食事の感想だったような気もするが、それもまた笛吹らしい。


次は夕方五時

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