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花に雫②

 刹那の安心感を味わいながらも、あまりのテンションの差に既に付いて行けていない私をよそに、一通り(一方的に)喋り倒した雫さんは「ほんと? 良かったわ~!」と言って朝食の準備を始めた。そういえば雫さんの分はサラダとスクランブルエッグしか並んでいなかった。起きる時間にだいぶ差があるからパンは自分で準備するシステムのようだ。覚えておこう。

 

「何か手伝います」


 手持ち無沙汰が落ち着かなくて何かすることはないかと聞いたが、ほんの数時間前に先生から『焦って無断で家のことしないよーに』と忠告されていたことを思い出し、しまったと思った。いや、しかし今更言葉を引っ込めることは出来ない。雫さんはそのことを知らないから何も言われないだろうが、気を付けないといけない。


「大丈……あっ! じゃあそこの席に座ってもらってもいい?」

「え、ああはい。わかりました……」

「そんなに身構えないで! ただ話し相手になって欲しいだけだから」


 それはこちら願ったり叶ったりな提案だった。こちらも聞きたいことはいくらでもある。——こちらが話す隙を与えてくれるといいのだけど。

 そんな小さな不安を抱えつつ、指定された通り食器が並ぶ席の真正面に対面する椅子に座る。雫さんはキッチンで鼻歌を歌いながら飲み物を注いでいた。「何か飲む?」と聞かれたが喉の渇きよりも申し訳なさが勝り首を横に振った。


「いただきまーす!……んー、今日もおいしい!」


 話し相手になるとは言ったものの、こちらから食事中の相手に話題を振るのは気が引けたのでただただ朝食を美味しそうに咀嚼している雫さんをじっと見ていた。その姿は見ているこっちまで嬉しくなるくらい全力で”美味しい”を表現していた。


「彪香ちゃんと一緒に食べたらもっと美味しいのにな~、まぁそれはお昼ご飯のお楽しみね」

「? ああ、誰かと一緒に食べると美味しい……みたいなやつですか」


 雫さんは「そうそう!」と元気に頷いた。相槌まで元気だ。


「彪香ちゃんはそういうのあんまり感じない?」

「えっと、うちの母親はあんまり家に居なかったので……ご飯も外で食べてきてることがほとんどで。父親は私が物心付く前に蒸発したって聞いてます。だからあんまりそういう経験が無くて——あっ」


 勢いに流されるようにあまり考えずに話してしまい、ハッとした。あまり自分の家の話はしないようにしようと思っていたのに。雫さんを前にすると隠し事や誤魔化しができないような感じがする。

 私の話をうんうん頷きながら聞いていた雫さんは共感した様子で口を開いた。

 

「分かる。分かるわ~……うちも結城とは生活リズムが合わなくて食事も大体別々で、寂しい思いさせちゃってたわ。でも、これからは彪香ちゃんが居るから我が家の食卓はずっと明るいわね!——彪香ちゃん本当に美味しそうに食べるからこっちまで嬉しくなっちゃうのよ。『堪えきれなかった』って感じの笑い方も素敵ね、本当に面白かったんだなって分かるし、場が明るくなる」

「そう……ですかね、どれも自分じゃ分からないから……いやでも、私なんかがそんな」


 褒められてもとても素直に受け取ることは出来なかった。確かに先生にも美味しそうに食べるとは言われたが、私が居るから場が明るくなるなんて経験は今まで一度だってなかった。私にそんな特性があるんだったら、お母さんがずっと暗くて家に寄り付かなくなっていったのは……?

次話は一時間後に

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