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変わりゆく者①


 暫くぼーっと外を眺めていると教室に少しずつ人が入る気配がしてきた。もちろんわざわざそちらを向くことはしないが背中に確かな視線を感じる。楽しそうに喋りながら教室に入ってきた途端に喋るのを中断してこそこそと何か囁きあっていたりすると、自分の話をしているんじゃないかと思ってしまう。——そして恐らくそれは被害妄想でもないようだった。


「——で、倒れたお花ちゃんが起きないのをいいことに襲ったらしいよ」

「なにそれこわ……だから戻ってこなかったってこと?」

「やっぱり噂通りやべー奴だったんだな」

「………」


 とあるクラスカーストの高い——よく知らないが、たぶんトップ——女子グループがそんな話をして下品に笑っているのが耳に入った。——なるほど、そういう話になっちゃったのか。

 本人たちはヒソヒソ話していたつもりなのかもしれないがこっちまで丸聞こえだ。よく教室で朝っぱらからそういう類の話をできるものだとある種の感心すらある。

 彼女らからしたら別に聞かれたところで問題ないのだろう。彼女たちは俺なんかよりもよっぽど魅力も人望もある。学校という舞台において、彼女たちは主役級に目立つ役を獲得しているのだ。対する俺の方は良くて普段はモブ、今やヴィランだ。周囲がどちらに味方するかなんてわかり切っている安心感が彼女たちを冗長させる。ここで俺が何か文句を言ったとして別に噂が収まるわけでもないし、そもそも文句なんて言えやしない。——と思っていたのだが。


「ていうか、女の趣味悪すぎ! あんな化け物ととか、私が男なら絶対萎えるわ~」

「ッ!」


 その女子グループで一番派手な女がそんなことを言った。『化け物』という言葉が耳に入った瞬間、椅子を倒す勢いで立ち上がり、その声の方に振り向いてしまった。——やってしまった。自分でも驚くほど頭に血が集中しているのが分かる。教室が静まり返って多くの視線が俺に集まっていた。顔が熱い。嫌な汗が背中や額に浮き出る。だがそんなこと以上に怒りが沸いていた。少しだけ声の主の方、教室の真ん中の方へ足を進める。

 どうやら共感覚も人見知りも変わらなかったが、俺の心自体は大きく変化していたらしい。理由はどうあれこんなに目立つ行為ができるとは思わなかった。


「な、なによ! ただの冗談でしょ、なにキレてんの? あ、もしかして図星だったのかしら」


 こちらが何かリアクションをすることは完全に予想外だったのだろう、その女の声は震えているし目に見えて狼狽えている。誰だってサンドバッグに殴り返されるなんて考えないものだ。それでもなおキレのいい煽りが出来ているのは才能だ。周りの友人たちはその女から少し距離を置いて自分は関係無いとでもアピールしたいのか、彼女と俺とをちらちらと見比べて静観している。異様に怖がられているのは見た目から勝手に捏造された噂の影響か。もちろん本当に危害を加える気なんて全くもってない。

 普段はショックを受けるところだが今この場においては好都合だった。

次話は明日の朝七時投稿です

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