57話 付きまとい
朝起きて、屋台に行く。
今日は鶏ガラスープの店に行こうか、行列に並ぶと、周りがざわざわしてきた。
なんだろうと周りを見回すと、私の後ろにグレンさんが立っていた。
「おはようございます」
朝から危険な匂いのする美声だ。
「……おはようございます」
だが、同じ冒険者ギルドの同僚だ、挨拶をしなくてはならない。
グレンさんをずっと見ているわけにはいかない、離れたがらない私の視線を強引に外すと、ギクシャクと身体を動かし、前を向く。
「あの、由菜さんはどういった食事が好きなのですか?」
いつの間に私の名前を知ったのだろうか、私は名乗った覚えがない、ギルド長が話したのだろうか。
それよりも、早く返答をしなくてはならない、なぜなら、すぐに答えないのかと周囲の女性たちの視線が厳しいからだ。
周囲の女性たちはグレンさんの味方だ。
「ポテトグラタンが好きです」
そっけなく、前を向いたまま答える。
無難な答えだ、ここでもし元の世界に居たときの好物である、お寿司だなんて答えたら周りからどんな反応をされるのかわからない。
「今日のお昼に一緒にいかがですか? 私が代金を支払いますので」
「いえ、いいです」
拒否をする。
周りの視線がさらに厳しくなる、私が誘われたのにも腹が立つが、断ったのも許せないのだろう。
私の番になり、スープを受け取った。
今日のスープもおいしい。
グレンさんは少し離れたところで、食べている。
サンドイッチの屋台に行く。
行列にならんだ。
また、ざわついている。
後ろを見た。
もう嫌だ。
グレンさんがいる。
美形なんだけど、困る。
周りからの視線がグレンさんに集中している。
よく平然としているな、そう思えるぐらい、平然とした顔で普通に立って並んでいる。
今日のサンドイッチはオーク肉でなく、鶏肉だ。
おいしいはずなのに味がしない。
原因は、すぐ隣でグレンさんが同じものを食べているからだ。
緊張する。
もう、嫌だ、グレンさんは美形だけど付きまとわれている気がするから、好きにはなれないかもしれない。




