45話 コンソメ
リビングでくつろいでいるとお婆さんがやって来ました。
「終わったよ、はい、これあんたの分だ」
そう言うと、上級ポーションと書かれたタグを付けた瓶と特級ポーションと書かれたタグを付けた瓶を渡されました。
「いいんですか? いただいちゃって」
「かまわないよ、あんたがいなければ作れなかったものだ、これは、聖魔法を使える神官から聖水をもらったと嘘をつくことにしようと思う。神官でもまれに聖水をつくることが出来ると噂は聞いたことがある、ポーションのタグは一応付けたけど見れば色がちがうから覚えたらタグは外していい」
「わかりました」
「私は鑑定を使うことができるからポーションの品質もわかるし、薬草もわかる、だけどあんたにはそれがない、覚えることはたくさんあるよ、がんばんな」
「はい」
「じゃあ、食事でも作るかね、あんたも食べていきな、オムレツを作るよ」
「オムレツ!」
「あっちから来た人や、召喚された人たちをね、渡り人って言うんだよ、そうした人は料理やさまざまなアイデアを残していくんだ、オムレツもそのひとつさ」
「嬉しいです」
お婆さんが台所に立ち、料理をし始めました。
やがて、私の前にトマトソースの載ったオムレツとソーセージ、コンソメスープ、パンが並びました。
「こんな感じなんだろ? あんたのいた世界の食べ物は」
「はい」
「このスープのエキスだけど粉末にしたものがある、持っていきな」
「いいんですか?」
「まぁ、これだけしかないけどね」
そう言って布の袋を渡されました。
食事が始まりました。
やっぱり、コンソメスープはコンソメの味がします。
おいしい。
オムレツもフワフワだし、ソーセージも胡椒がしっかり入っているのか、元いた世界のものと変わらない味。
食事を食べ終わり、持ってきたクッキーを出され、紅茶を飲む。
紅茶には既に砂糖が入っていた。
甘い。
「それでね、さっきのあんたのポーションの作り方なんだが、あんたは魔力を使ってないだろ」
「使ってないですね」
「薬師で錬金術を使う連中は作るときに魔力が減る。回復魔法士の私も同じだ」
「……回復魔法士」
「自分自身で腰を治せってんだろ? 私はあんたほど腕がよくはないんだよ、って、あんたは聖女だったけどね」
「腕がよくない?」
「あんたは腕のいい回復魔法士だって聞いた。どれ程のものか試したかったのさ、自分自身で回復魔法をかけても、最後の痛みは取れなかった。幸いにして下級ポーションもこの腰には効かなかったしね、試すにはいい条件だった」
「……」
「完治だよ、痛みもなにもない、元通りさ、多分骨の位置なんかも変わっていると思うね」
「……」
「聖女が聖水を作ったり、治したりするときは魔力は使わないと聞いた。本当かね?」
「本当だと思います。私は、魔力を多分使っていません、結界を作るときに魔力を使ったかもしれませんが、本能的なものかもしれませんが、なんとなく無意識もあるようです。聖水のときは祈りを、治すときには治るイメージを抱いています」
「ポーションを作るときにも治るイメージで作ることが出来るかい?」
「多分できますね」
「今度は、それで作ってくれるかね、ポーションはただ擦り潰して煮て、濾してって料理を作るのとは手順は同じだが、内容は違うからね、人を治す薬をつくるんだ、誰にでも作ることが出来るものじゃない。すくなくとも錬金術や回復魔法、聖女の治癒といった特殊なスキルや技量が必要になる。回復魔法士だからって誰でもなれるわけじゃない、腕の悪い回復魔法士なんて下級ポーションにも劣る力しかないんだからね、そんな奴が薬師になんてなれないのに、薬師になりたいと言ってくる、本当に困ったもんだよ」
「錬金術や回復魔法や聖女の治癒がない人は薬師になれないのですか?」
「なれないわけじゃないだろうけど、難しいだろうね、少なくとも私は弟子にとらない」
「そうですか」
紅茶を一口飲む。
ぬるくなった紅茶はさらに甘みを感じた。




