アンコール No.8
「あ……えっと……雪、、、さん?すみません、お見苦しいところをお見せして……なんでもないので、大丈夫です!」
咄嗟に笑顔を作り、愛璃はそう答えた。だが、雪は少し顔をしかめた。
「こんな夜に……外で……女の子が1人で泣いているのに……なんでもないって言うの……?……そんな嘘ぐらい僕にもわかる……。」
そういうと、雪は急に、愛璃の手を掴んだ。
「着いてきて……僕の家で話を聞くよ……。」
掴まれた手を振り払うことは、簡単なはずなのに。愛璃は引かれるままに、雪の後ろをついていった。
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雪の家は、男の人の一人暮らしとは思えないほど、綺麗で片付いていた。置かれてある家具もシンプルなデザインのものが多く、雪の性格や好みが如実に現れていた。
「……はい。飲み物、ココアで大丈夫……?」
雪にソファーに座るよう促されていた愛璃は、雪からココアを受け取る。
「あ……すみません……ありがとうございます。」
雪は愛璃の左斜め前に座ると、愛璃の瞳を覗くように見つめてきた。
「もし愛璃さんの抱えてること……話して少しでも楽になるなら……僕に聞かせてくれないかな……。一応僕、先輩だし……困ってる子をほおってはおけない。」
雪の言葉を聞いた愛璃は、話を聞いてもらっていいのか、迷った。心から告白された、と……言っていいのかを。
けれど、見つめられた瞳になぜか逆らえなくて、気づくと愛璃は、口から言葉を紡いでいた。
「……告白……されたんです。ある人に。でも、『ごめんなさい』って言って、そのまま逃げて来ちゃって……なんで逃げてしまったのかもわからなくて、頭の中グチャグチャで……!」
段々目頭が熱くなってきているのがわかる。愛璃は、また出てきそうな涙を、グッ、と堪えた。
「当ててあげる……その告白してきた人って……心、でしょ……?」
「……!なんで、わかったんですか……!?」
「そろそろ、心は告白を決意するんじゃないかって……そう思ってたから……」
雪はそう言うと、軽く微笑んだ。初めて見た雪の笑顔に、不覚にも愛璃は、胸をときめかせてしまった。
──だって、その笑顔が、あまりにもあの人に似ていたから。
「愛璃さん……?聞いてる……?」
「……あっ、ごめんなさい!」
どうやら、雪の笑顔に見とれてしまっていたようだ。愛璃は、思わず顔を赤くする。
「聞きたいことがあるんだ……心の告白を断ったのは、心に気がなかったから……?それとも……」
「他に好きな人がいたから……?」
そう問う雪は、もう答えがわかっているような顔をしていた。誤魔化しても無駄だな、と思った愛璃は、その問いに、正直に答えた。
誰にも言えなかった、本当の答えを。
「告白を断ってしまったので、きっと今は、もう片想いなんですけど……、、、日本にいるんです。愛璃が、好きで好きでたまらない人が。」