アンコール No.7
愛璃と香がCM撮影の仕事をしているのと時を同じくして、心は麗の家に来ていた。
蘭との話の後、狙ったかのようなタイミングで麗から連絡が来たのだ。
“話をしよう。愛璃さんのことについて。”
──と。
長い沈黙の後、最初に口を開いたのは心だった。
「なぁ、麗。……俺、どうするべきだと思う?彼女がいる麗には、このモヤモヤの正体も、意味わかんない気持ちも、全部わかるんだろ……?」
心は、縋るような瞳で麗を見つめる。だが、麗は眉を下げて、困った顔をした。
「確かに俺には彼女がいるよ。“ダリア”じゃない時は、誰よりも大切な人……でも、だからといって、心がどうするべきか、なんて答えは俺にはわからないよ。恋の形は、人それぞれなんだから。」
「そっ……か……」
心は、微笑をこぼした。半ば、諦めの気持ちがこもっている微笑を。
すると麗は、心の頬を両手で挟み、無理やり顔をあげて、目を合わせた。
「……でも、1つだけ心に質問させてよ。……心は、愛璃さんにその気持ちを伝えたい??それとも、気持ちを隠して、このままの関係でいたい??」
そして、挑発的な笑みを向ける麗。
「今の心は、心らしくないぞ!」
その言葉を引き金に、心の瞳から涙が流れる。
しばらく部屋には心の嗚咽が響いていたが、数分後には、心の瞳に光が戻ってきていた。
「俺……行ってくるっ!」
涙でびちゃびちゃの顔を袖で乱暴に拭くと、心は愛璃の元へ向かい走り出した。
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“今から会いに行きます”
CMの撮影を終え、事務所のアパートに着いた愛璃の元に、心からこんな連絡が届いた。
(急に『会いに行きます』なんて……どうしたんだろう?新しい仕事のお話とかかな……?でも、お仕事の話なら先に中島さんから連絡があるはずだよなぁ……)
そう思いながら愛璃がアパートのドアを開けると、そこには既に、心が息を切らせながら立っていた。
まさか走ってくるとは思わなくて、驚きながらも、愛璃は心に尋ねた。
「心さん!そんなに走ってくるなんて……。急にどうしたんですかっ……?」
すると、真面目な顔をした心と目が合う。
──変な空気。日本でも何回か感じたことのある、あの緊張感。
嫌な予感がした愛璃は口を再び開こうとしたが、遅かった。
「好きですっ、愛璃さん!よかったら、俺と付き合ってください……!」
心の目元はなぜか濡れていて、少し前まで涙を流していたであろうことがわかった。それに胸を痛めた愛璃だったが、心への告白への答えは、考えるより先に口に出ていたようだった。
「ごめんなさいっ……」
最後にはっきり見えたのは、心の顔が、くしゃっ、と、悲しそうに歪むところだった。
気がつくと愛璃は、心の横を通り抜けて、アパートを飛び出していた。
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宛もなく飛び出した愛璃は、1度立ち止まる。ずっと走ってきたから、息は絶え絶えになっていた。
身体が熱い。重い。痛い。そのまま部屋に戻れば良かったのに、どうして飛び出してきてしまったんだろう。そんな想いが交差して、頭の中もぐちゃぐちゃだった。
「なんで泣いてるの……。大丈夫……?」
不意に、少し遠くの方から声がした。
声をかけてきたのは、「StarLight」のメンバーの1人、今まで愛璃と1番関わりがなかったはずの、雪だった。
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