アンコール No.2
──夢のような時間だった。
会場にいる全員が、恋に落ちたと錯覚してしまうような魅力的なファンサ。メンバー全員の個性がつまったダンス。そしてなにより、圧倒的な歌唱力。
どれをとっても、NYの大人気アイドルグループにふさわしいものだ。
「中島さん……。愛璃、「StarLight」の人と会ってみたい……!」
ライブが終わっても興奮が抜けきらない愛璃は、紅潮した顔で中島に訴える。
「ふふ、もちろんそのつもりだったわ。さあ、「StarLight」の5人がいる楽屋に向かいましょう!」
中島は、愛璃にむかって優しく微笑んだ。
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コンコンコンッ
「中島です。入るわよ。」
ガチャッ
楽屋前に到着すると、中島は慣れた手つきでドアをノックし、愛璃を連れて「StarLight」の楽屋に入った。そこには、さっきまでステージ上にいた“スター”達が談笑していた。
「わわ、景子ちゃんじゃん!久しぶり〜!!」
中島の顔を見た途端、メンバーの1人、セチアが中島のところに駆け寄ってきた。
「“景子ちゃん”じゃないだろ?“中島さん”。いくら仲がいいからって、最低限の礼儀ぐらい考えろ。それに、中島さんの後ろにいる女の子が、困っちゃってるだろ?」
セチアの後頭部を軽く叩きながら、もう1人のメンバー、スズが愛璃のそばに寄ってくる。
「え……?後ろに女の……子……?」
セチアは、愛璃と目があった瞬間、そのままの状態で固まってしまった。何が起きたのかわからなくて、愛璃は少し首を傾げる。
「まさか、本当に気づいていなかったとは(苦笑)……ささ、座って!ライブは見てくれたと思うけど、改めて僕らの自己紹介をするよ。」
セチアはまだ固まったままだったけれど、愛璃は軽く会釈して目をそらすと、スズに差し出されたイスに座った。
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スズが他のメンバーにも声をかけ、楽屋中心にある机の周りに、全員が円状になって座った。
「え〜っと、じゃあまず僕から。はじめまして、スズです。本名は荻野 蘭。このグループのリーダーと、マネージャーをやってます。よろしくね。」
先に口を割ったのは、スズこと荻野蘭。リーダーとマネージャーをやってるだけあって、すごく落ち着いた印象だ。
「はいは〜い、じゃあ次は僕〜!!はじめまして、ブランです♪本名は佐伯 香っていいま〜す。よろしくね〜♡」
次は、ブランこと佐伯香。一目では男の子とはわからないぐらい中性的な顔付きをしていて、雰囲気がすごくふわふわしている。話していると、こっちまで癒されそうだ。
「次は俺……かな?はじめまして、ダリアです!本名は永田 麗……よろしくっ(パチッ)」
最後にウインクをかましてきたこの人は、ダリアこと永田麗。俗に言うナルシスト……?のはずなのだが、全然イタくないから謎だ。
麗の自己紹介が終わった後、少し沈黙が流れた。次の人……セチアの自己紹介を待っているのだが、愛璃の顔を見つめているばかりで、いっこうに口を開かない。
「……心、心!次、お前の番だぞ。」
セチアは蘭につつかれると、はっとした顔をして、話し始めた。
「俺!セチア!本名、守屋 心!よろしく!!」
楽屋中に響くビックボイスで自己紹介をしてくれた、セチアこと守屋心。見た限りの印象では、明るく素直で、表裏がないんだろうと思う。
「……クラメ。本名浅野 雪。よろしく。」
心とは対照的な雰囲気をまとった、クラメこと浅野雪。静かな声なのに、芯が通っていて、聞いていて心地よい。
「じゃあ、最後に、君のことも聞かせてもらっていいかな……?」
蘭が、愛璃の顔を覗き込みながら聞いてくる。愛璃はそれに頷いた。
「はいっ!皆さん、はじめまして。澄原愛璃です。日本でアイドルをやっていたのですが、NYに活動拠点を移すことになりました。これから「StarLight」の皆さんと関わることもあると思いますので、よろしくお願いします!」
「StarLight」のメンバーが、よろしく〜と口々に返してくれる。
「愛璃さん!!」
急に、大きな声で愛璃の名前が呼ばれた。
「はいぃっ!?」
愛璃は反射的に、間抜けな返事を返す。声をした方を見ると、心が、少し強ばった顔で愛璃を見つめていた。
「よかったら!明日!NY案内するので!会いませんか!!」
急なNY案内の申し込みに愛璃は驚き、声を出すことができなかった。が。
「はあぁっ!?」
今度は、「StarLight」が、声を揃えて間抜けな返事を返した。
Twitter⇒@Cocona_Sakuhana
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