カウントダウンするラブ日傘〜卒業パーティーで婚約破棄された傷物の私に年下の美少年が迫ってきます・後日談・短編
「カウントダウンするラブ日傘〜卒業パーティーで婚約破棄された傷物の私に年下の美少年が迫ってきます」の後日談です。他サイトで後日談を望む感想を頂いたので、後日談を追記いたしました。
アルフレッドとミランダのその後、ヒロインのレイチェルとロルフェのその後が描かれております。
――後日談「夢と現実」ざまぁ――
幼馴染のミランダと手に手にとって家を出た。
俺は学園を優秀な成績で卒業した、なので仕事などすぐに決まると思っていた。
だが卒業パーティーでのことが知れ渡っていて、王都では仕事が見つからなかった。
仕方なく地方に行き、ようやく小さな商会で事務員の仕事を見つけた。
王都に比べれば給料は高くないが、それでも小さな家を借りミランダと二人で暮らして行くのには十分だった。
ミランダと二人で楽しく暮らせるそう思っていた。
――半年後――
「また鶏肉、たまには子羊のソテーが食べたいわ」
ミランダの無神経な言葉にイライラする。
カーネーションを買ってくれば「バラではないならいらない」と言い、誕生日プレゼントに奮発してアクセサリーを買ってくれば「安物のアクセサリーなんてダサい、ダイヤモンドが良かった、交換してきて」と言って付き返し、新しい衣服を買ってくれば「シルクじゃないのね」とため息をつく。
もう貴族ではないんだ、そんな贅沢ができる訳がない。
「黙って食べろ、それからミラたまにでいいから家事をしてくれ」
「え〜〜! アル酷い、私病弱なのに……」
「いつの話をしている、病弱だったのは幼い頃でとっくに治っているだろ?」
「なによアルったら最近冷たい」
「仕事で疲れているんだ、余裕もなくなる」
実家にいたときは経済的にも時間的にも余裕があった。家事は全部使用人がしてくれたからミラのわがままに付き合えたし、公爵家からお小遣いを貰っていたからミラの望む物を買ってやれた。
あの頃の俺はミラのちょっとしたわがままも可愛く思えた。だが今はミラのわがままを聞くたびに憎しみが湧いてくる。
家事を全くしないミラに「家事をしろ」と伝えて、「メイドを雇ってよ、家事なんかしたら手が荒れちゃう」と反抗的な態度で言われたのは記憶に新しい。
外で仕事をした上に、家に帰ってまで掃除や洗濯や料理までさせられたのではたまらない。
駆け落ちした当初は、お金がなくても愛があれば楽しく暮らせると思ってた。
お金がなければ余裕がなくなる、愛しい人への愛もなくなる、家を出たことでそのことを思い知らされた。
時々思う、ミラではなくレイチェルと結婚していれば今頃はと……。
伯爵家の当主になった俺は、美しい妻とともにお金に苦労することなく、優雅に暮らしていたのだろうかと……。
☆☆☆☆☆
――ミランダ視点――
幼馴染のアルフレッドと駆け落ちして半年、この頃ちっとも楽しくない。
家を出るときパンパンに膨らんでいた期待は、すっかりしぼんでしまった。
古くて小さな家、使用人を雇う余裕もない生活、アルはいつもカリカリしていて私に家事をやるように強要してくるし、ご飯はパンとスープばっかりだし、たまにお肉が出てもパサパサの鶏肉だし、こんな生活つまらない。
この間「子羊のステーキが食べたいわ」と言ったらアルに睨まれた。なによ、子羊ぐらい気前よくごちそうしてくれたっていいじゃない。
アルがたまにプレゼントをくれるけど、衣服の素材は粗末な木綿だし、アクセサリーは安物だし、花束はバラじゃないし、こんなものを貰っても全然ときめかない。
アルが公爵令嬢のレイチェル様と婚約していたときは良かったわ。
ダイヤモンドやサファイアのアクセサリーに、シルクのドレスをいくつもプレゼントしてくれた。
抱えきれないほどのバラの花束を貰ったこともある。
レストランに行けばトリュフやキャビアやロブスターをごちそうしてくれたし、行き帰りに乗る馬車は二頭立ての立派なものだった。
あの頃に帰りたい、アルがレイチェル様の婚約者だった頃に……。
幼馴染のアルが、公爵令嬢のレイチェル様より子爵令嬢の私を愛してくれるのが嬉しかった。
レイチェル様は公爵家の長女に生まれただけで、周りからちやほやされ、嫁ぎ先は選り取り見取りで、毎日大勢の使用人にかしずかれ、一流の料理人が作った物をお腹いっぱい食べて、オートクチュールの豪華なドレスを身にまとい、ダイヤモンドでもルビーでもエメラルドでも好きなだけ買える。
羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましくてたまらない……! そんなに持ってるなら一つぐらい私に頂戴よ!
だからレイチェル様にとって一番大事なアルを、体を使って私のものにした。
アルが公爵家の晩餐やお茶会やパーティーを断って私を選んでくれるたびに、自尊心が満たされた。レイチェル様に勝った気分を味わえて興奮した。
卒業パーティーで、アルがレイチェル様を突き飛ばして「貴様との婚約を破棄する!」と叫んだとき胸がすっとした。
間抜けな顔で私を見ているレイチェル様を見て、お腹の中で笑った。
思えばあそこが私の人生のピークだった。
あの頃の私は、公爵様を怒らせたらどうなるかなんて考えもしなかった。レイチェル様に勝ったことが嬉しくて何も見えなくなっていた。
アルの仕事が王都で見つからなかったとき、嫌な予感がした。
地方の街で小さな商会の事務員をしているアルに、学園に通っていた頃のような魅力を感じない。あの頃のアルは自信に溢れてキラキラしていたわ。生活に疲れ果ててイライラしているアルになんて格好悪いわ。
今なら分かるわ、アルはレイチェル様と結婚するべきだったのよ。アルがレイチェル様と結婚すれば、公爵家からの支援を受けて伯爵家はかなり裕福になったはず。
私は伯爵家を継いだアルの愛人として別邸に住み、正妻のレイチェル様よりアルに可愛がられて優雅に暮らすの。
私にとってもアルにとっても、それが最善の選択だったのだと今になって気づいた。
☆☆☆☆☆
――アルフレッド視点――
『もうこんな暮らし耐えられない、実家に帰ります』
ミラと駆け落ちしてから一年後が過ぎたある日。
仕事から帰るとミラの姿はなく、机の上に一枚の書き置きがあった。
ミラがいなくなったことに正直ホッとしていた。あんな役立たずの金食い虫とは暮らせない。
疫病神が自分から出ていってくれたことに安堵したのと同時に、ミラには帰る実家があるのだな……そう思ったらミラが羨ましくなった。
俺が家を出たあと、実家の伯爵家は借金を払うために家屋敷を売り払い、爵位を返上し、両親は親戚の家を頼り田舎に引っ越した。一月前、人を使って調べさせたので間違いない。
伯爵家が破産したのはもとはと言えば父親がギャンブルで作った借金が原因だが、俺がレイチェルと結婚していれば伯爵家が潰れることはなかったかもしれない……そう考えると後味が悪い。
レイチェルともう一度婚約できないだろうか? ミラというお荷物が消えたことで、俺の頭にはレイチェルとの結婚という希望が見えてきた。
十八歳を過ぎた女の嫁ぎ先がそう簡単に見つかるとは思えない。レイチェルはいまだに新しい婚約者を見つけられず、泣いているかもしれない。
レイチェルは俺に惚れていたし、父のように頭を床にこすりつけて謝れば元の鞘に戻れるかも……。
俺は今平民だが、レイチェルが公爵にお願いしてくれれば爵位を復活して貰えるかもしれない。後継ぎのいない貴族の家に養子に入り、そのあとレイチェルに嫁に来てもらうという選択肢もある。
いてもたってもいられず、無理やり休暇を取り王都にある公爵の屋敷に向かった。
公爵家を囲う鉄製の柵の間から公爵家の庭の様子を伺う。柵ごしにレイチェルの姿が見えた。少し距離はあるがあの特徴的な赤い髪を見間違えるはずがない。
「レイチェ……!」
レイチェルの名を呼ぼうと思ったその時、レイチェルの隣に男がいるのが見えた。
まだ幼い少年がレイチェルの手を引きエスコートしている。十三〜十四歳ぐらいの茶色の髪に緑の瞳の利発そうな少年。
一瞬レイチェルの弟かと思ったが、すぐにそうではないことに気づく。レイチェルの弟は今年十五になる、あんなに幼いはずがない。それにレイチェルの弟もレイチェルと同じ赤い髪をしていた。
ならレイチェルの隣にいる栗色の髪の少年は誰だ? 親戚の子か?
茶髪の少年がレイチェルの手を取り口付けをし、レイチェルが頬を赤く染めた。
その光景を目の当たりにしたとき、俺の胸がギューーっと音を立てた。
あの少年は誰だ? レイチェルの親戚ではなさそうだが……。
俺は公爵家の門まで走り、門番に金を渡し今屋敷にいる十三〜十四歳の少年は誰か尋ねた。
門番は「レイチェル様の新しい婚約者ですよ、クリューゲル侯爵家のご子息でお名前はロルフェ様」淡々とそう告げた。
レイチェルに婚約者がいたなんて信じたくなかった。
クリューゲル侯爵家と言えば、豊かな領地と大きな港を持っていることで有名だ。
没落した伯爵家の俺では勝負にならない。
レイチェルに新しい婚約者がいた事実に衝撃を受け、しばらくその場から動けなかった。どれくらい時間が経過しただろう、雨が降ってきて全身がずぶ濡れになってようやく我に返った。
その後どうやって家に帰ったのか覚えていない。
一年住んだ地方の街に戻ると「無理やり休暇を取るような人間はいらない」と上司に言われ仕事を首になった。
俺が住んでいた地方の街から王都までは往復一週間かかる、新入りが急用ができたという理由で休むには長すぎた。
その後仕事を探したが前の職場より給料が良くて安定している仕事は見つからなかった。仕方なく給料が安く過酷な仕事に就くことになった。
レイチェルと寄りを戻せないかと欲をかいて甘い夢を見たばかりに、多くのものを失ってしまった。
その後、風の噂でミランダが五十歳以上年上の裕福な商人の愛人になったと聞いた。
結局あの女は金を持ってる男なら誰でも良かったのだろう。
☆☆☆☆☆
――ヒロイン視点――
私とロルフェ様の結婚式は、ロルフェ様が十五歳、私が二十一歳の時に行われました。
私は貴族令嬢としては若干行き遅れ、ロルフェ様は貴族令息としては早すぎる結婚となりました。
昨年私の背を追い越したロルフェ様は、美しい顔立ち、洗練された所作、あどけなさの中に妖艶な色気を併せ持つ、絶世の美少年へと成長されました。
「あんまり待たせてレイチェルが他の男に目移りしたら困るからね」
彫刻のように整った顔でそんな事を言うのは反則だと思います。
「愛しているよレイチェル、二人で幸せになろう」
「私も愛しているわロルフェ、私がロルフェを幸せにしてあげる」
六月のよく晴れた日、王都にある歴史のある教会で式を挙げた私は、レイチェル・カルベから、レイチェル・クリューゲルとなりました。
【カウントダウンするラブ日傘】と、私との婚約を破棄してくれたアルフレッド様には感謝しております。
女の子が生まれたら【カウントダウンするラブ日傘】を譲ろうと思っておりますの。
娘にも愛する人に告白される喜びを知ってほしいから。
万が一娘が私のように人前で婚約破棄されたら、アルフレッド様に婚約破棄された私を母と祖母が私を支えてくれたように、私も娘を支えてあげようと思っています。
私やひいお祖母様が婚約破棄されたあと、もっと素敵な人と出会い結婚できたように、あなたにももっともっと素敵な殿方との出会いがあるのよと言って励ましてあげたいのです。
――終わり――
【追記】
実家に帰ったミランダは五十歳以上年上の商人のところに売られました。アルフレッドはミランダに興味がないのでそのことを知らないようです。
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