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第三話 神前裁判~技巧編~

 王都の侯爵邸(実家)に戻ってお父様や弟達に話をし、大神殿にも許可を取り、準備を済ませたころに神前裁判の日がやって来ました。

 大神殿前広場の中心に立つ柱の下に大神官様。

 大神官様を挟んで私と国王レオニート陛下が向かい合って立ち、地面の石畳の色が変わる部分から外に人々がいます。だれもが証言者で判定者──多少大神官様が流れを調整するものの、最後に審判を下すのは神様です。


「レオニート陛下、当事者以外は離れてもらってください」

「……ああ」


 私を睨んだ後、陛下は大神官様の言葉に従ってモシェンニクとあの女を後ろに下がらせました。

 不満なようですが、それがこの国における神前裁判の決まりです。私だってお父様や弟達とは離れて立っています。

 大神官様が、手にした杖を掲げて宣言しました。


「王妃マルタの訴えにより、今から神前裁判を執り行います。ここに集まった方々は、すべてが神の化身と見做されます。欲望に流されて虚偽の発言をしたものは、神によって罰されることを覚悟なさい」


 広場中央の柱の天辺にある宝珠が陽光を反射して、大神官様の杖の宝珠を煌めかせました。

 大神官様はちゃんとこうなる時間と角度を熟知していらっしゃいます。

 こんなもの、最初から結末が決まっているお芝居と変わりません。侯爵令嬢の私がそう望んだ以上、私と陛下の離縁は決定なのです。


 ですが、あの卒業パーティのときのインチキ裁判とは少し違います。

 私は嘘ではなく、これまでの真実で陛下を痛めつけて差し上げるつもりです。

 そうでもしないとこの三年間の鬱憤が収まりませんし、なにより陛下を愛していた自分が情けなくてたまりません。愚かな自分を切り捨てて、今日から新しいマルタになるのです。


「王妃マルタ、改めてあなたの訴えを神に」


 大神官様の言葉に頷きます。


「はい。神様、私は国王レオニート陛下との離縁を希望いたします」


 広場の群衆は静まり返っています。

 みんな知っているのです。知った上で、国の将来を憂えたり下世話な好奇心に煽られてここへやって来ているのです。

 神前裁判の議題は羊皮紙に記されて、何日も前からこの広場の柱に掲げられていました。


「俺は認めない」


 レオニート陛下の言葉に、大神官様が首肯しました。

 彼に従うということではありません。

 このように意見が対立しているのだと、群衆達に示したのです。


「どうしてですの? 陛下にはご自身のお子を身籠った愛しい女性がいらっしゃるのではないですか。ほら、後ろに立っているそのお方。愛妾なんて立場でその方を苦しめてもよろしいのですか? 私と離縁なされば、その方を正妻に出来るのですよ?」

「……」


 私が煽っても陛下は答えません。

 それはねえ? すべての国民に知られているとはいえ、(王妃)を失ったら国王としてやっていけない、周囲に見捨てられてしまう、だから離縁したくない、王妃の実家の権勢に寄生したまま愛妾と爛れた生活を送りたい、なんて言えるはずがありませんわよね。


「そもそも陛下は王太子殿下であらせられたころ、学園に在学されていたときからその方を寵愛していらっしゃいましたよね? 卒業パーティで私との婚約を破棄して、その方と婚約すると宣言するほど愛していらっしゃるのではないですか?」

「……」


 黙りこくった陛下の代わりに、群衆から声がしました。


『ああ、あったな』

『ありゃ酷かった。王妃様は冤罪で牢にまで入れられたんだったよな』

『そうか、あれがあの平民女か』

『先代様もお可哀相に。あの一件で寿命が縮まったようなもんだ』

『あの平民女とクソ従者が暴れてたころは国も滅茶苦茶だったよなあ』

『何度もこの国を捨てて逃げ出そうと思ったよ』

『王妃様が嫁いでくださって本当に良かった』


 私を慕う言葉と視線に危機感を覚えます。

 国民は賢いものです。

 私が王妃でなくなったら、レナート陛下が玉座に留まるにしろ追われるにしろ国が乱れるかもしれないなどと思われたら、離縁に反対されてしまいます。


 いくら神様の審判だと押し切って離縁をしても、王家や貴族が民の支持を失っては意味がありません。それこそ国が乱れてしまいます。

 私は離縁したいだけです。国を滅ぼしたいわけではありません。

 なるべく混乱は少なく収めますから離縁させてください、と思いながら、私は次の言葉を紡ぎました。


「それに私はもう耐えられないのです。……陛下は下手過ぎます!」


 広場の群衆が静まり返りました。

 今度は知っているがゆえの沈黙ではありません。

 私の発言の意味がわからなくて、あるいはわかったからこそ戸惑って口を噤んでいるのです。

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