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第二話 優秀過ぎる第二王子

「これは義姉上、お出かけですか?」


 当座必要なものをまとめて王妃の部屋から出たところで、アントニー大公殿下と出会いました。

 彼は国王レオニート陛下の弟です。

 陛下よりも遥かに美しく賢く武術にも魔術にも長けていて──それが彼の不幸でした。人間というものは自分より優秀なもの、優秀過ぎるものを好みません。かく言う私も彼を苦手としています。


 なにしろ初登城の日、侯爵家の長子として生まれ蝶よ花よと育てられ、なにをしても褒め称えられていた私が、まだ幼児だったふたつも年下のアントニー殿下にコテンパンにされたのです。

 幼い少女が自分のちっぽけな自尊心を守るには、自分以上に惨敗している第一王子レオニート殿下を慰めるしかありませんでした。

 アントニー殿下を妬んでいるのではない、レオニート殿下を好いているのだ、そう自分を騙すしかなかったのです。


 それは先代の国王ご夫妻も同じでした。

 むしろ先代ご夫妻は、どちらも血を分けた我が子であるがゆえに第一王子であるレオニート殿下を立てなければなりませんでした。いっそどちらかが愛妾の子であれば……と、だれもが零しておりました。

 無能でも庶子ならば臣下に降ると決まっているのだから気にすることはない、あるいは有能でも庶子なのだから家臣として兄弟に仕えればいい、そうはっきりと割り切れればどんなに楽だったことでしょう。


 ですが現実はそうではなく、どちらにも王となる資格があり、片方には明らかにその能力がなかったのです。

 最終的にアントニー殿下が大公になることで身を引いて、兄弟対立で国内が乱れるのは食い止めることは出来ました──表向きは。

 実際は王太子だったレオニート殿下の劣等感につけ込んだモシェンニク達の専横で、私が王妃として嫁ぐまでの二年間で国はボロボロになってしまいました。いいえ、最初の一年で先代ご夫妻が心労でお隠れになった時点で滅びかけていたのです。この三年で少しは建て直せたつもりでいましたが……


「気にすることはありませんよ」

「アントニー殿下?」

「生真面目な義姉上のことだから、自分だけ遊びに行くのを心苦しく思っていらっしゃるのでしょう? でも大丈夫。城も国も世界も、なるようになりますよ」

「……ふふっ」


 飄々とした物言いに、つい笑みがこぼれてしまいました。

 大公となられたアントニー殿下は目立つことを一切なさっていません。だれかに陛下に対抗するための旗頭として掲げられるのを恐れてでしょう。

 息を殺し存在を消し、ただ生きているだけの人生──それを彼に強いているのは私を始めとしたレオニート陛下を選んだ愚か者達なのです。


「ごめんなさい。ただのお出かけではないの。私……レオニート陛下と離縁しますの」


 アントニー殿下は見目麗しく、ちょっとした笑顔でも周囲の心を釘付けにします。

 その反面、少し感情に乏しく見えることがありました。お顔が整い過ぎているのです。

 彼が目を見開いて激しく驚く表情を見たのは、長い付き合いの私でもこれが初めてでした。もしかしたら、お亡くなりになった先代ご夫妻でもご覧になったことがないかもしれません。


「本当ですか!」

「はい。……アントニー殿下もそんなお顔をなさるのですね」

「そんな顔? ああ、我ながらこんなに驚いたのは初めてです。まさか義姉上、それだけの荷物で王宮から追い出されるのですか?」

「残りのものはメイド達に持ち帰ってもらいます。それに、正式な離縁は神前裁判を済ませてからです」

「神前裁判ですか、いいですね。あの学園の卒業パーティでおこなわれた、兄上と売女の取り巻きによるインチキ裁判なんかより、ずっといい」


 私が冤罪を着せられたときのことですね。

 あのときは、ふたつ年下の彼も卒業パーティに在校生代表として出席していました。

 私があの女を苛めたという嘘の証言に反論してくださったのは、アントニー殿下だけでした。その後、学園の人間しかいないパーティから抜け出してお父様に状況を報告してくださったのも。


 私が学園で親しくしていた方々は、モシェンニクの一味に取り囲まれていて身動き出来なかったのです。

 今回は学園の人間だけで卒業を祝いたいと保護者や使用人を締め出しておきながら、モシェンニクとその一味は自分達だけは居座っていたのです。

 そうですね、この三年間であの男を陛下から引き離せなかったことが私の一番の失敗だったのでしょう。


「神前裁判には僕も参加しますね」


 私は頷きました。

 王都の大神殿前の広場でおこなわれる神前裁判には、だれでも参加出来るのです。

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