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過疎萎え短編シリーズ

過疎萎えSS「悪徳の都」

作者: ペリ一

こちらは「過疎ゲーが現実化して萎えてます。」https://ncode.syosetu.com/n5169el/の本編をある程度お読み頂いた方のみ楽しめる短編となっておりますので、もし本編をお読みでない方は読んでからの閲覧を推奨します。





 これは、世界が異世界にのまれる前の話。過疎ゲーマーがゲーマーの器に収まっていた。そんな頃の話だ。


ジーク:なー、アクトクやんね?


タカ:なにそれ。過疎ってる?


ジーク:まだサービス開始初期だから何とも


タカ:うーん


ジーク:とりまURL投げるわ


 ジークに投げられたURLをクリックする。するとMMORPGらしきゲームの公式サイトが表示された。名前は「Act Cross Online」。なるほど、だからアクトクか。


「PK有りってマジか」


 珍しい。PKはどう調整しても微妙さが出る厄介な要素だからな。俺は正直MMORPGとPKって相性最悪では、ぐらいに思ってる。

 思うに、世界観的な相性は良いんだが、システム面の噛み合いが最悪なんだよな。

 そんな要素を前面に出しちゃってる時点でちょっとなぁって感じだ。


「一部のセーフティゾーンを除いて基本PK可ぁ?」


 キルされた場合、そのフィールド内に移動してから取得したアイテムを一種類その場に落とす。なお個数は1~9の内ランダム……物によってはおいしいかも? ってレベルだろうか。

 うーん。やってもいいけど継続してやる気が出るかは微妙かな。


タカ:やってもいいけど


ジーク:お、マジ?


タカ:ただPK以外目立った特徴ないし長続きしそうにない


ジーク:え? お前ちゃんと「よくある質問」の項目読んだ?


タカ:読んでないけど


ジーク:読めよ


 はあ。じゃあ読んでみるか。

 俺は再び公式サイトを立ち上げ言われた項目をチェックする。ずらーっと並んだテンプレ質問とそれに受け答えする丸っこいマスコットキャラクター。普通だなぁ。

 暫く惰性で眺めていると、一つだけ異様な質問を見かけた。


質問『街でもPKがしたいです!』


 したいです! じゃねぇよ。どんだけ殺伐としたゲームを望んでるんだコイツは。

 対するマスコットキャラクターの皮を被った運営の受け答えは……。


『できます! NPCが守っている安全装置を解除する事で一時的に街をPK可フィールドにすることが可能です!』


 ははーん。さては馬鹿だな?

 ここまでされると逆に興味が湧いてくる。というか「アクトク」って略称、絶対そういう意味だろ。やるじゃねぇか、ワクワクしてきたぜ。


タカ:やる気が出てきた。いつ安全装置を襲撃する?


ジーク:そうこなくっちゃ


タカ:でも俺らが考えるまでもなく準備してる勢力居そうだよな


ジーク:せやな


タカ:どうする? 初心者が協力できるもんなの?


ジーク:一応俺がそれなりのクラン入ってるからそこに一緒に潜入しよ


タカ:え? クラン潰しやるの?


ジーク:ちょっとスリルのある茶番をやるだけ


タカ:うーーーーーん。物は言い様だなぁ


ジーク:仕様を知っててなおプレイしてるんだから、少しは期待してるでしょ


タカ:確かになぁ。じゃあいいか。やろう


ジーク:よっしゃ


 そうと決まれば早速DLだ。

 何度か出てくるよくわからん項目に適当にYESを押していく。


「なっが」


 まぁMMORPGだしな。

 俺は手元のソシャゲで適当に時間を潰し、DLを待った。




 数十分後。

 タイトルである「Act Cross Online」の文字がでかでかと表示される。


タカ:DL終わった


ジーク:うっしゃ、とりあえず序盤やっとくべきクエスト一覧投げるわ


タカ:りょ


ジーク:ただ不穏な荒野ってフィールドには注意な。辻斬りが出る


タカ:ほーん。倒したらレアアイテム出したりしねぇの?


ジーク:さあ? プレイヤーだから……


タカ:プレイヤーかよ。治安最悪じゃねぇか


ジーク:俺も最初負けイベかと思ったけど、他プレイヤーによると中身入りらしいから


タカ:誰か勝とうとしてないの?


ジーク:いや……なんか結構エグめの課金装備で固めてて……


タカ:いやホラ、複数で囲んで何とか


ジーク:その課金装備落とすならまだしも、倒しても何の利益も無いとなるとなぁ


タカ:他の廃人サマが凸ったりとか


ジーク:相手は対人想定ビルドと装備だけど、こっちは対モンスターだからタイマンほぼ無理


タカ:うーーーーーん、まぁ数回殺されたところで大した損失もないだろうしどうでもええか


ジーク:結局そこに尽きる



 ジークとそんなやり取りをしている内に、チュートリアルが終了する。

 どの操作も、ストーリーの方向性も、他のMMORPGと変わらない。

 変わっている点は、PKシステムぐらいのものだ。


「おっ、居た居た」


 カチカチと方向を指定してキャラを動かしていると、門の方にジークという名前のキャラが立っていた。



タカ:来たぞ


ジーク:おいっす



 フレンド登録を済ませ、早速クエストに向かう。


 薬草の採取に始まり、「動物でしょそれ」みたいなやつの討伐、ようやく魔物らしい魔物、ゴブリンの討伐など。

 あらかた済んだだろうか、という辺りであるクエストが出現した。


『クエスト:不穏な荒野の盗賊討伐を開始します』



タカ:はい


ジーク:辻斬りが最初モンスター扱いされていた理由が理解できましたか?


タカ:人型の敵モブが出るのな


ジーク:そういうこと


タカ:これ絶対行かなきゃいけないの?


ジーク:絶対ではないけど、これのクエ報酬の剣は序盤にしちゃ強いし、ドロ率増加ついてるから中盤の素材集めの時にも使える


タカ:行かなきゃいけないじゃん……


ジーク:会っても殺されるだけだし、一回殺した相手は暫く殺さないらしいから平気平気


タカ:敵モブに見せかけたプレイヤーに見せかけた敵モブだったりしない?


ジーク:その議論はたまにされてる



 されてるのかよ。

 


ジーク:とりあえずさっさと行っちゃおう



 ジークのキャラがとことこと街を出て行く。

 それに合わせて、俺もキャラを動かした。


『不穏な荒野』


 数分程度で、問題の場所に到着した。

 PK可能エリアである事を示す、赤文字でのエリア表示。


 砂埃が舞い、全体的に見通しのきかないエリアだ。

 辻斬りにはもってこいだな。



タカ:盗賊どっち


ジーク:ついてくれば分かる



 ジークのキャラがふっと消える。

 しまった、エリア切り替えポイントだったか。俺も急がねぇと――



『貴方は死亡しました 強制帰還:120秒』



「……は?」


 え、怖。急にホラーゲームになったんですけど。


 ほわーん、と光るエフェクトと共に、俺のキャラが街の中心部にリスポーンする。



タカ:アレ何??????


ジーク:縮地で狩られましたねぇ


タカ:???????


ジーク:移動スキルと剣術スキルのツリー伸ばしてたら取れる技。普通に便利だよ


タカ:一撃ですか?????


ジーク:いや俺は最初の不意打ちで一回食らって、縮地で狩られた。お前はほぼ流れ弾


タカ:ついでの攻撃で????


ジーク:プレイ初日の雑魚なんだから当たり前じゃん


タカ:確かに……


ジーク:まぁ次行く時は見逃してくれるはずだから


タカ:ほんとぉ?


ジーク:行けば分かる



 ジークに言われるがまま、先ほどのエリアにもう一度向かう。



『不穏な荒野』


 到着。文字通り不穏な赤文字が表示された。



ジーク:二回目でーす



 ジークが唐突にエリアチャットにそんな文面を送信した。

 


タカ:俺もでーす



 意図は何となく察したので俺も送信しておく。

 俺がチャットをうつ間にも移動していたジークに慌てて追いつく。


 そこからは、先ほどの事が嘘だったかのようにサクサクとクエストが進み……。



『クエスト:不穏な荒野の盗賊討伐をクリアしました』



ジーク:終わった?


タカ:達成したわ


ジーク:じゃあ帰るぞー


タカ:思ったんだけど殺してもらってデスルーラの方がはやくね?


ジーク:今クエストクリアして得たアイテム落とす可能性あるけど良いんですか????


タカ:あっ、ダメだわ



 危ない、危ない。

 めんどくせぇけど徒歩で帰るか。


 ちまちまとキャラを動かし、不穏な荒野の出口付近に到着する。



ジーク:あっ


タカ:何?


ジーク:あれ辻斬りだよ



 よく見ると、ギラつく刀を構え、黒い外套を羽織ったキャラが看板横に突っ立っていた。

 なんで抜刀してるの? 殺されるの?



ジーク:あの、俺ら二回目なんですけど……



 ジークがエリアチャットを飛ばす。

 すると、辻斬りのキャラがぐいっと近付いてきた。


 キャラ名が表示される。



a:レベル一桁の方は殺す気無かったから、ごめんね


 

 名前入力めんどくさがりすぎだろ。

「あ」ですら無いって何?



ジーク:余波で死ぬほど雑魚いコイツの責任なんで


タカ:あぁ? コラ


a:お詫びに何かあげるよ



 お詫び?



タカ:装備くれ


a:いいよ


タカ:いいの!!?!?!?!???


ジーク:貰っても装備レベル足りないでしょ


タカ:それでもありがたいだろ


ジーク:そうかなぁ



 辻斬りの足元に、黒っぽい靴が捨てられた。

 しばらく所有権がどうこうで拾えなかったが、数秒の後に、インベントリにしまう事ができた。



タカ:モータルブーツだってさ


ジーク:は?


a:なんかダブってたからあげる。じゃあね



 辻斬りが消える。おそらくログアウトしたのだろう。


 さて、要求レベルは……85……へ、へぇー。



タカ:いつになったら装備できるのこれ


ジーク:俺ならあとちょいで装備できるからよこせ


タカ:そんなに良いもんなの?


ジーク:靴はまだ排出率高めだけど、だいぶ珍しいよそれ


タカ:そうなの?


ジーク:モータルシリーズつってな、期間限定で出てた対人想定の装備。課金必須だしレイドでは使いづらいしで、わざわざ所持してる人めっちゃ少ないはず


タカ:へー。コレ移動速度の上がり幅でかいな


ジーク:でもね、靴はそれしかバフがねンだわ


タカ:ほんとだ。ゴミじゃん


ジーク:でも対人では強いンだわ。あと靴だけなら移動用で確保してる人は結構いるンだわ


タカ:なんか、微妙?


ジーク:いや、決して微妙ではない。ただ最新のメインクエ報酬でそれの代用品みたいなの存在してるから、まぁ、うん


タカ:タダで貰えるにしてはかなりの上物って認識でおk?


ジーク:せやね。良かったな。くれ


タカ:ぜってぇやんねぇ



 そんな会話をしている内に、街に到着。

 今日は一旦解散する流れになった。


 そこから一ヶ月。

 ジークやジークの所属するギルドメンバーに指導され、俺は順調にキャラを育てた。


 水面下で進めた例の計画も、そろそろ熟す頃合いだ。





 ゲーマーというのは難儀な存在だ。


「あの山って登れるんですよ」と言われれば「へー、作りこんでるんすねー」では終わらない。

「じゃあ登らなきゃな」となるのがゲーマーだ。


 ゲーマーにとって、実行可能である事は、実行しなければならない事と同義である。


 俺達が、じわじわと暖め、刺激した火種はそこだ。

 そこに火をつけてしまえば、爆発の時は近い。




佳月:じゃあ、行こうかー



 ギルマスの佳月さんの掛け声で、俺とジーク含む15名ほどのギルドメンバーが「おおおおお」だの「よっしゃああああ」だのチャット欄を騒がせる。


 やる事は簡単だ。

 安全装置を守るNPCを倒す。

 そして一度だけ安全装置を起動させてみる……かどうかはその場のノリ次第。


 ちょっとしたギルマス主催の身内イベントって感じだ。

 街も、わざわざ人の少ない場所を選んだ。



タカ:はよ済ませて寝ましょうや


佳月:いやー、ごめんね!



 時刻は早朝。

 ゲーマーは不健康なのでこの時間には居ない。


 ……基本的には。


 イベントがあるとなれば、「普段からそのくらいでやれよ」というぐらいにキッチリ早起きをするのもまたゲーマーの性である。


 協力者はしっかりと仕込んである。


『安全装置前』



佳月:はい、きましたー。じゃあ僕が範囲魔法ぶっこんだら突撃お願いしまーす



 装置を守る兵士どもに隕石が降り注ぐ。

 流石に一撃では倒れないか。やるじゃん。


「おらおら! ……よし」


 一体落とせたぞ。

 

 周囲を見ると、皆もせっせと兵士達を処理している。

 ひゅう、ひでぇ光景だ。



佳月:よっしゃ! もう押しちゃおう!



 初期はしょっちゅう押されてたらしいが、ここ最近はめっきり無くなったらしい、安全装置解除。

 情報は集めたつもりだが、知らぬ間にアップデートが入ってるかもしれないな……。


 そこだけが不安だが――




『安全装置が、aにより解除されました』



 ――作戦自体は、滞りなく進行している。



佳月:え?



 まず真っ先に狙われたのは前衛職……のすぐ後ろまで出張ってしまっていた魔法職だ。


 あらゆるスキルを駆使し、縦横無尽に刃を繰り出す。

 あっという間に二人がキルされ、回復ポーションがいくつかその場にドロップした。



佳月:撤退して! 撤退!



 ギルマスの指示。だが既に糸は張られてるんだよなぁ!


 街に戻る。

 PK可フィールドとなった街には、いや正確にはそのマップだが――



佳月:プレイヤー多くない!?



 俺らが集めたゴロツキプレイヤーどもだ。

 聞いてた数より数人少ないという事は、身内で既にちょっとやり合ったのだろう。ゴロツキを自称するだけあって、ろくでもねぇ奴等だぜ。


 ゴロツキどもは、街の出入り口に集中してたむろしている。

 この窮地を脱するには、その包囲網を突破するか、もしくは――



佳月:辻斬り探して殺すよ!



 良い判断だ。

 この安全装置。一度解除されても、元に戻す方法はいくつかある。

 その中には、スイッチを押した主犯。そいつがなんらかの方法で街から出る、という物がある。


 ログアウトでも何でも良いが、一番シンプルなのはそいつを殺す事だ。

 安全装置が解除された街はリスポーン地点に指定できなくなるからな。街から出ざるを得なくなる。

 まぁ、話によると、そもそも主犯は死んだ時点ですぐに初期街へ強制帰還させられるらしいが。



佳月:ひょっとしたら武器ドロップするかもだし、頑張ろう!



 良い士気の上げ方だ。


「ワクワクしてきたなぁ!」


 さっそく辻斬りことaを発見。総員で一斉に殴りかかる。

 だがそう上手くいくかな!?


 

ベヒーモヒカン:ひゃっはァ! 命とアイテムを置いていきなァ!



 ゴロツキどもを多数抱えたギルドのマスター、ベヒーモヒカンさんだ。

 取り巻きを多数引き連れて、前線に出張ってきてくれた。


 見た目装備に蛮族シリーズをフル装着している。

 気合い入ってんなぁ。



a:こんにちは



 辻斬りが急にチャットで挨拶をした。顔見知りだったからかな? 偉いね。



ベヒーモヒカン:こんにちは



 お前も返すのかよ。

 あと時間帯的におはようございます、なんですけど。



佳月:お前らグルだな!?



 うちのギルマスも割とノリノリだ。

 

 そんなやり取りのせいか、どことなく弛緩した空気が流れかける。

 その瞬間だった。



「は?」



 目の前の、ベヒーモヒカンが消滅した。

 ボトッと落ちたモヒカン装備が、どことなく生首のように見える。


 刀の血をはらう動作は、スキル硬直の演出だ。



ジーク:辻斬りさん!?



 ジークも動揺したのか、共犯がバレかねない内容をチャットにて発してしまう。


 あのゴロツキ共ですら、唐突にギルマスを殺され固まってしまっている。

 辻斬りがそれを逃すはずもなく――惨劇が、始まった。


 モヒカン装備がボトボトと地面に落ちる。

 お前ら絶対、調整してモヒカン確定ドロップにしてただろ。

 めちゃくちゃ統率取れてんじゃねぇか。「俺んとこは、荒くれが多いからよぉ」みたいな事言ってたのは嘘かよ。

 まぁ嘘か。



佳月:モヒカンを守るぞ! 戦え!



 モヒカンは守らなくて良いと思うよ。

 そう思いつつも、俺も加勢し、何とか辻斬りに攻撃を当てようとする。



a:いいね


 

 何が良いのかさっぱり分からん。

 最早、作戦はぶっ壊れたも同義だ――同義、だが……まぁ、楽しいのでいいや。



佳月:もっとまとまってかかって!



 うちのギルマスの指示で、モヒカンどもが集まって攻撃を始める。

 めちゃくちゃ指示きいてくれるじゃん。


 だが、辻斬りに刃が届かない。

 フレンドリーファイアへの恐れで、後方支援も覚束ない。


 また一人、二人とモヒカンを残し消えていく。

 その状況を歯噛みしつつ見ていた、その時だった。


 

モブカン:俺らごとやれーーーーー!!!!!!!



 どんなネーミングセンスだ。

 だが作戦のセンスは悪くない。

 俺達は、この街の倉庫でアイテムの出し入れをしてしまった為、重要なアイテムや装備をドロップする可能性があるが、おそらくコイツらはモヒカンを出し入れしただけだ。モヒカンの命は軽い。

 

 ……思ったより数が減ってたのって、モヒカンのドロップ検証をしたからとか、そういう事だろうか。



佳月:うおおおおおおおおおおおお!!!!!!



 ギルマスが特に必要の無いチャットをうちながら範囲魔法を放つ。

 中心部には辻斬り。

 そこを囲むように、モヒカン達。


 隕石が降り注ぎ、次々とモヒカンがドロップする。

 酷い光景だ。



佳月:やったか!?



 やったか!? も何も、安全装置再起動のログが流れてない以上、答えは一つだろう。



a:やば



 野郎、突破しやがった。

 見れば、装備が変わっている。瞬時に移動用に切り換えたのか。


 だが、それもここまでだ。

 俺のキャラは既にスキルを入力している。


「――縮地ッ!」


 思わず口に出る。

 俺とジークは、あの日から定期的に辻斬りと会っている。

 その日の初エンカウント時には毎回殺しにくるので、アイツの立ち回りなんてもんは、嫌でも覚える。


 だから、俺は。



「避けるって信じてたぜ」



 俺の縮地が命中し、辻斬りのキャラが消滅する。

 その場には。


 モヒカンだけが、残された。



ジーク:しょッッッッぱ……



 あの乱戦の中で複数個拾ってたんだろうな。

 モヒカン排出率マシマシってとこだ。


 だが、まぁ、悪くない。


 モヒカンを拾い、装備する。



『安全装置が、再起動されました』



タカ:勝ったどーーーーーーーー!!!!!



 チャット欄が「8888888888」だの「やったぁあああああああああああ」だの、祝福の言葉で溢れる。

 佳月さんのギルドメンバーはまだ分かるけど、生き残りのモヒカンと俺らに関してはマッチポンプもいいとこだよな。


 でも、まぁ。


「楽しかったし、いっか」


 背もたれに深く沈む。

 ギィという音が耳に心地良い。


 達成感と共に、眠気が戻ってきたのだろう。ギルメンもモヒカンも、次々とログアウトするのが見えた。


「俺も二度寝キメるか」


 その時、色の違うチャットが通り過ぎたのが見えた。



a:楽しかったー



 作戦用に作っていた、俺とジーク、辻斬りの三人のチャットグループだ。



タカ:確かに楽しかったけどお前のせいでめちゃくちゃだかんな


ジーク:ベヒーモヒカン狩られるとこめっちゃ面白かった


a:俺も面白かったよ



 掴みどころの無い返答に少し笑いつつ、ふと思いたったことを言ってみる。



タカ:コイツさ、俺らが最近発掘した過疎ゲーやらせね?


ジーク:楽しそう。ガッテンリスキルしまくろうぜ


タカ:草


a:どんなゲーム?


タカ:人がいないゲーム


ジーク:直球すぎる


a:タイトルは?


タカ:聖樹の国の魔物使いって言うんですけども


a:分かった


タカ:あと始めるなら名前もうちょっとまともにしてくれ


a:名前思いつかない



「うーん」


 微妙に呼びづらいんだよな。せめて「あ」ならいちいちアルファベットにしなくて済むから楽なんだが。

 あっ、そうだ。



タカ:モータルでよくね?


ジーク:良さそう


a:分かった



 よし。

 これでいちいちアルファベットにしなくて済むな!


 俺は僅かな達成感と共に、ログアウトし、布団に入った。

 二度寝は最高だぜ!



 起床後、俺はフレンド申請欄にでかでかと表示された「Mortal」の表記を見て、頬を引きつらせた。






 ――これは、世界が異世界にのまれる前の話。過疎ゲーマーがゲーマーの器に収まっていた。そんな頃の話だ。




あけましておめでとうございます。

今年も自作をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 佳月さん、まさか医療班の…?
[良い点] 遅くなったけど読みました! こういう過去話めちゃくちゃ好き
[一言] 昨今のゲームはPKに厳しいからなぁ… モヒカンは対人泥に補正でもあるのかw
感想一覧
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