アナログとハイテク
高千穂ゆずる先生主催の「お題リレー小説」参加作品です。
「博士〜」
隣家に住む少年が高校の制服姿で研究室に駆け込んできた。
「やあ、お帰り」
彼が引っ越して来た当時、私の家の庭を探検して警報装置に引っ掛かって以来、5年の付き合いになる。科学者という私の仕事に興味津々らしく毎日通ってくる。
「何作ってるの?」
PCにデータを入力する私の手元をきらきら光る瞳で覗きこんで尋ねる。
「アンドロイド」
「名前は?」
いよいよ彼がわくわくしているのがわかり私は笑みを零す。
「アナログ」
「こんなハイテクなものにアナログ〜? 変な名前〜」
予想はしていたが大いに不評のようだ。
「で、アナログってどんな意味?」
「さあ、なんだったかな」
「とぼけないでよ。これ見ていい?」
アンドロイドの入ったケースへ近づく彼をやんわりと止める。
「だめだよ、守秘義務があるからね」
「あ…ごめんなさい。本当はここにも入っちゃだめなんだよね」
悄然として肩を落とす。素直な彼はとても可愛い。
「いいんだよ、君は特別だから。さあ、お茶にしよう。それ食べさせてくれるんだろう?」
「そうそう、お姉ちゃんが持ってけって」
にっこりと笑いかけると彼にも笑顔が戻る。クッキーの袋を見せてくれる彼と共にリビングへと向かった。
学校の授業や友人の恋の話、自分の失敗談。彼が表情豊かに語るのを眩しく見つめながら、相槌を打つ。
楽しい時間はあっというまに過ぎてしまう。
「もうこんな時間」
立ち上がる彼を私は彼の家の前まで送っていく。
「ありがと」
「うん、気をつけて」
「気をつけて、ってもう家だよ」
呆れたように彼は笑う。
「じゃあまた明日」
ドアが閉まる。
明日もあさっても。いつまでもこんな日々が続けばいいと願う。
「アナログっていうのは相似や類似。連続量を他の連続量で表すという意味だよ」
彼には届かないだろう質問の答をつぶやき、自宅へ戻った。
研究室のドアを開けケースへ近づく。それを開けると私そっくりの顔が現れた。
「間に合ってよかった」
私の時間は残り僅かだ。医師にそう告げられたとき、脳裏に浮かんだのは彼の姿だった。
きっと彼は私がいなくなれば悲しむに違いない。それはどうしても避けたかった。
「…いや、そうじゃない。なんて身勝手な男だろう」
自嘲してケースの中へ目を落とす。その中には外見はもちろん、歩き方や喋り方、食べ物の好みや今までの記憶、知識全てをインプットして作り上げた、私そのものが横たわっていた。
私の心音が止まると同時に起動して、人知れず私の体を処分するようプログラムした。もちろん彼が一緒の時は避けるつもりだ。
『私』−−アナログ−−はその名前のとおり、私の連続、相似型として日々の連らなりに入りこんでくれるだろう。
私は『私』の頬を指でなぞった。
「どうか彼を守ってくれ」
そうして彼が私を忘れないように−−