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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー

6月の花嫁は幸せになれたのか?

作者: ヨモギノコ


 ジューン・ブライド。


『6月に結婚する花嫁は幸せになれる』


と言う古くから欧米で語られてきた言い伝え。

現代の日本で知らない人は居ないだろう、女性が憧れる幸せのジンクスだ。

その由来は3つの説がある。


その1。

結婚生活などを守護するギリシャ神話の中で最高位の女神、ヘラ。

もしくは、ローマ神話のユノが見守っていてくれるから幸せになれると言う1番有名な説。


その2

昔のヨーロッパでは農業の妨げになるからと3月から5月に結婚する事が禁止されていたそうだ。

その為に、結婚が解禁される6月に結婚式をあげる人が多く、街中が祝福ムードだった。

だから『皆が祝福してくれる6月に結婚すると幸せになれる』と、言われる様になった説。


そして最後。

晴れている日の方が珍しく、台風だって連続で来る様な6月と言えば雨!!

と言うイメージがあるジメッとした日本とは真逆に、海外では6月に乾季に入ってる国が多い。

ヨーロッパでは1年の中では6月が最も結婚に適した時期だと言われている説。


以上の事から、ジューン・ブライドは幸せのジンクスとして有名になった。

確かに結婚式は日本でも昔から縁起物といわれていたし、人生の新しい門出。

大切な人生の節目だからこそ、縁起を担いで気持ちよく式を行いたいと思うのは自然な事だ。


だ・け・ど・ッ!!!


此処は日本!!

四季で気候がガラッと変わる島国!

ジューン・ブライドの発生は同じ国内でも時差が変わる事だってある大陸の国の話だ。

上に書いた説にもギリシャ!ローマ!ヨーロッパ!!の文字はあれど、日本の文字は1つも無い!!

日本の気候とジューン・ブライドは合わないんだ!!!!!!

ちったぁ雨や台風の中、式に参加する奴等の気持ちを考えろよっ!!!


と、連日の結婚式とそれに伴う披露宴、二次会のラッシュでヘトヘトに疲れ切った私は内心そう文句を言いながら仕事をしていた。

日本でもジューン・ブライドが広まり、私が働く結婚式場でも6月は目眩が起きそうなほど結婚式の予約が入る。

このご時勢何に、1日に6件、7件入ってる何ってよくある事で、その分普段だったら考えられないほど食器が全然足りないのだ。

洗っても洗っても端から汚れて返って来る食器。


ただ食器を洗うだけ。


殆ど洗浄機がやってくれる。


だから、楽な仕事だろ?


なんって思ってるなら大間違いだ!


この式場で使っている食器は大きく重い物が多い。

その上、披露宴の料理は基本コース料理で1回の披露宴で13,14種類もの食器と、5種類以上のグラス類を使う。

その中には唯でさえ重いお皿よりも大きくて重くて一々洗った後拭かないといけない銀製の食器も合って、時間や体力、気力なって幾らあっても足りないのだ。

自分が3人居ても全然足りない!

その十何種類の食器とグラス×参加者、合計すれば何百、何千枚もの食器を洗い、台車に乗せて階の違う指定の場所に戻す。

それを何度も何度も何度も何度もッ!!繰り返すハードな力仕事なんだ!!!

唯でさえ普段からハードなのに明日の準備もあるからと、必要な食器をそろえる為に洗い続ければ普段5時には終わる仕事が9時、10時まで掛ることだってある。

それに本来朝9時からの仕事を始める所を、8時出勤何ってこともよくある事で、お風呂に入って寝ても全く疲れが取れない。

6月の仕事はゲームで言えば最高難易度で挑んでいるような気分なのだ。

残機1体じゃ絶対クリアできない。


「はぁ。リア充共爆発して1ヶ月位式遅らせてくれないかなー」


この場に誰も居ないと分かっていて、つい口を出た普段心の奥底に押し込めてる本音。

7月、8月は6月とは真逆に暇すぎるのだ。

だから、6,7,8と足して割ったら丁度良い仕事量で、平均的に式を挙げてくれると万歳するほど嬉しいと言うのが本音。

そりゃあ、私だって仕事が無いよりはある方が何倍も良いって事は分かってるよ?

仕事が無いと私の財布と通帳が寂しい事になってしまうのだからある方が良い。

それでも、限度ってもんがあるだろ?

それに、若くて家が近いからって理由で連日私1人だけ居残りさせられ、他のパートのお姉さま方よりも仕事量が多いんだ。

今日だって他に居た7人は2時間前から順々に帰っちゃって、どうしても間に合わないと言われたグラス類をせっせと1人で洗い続けている。

そんな事が今日で3日目!

私は一切ミスをしてないのに、1人残されて、疲れて、辛くて、寂しくて、悔しくて、お腹もすいて、喉も渇いて。

鼻の奥がツーンと泣きそうになる。

こんな状況なんだ。

文句の1つや2つや3つや4つ位言っても罰は当たらないはず!



そう、この日の私は肉体だけじゃなく精神的にも大分、いや、普段口にしない事が無意識にポロポロ零れるほど極度に参っていた。

だからだろう。

今まで1度も幽霊を見た事が無かった私が、あの人達に気づいてしまったのは。



「あのー」


口紅がベッタリ着いたグラスの口元を手で洗い、後は洗浄機へ。

火傷しそうなほどの熱湯で洗われたグラスが洗浄機から吐き出され、軽く上の方をタオルでポンポンと拭く。

後は廊下の棚に並べて、自然乾燥。

今洗っているグラスは明日の朝1で行われる100人以上の大きな結婚式で使われるもの。

態々拭かなくてもこれで明日の朝、ホールスタッフさん達が準備するまでには乾くだろう。

そうやって坦々とグラスを棚に並べていると、私が背を向けている洗浄室の向かいの部屋から突然声がした。


「あのー」


今、この洗浄室のある階には私しか居ないはず。

ホールさんも、調理師さんも、清掃員さんも、別の階で行っている披露宴と二次会の方に掛りっきりで、何も行っていないこの階には居ないと思っていた。

だから私は驚いてしまったのだ。

人が居ないと思っていた私は自分以外の人の声に驚きすぎ声が出ず、そんな私に声の主はもう1度声を掛けて来た。


「あのー」

「は、はい!!」


3回目でやっと返事をした私の声は驚きが抜けきらずとんでもなく上擦っていた。

恥ずかしさで顔が真っ赤になってないか心配になりながら振り向く。


「何でしょうか!!何か足りません・・・・・・・・え?」


物置部屋は乾かしたグラスやグラスを入れる空のケースが積んである。

何時も足りないって言われるワインかシャンパン、後は同じ部屋に仕舞う場所があるスプーンやホークって線もあるか。

兎に角、何か足りなくて取りに来たホールさんが目当てのものが無くて私に声を掛けたと思っていた。

でも、そこには予想していたホールさんの姿は無く、代わりに居たのはAラインの、一般的な真っ白なウエデェングドレスを着た私と同い年位の綺麗な人。

その人が暗い部屋の中、ドア近くの棚の右側から左側だけを出して私を見ていた。


何で、その部屋にお客さんが?


その花嫁の姿を見て私の頭はその疑問で埋め尽くされた。

何せ、彼女が居たのは物置部屋。

お客さんが居ていい部屋じゃない。

いや、確かにこの物置部屋は物置部屋というには豪華だけど。

お客さんが使う表側の通路と私達従業員が使う裏側の通路。

その2箇所と繋がる、金色の取っ手がついた真っ白な両開きの扉。

クリーム色の落ち着いているのにどこか可愛らしさもある壁紙に、他のどの会場にも無い大きく豪華なシャンデリア。

プロジェクターやスポットライトも設置された小さめだけど豪華な物置部屋は、元々他の会場と同じ披露宴やパーティーの為の部屋だった。

多分、結婚式自体行う人が少なくなった今の時代、使うのは他の部屋だけで十分と思って物置部屋にしたんだと思う。

だから彼女が勘違いしたって線は低い。

いつも開きっぱなしの裏通路側と違って、表通路側の扉は基本的に鍵がかかって関係者以外立ち入り禁止の看板がぶら下がっている。

今だって表通路側の扉は何時も通り閉まったまま。

それと、今私が居る裏通路側から入るのも不可能だ。

ホールさん達が間違ってお客さんがこちらに来ないように注意しているはずだし。

特に今日の様な結婚式や披露宴、二次会が多い時はそこら辺は徹底してるって聞いていたけど・・・・・・・


確かに、年に1、2回あるウエディングドレスのファッションショーなんかをやる時は、休憩中のウエディングドレス姿のままのモデルさんが物置部屋に居る事はある。

扉から除く花嫁は半分だけでもモデルの様に綺麗な事が分かるけど、今日はファッションショーが行われる日じゃない。

なら如何して、彼女は此処に居るんだろう?


「あのー」

「え、あ、はい!何でしょうか?」


彼女に驚きアホ面を晒していただろう私に、もう1度彼女が声を掛けた。

如何してお客さんがその部屋にいるのか気になるけど、一応この式場の従業員として何か困っているらしいお客さんに対応する方が先だ。

私は慌てて笑顔を浮かべ、彼女に返事をした。


「あの、彼を見ませんでしたか?」

「彼?彼とは貴女のお相手の方ですか?」

「はい。何時まで待っても、彼が来なくて・・・・・・彼を見ませんでしたか?」


どうやら彼女は、お色直しにでも行った花婿が予定の時間になっても現れず、痺れを切らして探しに来たらしい。

主役が何をやっているんだ!

とは思うが、残念な事に私は唯のどんぶり洗い。

そこら辺の事は全く、一切合財、分からないのだ。


「申し訳ありません。私はそちらの方は関わっていなくて・・・・・・・・・黒い服を着たスタッフなら分かると思いますが・・・・・・・申し訳ありません」


そう思って私は彼女に頭を下げ、私では分からない事を伝える。

洗浄室や廊下にある内線電話は使い方が分からないから直接他の階ホールさんに聞きに行かないといけない。

少し待ってもらう事になるけど聞きに行こうかお客さんに聞く前に、


「そうですか・・・・・・・・」


と言って私の言葉に心底残念そうな顔をして、部屋の暗がりに消えてしまった。


「・・・・・・・・あ。お客様!その部屋は・・・・・・・・・・・あれ?」


疲れ過ぎていたせいだろう。

私はその部屋が本来お客さんが入ってはいけない事を彼女に伝え忘れていた。

何処かに隠れているのか、電気をつけ部屋を見回しても彼女の姿は見当たらない。


「お客様?お客様ー?おーい・・・・・・・・・何処いったんだ?」


暫く部屋の中を探したけど、お客さんの姿は何処にも無かった。

一応念の為に今あった事を他の階のホールさんに伝えると、


「え、花嫁さんが?どの会場も新郎新婦、どっちも居るよ?」


と当たり前だが、私にとっては予想外の言葉を貰った。

信じられずに何度も確認するけど、ホールさんの言葉は変わらない。

ホールさんも最初は私がホールさんをからかって居ると思っていたのだろう。

けど私の真剣な様子と、私が普段から冗談を言うような奴じゃなく、こんな忙しい中そんな現実味の無い嘘でホールさんの手を煩わせるような奴じゃないと知っていて一応確認してくれた。

ホールさんが確認してくれた結果、どの会場も新郎新婦、どちらもちゃんと居たし、既に式が終わった新郎新婦が残っている訳でもなかった。


「多分、誰かの悪戯だったんじゃない?1人で残ってる野乃さんの気分転換にさ」

「それだったら、大岩村さんじゃないけど、余り物でいいのでケーキやお菓子が置いてある方がありがたいですよ。実際、要りませんけど」


1番最初に帰った洗い場のボス的存在の大ベテラン、大岩村さんを思い出しながら私はホールさんに言った。

ホールさん達は披露宴のデザートの余りを時々食べてることがある。

大岩村さんは、


「ホールさんだけズルイ!同じ従業員の私達にも寄越せ!」


と良く愚痴ってるけど、裏方の私達違いホールさんは直接お客様と接するのだ。

お客さんに失礼が無い様にとか、転んで料理を台無しにしない様にとか、疲れていてもその事をお客さんに悟られないように常に笑顔で居ないといけないとか。

そう言う精神的負担を考えればその位のご褒美があるのは当然じゃないだろうか?

と毎回思ってるけど、大岩村さんが怖いので口は出さない。


「すみません。お手数をおかけしました」

「いいのいいの。気にしないで」

「ありがとうございます。あ、頼まれていたグラスは何時もどおり棚に並べてあります」

「ありがとう。また後で、取りに行くね」

「いえ。それでは、残りを終わらせてきます。失礼しました」


変な悪戯で余計な時間を捕らせた誰かに軽く殺意を覚えつつも、私はホールさんに声を掛け洗浄室に戻った。


「あの!」

「はい、何でしょうか?」


頼まれていた最後のグラスを棚に並べていると、また声を掛けられた。

今度は男。

また悪戯をされているのかと一瞬思ったが、今度は本当にホールさんが声を掛けて来たのかもしれない。

そう思って振り返ると、物置部屋の左側のドアと棚の間から右半分だけを覗かせた、白いタキシード姿の私より少し上位のお客さんが私を見ていた。


「あの!彼女を見ませんでしたか?」

「彼女?彼女とは貴方のお相手の方ですか?」

「はい。アイツ、何処かで迷子になっているみたいで・・・・・・・・彼女を見ませんでしたか?」


瞬時に悪戯だって分かっていたが、ワーキングハイってやつかな?

疲れ過ぎ一週回って可笑しなテンションになっていた私は、彼の悪戯にかなりノリノリで乗っていた。

どうやら彼はさっきの花嫁のお相手と言う設定らしい。

これは、彼も花嫁を探していて擦れ違ってしまったと言う場面なんだろうな。


「先ほどまで、そちらの部屋にいらっしゃいましたよ?お客様を探していらしたようで、私では分からなかったので表の、黒い服を着たスタッフに聞いて頂けるようお話したばかりなんです。もしかしたら、まだそちらの方の廊下に居るかも知れません」

「そうですか!ありがとうございます!!」

「いいえ。あ、お客様、その部屋は立ち入り禁止・・・・・・・・・・・・・・・・何やってるんだろう、私」


そう言ってドアと棚の間に完全に隠れた花婿。

花嫁と同じように見えなくなった彼に、途中までノリノリだった私は唐突に冷静になって自分の行動が馬鹿らしくなってきた。

テンションが完全に下がりきった私はどっかに隠れているんだろう彼を探す気には全くなれず、


「帰ろ」


誰にとも無く小さくそう言って物置部屋を後にした。


「あのー」「あの!」


洗浄室を片付け、荷物を持って廊下を出るとあの新郎新婦に声をかけられた。

それも案の定、物置部屋から。

あぁ、またか。

今度は2人同時。


「いいかげんに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


ワーキングハイが終わったのだろう私は、もうこの2人の悪戯に付き合う気が全く、今は怒りと殺意しかなかった。

いい加減にしろ!

と怒鳴るつもりの私の声は物置部屋の入り口に立つ2人の姿を見たことでドンドン小さくなって、最後はただただ驚くことしか出来なかった。


「あの、彼を見ませんでしたか?」「あの!彼女を見ませんでしたか?」


物置部屋の入り口に立っているのは1人だけ。

でもその人物から放たれる声は男女2人分の物。



左側半分は花嫁



右側半分は花婿



真ん中はコーヒーにミルクを注いだようにグルグルに混ざり合って



物置部屋の入り口には花嫁と花婿が半分ずつ混ざり合って1人になった『化け物』が居た。


「ヒィッ」


特殊メイクとかそんなんじゃない。

本能的にソレがこの世に居てはいけない存在だと分かった私は小さく悲鳴を上げ、尻餅をついた。

気がつけなかった、いや、本能的に気がつく事を避けていたんだ。

そこで漸く私は最初からこの2人が可笑しかった事に気がついてしまった。



右の棚も、左の棚とドアの隙間も、



人が、入れる隙間何って少しも無いって事に



真っ暗な部屋の中、他の物が良く見えない中、



2人の姿だけ顔が良く見えるほどハッキリ見えていた事に



「あのー」「あの!」

「は・・・・・・わ・・・・・・ひ、や・・・・・・・」


新郎新婦に声を掛けられ私は何が言いたいのか自分でも分からない音を零しながら、何とか後ずさろうと惨めに体を動かしていた。

この場から離れようともがく私とは正反対に物置部屋から1歩も動かない。


「あの、彼を見ませんでしたか?」「あの!彼女を見ませんでしたか?」

「何時まで待っても、彼が来なくて・・・・・・」「アイツ、何処かで迷子になっているみたいで・・・・・・」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」


綺麗に半分。

半分だけの其々の口からお互いを捜す言葉が紡がれる。

そんな2人の言葉に私は恐怖のあまり、何も言えなかった。


「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」


何度も何度も。

同じ言葉を繰り返す。

その言葉を浴びせられる内に、私の体は恐怖以外の何か不思議な力で口以外自分の意思で動かせなくなっていた。


「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」








             「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」








2人にはお互いの声が聞こえないのか、壊れたカセットテープって言われそうな程、同じ言葉を繰り返す。

それぞれ半分だけなのに、同じ、


悲しそうな


不安そうな


辛そうな


今にも泣きそうな


そんな表情をして、自分と混ざった相手を探している。


「彼を・・・・・・・・・・見ませんでしたか?」「彼女を・・・・・・・・・・見ませんでしたか?」

「あああああああの、あの、あの!えっと、ひぅ、う、え、あ・・・・・・・・」


顔から色んな液体が零れグチャグチャになりながらも、私は唯一動かせる口を一生懸命動かそうとした。

でも私の口からは相変わらず意味の無い事しか出なくて、その間も新郎新婦は、


「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」


と繰り返し続ける。

その度に新郎新婦の姿は元々のまだ人間らしいかった姿から崩れ、



花婿は明らかに死人、いや、死体だと分かる


綺麗に化粧され、鼻や耳に何か白いものが詰まって、ふっくらと見える火葬前の遺体の様な顔


そして、服は同じ真っ白なのに洋服のタキシードからシミ1つ無い死装束に



いつの間にか菊の花束を持った花嫁は、真っ白なウエディングドレスがどんどん赤黒く染まるほど


頭から血を流し、その血が流れる隙間には白やピンクの内面が見え隠れ


手足もグチャグチャで、まだ人の形をしている花婿とは違って何処か高いところから飛び降りたようなそんな姿に



「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「と、とな、と、と、となり・・・・・・・」

「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」

「隣に居る人は違うんですかっ!?」


もう、それぞれ別の生きている人間では絶対ならない姿になった新郎新婦の姿を見たくなく、私は目を瞑ってそう叫んだ。

私の言葉を聞き、


「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」


と同じタイミングでずっと繰り返していた新郎新婦が久しぶりに別の言葉を喋った。


「隣ですか?」「隣?」

「そ、そうです!隣の方!その人じゃないんですか!!?」


いつの間に金縛りが解けていたのか。

私は痺れたように震える手で何とかポケットに何時も入れているスマホを取り出しすと、鏡のアプリを起動させ、新郎新婦に見える様に掲げた。

アプリに移るかどうか何って分からないけど、私はこうしないとこの場から逃げれないような気がしたのだ。

その感は当たったらしく、


「あぁ、そこに居たのね」「あぁ、そこに居たのか」

「やっと、やっと会えた」「やっと、やっと見つけた」

「ずっと、待ってたの」「ずっと探してたんだ」

「もう」「もう」

「もう、何処にも行かないで・・・・・」「もう、どこにも行かないから・・・・・・」


と言う声が聞こえた。

その言葉を最後に新郎新婦の声は一切せず、どの位経っただろうか?

腕が疲れすぎて痛み出した辺りで、私はそっと目を開いた。

辺りを見回すが、この場には腰を抜かしスマホを掲げる私しか居ない。

探していたお互いを見つけた事で成仏したんだろう。

あの新郎新婦は物置部屋を見回しても何処にも居らず、やっと消えた事がわかり私はホッと胸を撫で降ろす前に、鞄をつかみ式場を飛び出していた。


翌日。

無慈悲にも仕事が入っていた私はこんな忙しい時に休む訳にもいかず、アルバイト先に行きたくない気持ちを押し殺して仕事に向かった。

仕事の間は集中する事で忘れていたけど、休憩時間になるとそうもいかない。

昨晩のあの新郎新婦の事が気になって仕方がなくなってきたのだ。

だから、つい聞いてしまった。


「あの、向かいの物置部屋。あそこも元々式場だったんですよね?何で物置部屋にしたんですか?」

「え?どうしたの急に?」

「いえ、同じ日に同じ部屋で連続で披露宴を行う時ホールさん達大変そうだなって。あの部屋も使えば楽なんじゃないかなーって思いまして。ほら、小さいけどシャンデリアもあって豪華ですし・・・・・」


昨日あの部屋で幽霊を見たから、とはとても言えず、咄嗟にそう言い訳をした。

無理な言い訳だが、お姉さま方は気にした様子も無く、何処か困ったようなでもそれ以上に楽しそうに。

まるで何時もの人の不幸で盛り上がるときの様な仕草で大岩村さんが教えてくれた。


「実話ね・・・・・・・・・・あの部屋で昔、死んじゃった人が居たのよ!」


私は大岩村さんの言葉にやっぱりと内心思いつつも、静かに大岩村さんの話を聴いていた。



7年前の今と同じ6月。

1組の若いカップルがここで式を挙げ、物置部屋で披露宴を行っていった。

2人の事を紹介した友人達お手製のVTRによると、その新郎新婦は兄妹の様に育った幼馴染で、幼い頃から結婚の約束をするほどお互い愛し合っている。

周りもお似合いだと、やっと幼い頃からの約束を果たせたのかと、心から祝福できる2人だった。

そんな2人の為に100人以上の人が集まって、行われた披露宴。

式場の庭に建てられた小さなチャペルで誓い合った姿は、チャペルには人が入りきらないからと少人数の親しい者だけで立ち会って、披露宴は沢山の人を呼んで盛大に。

今では信じられない沢山の人が参加した披露宴は、内装を新しくしたばかりの綺麗な部屋で、滞りなく進んでいたそうだ。



事件が起きたのは披露宴が終わりに差し掛かった頃。



新郎が突然倒れ、救急車で運ばれた先の病院での治療の甲斐も無く息を引き取ってしまった。





死因は、急性アルコール中毒。





人生最大級の幸福なイベントと、自分の事の様に祝ってくれる友人達との思い出話は、気づかない内に何時もよりお酒が進む良い肴に成ったのだろう。

親戚や友人に進められるまま、浮かれていた新郎はハイピッチでお酒を煽り、そのまま幸せの絶頂のさなか命を落とした。


ジューン・ブライドに憧れ、女神が見守る6月に式を上げ、数日前に婚姻届も出して。

ジンクスの通りなら幸せになるはずなのに、花嫁は結婚式が終わった直ぐ後の披露宴で最愛の夫に先立たれてしまった。

幸せな新しい門出の式は、悲しい永遠の別れの式に。

その事に新婦はどれだけ絶望したのだろうか?



彼女は数日後、真っ黒な服を着てブーケに使ったのと同じ花に菊の花を加えた小さな花束を持って。






この式場の5階から、飛び降りた






飛び降りた彼女は即死で、誰がどう見ても助からない状態で・・・・・・・・・・・


当時、高校生だった私は知らなかったけど、地元の新聞の片隅に載る位にはこの辺では有名な事件だったそうだ。

そんな悲惨な出来事が合った為にお払いをした後、縁起が悪いからと物置部屋として使われているとのこと。


いや、全然お払いできていなかったじゃん!

昨日、その2人らしい幽霊と言うか、化け物に会いましたよ!?


と大岩村さんの話を聞いて私は内心そう突っ込んでいた。

7年間一度もあの新郎新婦の霊を見なかったのかとか、

如何して霊感なんって持っていないはずの私があの日に限って見てしまったのかとか、

疑問は色々ある。

でも、無事成仏して、もうこの式場に居ないのだから気にする必要は無いだろう。


あんな恐ろしい体験は忘れよう。


そう思って働いてきて数年。

私はあの日の宣言どおりあの心霊体験を忘れていた。

だけど、私はある頼みごとして来た後輩の言葉で、あの恐怖を思い出してしまったのだ。


「野乃さん!お願いがあります!今日の居残り変わってください!」

「えっと、いいけど・・・・・何か用事でもあるの?」

「あの、そうじゃないんです。ただ、昨日の夜、ここで変な人に会って・・・・・・・・」

「変な人?」

「はい・・・・・・・」





顔の半分だけ出して、




「彼を見ませんでしたか?」「彼女を見ませんでしたか?」




って言い続ける、




花嫁と花婿です・・・・・・・・・・・








                               END



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この度、ホラー企画に始めて参加させていただきました。

怖い話や心霊番組が好きで良く読んだり見たりしていますが、自分で怖い話を書くのは難しかったです。


この作品は洋ホラーの作品として書きましたが、舞台は日本の田舎町の結婚式場。

洋ホラーぽさはあまり出せませんでしたが、題材にしたのが欧米のジンクスと中国の古い怪談なので洋ホラーとして出させていただきました。


少しでもゾッとして、読んだ方が涼しい思いをして下さったら幸いです。



最後に話しは変わりますが、1つ聞いていいですか?


あなたは、本当に6月に結婚したら幸せになれると思いますか?


だって、嫉妬深くて神話の中では怖い悪役として書かれる女神ヘラ。


そのヘラと同一視されるユノ。


そんな女神が見守る月に結婚して、


本当に、6月の花嫁は幸せになれたのか?


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