第83話 僕は再びエステリアと対峙する
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以前、僕とメリアが脱出してきた地下洞に僕たちは降り立った。
真っ暗闇の洞窟の中を松明を焚いて進んでいく。
モクモクと煙が上がり、辺りに立ち込める。
「発光の魔術なら使える。
わざわざ松明を使う必要は無いんじゃないか」
と、ブレイドに聞くと、彼はため息を吐いて、
「あのなあ、こんなところで魔力の無駄使いしてどうするんだよ。
代用できるものは代用しておけ。
幸い、ここの地下洞は広いし風も流れているから大した害にはならん」
と言った。
「魔術戦になると踏んでいるのか?」
「おそらくな。
手紙にも書いたが金龍隊のシエルとベルジュと言えば、ソーエンでもトップクラスの剣士だ。
あの二人が白兵戦で正面切ってやられたとは思えねえ。
逆に言えば、それだけの力をエステリアが持っていたなら俺たちが束になってかかっても無駄だ」
こともなげにこの作戦が命がけであることをブレイドは断言する。
しばらく歩くと煙のものではない異臭が漂い始めた。
水路には人間の死骸と想われる肉片、骨片が沈殿している。
「陥落した時に殺された住民だろう。
大雨が降ったときにでも水路に流れ込んできてここまでたどりついたんだ」
松明で水路を照らし淡々とブレイドが言う。
イスカリオスは苦々しく口を歪める。
「この地を取り戻した暁には地上で葬ろう。
異国の民であろうと汚物のように打ち捨てられるなど人の死に方ではない」
「よろしく頼むわ。将軍閣下」
イスカリオスとブレイドは並んで先頭を歩く。
その頼もしい背中に引き連れられて兵たちも進む。
開戦の時は近い。
都市の中核付近にたどり着いたところでブレイドは松明の火を別の松明に分け、それを一人のソーエンの兵に握らせる。
「アーチ。指揮はお前に任せる。
アーチが倒れたら、スティング。
スティングが倒れたらウイッツだ」
「承知した」
アーチと呼ばれた男はキッとブレイドを見据えて返事する。
「30分だ。
キッチリ30分稼いだら脱出しろ。
できるだけ派手に奴らを引き連れてな」
ブレイドはここで20人の隊をさらに半分に分けた。
残すのはソーエンの兵8人とイフェスティオの魔術師2人。
彼らには本隊である僕たちがエステリアの元にたどり着くための囮になってもらう。
イスカリオスは自分の連れてきた2人に対し、
「ここで死んでくれ」
と言い放ち、二人は
「御意」
と声を揃えて返した。
メリアがこの場にいれば声を上げて抗議したに違いない。
ブレイドも顔をひきつらせて頭を掻いている。
「帝国の兵は従順だねえ。
ソーエンでそんなこと言ったら殴り返されるぜ」
「戦闘民族らしいな」
ブレイドの言葉を聞き流すようにイスカリオスは前に進む。
「俺、一生オッサンとは仲良くなれる気がしねえわ」
ブレイドがボソリと僕にこぼす。
「僕もそうだ」
と返すと、ククと笑って僕の背中を叩いた。
先に進もうとしたその時、残る二人は僕を呼び止めて、
「クルス殿、ご武運を」
「イフェスティオの騎士として恥じない働きをせよ」
と言ってきた。
その目には怯えも怒りもない。
ただ目的のために稼働する兵器。
純粋だが人間とは程遠く、人間の尺度で考えれば哀れなものだろう。
死を覚悟して戦いに挑む戦士とはこういうものなのかと思い知らされる。
「二人とも、頑張ってくれ」
僕はかろうじてそう言って、彼らの元を離れた。
僕たちも地下を出て、街の排水溝に出た。
スッと頭を路上に出し辺りを見渡すと敵の姿はない。
だが、喧騒が離れたところから聞こえる。
陽動隊の方で戦闘が行われているのだろう。
路上に出た僕たちは物陰に隠れながら、特に上方で監視しているだろう飛行型の魔物に気を配りながら、目的地に進む。
目的地は元々アイゼンブルグで最大の屋敷だったウエンツリー家邸宅。
そこにエステリアがいるというのはブレイドの調べで明らかになっている。
もちろん正面から向かっていくようなことはしない。
屋敷敷地側面にある柵の下の方を剣で破り、そこからぞろぞろと園庭に侵入する。
屋敷の回りには芝生が敷き詰められているだけで、身体を隠す場所はない。
「フロス、ハンマ。
正門から攻めろ。
ある程度引きつけられたら、脱出して構わん」
ブレイドがそう言うと、
「別に倒してしまっても構わんのだろう」
「魔王の首を取るのはこの俺さ」
と、余裕しゃくしゃくといった表情で彼らは足音を立てずに正門に向かっていく。
残りは僕を含めて8名。
前に進むにつれて仲間を容赦なく切り離していくブレイド。
イスカリオスに非難めいた態度を取ってはいるが自分も同じことをしている自覚があるのだろう。
横顔のこめかみに浮き上がる血管と食いしばる歯がそれを物語っていた。
僕たちは屋敷の勝手口にたどり着く。
そこにはオーガが2体槍を持って見張りとして立っている。
「【此処は息も凍る白き世界。
命も音も凍りつく――
サイレント】」
ハインラインがそう唱えると魔術の波動が拡がり、オーガの元に届く。
異変に気づきオーガは声を上げようとするが、声が聞こえないどころか足音すらしない。
戸惑うオーガに僕とブレイドが一足飛びに襲いかかる。
虚を突かれたオーガは目をひんむいて槍を構えるが、それが突き出されるより前に僕の剣がオーガの首を捉える。
剣閃は紫紺の光を放ちながらオーガの首と身体を切り離した。
ブレイドもオーガの喉元に剣を突き立て、そのまま手首を返し頭を真っ二つに切り裂く。
(沈黙の魔術か。
さすが、帝国の一流の魔術師というだけはあるな)
とブレイドは唇を動かし、勝手口の扉を蹴破った。
屋敷の中は意外にも荒れ果ててはいなかった。
エステリアが命じているのだろうか定期的に掃除されている跡があり、まるで人間が住んでいるかのように整然としていた。
むしろ汚し散らかしているのは僕らの方だ。
ハインラインの沈黙の魔術で足音や魔物の声をかき消し、奇襲をかけて死体の山を築く。
だが、陽動が上手くいっているらしくほとんどの魔物はアクスたちの方に向かっているようで僕たちの戦闘はそう多くなかった。
「どうだクルス。
エステリアの位置は分かったか?」
僕は魔力感知を最大にして屋敷内を探っているが、それらしい気配はない。
「ダメだ。魔力を溜めているヤツは何体か引っかかったが大したことない。
エステリアのものではないだろう」
チッ! と舌打ちをするブレイド。
そこにジギルがおずおずと声を上げる。
「あ、あの〜。魔力探知はできないですが捜し物は得意です」
そう言って、雑嚢の中からゴキブリを取り出して放つ。
ブレイドはのけぞって悲鳴をあげる。
「うえっ! 気持ち悪っ!」
「ははあ……よく言われますが慣れてくると可愛いですよ。
先程から何体か放っていますが、おかげで屋敷の中の様子は分かります」
「使い魔の類か……
趣味が良いとは言えねえな……
うおっ!!」
ブレイドの足の間を一匹のゴキブリが通り抜けて、ジギルの耳元に取り付く。
「ふんふん。
尻尾と羽と山羊の角の生えた雌型の魔族……
これは〜あたりですかねえ」
ヒヒッ、と口元を綻ばせるジギル。
ブレイドは目頭を押さえながら、
「でかした……けど、お前の使い魔は俺の見えないところにやってくれ」
と、力なく呟いた。
僕たちがたどり着いたのは屋敷の最上階にある祈りの間だった。
ノウス教のものだろうかレイクフォレストの教会によく似た作りであるが、ダンスホールほどの広さがあり、調度品はみるからに高級で屋敷の元の持ち主が裕福であったことを示している。
その最奥に禍々しい金色の椅子があり、黒い豪奢なドレスに身を包んだ魔王エステリアはどっかりと座り込んでいた。
「いらっしゃーい。
魔王エステリアの別荘にようこそ。
ん? 見知った顔もいるねー」
いつぞやのように呑気でけだるい喋り方をしているが、僕たちは警戒を解かない。
各々の武器を構え、魔術師は魔力を蓄積し、攻撃の瞬間を伺っている。
「久しぶりだな、トカゲ女。
また会えたこと嬉しく思うぜ」
ブレイドが一歩進み、エステリアに呼びかける。
「うん。アタシもキミに会いたかったんだあ。
なんたってアタシに傷をつけた人間なんて何人もいないからねー。
生き残っているのはキミくらいだよ」
エステリアは肘掛けをつかって頬杖を突き不敵に笑う。
「それに大スターのイスカリオス将軍まで紹介してくれるだなんて。
キミの首、差し出してもらっていいかなあ」
「欲しければ力づくで奪い取れ。
それが魔王のやり方であろう」
イスカリオスは体勢を低くし、いつでも飛びかかれるようにしている。
「フフン。いいよいいよ。
お屋敷で引きこもる暮らしにも飽きてきたところだったんだ。
お互い得意なことをしようか。
殺し合いのはじまりだ!」
「散開! 囲んで押しつぶせ!」
エステリアは椅子から立ち上がり、虚空から剣を2本取り出し両手に構える。
ブレイドの号令を受けたソーエンの4人は四方に散らばって、エステリアに波状攻撃を仕掛ける。
鍛え上げられたソーエンの剣士たちが業物の剣で繰り出す斬撃はオーガですら一太刀で叩き切る。
だが、エステリアの細腕は彼らの剣を受け止め、いなし、はじき、押し返し、攻撃をものともしない。
「剣の威力はこの間襲ってきた二人のほうが上だなあ。
えーと、そこのー……」
「ブレイドだ」
「うん、ブレイドくん。
君はさあ私のトリック気づいているんでしょう。
おかげであの二人には手を焼かされたよ」
エステリアは眉を下げてため息をつく。
「出し惜しみはしないでおこうよ。
さもないと無駄死にしちゃうよ」
口角を上げ、尻尾でバチバチと床を叩くエステリア。
「だな……やるぞ! テメエら!」
ブレイドが声を上げるとソーエンの兵たちは剣をエステリアに向かって一斉に投げつける。
エステリアはたやすくその剣を弾き落としたが、その間に兵とエステリアの距離は縮まっている。
「せあっ!」
「とおっ!」
掛け声とともにソーエンの兵たちは素手での攻撃をエステリアに仕掛ける。
エステリアは身を捩ったり、飛び退いたりしてかろうじてかわす。
「剣の形をしているから武器だと思ってしまうが、奴の持っている剣は防具だ。
しかも何らかの加護を帯びていて武器による攻撃を完璧に無効化する。
あのトカゲ女の拙い剣術で俺の剣が捌かれたのがその証拠さ。
だが、武器を使った攻撃でなければその加護は発動しない」
作戦の前にブレイドから聞かされていたとおりだ。
エステリアは四方からの打撃を捌ききれず、じわじわとダメージを帯びていく。
「くっ! こんにゃろ!
可愛い女の子を集団でなぐりつけるなんてひどいやつだ!」
エステリアは瞬時に姿を消したかと思うと、先程まで腰掛けていた椅子の前に立っていた。
「ううっ……こんなことになるんならあの時無理してでもキミを殺しておけばよかった。
私のこの『陰陽』は作った武器の中でも3本の指に入るお気に入りなのに……」
嘘泣きをするエステリア。
余裕ぶってはいるが確実にダメージは刻まれている。
このまま痛めつけて、あの剣を落としさえすれば一気にカタがつく。
僕も他の皆もそう思っていた。
しかし、僕たちの予想を裏切り、エステリアは自ら剣を床に突き立てて手放し、椅子に深く座り込んだ。
「なんだ? 降参のつもりか?」
ブレイドは低い声で尋ねるが、エステリアはアハハと笑う。
「どうして負けるはずのない相手に降参するのさー?
思っていたよりは強いけど、本気のアタシを怯えさせるほどじゃないねー」
その言葉に嘘やハッタリは感じられない。
「ならば怯える間もなく死ねっ!!」
ソーエンの兵たちは剣を拾い、一斉にエステリアに襲いかかったその時、僕の魔力感知に何かが強く触れた。
「近寄るな! 逃げろっ!」
僕は叫んだが、間に合わなかった。
エステリアの座る玉座を中心として床にとてつもない魔力が走って光で覆われる。
その光の中から無数の鋼の刃が突き出され、エステリアに向かっていた4人は全員串刺しになった。
「カリブ! サム! リング! シャウト!」
ブレイドが全員の名前を叫ぶ。
だが、誰一人返事は返さず、全身を貫かれ絶命していた。
「で、これがアタシの最高傑作『剣の要塞』。
結界内に入った獲物を必ず仕留める最強の防具であり武器。
楽しんで、死んでくれたかな?
ウフフフッ!」
何がそんなに面白いのか、肩を震わせて笑っているエステリア。
一方、ブレイドは顔を真赤にしてブチ切れていた。
「ザケンじゃねえぞ……
必ず仕留めるダア!?
やってみろや! このアマぁ!!」
「よせ!」
無謀にも特攻しそうになるブレイドをイスカリオスが腰紐を掴んで止める。
そして、ハインラインとジギルが腕を突き出してエステリアに向ける。
「魔王の名にふさわしい力だが結界魔術は所詮結界内でしか使えん!」
「わたしたちは魔術師なんでえ、外からじっくり焼かせていただきます〜」
二人はそう言って、攻撃魔術を放とうとした瞬間、二人の後ろの壁から刃が突き出てきて彼らの身体を貫いた。
「誰が結界はアタシのまわりにしか張っていないって言いましたあ?」
エステリアの言葉に賛同するように床や壁、さらには天井までもが無数の光の結界に埋め尽くされる。
当然、僕の足元にも結界が生まれ、刃が突き出てくる。
だが、その速度は比較的遅く、飛び退くことで避けられた。
同様にイスカリオスとブレイドも難を凌いだようだ。
「やっぱり、残ったのはキミたち二人と将軍だったかあ。
ダメだよ。ザコは戦場に連れてきちゃあ。
無駄死にしちゃうだけだからさあ」
エステリアは自分の周りと広間の入り口付近を除き、結界を解除する。
「前に言ったよねー。
今度は本気でやろうってさ。
でも、アタシってぶきっちょだからさー、どこでも本気出せるワケじゃないの。
キミたちがわざわざ来てくれてホントアリガトってカンジ」
余裕ぶって足をパタパタ打ち鳴らすエステリア。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【◆マリオ】
『ホムホム、俺の考察を伝えるから聞いて。
多分、あのソードなんたらはエステリアに近づくほど密度も濃くて速度も速い。
現にハインラインとジギルに突き刺さった刃は数も少なかったし俺の目でも動きが見えた』
【◆助兵衛】
『接近戦は不可能。
遠距離から撃ち殺せ』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
分かった。
僕は左腕の槍に魔力を込める。
鋭い槍の先端に蓄積された魔力により槍には稲光を帯びる。
「くらえ! 【ライト・ブリンガー】!!」
直系2センチほどに集約した光線はエステリアの胸元目掛けて高速で飛んでいく。
が、光線を阻むように結界から無数のやりが突き出され半分も貫かぬ内に【ライト・ブリンガー】は消失した。
「うん。良い攻撃だね。
だけど、その程度ではアタシには届かない。
でも頑張って。
アタシが操作をミスって当たることもあるかもしれないヨ」
と、自信満々に応え、刃を結界に収納する。
僕の攻撃力ではアレを打ち破るのは困難だ。
ベイルバインの爆裂魔術のような広範囲に広がる魔術ならば結界ごと吹き飛ばすことが出来るかもしれないが僕にそんな芸当はできない。
かといって脱出しようにも入口付近にも結界が敷き詰められている。
出来ることと言えば、ヤツから離れて結界の弱いところで攻撃を避けきるくらいか……
僕はチラリとブレイドとイスカリオスを見る。
すると、イスカリオスがブレイドになにやら小声で話しかけている。
神妙な顔をして聞いていたブレイドは、
「ハーッハッハッハーーー!
ソイツはご機嫌だな!
本当にやれんのか!?」
「大声を出すな。
貴様が仕損じなければな」
大声で笑い出したブレイドは剣の鞘を捨て剣を背負うように構える。
「じゃあいっちょかましてやるか!
なあ、オッサン!」
珍しくにこやかにイスカリオスに語りかけるブレイド。
その様子を見ていたエステリアはむーっ、と頬を膨らませて、
「あのさー。アタシが目の前にいるのに男同士で仲良くすんなよ!」
エステリアは二人の足元の結界を作動させる。
刃が床から突き出る刹那、二人は飛び上がってかわす。
と、同時にイスカリオスが大剣を振りかぶった。
「カアアアアアアアッ!!」
自らの体ごと床に叩きつけるように放たれた斬撃はもはや剣によるそれではない。
イスカリオスの持つ魔力放射で威力を向上させた一撃は大地を砕く流星のように床から突き出した刃もろとも結界を破壊した。
「うそおっ!?」
エステリアが思わず叫ぶ。
そういえば、以前も床ごと魔法陣を破壊していたな。
とんでもない力だ。
抉れた床に立ったイスカリオスは、
「これで足元からは刺せまい」
と言って剣を高らかに頭上に掲げる。
「我が名はイフェスティオ帝国将軍イスカリオス!
この一撃を以って邪悪を打ち払う!!」
暴風のような魔力放射を剣に注ぎ込むイスカリオス。
さすがのエステリアの顔からも笑みが消える。
「チイっ!!」
舌打ちと同時に四方から囲むようにイスカリオスに向かって刃が伸びる。
剣を頭上に掲げるイスカリオスは完全な無防備だ。
刃を避けることも受けることもかなわないが――
「させねえよ!!」
ブレイドがイスカリオスに向かう刃を全て叩き切った。
「ブレイドくんっ! なにするの!?」
「テメエの邪魔に決まってんだろ。
なんでもかんでも思い通りに進むと思うなよ!
ヘボ魔王が!!」
僕も援護するように【ライト・ブリンガー】をエステリアに向かって放つ。
「アアアアっ! キミもウザイッ!!」
僕の攻撃に意識が向いたエステリアはイスカリオスへの攻撃の手を緩める。
わずか数秒。それで十分だった。
「【我は人類の剣なり】!」
イスカリオスはその場で大剣を大きく横薙ぎに振るう。
津波のような魔力の奔流がエステリアに向かって放たれる。
エステリアは刃で防壁を張るもそれぐらいで止められる威力ではない。
魔力の津波はエステリアの結界、玉座、さらには壁をも飲み込んで宙に消えた。
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【転生しても名無し】
『イスカリオス△!』
【転生しても名無し】
『すげえええええ!
一撃で全部ふっとばしやがった!
風通し良くなったなあ!』
【転生しても名無し】
『最近将軍様の株上がりっぱなしなんですけど!
超強い!!』
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確かに……
ベルグリンダの時といい彼が魔王軍に恐れられるのがよく分かる。
「フウッ!」
イスカリオスは大きく息を吐きだして膝をつく。
振るっていた大剣も砕けて砂のように崩れおちてしまう。
「さすが将軍様。
我々の期待に応えてくれるねえ」
「抜かせ。
悪いがこれで儂は打ち止めだ。
後は任せるぞ」
「おうよ」
ブレイドはクルクルと剣を回して、脇に構える。
すると、先程まで玉座の置かれていた場所にエステリアが現れる。
どうやらイスカリオスの攻撃は回避できたようで全くの無傷だ。
だが、その表情に一切の余裕はない。
血走った瞳でイスカリオスを睨みつけている。
「いやあ……さすがは魔王軍最大の障害、常勝将軍イスカリオス。
せっかく作った私の『剣の要塞』を……
ムカつくとか悔しいとかじゃなくて、ただただ引き裂いて殺してやりたい」
凶悪な顔で凄むその面貌は魔王の名にふさわしい凄絶さだ。
「おいおい、無視すんなよ。
俺じゃあオトコの魅力にかけるかい?」
イスカリオスを遮るようにエステリアの正面に立つブレイド。
するとエステリアはコロリと笑顔になって、
「まさかぁ。キミだって全身の皮を剥ぎ取って殺してやりたいよ。
あ、彼女さん元気?」
挑発するようなエステリアの言葉に、プツン、という音が聞こえた気がした。
「そういやそうだった……
テメエにはククリの背中を剥がされたんだったなあ。
治してもらえたから忘れそうになってたよ」
ブレイドの声音が低くなる。
「クルス。お前は手を出すな。
邪魔したらお前でも殺しかねねえ」
そう言ってブレイドは上着を投げ捨て上半身を顕にする。
その怒りを体現するように腕には青筋が浮かび上がっている。
「行くぜ、ヘボ魔王。
全身バラバラにしてぶっ殺してやる」
「かかっておいで、ブレイドくん。
アタシだって容赦しないよ」
壊れ果てた祈りの間で二人の対決が始まった。