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第74話 僕は儀式が執り行われる祭場の警護をする

 ダリル王子を連れて僕たちはイフェスティオ山にある祭場を目指した。

 道中にモンスターの影もなく、何事も起きないまま、休憩地点であるニルス村にたどり着いた。


 昼食を摂るために訪れた宿の食堂で僕は旅装束姿のメリアを発見する。

 メリアもすぐに僕に気づいて向かいの席に座った。


「お疲れ様です」

「メリアも。

 ここ数日泊まり込みだったみたいだが大丈夫か?」

「ええ。昨日の晩、こっそりあの温泉に浸かってきましたし体調はバッチリです。

 なんだか、全然疲れないんですよね。

 いろいろあって浮かれているせいかもしれませんけど」


 そう言って、メリアは上目遣いで僕を見つめる。

 爛々とした目を見ているとあの夜のことを思い出して僕は気恥ずかしくなってしまう。

 だが、僕よりも隣りにいるガルムのほうがわかりやすく顔を赤らめてあたふたしている。


「これはこれはアルメリア様。

 クルス殿に負けず劣らずお美しい。

 二人揃っていると妖精が戯れているように思えますな」


 などとのたまっている。

 メリアはフフッ、と笑みをこぼす。

 妖精はそんないいものじゃないぞ、と僕は心の中で呟く。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆江口男爵】

『やい、ホムホム。

 それはどういう意味だ?」


【転生しても名無し】

『よう悪魔』


【転生しても名無し】

『悪魔はお下がりください』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 周りにいる兵士や給仕たちも僕たちに視線を集めている。

 噂通り、僕らは世間の注目の的らしい。

 好奇の目にさらされることに抵抗はないが、その弊害というのは存在する。


「任務中に逢引とは大胆ですね」


 そう言いながら、ズカズカ歩いてメリアの隣に立つベイルバイン。


「お初にお目にかかります。

 ローリンゲン侯爵令嬢殿」


 ベイルバインはメリアを見下ろしてそう言うとメリアは立ち上がり、


「これはこれはアールセイム卿。

 お久しゅうございます。

 私の記憶が確かならばメイゼン伯爵夫人のサロンで3年ほど前にお目にかかったことがあったかと」


 メリアの言葉にベイルバインは鼻を鳴らし、


「失礼。血統書のついていない犬の顔を覚えているほど、僕は物覚えが良くないので」


 明らかな侮蔑の言葉を投げかけるベイルバインに腹が立った僕は席を立ち上がるが、


「クルスさん。構いません」


 メリアが手で僕を制するので怒りをグッと堪える。

 ベイルバインは僕を横目で見ながら笑みを浮かべる。


「飼い馴らされているのはクルス殿の方でしたか。

 まあ、たしかに令嬢はなかなか見目麗しく育たれた。

 家の外で粗末な衣服を着て働かなければならないようなお立場とはいえ、貴族家の紳士たちも放っておかないでしょう。

 いかがです?

 今のあなたなら僕もお相手して差し上げても構いませんよ」


 メリアのつま先から頭まで舐め回すように凝視するベイルバイン。

 僕はその言動に耐え難い気色悪さを感じる。


「ベイルバイン! いい加減にしろ!

 アンタのクルス殿に嫉妬してるのは目をこぼすにしても、アルメリア様に粉をかけるのは卑劣極まりない!」


 ガルムが机を叩いて立ち上がった。

 ベイルバインも笑みを消し、ガルムに向かって威圧するように語りかける。


「嫉妬? 僕が彼に嫉妬していると?」

「そうだろ! イスカリオス様を打倒し、名を挙げたクルス殿に対して、貴公はただ若くして宮廷魔術師の座についた程度しか功績を上げていない!

 功名心があるのなら魔王軍との戦いに加わればいいものを!

 実家の権力に縋って、軍役から逃げ回っている腰抜けめ!!」


 ガルムのまくしたてる言葉にベイルバインの端正な顔が歪む。


「冒険者上がり風情が!

 僕を侮辱するなど万死に値するぞ!」


 ベイルバインが杖をガルムに突きつける。


「やってみろ!

 ブツブツ念仏唱えているそのツラに拳を叩き込んでやる!」


 ガルムも拳を構えた。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『おうおう! やっちまえガルム!』


【転生しても名無し】

『ホムホム、チャンスだ!

 脇からそのアホボン刺しちまえ!』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 煽るのはいいがお前らはその始末をしてくれないんだろう……


 ガルムが怒っているの見て、逆に冷静になれた。

 ダリル王子の警護という重要な任務の最中に揉め事を起こせば、物理的に首が飛びかねない。

 義憤を見せてくれたガルムをそんな目に合わせるわけにはいかない。


 僕はガルムとベイルバインの間に割って入ろうとしたその時、


「やめろ!」


 と、甲高い声が響いた。

 その場にいる人間が一斉にその声の方を向く。

 二人を諌めたのはダリル王子だった。


「王子様! 臣下の諍いに関わられるなどーー」

「国の中の争いを止められなくて、何が王子か!

 余は子供であっても皇帝の血族であるぞ!

 双方、その場にひれ伏せ!」


 執事の言葉をはねのけて、ダリル王子は二人に命ずる。

 さすがのベイルバインも王子に悪態をつけるわけもなく、油に汚れた床に膝を下ろした。

 当然、ガルムも、原因となった僕とメリアも同じように膝をつく。

 ダリル王子は僕たちを見渡して、


「そなたらは帝都内でも名の知れた使い手。

 相応の矜持があるのは承知しているが、その矜持とは下らぬ喧嘩で守るものではなかろう。

 それぞれの生き様で保つものだ。

 同僚を口汚く罵るのも、女性を侮辱するのも、自らの剣を曇らせる行為と知れ!」



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『本当に3才児なの? この王子……

 俺、3歳の頃の記憶なんて畳の上でウンコ漏らして怒られた記憶しかないんだけど』


【◆オジギソウ】

『精神年齢完全に大人だよね……

 王家の英才教育パねえ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 同感だ。

 一体どこでそんな言葉を覚えてきたのかと思うほど饒舌だし、状況をよく見極められている。

 皇后が目にかけるのもよく分かる。

 生まれ持っての聡明さ……王の器というやつだろうか。


 王子に諌められたベイルバインは顔を背けて、食堂を抜け出し、ガルムも青ざめた顔で席についた。


「ク、クルス殿……

 私、これで王家の不興を買ってしまったのでしょうか?」

「大丈夫だと思う。

 あの王子はあの年齢ではありえないくらいに聡明だ。

 念の為、王子の侍女に口添えはしておく」


 僕の言葉にガルムはホッと胸をなでおろす。


「ガルム様、ありがとうございます。

 私やクルスさんの為に怒ってくれて」


 と、メリアは微笑んでガルムにお礼を言う。


「なんのなんの! 愛し合う二人を守るのは騎士の務め!

 あなた方の恋路を邪魔するものは全てこの槍のサビにしてくれますぞ!」


 メリアの微笑みに浮かされて、やたらガルムは上機嫌だ。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆与作】

『メリアちゃんに微笑まれちゃったらねえ……

 ガルム、その気持ちわかるぞ』


【◆ミッチー】

『思ったより良いやつっぽいな。

 良かったじゃん、ホムホム。

 いい友達が出来て』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 友達……か。

 そうだな。

 ブレイドともバルザックとも違うタイプだけど、僕は彼の裏表のないところは嫌いではない。

 女性を求めて四苦八苦しているようだが、彼のような人間を好む人も少なくないのではないか。


 照れ笑いを浮かべているガルムを見てそう思う。


「ところで、アルメリア様。

 アルメリア様は姉君や妹君はいらっしゃるので?」


 期待に満ちた笑みを浮かべるガルムに対して、メリアはきょとんとしている。

 ミーシャはどうした、ミーシャは。




 その後、祭場にたどり着いた僕たちは各自持ち場について、儀式の進行を見守りつつ、周囲の警戒を行っている。

 イフェスティオ古来の民族衣装を纏ったダリル王子が跪いている祭壇のすぐ下に僕は待機している。

 少し離れたところにリムルとメリアが並んで王子の様子を見守っている。

 メリアは腰に提げた袋に閃光石を忍ばせており、逆の腰にはソーエンで買ったナイフを差している。

 その姿を見ると一緒に旅をしていた頃のことを想起する。


 祭壇の上には、王子とイフェスティオの国教を司る大司教がおり、詔を述べ、神木で王子の体を叩いたりして儀式を進める。


 その祭壇の周りには人だかりができており、儀式の様子を固唾をのんで見つめている。

 メリアは人だかりと祭壇を何度も見比べるように視線を動かし、落ち着かない。

 何かを待っているようにも思えるが……


 僕はメリアの視線を追うように人だかりの方を見ると、ボロボロのローブに全身を包んだ怪しい人物を見つけた。

 フードで隠れているその人物の目は王子ではなく、僕の方を凝視している気がする。

 気になったので、僕は警備を司る騎士団長に目配せをして、その人物に近寄る。


「何者だ」


 僕が尋ねると、その人物は僕にだけ聞こえるような小さな声で、


「会いたかっタ」


 と、呟いた。

 声からすると男のようだが、僕の知り合いに思い当たる人物はいない。

 もしかすると巷に流れる噂を聞きつけて僕に会いに来たのか。


 そんな事を考えていると、男は突然足から崩れ落ち、僕の体により掛かる。


「大丈夫か? あなたはいったいーー」


 僕の言葉を遮るようにその人物は()()()


「【()()()()()()()()()()】」


 なっ!?


 僕は反射的にその人物を突き飛ばしたが間に合わず、ライト・スティンガーの光条を腹に受けた。

 僕の腹部をやすやすと貫き、風穴を開ける。


「がっ……チィッ!!」


 腹に空いた穴にを光の槍を通すようにして、僕は後ろに飛び退く。

 いきなりのダメージに僕は思わず、膝をついてしまう。


 同時に、人だかりから悲鳴が上がった。

 人々は蜘蛛の子を散らすように散らばって逃げていく。

 一方、祭壇の近くを守る警備の兵たちは武器を構えて、男の動きに注視する。


 僕は吐血しながらも、祭壇の方を向き、


「メリア! リムル!

 王子を連れて安全なところに!!」


 と叫ぶ!


 リムルは突然のことに足を震わせて狼狽えていたが、メリアは即座に反応し、リムルの手を引いてダリル王子に駆け寄る。

 そして、ダリル王子を抱き上げて、僕の方を向いて、


「クルスさん! ご武運を!」


 といって、警護の騎士と共に祭場から離れていく。


「信頼関係の為せる技ダナぁ!

 なかなか楽しくやっているじゃないカ!!」


 フードの下から見える口は三日月のように曲げられ、暴虐な笑みを浮かべている。

 にわかには信じがたいが、コイツは……


「神聖な儀式の邪魔をするなど!

 覚悟しろ!!」


 逸った兵士の一人がソイツの後ろから斬りかかる。

 だが、ソイツはローブの中から細身の剣を取り出し、後ろに目を向けることもなく、ぞんざいに剣を肩の後ろに振り上げた。

 剣の切っ先は一切の無駄の動きがなく、的確に兵士の心臓を貫いていた。

 体をビクビクと痙攣させ、兵士はその場に崩れおち、絶命した。


 見事なまでの剣技に兵士たちは警戒を強める。

 だが、ここにいる兵士たちに並外れた力を持っている者はいない。

 戦っても死体の数が増えるだけだと僕は判断して、


「ここは僕に任せろ!!

 お前たちは王子をお守りしろ!!

 賊は一人とは限らないぞ!!」


 僕の叫びに反応して、兵士たちはジリジリと後退し、王子たちを追いかけた。


「さすがダナぁ!

 敵の脅威判定は重要だ!

 それが出来ない兵士の多いこと多いこと!

 やはり、人間は精神的に未発達で戦闘に不向きだ。

 そう思っているダロぉ?」


 うざったい抑揚をつけて喋るものだ。

 どういう教育を受けたのだか……



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ホムホム! 大丈夫!?』


【◆マッツン】

『助兵衛とマリオ呼んでくるから待ってろ!!』


【◆ダイソン】

『この口ぶり……もしかして!?』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ダイソン、正解だ。


「邪魔者もいなくなったことだし、ちっとお喋りしようゼぇ。

 兄様」


 そう言って男はフードを背中にやる。

 フードの下から現れたのは刃物のように鋭利な輪郭と同様に鋭い目をした若い男。

 見た目は紛れもない人間である。


 だが、【ライト・スティンガー】をこの男は使ってみせた。

 あの国で作られた、僕たちにのみ標準搭載されている攻撃魔術を。


「貴様……サンタモニアのホムンクルスだな」


 僕の呼びかけに男はアハッ、と大きく口を開いて答える。


「そのトーーーリ!!

 でも、そういうアンタもダロ? ン?」


 人払いをして正解だったな。

 無駄口を叩く機能をつけられるなんて、母国の技術力の進歩を思い知らされる。


「ハルモニアの同盟国にこんな真似をして……

 憲章はどうした!?」

「憲章? 平和ボケした帝国様はそんなカビの生えたようなもんをありがたがってるのカイ?

 約束なんてのは破ルためにアルんだヨ」


 なるほど……コイツがブラフをかけていない限りは帝国やソーエン国がイデアの部屋に探りを入れていることは感づかれていないようだ。

 僕のような捨て石でなければ、敵国のど真ん中まで侵入する兵士に情報を与えていないわけがない。


 僕は続けて質問する。


「よく回る口だな。

 もしかして、僕の弟妹は皆そんな風なのか?」


 弟妹という言い方が適切かどうかは分からないが、敢えてそう呼称する。

 僕と同じようにして作られ、同質の力を持つ同胞。

 腹に穴を開けたライト・スティンガーの感触が僕をざわつかせる。


「弟妹だなんて、今でもそう思ってくれるんだねエ。

 裏切り者の兄様は。

 答えは……ノー! 

 カンペキにノー!

 僕は兄様のような量産型とは違って二人といないワンオフの試験機にしてサンタモニアのホムンクルス技術の最高傑作!

 第9.5世代ホムンクルス、アスラーダモデルさ!」


 そのホムンクルス、アスラーダは高らかにそう叫んだ。

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