第73話 僕は人間の下世話さに辟易する
メリアと体を重ねたあの夜から数日が過ぎ、ダリル王子の儀式の日がやってきた。
僕は早朝から王宮に馳せ参じ、王子の乗る馬車の前で待機していた。
しばらくすると、警護の兵や冒険者たちが集まってきてその中には僕の見知った顔もいた。
「クルス殿! もうお加減はよろしいのですか!?」
「ああ、あの節は世話になった。
あなたが物言いをしてくれなければ僕の負けになっていただろう」
「なんのなんの! これでも武の道に生きる者!
あれほどの名勝負に水を差してしまうのが我慢ならなかっただけですよ!」
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【転生しても名無し】
『武の道ぃ? ナンパ道を直進していた気がするんですけど』
【転生しても名無し】
『ああ、でも今日はそれっぽい格好してるじゃん。
強そう!』
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そう、マックリンガー公爵邸で門番をしていたあの兵士が今日の警護隊に加わっている。
帝国の制式の武具ではなく、私物の鎧と槍を身につけているが中々の業物であり、手入れも怠っていないことが見て分かる。
「そう言えば名前を聞いていなかったな」
「これは失礼。
我が名はガルム・ツー・ディルムハイム。
マックリンガー公爵家に仕える騎士でございます」
「ガルム……だと?」
皇后から名前を聞いていた冒険者上がりの騎士とかいう……
「あなたがそうだったのか……
てっきり、ただの兵士かと……」
「いやあ、あの時の私はただの兵士ですよ。
恥ずかしながら借金返済のための小遣い稼ぎとして特別に仕事を頂いていた次第でして……」
「それがあの門番の仕事か」
「ええ。公爵には敵が多いようで、対立する勢力に舞踏会を邪魔される恐れがあるからと依頼金を受けてコッソリと」
バツが悪そうに俯き加減で笑うガルム。
「騎士が兵士の真似事をするなど名誉に関わることだろう。
そんなに困窮しているのか?」
「いやあ、そこまで大したことじゃないですよ。
ちょーっと、帝都の娼館にいる女に入れあげちまって、コイツを質に入れる羽目になっちまった位です」
そう言って、長槍をステッキでも扱うかのようにクルクルと回す。
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【転生しても名無し】
『ホムホム、コイツは完璧にダメ男だ。
あんまり出会わなかった人種だから気をつけろ』
【◆オジギソウ】
『ブレイドニキもファルカスもなんだかんだでダメなところをカバーして余りある人間性の持ち主だったもんね』
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「まあ、よろしく頼む……」
「ええ、この任務が終わったらオレ、女の子と千年祭を堪能するんだ!
よろしくお願いしますよ」
ガルムは満面の笑みで僕に訴えかけるように目を向ける。
あ、知り合いの女騎士を紹介するって約束してたんだっけ……
「ああ、そうだな……
だが、ちょっと待ってほしい。
千年祭の期間中は皇后が至る所に来訪するものだからみんな忙しくて……
一段落したなら是非ーー」
「いやいや、既にクルス殿には素晴らしい女性を紹介していただきましたぞ」
「え?」
全く身に覚えがないぞ。
「それはどういう意味だ?」
僕が尋ねると、ガルムは頰を赤らめて、
「ミ・ー・シ・ャ・ど・の。
いやあ、皇后陛下の護衛騎士は軟弱な貴族令嬢の腰掛け仕事などと揶揄されている方もいらっしゃいますが、あのような立派なお方もいるのですね。
凛々しく毅然とした振る舞い。
自分の非を潔く認め、衆人の前で剃髪するあの度胸!
素晴らしい方を紹介していただきました!」
「いや……彼女は皇后の護衛でやってきただけで、紹介したわけでは……」
「なら! これから紹介してください!
今日はいらっしゃらないのですか!?」
ガルムはキョロキョロと辺りを見渡す。
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【転生しても名無し】
『ホントブレねえ……
男子高校生ばりに餓えていやがる』
【◆ミッチー】
『なんか、「この任務が終わったらー」の下りが死亡フラグっぽくて怖いんですけど』
【転生しても名無し】
『やめろよ!そういうこと言うの!
縁起でもない!』
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「皇后は儀式に参加しない。
ミーシャは皇后のお側に付いている筈だ」
「そうですか! ではこの任務が終わった暁には!」
「いや……でも、あの時髪の毛を切って生涯を騎士の仕事に捧げると誓約してしまったし……」
「ハハ、クルス殿は生真面目でいらっしゃる。
誓約なんて上書きしてしまえばいいのですよ。
私が偉くなって、王家の覚えもめでたくなればそんなものいくらでも、ね」
なんだろう……
このガルムという男の謎の自信は……
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【転生しても名無し】
『ホムホムが珍しく気圧されてる……』
【転生しても名無し】
『風俗に入れあげて借金していた騎士がどうやって王家に気に入られるというのか……
てか、入れあげていた娼婦はどうしたよ?』
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「その……懇意にしていた娼婦はどうなんだ?
そちらの方はもういいのか」
僕の問いにガルムは眉をひそめて、
「後になって知ったことなんですが、歳を10もサバ読まれていた上に、女衒の元締めの愛人とかで……
しかも私以外にも彼女に入れあげてボロボロにされた男が沢山いるとかで、もう前のような気持ちで彼女に会うことはできません……」
「ああ……」
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【転生しても名無し】
『ああ……』
【転生しても名無し】
『ああ……』
【転生しても名無し】
『ああ……』
【転生しても名無し】
『↑お前らwwww』
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「やっぱり娼婦はダメですね!
私ももう冒険者じゃなく騎士なのですから相応の相手と付き合わないと」
朗らかに笑うガルムを見て、ミーシャに話を持ちかけるだけ持ちかけてみようと思った。
「そういえば、噂通りクルス殿はアルメリア様とご結婚なさるので?」
「え?」
予想外の話題だ。
「誰がそんなことを……」
「誰がって、帝都内はみんなその話題で持ちきりですよ。
こんな号外がその辺で配られていますから」
そう言って、革袋から一枚の紙を手渡してきた。
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『帝国震撼! 美しすぎる近衛騎士Kのロイヤルセ○クス』
最近、巷で話題になっている美貌の近衛騎士をご存知だろうか?
化粧とドレスに大金をかける貴族令嬢たちが裸足で逃げ出すような、この世のものとも思えぬ美貌を持ったその近衛騎士は今、皇后の護衛騎士として王宮に勤めているが、その寵愛を一身に賜っているという。
「あんな顔して中々のタマですね。
皇帝がいないことを良いことに皇后の寝室の警護と称して、しょっちゅう夜伽に励んでいるそうですよ。
皇后クリスティーナといえば、半世紀前は帝国の白薔薇と称された美貌の持ち主。
公爵令嬢時代は名だたる王侯貴族が下半身の槍を握りしめて攻城戦に臨んだことは言うまでもありません。
結局、皇太子であった現皇帝の聖槍で落城させられてしまいましたが(笑)
イフェスティオの王族は代々極太の長槍の持ち主で、そのあまりの破壊力にメロメロにされてしまった姫たちは、ロイヤルなセ○クスしか受け付けない身体になり、不貞を働くことはできないものなんです」(王宮関係者)
そんな皇后をあんな女性と間違うような線の細いKが満足させられているのか?
「それはもう(笑)
あの可愛らしい顔の下には魔神級のモンスターを提げているそうです。
しかもKは武術でも帝国屈指の実力の持ち主。
鍛え上げられたその身体によるピストン運動は1分に100回を超えるのだとか。
年甲斐もなく皇后もすっかり女に戻っていますね、狂い咲きってヤツです(笑)」(同王宮関係者)
皇后を籠絡したKは、M公爵邸でA公爵令嬢をかけて我が国が誇る常勝将軍Iと決闘。
Kが将軍と敵対してまで求めたA嬢の魅力とは?
我々は彼女に近しい人間と接触することに成功した。
「あの子は昔から男に媚を売るのが上手で(怒)
あんなお人形のような顔をした子が細い足首で歩き回られたら殿方は放っておけないでしょうよ(怒)」(A嬢に詳しいR侯爵令嬢)
忌々しそうにそう語るR令嬢を見て、女の敵は女という言葉の意味を理解した。
「Aは暗くて何を考えているのかよく分からないところがありますわ。
でも、その仮面の下では卑猥なことばかり考えていたんでしょうよ。
細身の女は胸の肉付きが悪いことにコンプレックスを抱いていて、逆にセ◯クスに興味津々になるのだとか。
そのアンバランスさに惹かれたのではなくって?」(同令嬢)
なるほど、もっともな話だ。
その謎に満ちたダンジョンをKは王室で鍛えたロイヤルセ◯クスで攻略したのだろう。
きっと、A令嬢の中にある宝箱も隠し部屋もことごとく攻略されてしまったのだろう。
踏み荒らされていないダンジョンをソロ攻略したKの征服欲の満たされ具合は想像するに難くない。
Aもまた、美貌の騎士に長年の妄想を叶えてもらったことで感激のあまり、イキまくったに違いない。
すると、何故この話に常勝将軍Iが関わってきたのか気にかかる。
取材していく中で我々はとんでもない事実が浮かび上がった。
「実はIが狙っていたのはKの方なんですよ。
ほら、Iはいい歳なのに浮いた噂ないでしょう。
それはひとえに彼が男色だからなのです」(Kの近所に住む男性)
人生の大半を戦場で過ごす軍人には珍しい話ではないが、英雄の隠されたシモ事情に我々は驚愕した。
「Kは後ろの方も魔神級の逸品だそうです。
IはKを叩きのめした後、うまくやり込めて魔神討伐を狙っていたのかも知れません。
まあ、気持ちは分からんでもないですね。
私もひょんなことからKの裸体を見た時、ドギマギしてしまいましたので(笑)」(同市民)
帝国の重要人物たちを手玉にとる美しすぎる近衛騎士K。
彼の下半身を巡って帝国内で内乱が起こる日はそう遠くない。
■号外真実■
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「【ライトスティンガー】」
僕は手の中にある汚物を焼き払った。
「ああっ! 手に入れるの結構苦労したのに!」
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【転生しても名無し】
『どこの世界にも酷いヤツはいるんだなあ(小並感)』
【転生しても名無し】
『不敬罪じゃねえか。
この著者殺されても文句言えねえ』
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なんだろう……
このやりきれない屈辱感は……
初めての感情だ。
「ガルム……これを書いた賊は何者だ?」
「お怒りはごもっともですが見逃してやってくださいな。
彼らもこれで生計立てているわけですし……
あ、もっとマトモなものでこういうのも出回っているんですよ」
そう言って、ガルムは別の紙を僕に手渡した。
「あ……」
口から思わず声がこぼれてしまう。
紙に描かれていたものは僕自身だった。
椅子に座って物憂げな表情で宙を見つめている。
まるで鏡に映されたように正確でありながら、それだけではない。
絵であるにもかかわらず、僕の知らない僕を構成するものが透けて見えるような深さを感じる。
自分を描いたものに見惚れるなど、自惚れすぎていると思われなくもないが、それは作者の腕に感心していると弁解したい。
「気に入られました?
これはライツァルベッセからやってきた女芸人が売り歩いているモノなんですよ。
ナイスバディで綺麗な女だったなあ……
売値はそれほどなのですが、凄い人気で転売すると100ティエルは下らないとか。
小遣い稼ぎ用に一枚買っておいたのですよ。
安くしときますよ、買われます?」
「いや、いい。
書いた本人に会うから」
エルに一度、絵のモデルになってくれと頼まれたことがあった。
まさか、こんな小遣い稼ぎに使われているとは思わなかったが。
ライツァルベッセと帝都はさして遠くない。
こんなお祭り騒ぎならば彼らが芸をするために出張って来るのも当然だ。
「人間の文化とは多様だな」
「ハハ、そうですね。
人間自体が多様な存在ですから」
ガルムは朗らかに笑った。
それからしばらくして出立の時間が訪れた。
ダリル王子が馬車に乗り込み、傍付きとしてリムルも同じ馬車の中に乗り込んだ。
「おい、アールセイム卿はまだ来ていないのか!」
警護の指揮を執っている騎士団長が苛立ち混じりに騒いでいる。
アールセイム卿とは、とガルムに尋ねる。
「ベイルバイン・フォン・アールセイム。
名門アールセイム侯爵家の次男坊で宮廷魔術師ですよ。
13歳という若さで宮廷魔術師に任ぜられた天才魔術師です。
冒険者時代、彼の修行に付き合ったこともあって面識はありますが、まあ鼻持ちならないヤツでしてね。
私のような成り上がり者とは真反対にいるエリートのボンボンです」
吐き捨てるようにガルムは言った。
ちょうどその時、
「おい! 空を見ろ!」
兵士の一人が声を上げた。
空を見上げると鳥のように宙に浮かぶ人の姿が見えた。
彼は僕らの元に降り立ち、鼻を鳴らしながら僕らを見渡した。
「目を丸くしてどうしたというのかね?
まさか、僕が天使のように空から舞い降りたことに驚愕しているのかな」
飛行魔術……
魔法王国サンタモニアでも扱えるものは限られている高位魔術だ。
「アールセイム卿! 王子を待たせておいてその態度は無礼であろう!」
騎士団長が声を上げる。
「帝都内でわざわざ物々しい警護をつける必要はあるまい。
僕は見ての通り空から追いかけられるのだから先に行けばよかったのだ」
悪びれもせず言い放つベイルバイン。
騎士がさらに顔を怒りで歪めるが、そんなことはお構い無しだ。
「だが、今日のパーティには渦中の人物も来ていると聞いて、わざわざ足を運んだのだが」
彼は僕を見つめるとツカツカと歩み寄ってくる。
「クルス・ツー・シルヴィウス。
話題の騎士と同行できて嬉しく思うよ」
言葉とは裏腹に嘲笑めいた表情で僕を見下ろしている。
ガルムが僕とベイルバインの間に割って入る。
「嬉しいのであれば少しは敬意をはらってはいかがです?
初対面の人間を見下した目で見つめる癖は治りませんね」
と、ガルムがかみついた。
「おや、いつぞやの冒険者殿ではありませんか。
名前は覚えていませんが」
「なら、覚えていただかなくて結構。
行きましょう、クルス殿」
そう言って、ガルムは僕の手を引いてベイルバインから引き離そうとする。
「イスカリオス将軍との決闘に勝ったそうですね。
その武芸、見せていただくのを楽しみにしておりますよ」
含みを持った口調で僕に話しかけるベイルバイン。
「悪いが私もガルムと同じく新参者の騎士です。
貴族流の腹の探り合いは慣れていないので、直接的に言っていただかないと心中を察せません」
僕の言葉にベイルバインは苦笑した。
「いやあ、常勝将軍と呼ばれたお方がこんなか弱い騎士に打ち倒されたとは興味深くてね。
やはり魔術を使えぬ戦士は近いうちに時代遅れの肉壁程度にしかならなくなるだろうな、と」
「おい! イスカリオス将軍を侮辱するな!
杖より重い物を持ったことのないような優男が我が国の英雄を愚弄するなどもっての外だ!」
ガルムが怒鳴り声をあげベイルバインに詰め寄る。
「まあまあ、今日は貴殿も同じパーティの仲間ではありませんか。
剣を交わすならば後々ゆっくりと」
「上等だ。人との接し方も分からないお坊ちゃんに礼儀を叩き込んで差し上げよう」
ガルムはプイと踵を返して、ベイルバインから離れる。
「ま、僕の魔術を見てもなお挑んでくる阿呆なら面白いのですがね。
それよりもクルス殿。
お噂はどこまで本当なのですか?
皇后陛下の夜伽をしていたとかローリンゲンの娘を誑かしたとか」
「どれも捏造だ。
魔術は一流らしいが品性は血統ではどうにもならなかったようだな」
さすがに僕も苛立ちを隠せなくて、挑発するような口ぶりになってしまう。
どうやら彼の琴線に触れたらしく整った顔が軽く歪んだ。
「騎士公風情が良い口の聞きぶりですね。
いくら皇后の寵愛を受けているといっても未来の将軍と目される僕に対する態度ではありませんよ」
「そんな未来は来ない。
イスカリオスも面倒な人間だが、あなたのように他人を見下して自らを優位に立たせようとはしない。
人をまとめられるのは人に願いを託された人間だ。
あなたのような人間に願いを託そうだなんてことを考える人間はいないだろう」
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【転生しても名無し】
『言ったれ、言ったれ!』
【転生しても名無し】
『ホムホムもなかなか言うねえ!
アホボンに目にもの見せたれ!』
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ベイルバインは唾を吐き捨てて、僕に背中を向けた。
「イスカリオスを倒したと聞いて、少しは僕に近い人間かと思いきやとんだ期待外れだ。
薄っぺらい持論を振りかざしていられるのも今のうちだ。
イスカリオスがアイゼンブルグの掃除を終えたら僕はサンタモニアに修行に行く。
そして、かの国の最先端の魔術を身につけ、伝説の魔術王ラインハルト・サンタモニアのように人類を救う大英雄になってみせる。
その時に備えて尻尾の振り方でも身につけておけ」
言いたい放題吐き捨てて、ベイルバインは再び空に浮かび上がり、イフェスティオ山の方に飛んで行った。
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【転生しても名無し】
『感じ悪くね?』
【転生しても名無し】
『超感じ悪い。なんなの全方位に敵を作るようなあの傲岸不遜さ!
ホムホム、事故に見せかけて後ろから刺し殺そうぜ』
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そうしたいのは山々だが、奴の手の内が分からない。
飛行魔術を使いこなせる程だからかなりの実力者だとは思うが……
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【転生しても名無し】
『マジで殺害計画立てるなw』
【転生しても名無し】
『大丈夫大丈夫。あんなカストリ雑誌みたいな号外の内容真に受けてる奴が大した奴なわけない』
【◆ミッチー】
『俺、この戦いが終わったら留学するんだーー
なんて死亡フラグまで立てやがって。
死ぬなら一人で死ねよ!』
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さっきからお前らの言っている死亡フラグって何だ?
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【◆ミッチー】
『物語とかで死んでしまう奴が、死ぬ前にやるお決まりの行動や発言の事だよ。
だいたい、ああいうヤツはロクな死に方をしないんだ。
ガルムは生きていい』
【転生しても名無し】
『ま、舞台でいうお約束というヤツだよ。
現実は舞台じゃないからああいうヤツに限って世にはばかるんだけどねえ』
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不快な気分を抱えながら、僕たちはダリル王子を連れてイフェスティオ山に向かった。
死亡フラグ。
全く以って理論的でない、迷信めいた現象だと聞き流していた。
だが、僕はその現象が実際に存在することを目の当たりにすることになる。
しかも、想像を絶するくらいに最悪の状況を引き連れて……