第67話 ふがいなく僕は空を見る
……僕の眼前には青い空と葉がまばらについた木の枝がある。
体のいたるところに切り傷がつけられ騎士服はボロボロだ。
腕と足も骨が折れたのか思うように動かない。
僕はイスカリオスと戦って……いや、戦いにすらならなかった。
一方的に叩きのめされた挙げ句、城壁から蹴り落とされ、運良く背の高い街路樹の枝に引っかかり助かった。
今は自然治癒の真っ最中である。
なんだか、アイゼンブルグで妖精たちと初めて出会ったときのことを思い出す状況だ。
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【◆オジギソウ】
『ホント、ごめん!
プギャーはなんとか対処できたけど、第二段階のアレは無理だった……』
【転生しても名無し】
『アレはムズいわ……
間違えるとホムホムの硬直時間が長引くし、オジギソウが頼りないからってワラワラと好き勝手やるやつが出てきて結局ぐだぐだだったもんな』
【◆ミッチー】
『封印を戻せ、って言えば良かったな。
俺の判断ミスだ。
一人称視点で戦闘中に戦況分析してタイピングするって無茶苦茶難しいんだな……
マリオや助兵衛が当然のようにやってたから気づかなかったわ』
【◆与作】
『あらためて助兵衛とマリオの優秀さを実感……』
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お前らのせいじゃない。
僕の実力が足りなかったし、冷静さを欠いていた。
ブレイドが見ていたら怒られただろうな……
かろうじて動く右手で僕は顔を覆う。
最悪だ。
言葉で翻弄された挙げ句、戦闘でも圧倒された。
アイツの強さは分かっていたが、ここまで完膚なきまでにやられるなんて……
敗北は思考をネガティブな方向に運ぶ。
イスカリオスの言ったことを思い出す。
僕が死ぬことでメリアの心に傷を作ってしまう。
僕が死ぬということはメリアにとって、周りにいる一人の人間にもう会えなくなることに過ぎないと思っていた。
だが、イスカリオスはその考えを否定した。
僕が死ぬということはメリアの一部が死ぬということだと。
分からない。
それがどういうことなのか分からない。
お前らは知っているのか?
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【転生しても名無し】
『イスカリオスの言うことは正しい、と思う。
ホムホムがそんなふうに考えていたんだとしたら間違ってるよ』
【転生しても名無し】
『俺はペットのネコが死んだ時、めちゃくちゃ泣いたし、しばらく学校休んだもん。
母親が新しいネコ飼おうか?
って言われた時ブチ切れてさ。
もう死に別れるのがイヤだから、それ以来我が家でペットは飼ってない』
【転生しても名無し】
『メンタルヘルスの本にあるんだけど人間が一番ストレスを受けるのって、パートナーが死んだときなんだってさ』
【◆与作】
『てか、ホムホムさ。自分に置き換えて考えてみろよ。
メリアちゃんが死んだらお前どうなるよ?』
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与作の言葉が突き刺さる。
もし、メリアが死んだら……
ダメだ。想像することすらできない。
ただ、演劇公演のあとメリアがいなくなった時の僕の状態を考えると……
少なくとも今の僕には戻れないだろう。
僕はメリアを愛している。
守りたい。
一緒の時間を過ごしたい。
メリアに触れて、言葉を、心を交わしたい。
死はそれをすべて奪い去る。
もし、メリアが僕と同じように思っているのなら、僕はいずれ彼女からそんな思いをすべて奪ってしまうんだ。
風に揺れて木々がざわめき、緑色の葉が陽光を受けて輝く。
祭りに浮かれる人々の歓声がここまで届く。
僕は色と音に溢れたこの世界からいなくなる。
メリアを置き去りにして。
そのことを無責任だとイスカリオスはなじったのだ。
なるほど、そのとおりだ。
自然治癒を終えた僕が自宅に戻ると、メリアが帰ってきていた。
「クルスさん! おかえりなさい……ってなんですか!?
その格好!?」
「鍛錬をしていた」
「鍛錬って……」
「大丈夫だ。怪我はしていない」
僕は騎士服を脱いで、以前メリアが買ってきてくれた麻のシャツに袖を通す。
「クルスさん……本当に大丈夫ですか?」
心配そうに僕の背中に声を掛けるメリア。
「怪我はしていない」
「怪我をしていなくても大丈夫じゃない時はあります。
人間って、そういうものでしょう?」
人間……か。
皮肉なものだ。
人間より頑丈で人間の代わりに戦うために作られたはずのホムンクルスが、人間よりも早く死ぬ挙げ句、そのことで人間を傷つけてしまうなんて。
そして……傷ついてしまうのが誰よりも守りたいと思ったメリアだなんて。
「ああ……大丈夫じゃない」
自分でも驚くほど弱々しい声が出た。
「クルスさん」
メリアの指が僕の方にかけられる。
その手が僕の胸に回り、僕はメリアに抱きかかえられた。
「何があったか話してください。
一人じゃ抱えられないことも、二人ならなんとかなるかもしれません」
背中からメリアの体温が伝わってくる。
メリアに触れた時も触れられた時も僕の感情は大きく揺れてどうしようもなくなる。
僕はきっとメリアといることで不安定で非合理な人間の精神を僕は植え付けられてしまったんだ。
「一人じゃなきゃ……いけないんだ」
「えっ?」
僕はメリアの腕をほどき、振り向いて向かい合う。
「イスカリオスから……討伐軍に従軍するよう命令を受けた」
「イスカリオス様から!?」
「ああ。僕はそれなりに戦力になる。
平和な帝都で遊ばせておくより、魔王軍にぶつける方が有用だということだろう」
メリアは立ちくらんだように後退する。
「そんな……クルスさんはその命令を――」
「受けたくはない。
だけど、帝国で生きていく以上、将軍の命令に逆らうことは出来ない。
だからーー」
僕は一拍おいて、次の言葉を口にする。
「僕は帝国から逃げようと思う。
自ら死にに行くなんて僕にはできない。
帝国の目の届かないところまで逃げて、穏やかに暮らそうと思う」
僕は今どんな顔をしているのだろう。
メリアの表情から推測する限り、驚くほど情けない顔をしているのか。
「わかりました……
そうですよね。
クルスさんは帝国の出身でもないですし、騎士になったのも成り行きみたいなものですし。
命をかけて戦わなきゃいけない義務はないですよ。
イスカリオス様もいますし、クルスさんがいなくても帝国軍はきっと勝ちます。
だから、構わないですよ」
メリアはかすかに笑って、僕の両手を握る。
その手の握り方は卵を扱うように柔らかく、僕を気遣ってくれているようだった。
「でしたら、私も準備をしないといけないですね。
とりあえず、千年祭の仕事が終わったら書き置きをして、実家で身支度をして、路銀を用意して」
「メリアもついてくるつもりなのか?」
僕は驚いて声を上げる。
メリアはキョトン、とした顔で。
「当たり前じゃないですか。
そもそもローリンゲン家もリーベンデルド家も血の繋がりがあるわけでもないですし、むしろ体よく利用されることばかりでしたから。
大切じゃない人達に利用されるために、大切な人と離れるなんて私には出来ません」
そういってニマーっと笑った。
「リムルちゃんのことは、心配ないと思います。
ダリル王子のお気に入りですし、最近は皇后様も気にかけてくださっていますから。
でも、何も話さずに行くわけにはいかないですよね。
今夜にでもちゃんと話さないと――」
「それはダメだ」
僕はメリアの言葉を遮るように言った。
「え……でもリムルちゃんだってクルスさんのことが好きみたいですし……
もしかしたらついてくるというかもしれませんし」
「リムルのことを言っているんじゃない。
メリア……僕はあなたも連れて行かない。
帝都から逃げ出すのは僕だけだ」
メリアは目を大きく見開いて僕を見て――
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【転生しても名無し】
『ちょっと待てえええええええ!!』
【転生しても名無し】
『なんでメリアちゃん連れて行かないの!?
それじゃあ何のために逃げ出すか分からないじゃん!!』
【◆与作】
『ホムホム。ちょっと落ち着け』
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お前らは黙っていてくれ。
「メリアがいると足手まといだ。
僕一人なら発覚する前にかなりの遠くまで逃げ延びることができる」
「それは……そうです、けど……でもっ!」
「僕が勝手にやることだ。
メリアに迷惑をかけるつもりはない」
メリアはうつむいた。
これが、一番正しい選択だ。
一緒に逃げたとしても、僕は一年足らずで死ぬ。
そうなればメリアに何が残る?
家も国も捨てたメリアがたった一人で異国の地で生きていくなんてできるわけがない。
仮に運良く生き延びたとしても、帝都で何不自由なく暮らせる今の日常よりも良いものであるはずがない。
だから――
「だったら! 私の気持ちは! どうなるんですか!?」
メリアは顔を上げて怒鳴って僕の服の襟を掴んだ。
「今、言いましたよね!
大切じゃない人のために大切な人と離れたくはない、って!
私はクルスさんとずっと、死ぬまで一緒にいたいんです!」
眉を吊り上げ、歯を食いしばって僕を睨みつけるメリア。
こんな顔を見るのは初めてだ。
「戦いから逃げ出す気持ちはわかります。
誰だって死にたくないですから……
でも、今のあなたは足手まといだとかそれらしい理由をつけて、私から逃げようとしてるんじゃないですか!?
何故ですか!?
ずっと私を守ってくれて、あ……愛しているって言ってくれたのに……」
目尻に涙を浮かべ、頬を紅潮させ、僕の襟を掴む手に力がこもる。
「私と一緒にいるのが嫌になったんですか?
だったら……あきらめます。
だったら! そう言ってください! 言えっ!」
メリアは手を握り、僕の胸を叩く。
か弱い女の拳だ。
ダメージなんてあるわけないのに、とてつもない危機を感じて思考が鈍り、体が動かなくなる。
「っ……うぅ……」
ついにメリアは泣き始めた。
床に落ちる涙の雫を見て、その涙がメリアの心の破片のように思えた。
僕はメリアの心を傷つけてしまったんだ。
薄暗くなってきた部屋の中で、メリアのすすり泣く声を聞いて、どれだけの時間が経ったのだろうか。
その抜け出せない深い穴の底のような時間の終わりを告げたのは、訪問者のドアを叩く音だった。
「アルメリア様! お時間でございます!」
ドアの外から人が呼ぶ声とかすかな馬の鼻息の音が聞こえる。
馬車を呼んでいたのだろうか?
「……本当なら、全ての約束を反故にしてクルスさんを見張っていたいんですけど、騒ぎになると事ですから」
メリアは涙を服の袖で拭ってテーブルの上に置いてあったトランクを掴む。
「今はお互い冷静じゃないですから。
頭を冷やす時間を置きましょう。
でも、私に黙って出ていくようなことは絶対にしないでください……
散々やらかした私が言うのもはばかられますけど、そんなことをされると私……本当にダメになりそうです。
だから約束してください。
黙っていなくならないで……」
か細いメリアの声を耳に受け取った僕は、わかった、とだけ返した。
メリアがドアを開けると、訪問者が驚いたような声で、
「アルメリア様!? お支度できていないんですか!?」
「中で着替えます。
早く、出してください」
車輪と馬の蹄が地面を叩く音が聞こえ、遠ざかっていった。
さてと……
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【転生しても名無し】
『さてと、じゃねーーよ!
無言の間もずっと俺たち無視してROMりやがって!
おい、ホムホム!
お前何やってんだよ!?』
【◆オジギソウ】
『メリアちゃん突き放して何がしたいの?
将軍様に言われたことを気にしてビビっちゃったの』
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そうだな。
イスカリオスが言ったとおり過ぎて……これが恐怖なんだな。
命の危機でも感じたことがなかったのに。
メリアがあんな風な怒り方をするのを初めて見た。
そして分かってしまった。
イスカリオスが言ったとおり、僕がいなくなることはメリアにとって耐えられないほど辛いことなのだと。
だから怖くなった。
そんな辛い思いをさせることが確定していることが。
イスカリオスはこれ以上関係を深めるとさらに傷が大きくなると言った。
だから離れようとした。
でも、今離れてもメリアには大きな傷が残る。
どうすればいいのか……
僕はベッドに腰を下ろしてうなだれた。
しばらくの間をおいて妖精たちの沈黙が破られた。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【◆野豚】
『あのさ、俺本当に嫌なんだよ。
君の心の葛藤みたいなことに直接的なアドバイスするの。
だって君はついこないだまで人間の命令を聞いて戦うだけの人形だったろ。
そんな君に俺達がアレコレ言って君の気持ちを動かすのってさ、命令するやつが変わっただけで何も変わってないって思うから。
だけどさ、今回は言わせてもらう。
メリアちゃんの気持ちをちゃんと考えろ』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
メリアの気持ちを考えているから、こんなことになっているんじゃないか!
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【◆野豚】
『いいや、考えてないね。
言われたろ? 「私の気持ちはどうなるんですか」って。
今、ホムホムが考えているのはメリアちゃんを傷つけない方法だろ。
それじゃ気持ちを考えているとは言わない』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
そんなの言葉遊びだ。
僕がいなくなったあとのメリアの気持ちを考えているから――
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【◆与作】
『じゃあ今のメリアちゃんの気持ちはどうでもいいのかよ!!
イスカリオスもホムホムもどっちも馬鹿じゃねえの!?
人間だろうがホムンクルスだろうがいつかは死ぬし、それが明日かもしれない。
死んだら何も出来ないけど、生きている今なら出来ることだってあるだろ!
もし、お前がメリアちゃんの立場だったらこんな選択受け入れられるのかよ!』
【◆野豚】
『あーあ、俺の言いたいこと全部言われた。
加えて、もはや正答みたいなアドバイスまでするし』
【転生しても名無し】
『メリアちゃんガチ恋勢の与作だから仕方ないねw』
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僕がメリアの立場だったら……
メリアが残り一年の命しか無くて、それを知らされることもなく、僕から離れていこうとしている。
そんな状況に僕が置かれているとしたら……
……ああ、そういうことか。
たしかに、これはもはや正答だ。
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【◆野豚】
『ハイ。じゃあ解答をオープン』
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そんなの認めるわけがない。
だって、今離れてしまえば、その過ごせるはずだった1年の時間を失ってしまう。
そんなの僕は嫌だ。
メリアが死ぬということは、僕が死ぬことよりずっと辛い。
だけど、それでも受け止めなきゃいけない。
僕が今、生きているのはメリアのおかげだから。
戦うことしかできなかったホムンクルスを優しい人と言ってくれた。
僕にこの世界にある楽しいことや素晴らしいことを教えて、生き方を導こうとしてくれた。
誰よりも大切で愛している人だから……
僕の生きる理由になってくれたメリアのために、僕は生きなきゃいけないから、どれだけ辛くても生きていく。
たとえ、メリアがこの世からいなくなっても……
体の中枢が急速に冷たくなっていく。
やっぱり、メリアが死ぬなんて考えるだけでも嫌だ。
それくらいに僕はメリアのことを想っている。
もし、メリアが僕と同じように想ってくれているのなら――
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【◆与作】
『走れ! 想いは頭のうちにあるだけじゃ届かないぞ!』
【転生しても名無し】
『そうだそうだ走れ!』
【◆ミッチー】
『メリアもショック受けてるし、悪い虫が寄ってきたら危ないかも知れねえぞ。
たとえばどこかの将軍様とか。
だから走れ』
【転生しても名無し】
『↑思った。絶対イスカリオスの奴メリアちゃんに惚れてるだろ!
俺はあんなヤツ認めねえぞ! 早く走れ!』
【◆オジギソウ】
『走って! ホムホム!』
【◆野豚】
『やっぱこういう時、外野としてはヒロインを走って追いかけていくヒーローが見たいよね。
走れ走れ』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
僕はドアを開けて走り出す。
家の前の道を走り、大通りに出る。
そこで僕は愕然とした。
大通りは千年祭の出店や催しで人が溢れかえっており、馬車も様々な方向に向かってあちらこちらを走っている。
とてもメリアの乗る馬車を見つけることが出来ない。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『せっかく走り出したのにいいいい!!』
【転生しても名無し】
『ホムホムちょっとカッコ悪いのです』
【◆野豚】
『ま、まあ……メリアちゃん帰ってきて話するって言ってたし、それまで待てば?』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
僕はうつむきながら自分の家へと戻る。
行き交う人の群れの足元が視界にチラチラと入る。
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【転生しても名無し】
『ホムホム、上を向いて歩こうぜ!
涙がこぼれちまうよ!』
【転生しても名無し】
『お、俺らもいろいろ煽ったけど、大丈夫だって。
夜があるさ、夜がある』
【◆ミッチー】
『どうでもいいかもだけど、ホムホムのこんな視界初めてみた』
【◆オジギソウ】
『いい着眼点だけど、すごいどうでもいい』
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妖精たちの言葉を無視して、僕は視線を下げて歩く。
そして、目当てのものを見つけた。
僕はその男に飛びかかった。
全く見覚えのない顔をした平民面した男だ。
「ひぃっ! な、なんですか!?」
甲高い声で怯えている。
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【転生しても名無し】
『ホムホム、アカンアカン!
苛ついているからって一般人に八つ当たりはアウトだ!』
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一般人? 彼がか?
僕はその男の肩を掴んでこう言った。
「変装をするときは全身のコーディネートを変えたほうがいい。
靴が前に来たときと全く同じだぞ、ビクトール」
眼の前の男は一瞬驚いた顔をするが、頬の部分が不自然に引きつっている。
「ああ……マスクが崩れちまった。
お前さん相手の諜報活動は難易度高すぎだろ」
裏声をやめて普通に喋るビクトール。
ただでさえイスカリオスと一悶着あった直後だ。
僕の監視をしているのであれば、間違いなく近くにいるに決まっていると踏んでいた。
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【転生しても名無し】
『おホムさま! 流石です!』
【転生しても名無し】
『ホムホムを覗き込む時、おまえもまたホムホムに覗かれているのだ』
【転生しても名無し】
『じゃあ、俺達もホムホムに覗かれ放題ってことか……』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
「どうせメリアの事だって知っているんだろ?
たとえば、今夜彼女がどこに向かったのか、とか」
僕の問いにビクトールは笑う。
「イースのことを考えると、ここは死んでも口を割るべきではないんだろうけど……」
と言ってため息をつく。
「お前さんには結構な借りがあるしな。
利子の分くらいは払っておこうかね」
ビクトールは両手を持ち上げて、降参のジェスチャーをした。
あと、1話……今日中に投稿できるかも……