第66話 僕は葛藤を振り払い、剣を取る
ギャオスとの交渉を終えた僕は帝都に戻り、皇后に事の顛末を伝えた。
皇后は半信半疑といった表情で考え込んでいたが、とりあえずイフェスティオ山を巡回している冒険者たちにギャオスに危害を加えることを禁じた。
王家としては対策を行っていると民にアピールし、ギャオスとも敵対しないという姿勢を見せる。
どちらにせよ、あの化物相手に一介の冒険者が挑んだところで死人が増えるだけだ。
体のいい落とし所というやつだろう。
とりあえずギャオスはさておき、山岳地帯のモンスター狩りの功績を労われた僕は皇后に褒賞として紙の束を受け取った。
その紙にはイフェスティオ王家の紋章『炎の王剣』の印鑑が押されている。
「それは千年祭の期間中だけ使用できる紙の貨幣だ。
1枚で1ティエルの価値がある。
国が認可を下ろした店でしか使用できないから気をつけるのだぞ」
ざっと100枚はある。
かなりの大金だ。
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【転生しても名無し】
『祭りで豪遊しようぜ! 豪遊!』
【転生しても名無し】
『メリアちゃんとリムルちゃんにプレゼントを買うんだろ、常考』
【◆シャイロック】
『なるほどねー。
さすが皇后、いろいろ考えていらっしゃる』
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こんな紙切れが金貨に相当するなんてイマイチピンとこない。
とはいえ金は邪魔にならない。
ありがたく頂戴することにしよう。
僕は跪いて皇后陛下に深々と頭を下げた。
ちょうど僕の護衛終了とリムルの退勤時間と重なったので、僕は王宮にリムルを迎えに行き共に帰路についた。
自分の家の前に着くとリムルはドアに鍵を差し込むが、
「……クルス様、大変です。
鍵が開けられてしまっています」
リムルは青ざめた顔で僕を見た。
盗まれて困るようなものはさして無いが、自分の領域を侵されたことはあまり気持ちの良いものではない。
それに盗み以外にも家に侵入する理由はあるだろう。
傍から見れば、か弱そうな女子供しかいない住まいだ。
僕は剣の柄に手をかけながら、勢いよくドアを開けて家の中に入った。
すると、フード付きのローブに身を包んだ侵入者がテーブルの前の椅子に腰掛けてゆっくりとお茶を飲んでいるではないか。
「なかなかいい茶葉だ。
質素な掘っ立て小屋で飲んでもサロンにいるかのような上質な気分に浸らせてくれる」
その声に僕は聞き覚えがあった。
「ビクトール……?」
「さすが。大した記憶力だな。
クルス殿」
ビクトール。
イスカリオスの諜報部隊の一員であり、彼の実の兄でもある男だ。
「勝手に入ったのは無礼だったが敵意は無いよ。
久しぶりに帝都に帰ってきたから顔を見ておこうと思ってさ」
相変わらず気さくな語り口の男だ。
おかげで僕は警戒を解いてしまう。
「ク、クルス様?」
「心配ない。友人だ」
僕は怯えるリムルをなだめて家の中に入った。
「お、それが噂の愛人かい。
アルメリア様が忙しいのをいいことにやらかしてるね」
「あなたはひどい誤解をしている」
ビクトールはクックックッと肩を震わせて笑う。
その間にリムルは部屋のランプに灯を入れた。
薄暗かった部屋がオレンジ色の光に灯されて、ビクトールを照らした。
「どうした、その顔」
僕はビクトールに尋ねる。
「しばらくは帝都に滞在することになってな。
流石に元の顔ではいられなかったのよ」
そういって皮の剥がれた顔で彼はにこやかに微笑んだ。
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【転生しても名無し】
『グロッ!』
【転生しても名無し】
『うわあ……ひでえな……』
【◆ミッチー】
『隠密は変装しやすいように顔を潰すみたいなの聞いたことがあるけど……
生で見ると流石にキツイな……』
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皮を剥いだだけじゃない。
頬や顎、鼻の骨までヤスリで擦り下ろしたのだろう。
声を覚えていなければどうやってビクトールと見分けられるだろうか。
「普段は変装用のマスクをつけているんだ。
これがなかなか出来が良くてね。
おかげで色んな所に出かけられる」
「そこまでやる必要があったのか。
いくら、表には出れない人間だからといっても」
ビクトールはイスカリオスの兄である。
そして、戦死したことになっている。
帝国の将軍イスカリオスは皇后の指示で他国との情報戦に対抗すべく私兵組織を極秘裏に作り上げた。
ビクトールもその一人である。
戸籍上死んでいるビクトールは自身の正体はおろか、生存すらも妻子にも伝えられない。
文字通り、任務に人生を捧げている。
「そりゃあ好き好んでこんな顔になるわけねえさ。
だが、主に命令されちゃ従わざるを得ないだろ」
ビクトールは痒みがあるのかポリポリと頬を掻く。
削れた肉片が彼の膝下に落ちた。
「あの女はもう関わっていないはずだが」
メリアの姉であるレクシー・フォン・ローリンゲンはイスカリオスの私兵組織を牛耳っていた。
だが、そんなことを無闇にリムルに聞かせるわけには行かないのでボカして話す。
「俺にとって主は二人といねえ。
そして、主の命令は絶対だ」
ビクトールはキッとした目で僕をみつめる。
「まさか、アイツがやれと言ったのか?」
ビクトールは頷いた。
僕が言ったアイツとは無論イスカリオスのことである。
彼は帝国最強の名にふさわしい戦闘力の持ち主だが精神的に甘く判断が鈍い。
部下たちに情をかけ過ぎた故にレクシーに足元をすくわれる羽目になった。
そんなイスカリオスが兄の顔の皮を剥いだだと?
「アイツもいつまでもガキじゃないってことさ。
お前たちに良いように扱われたのがショックだったんだろうさ」
そう言って、カップに入っていた茶を飲み干し、
「大切に愛でていたお人形ちゃんも、大人になっちゃったしねえ」
と呟いた。
「これから夕飯の支度をしますが、ビクトール様もいかがですか」
リムルはビクトールに尋ねる。
「そうだな。いただくことにしようか」
「かしこまりました。
それではしばしお待ち下さいませ」
リムルはスカートを軽く持ち上げ、小さく笑みを浮かべ一礼し、炊事場に入って行った。
「出来のいい子だ。
こんな恐ろしい顔の男だと言うのに怯えも蔑みも憐れみも見せない。
なかなかいい買い物をしたじゃないか」
ビクトールは感心したようにため息をつく。
「どうやら僕の周りのこともご存知のようで」
「そりゃあな。
だが信用していないわけじゃない。
信用と警戒は両立できるものさ」
どこかで聞いたようなセリフを言ってビクトールはテーブルに肘を付き、口元を手で隠した。
「で、主が帝都に戻ってきている。
束の間の休息が終われば、すぐに次の仕事に向かうだろう。
目的地はお前も知っての通りだ」
魔王軍に占拠されたアイゼンブルグ奪還作戦。
大陸に楔を打ち込むように侵入してきた魔王軍の勢力の拠点。
ここをイフェスティオ帝国が奪うことができれば、魔王軍の勢力は大陸から駆逐され、魔法王国サンタモニアと再び隣接することができる。
それは即ち、帝国への侵攻を企てるサンタモニアを牛耳る秘密組織『イデアの部屋』に対する牽制となることだろう。
「まあ、それも千年祭が終わった後の話だ。
それまではのんびり過ごせばいい。
俺もお前もな。
それよりも最近どうなんだ?
アルメリア様とは何か進展あったのか?」
ククッと頬を引きつらせながらいたずらっぽく笑うビクトール。
この人懐こさは天性のものなのか、任務のために身に着けた特技なのか僕には知るすべはない。
当たり障りのない会話をするも彼は満足そうに聞いていた。
そして、あっという間に時は過ぎ、千年祭の開催日の朝。
帝都にある旧王宮跡広場にて開会宣言を行う皇帝と皇后の警護のため、僕は彼らの傍らに控えていた。
帝国で暮らし始めて5ヶ月程になるが、皇帝は自ら戦場に出向いており、その姿を見たのはこれが初めてだった。
年齢は皇后より3つ程下らしいが、とてもそのような高齢には見えないほどガッチリした体躯をしており、光沢のある赤や青で彩られた派手な甲冑を纏っている。
皇后はそんな皇帝の傍にピタリと張り付いて広場に集まった臣民の歓声に小さく手を振って応えている。
やがて、広場の中腹に設置された演壇に皇帝は登り、高らかに開催宣言を行った。
広場に集まっている群衆の人数は56374人(妖精調べ)。
静まり返って一心に皇帝の言葉を聞き取ろうとしている。
彼の言葉が終わると同時に万雷の拍手と皇帝陛下と帝国を称える万歳の発声が響き渡る。
続いて、広場の周囲に止められていた馬車の荷台に詰め込まれていた白い鳥の群れが一斉に飛び立ち、帝都の空を白く染め上げた。
そして、宮廷楽団の吹奏楽器を貴重とした重厚な音楽が響き渡り、集まった群衆は帝国の国歌を歌う。
『輝く歴史は我らの背にあり
剣を取り、矢を構えよ
紅蓮の如き我らの血潮
大地に流れ、世を駆ける
その名を掲げよ
イフェスティオ
世界に冠たる永遠の帝国』
僕はとりあえず歌っているフリをしようと、口をパクパクさせてみる。
周りや人々を見てみると誰もが恍惚や興奮を表情ににじませて声を発している。
ここに集まっている人々は誰しもが恵まれた暮らしをしているわけではない。
スラムこそ無いものの帝都の民にも貧富の差はあり、飢えで命を落とすものも、貧困から犯罪に手を染めるものもいる。
だが、彼らも皇帝の宣言に猛り、国家を祝福する言葉を歌い上げている。
周囲に家来を侍らしている貴族、仕立てのいい衣服に身を包む太った商人とその従業員、鎧を纏う冒険者のパーティ、たくさんの子供を連れた父親と母親、堅気ではないと思われる人相の悪い男、ボロを纏いガリガリに痩せてしまっている子供、娼館で働かされているのであろう少女。
おとぎ話に出てくる理想郷からは程遠い、粗だらけで不自由な法や風習に縛られた国家だが、それもまた人間が寄り添いながら生きていくひとつのあり方だと思えた。
皇帝と皇后を乗せた馬車は広場を抜けて王宮へと続く大通りを進む。
すぐ後ろには帝国軍の師団が続き、群衆はその後ろに続いて地鳴りのような音を立てて行進する。
傍の建物からは住人たちが紙吹雪をばら撒き、頭上を白く染める。
僕は馬車の傍らを歩き、周囲を警戒していると、
「護衛の任、大儀である」
と後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには巨大な馬に乗ったイスカリオスがいた。
「将軍閣下……」
彼と面と向かい合うのは初めてあった日以来のことだ。
「遅くなりましたが、先の戦での大勝利をお祝い申し上げます」
僕は歩みを止めず、敬礼をする。
「なかなか宮仕えが似合うようになってきたではないか。
皇后陛下にも信を置かれているとか。
はじめは貴様のことを警戒していたが、杞憂で何よりだ」
巌のような顔を薄っすらとゆるめて笑みを浮かべるイスカリオス。
僕は、正直なところ気味が悪いとすら思えた。
最初に出会ったのが剣を合わせる場面であったのもあるが、彼が僕に笑いかけてくるなど予想もしていなかった。
馬車が王宮の門を超えたところで僕はミーシャと交代する。
僕の本日の勤めはここまでだ。
メリアもリムルも仕事に出ているだろうが、とりあえず家に帰ろう。
僕は路地に入り、自宅に向かおうとするが、
「待て」
と、声をかけられる。
声の主はイスカリオスだ。
馬から降り、巨大な剣を無造作に掴んでいる。
「少し話せるか?」
そう言った彼の表情は先ほどとは違ってキツく引き締まっていた。
僕たちは街の外にある城壁の上に来ていた。
千年祭のおかげで街のどこもかしこも人だらけだったから人目につかないところはここくらいだったからだ。
「千年祭などと浮かれたことに国力を使うのは如何なものかと思っていたが、いざ始まってみると悪くない。
戦乱の中だからこそ、このように英気を養う機会というものは必要なのかもしれんな」
イスカリオスは街の喧騒を見下ろしながら言った。
「それで、ご用件は何でしょうか」
「将軍として来たわけではない。楽にせい。
一度、貴様と話をしたかったのだ」
イスカリオスはそう言って地面に腰をおろしあぐらをかいた。
「帝都の暮らしはどうだ」
「それなりに楽しくやっている。
給金もたっぷりもらっているし、暮らしに不自由はない。
皇后陛下にお仕えすることも僕がやるべきことだと思っている」
僕がそう言うとイスカリオスはふむ、と鼻を鳴らした。
「正直なところ、貴様がここまで忠義深いとは思わなかったな。
陛下のワガママに付き合うのはおろか、侍女殺しの泥もかぶったらしいではないか」
「知っていたのか?」
「無論だ。儂がどのような仕事をしているか、貴様は知らないはずがないだろう」
イスカリオスの不敵な笑みから僕は、彼が皇后の周りにまで草を送り込んでいることを察した。
「それは背信行為ではないか」
「怪しいサンタモニア出身の騎士を見張るためだ。
忠臣として当然のことをしているまでのこと」
そう嘯くイスカリオスは――なるほど。
ビクトールが言っていたことがわかった。
「貴様やブレイドは儂にとって恩人でもある。
レクシーから解放してくれただけではない。
儂の、自分自身の甘さや間抜けさを知らしめてくれた。
おかげで儂はまた一つ強くなれた」
「兄の顔の皮を剥げるくらいにか」
僕は皮肉を言ったつもりだったが、
「捧げてもらった命は存分に使わねばならんからな。
儂は兄を殺した。
慕ってくれた部下も殺した。
戦場で華々しく命を散らせたのではなく、誰にも認められず称賛されない仕事をさせるために生きているのに殺したのだ。
ならばその罪は責として引き受けると決めた」
その声には一切の迷いも見えなかった。
「皇后陛下といい、あなたといい、僕よりずっと兵器のようだ」
「褒め言葉として受け取ろう」
別人のよう、というよりも覚悟を決めたという表情をしている。
ビクトールが言ったとおり彼もまた成長しているのだろう。
「それで何の用だ。
近況報告はビクトール相手に済ませている。
無駄話をするために呼び出す間柄でもないだろう」
僕は突き放すように言った。
初対面の印象も含め、僕はこのイスカリオスという人間に好意を持てない。
メリアを死地に追いやる片棒を担いでいたからだ。
その気になればいくらでも守る方法はあっただろうというのに。
「ならば単刀直入に言おう。
アイゼンブルグの奪還作戦、貴様に従軍を命ずる」
城壁を撫でるように風が吹いて、僕の髪はたなびいた。
予想できていたことだ。
戦力としての僕を帝国が利用しないわけがない。
「言っておくが貴様に拒否権はない。
帝国の兵として魔王軍と戦い、そして死ね」
イスカリオスの言葉には微塵の揺らぎもなければ、感情を隠そうとする芝居もない。
心の底から僕に死ねと命じている。
「僕は死ぬわけにはいかない」
「死んでいい兵士などこの国にはおらん。
自分だけが特別だと思うな」
イスカリオスはそう言い放った後、小さく嘆息した。
「いや、訂正だ。
正直に言えば、儂は貴様にさっさと死んでほしいと思っている」
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【転生しても名無し】
『はあ!? なにぶっちゃけてんのこのオッサン!?』
【転生しても名無し】
『やっぱホムホム達にいいようにやられたの引きずってんのか!?
器が小せえ!』
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戦いの最中でもないのに死んで欲しい、と面と向かって言われたのは初めてだ。
辛いとか悲しいとかは思わないが、不快だ。
「ならばやってみればいい。
あなたの力なら僕一人殺すくらい、たやすいことだろう」
そう言いながら、僕は腰を浮かして城壁から飛び出す算段をしている。
「殺したいわけではない。
死んでほしいだけだ。
貴様の寿命が訪れる前にな」
僕の寿命という言葉に思わず反応してしまう。
「どうしてそれを……」
「敵国の兵士の翻訳を全面的に信じるものか。
アルメリアの背中の刻印は全て頭の中に叩き込んである。
書き出して学者達に翻訳を命じた」
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【転生しても名無し】
『ちょっと待て……
あんだけの分量の未知の言語をあの短時間で記憶したの!?
どういう頭の作りしてんの!?』
【転生しても名無し】
『だらしないところばかり見てたけど、そりゃあこの若さで将軍なんだから優秀に決まってるわな』
【転生しても名無し】
『ふぅ……思い出そうとしてもメリアちゃんの白い背中しか浮かばねえ!』
【転生しても名無し】
『↑お前は俺かw』
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「あの刻印の内容が本当だとしたら、貴様に残された時間は一年あるかどうかだろう。
もっとも、使い捨ての兵器にとって耐用年数など大した意味はないがな」
「使えるうちに使い潰しておきたいということか……」
僕の言葉にイスカリオスは首を横に振る。
「そんな姑息な考えではない。
いや……もっと卑劣で下世話な考えかもな。
お前がアルメリアの近くにいなければ、わざわざ死んでほしいとは思わなかったろう」
どうしてそこでメリアが出てくるんだ。
僕はキッとイスカリオスを睨みつける。
「貴様がいなければアルメリアは帝都に帰ってくることはなかっただろう。
将軍として、奴の幼馴染としてもその点では感謝している。
だが、今も貴様がこの帝都に滞在し、あまつさえ一緒に暮らしていることは看過できん。
奴は昔のような日陰者ではなく、この千年祭の運営という大任を仰せつかっている。
やがて名家からの結婚の申し出も殺到するだろう」
「その頃にはもう僕はいない。
メリアが誰と結婚しようと……ジャマをするつもりはない」
僕は吐き捨てるように言った。
分かりきったことをわざわざ口にするイスカリオスに苛立ちを隠せなかった。
「それまでの間に貴様は奴の心にどれだけ傷を残すつもりだ?」
傷……メリアに、僕が?
「ホムンクルスのお前にそんな感情があるとも思えないが、奴はお前を憎からず思っておる。
いや……惚れてしまったのだろうな。
お前がレクシーの刃から守った時のアルメリアの顔……
アレは男に恋をしている女の顔だった。
儂の後ろをついて歩く何を考えているのかよく分からない小さな子どもだったアルメリアが……女になってしまった」
イスカリオスは遠くを見つめる。
その先には帝都の町並みとそこに過ごす人々がいる。
祭りの賑わいは時が立つに連れて盛り上がっていくようで、路地という路地が人で溢れかえっている。
「恋をするのも、契を交わすのも人の世のならいだ。
奴が幸せになれるのであれば、儂は何も言わん。
だが、貴様に惚れることは認められん。
アルメリアの心を奪ったまま、幸せな時間を堪能し尽くした挙げ句、寿命だからとこの世を去る貴様を儂は許せん!」
イスカリオスは壁を拳で叩いた。
壁に使われているレンガに大きなヒビが入る。
「愛するものを喪った人間を見たことがあるか?
彼らは戻らない時間を悔やみ、過去の思い出にすがりつき、生きながら死んだような日々を送る。
よしんば立ち直り、幸せや喜びを掴んでも、心にできた大きな穴がそれを飲み込んでいく。
人は大切な人が死んだ時に自分の一部が死んでしまうのだ。
それは取り返しがつかない。
だから、貴様にはこれ以上アルメリアとの関係を深める前に死んでほしいのだ。
どうせ死ぬのであれば少しでも奴の傷が浅い内に、目に触れぬところでひっそりと死んでほしいのだ」
イスカリオスは強い意志を以て僕にそう言った。
なんて身勝手で独りよがりなことを、と憤る。
同時に、彼が言っているような未来が訪れる可能性がないと言えるか? と省みる。
だが、僕は自分を否定するわけにはいかない。
今、このイスカリオスの言葉に感化されてしまえば僕はメリアの傍にはいられなくなる。
それはイヤだ。
「あなたに口出しされることじゃない!
僕はメリアを守るためにここにいる……
アイゼンブルグにもついていかない!
あなたの思い込みに付き合うつもりはない!」
そう言って僕は剣を取った。
「よかろう……
戦闘用の兵器ならば、力で教え込むのが上策であろう。
帝国将軍イスカリオス・アムド・カルハリアス。
胸を貸してやろう」
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『ヤバイヤバイヤバイ! マリオ! マリオはいねえか!?』
【転生しても名無し】
『マリオニキは最近顔だしてないよ……』
【転生しても名無し】
『助兵衛! 戦でござるぞ!』
【転生しても名無し】
『助兵衛も「太平の世に軍師はいらぬ」と言って以来、書き込みしてねえ……』
【転生しても名無し】
『クソおおおおお! 365日24時間張り付いていろよ!』
【◆ミッチー】
『新参だけど、俺が助兵衛の代わりをやってやる。
ホムホム、頭を貸すぜ』
【◆オジギソウ】
『古参だし、マリオのやり方はずっと見てきたから……
魔剣の第二段階まで私が抑え込む!』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
前回の戦いではブレイドと共闘し、魔法陣を利用してようやく引き分けた。
だが、今回は一人で戦わなくてはならない上、地の利も使えそうなものはない。
それでも負けるわけにはいかない。
イスカリオスを打倒し、彼の言うことを否定できなければ僕は今のままでいられないからだ。
僕は剣をさやから抜き放ち、地面を蹴った。
余談ですけど、昨日の晩思い立って子供向けの童話というやつを書いてみました。
『ニンゲンとゴリラのママ』
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テイストが違いすぎるのですが、この場を借りて自薦しちゃいます。