間話 僕の命について妖精たちと語らう。
第二部の前に妖精たちとホムホムだけのお話を一つ。
ずっと書きたかったお話です。
抱きしめたメリアの感触がまだ残っている。
感触、というよりも感慨というものだろうか。
必要に迫られたわけでもないのに、彼女に触れたいと思ったのはこれが初めてだった。
そして思いは満たされた。
僕はきっと幸せなのだろう。
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【転生しても名無し】
『おいコラ。ちょっとハグしたくらいで満足するな。
もっと求めろよ』
【転生しても名無し】
『そうだよ! 俺パンツ脱いで寒いんだぞ!』
【転生しても名無し】
『てっきり行くところまで行ってくれると思ったのに……』
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城壁で僕とメリアが抱き合った直後、皇后の遣いがローリンゲン家の執事を連れて現れた。
彼らはメリアをアルメリアと呼び、「今後のことで話がある」と言って連れて行った。
僕は離れたくはなかったけど、メリアが大丈夫、と言ったからそれに従った。
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【◆野豚】
『まあ、同じ街で暮らしているんだからすぐに会えるさ。
それよりも……そろそろ話し合いたいんだけど』
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僕の寿命のことだな。
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【◆野豚】
『うん。残された時間は1年と3ヶ月。
これが本当なら、僕はホムホムはこんなところで時間を使うべきでないと思う。
自分を延命させる方法がないか、サンタモニアに向かって調べるべきだ』
【◆バース】
『同感やな。
人間の病気なら多少は力になれるかもしれへんけど、ホムンクルスのことは分からん。
製作者に聞くのが一番やろ』
【◆オジギソウ】
『フローシアとかも情報持ってるかも。
だって、ホムンクルスを発明した人間の一人でしょ』
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たしかに。
世界の何処かには僕の命を永らえさせる方法があるのかも知れない。
だけど僕は……
僕は延命を希望しない。
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【◆まっつん】
『はあ!? 何言ってるんだよ!
このままだと1年3ヶ月の命なんだろ!?
そんなのあっという間だぞ!』
【◆ダイソン】
『おちつけ。一旦聞こう』
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もし、僕が延命する手段を発見、ないしは開発したとする。
その手段はイデアの部屋が喉から手が出るほど欲しい情報だ。
どんな手を使ってでも手に入れようとするだろう。
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【◆助兵衛】
『もし、ホムホムが延命手段を手に入れたことを知ればホムホムはサンタモニアの戦略目標となりうる。
身近な人間を人質に取られたり、最悪、イフェスティオ侵攻の引き金にも……』
【◆マリオ】
『バレるわけない……なんてのは楽観が過ぎるだろうね。
ホムホムは見た目も能力も目立ちすぎる。
それに、作ったホムンクルスを追跡するための仕掛けを製作者が持っていないとも限らない。
ただでさえ、超越者に近い戦闘能力を身に着けた貴重な個体だ。
モンスター、人間、魔族、とさまざまな敵との戦闘をくぐり抜けたホムンクルスは他にいないんじゃないか』
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しかも、人間に影響を受けプログラム外の感情を身に着けている。
僕の存在はサンタモニアのホムンクルス製造における到達点の一つだ。
本来なら、今すぐにでもこの身を消滅させるべきなのだろうけど……
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【◆与作】
『そんなの俺たちは絶対に許さない』
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ああ、僕も嫌だ。
僕は生きたい。
お前らの指示とか、自己防衛思考とかそういうのじゃなくて、僕は生きたいと考えている。
生きるとはすごいことだ。
自分の中の感情が刻々と移り変わり、他者や世界にも影響を与える。
ただ命を奪ったり奪われたりするだけの兵器には分からないだろう。
それが分かったことだけでも僕は同胞に対して優越感のようなものを持っている。
僕は生を謳歌したい。
温泉に入りたい。
楽しくおいしい食事がしたい。
舞台に立ちたい。
人を喜ばせたい。
人を守りたい。
メリアに会いたい。
ブレイドとククリにも。
ファルカス、バルザック、フローシア、できることならバースやアルフレッド、テレーズにも。
僕は今までの生でいろんなものを得た。
それを投げ出すことなんか、誰に命令されても無理だ。
危険を犯してでも、僕は生きるというワガママを通したい。
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【転生しても名無し】
『そんなに生きたいのに、長く生きられなくていいの?』
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ああ。
人間に比べれば短いだろう。
だが、定命の存在という意味で僕は人間と一緒だ。
1000年生きられる種族に人間の一生が短いことを憐れまれたとしても、それは価値観の押しつけにしか過ぎない。
僕にとって命とはこういうものなんだ。
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【◆野豚】
『分かったよ。
ホムホムは意外と頑固だからね。
説得はあきらめる。
だけど、ホムホムが長生きすることを諦めたわけじゃないからね』
【◆バース】
『せやな。
案外、殺し合いなんかせずにのんびり生きてたら長生きできるかも知れへんで。
温泉入って上手いもの食って、楽しいこといっぱいやって生きればええ』
【◆アニー】
『また、ファルカス一座と芝居やろうよ!
今度は宮廷で天覧公演さ!』
【◆与作】
『ドレス職人の道も捨てがたい。
メリアちゃんに今度はちゃんとプレゼントしようよ』
【◆江口男爵】
『そろそろ恋とか愛とか体感する時期に差し掛かっているんじゃないか?
ひょんなことから愛し合う男女の現場も見れたことだし。
次はホムホムの番なんだぜ』
【◆助兵衛】
『何スローライフ思考に陥ってんだ。
こんな世界に生きているなら魔王退治しろよ。
このまま鍛えていけばなんとかなるかもしれん。
世界中の英雄を束ねて、世界を救うんだ』
【◆マリオ】
『魔剣もまだ使いこなせていないしね。
てか、今度二本目の糸外す実験してみようよ。
今ならいけるんじゃないか』
【◆ダイソン】
『無理に戦わせなくてもいいだろ。
ホムホムは戦うことが好きなわけでもないんだし』
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妖精たちは好き勝手に僕の未来を夢想する。
やかましいが、不快ではない。
青い空に雲は流れ、穏やかな風が僕の頬を撫でる。
見下ろした帝都の町並みには多くの人の営みが見える。
世界は多くの命を抱えて回っている。
寿命があると知った僕は惜しさを覚えた反面、この世界で生きる命の一つになれた気がして、少し嬉しかった。
お読みいただきありがとうございました。
余談ですが、先週、短編を一本投稿しました。
この物語の約1000年前の伝説のお話ですので、良ければどうぞ。
『魔王軍を追放された災厄の魔女はかく語りき〜災厄の魔女のいない魔王軍など恐るるに足りん〜』
https://ncode.syosetu.com/n6770ew/