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第57話 僕たちの旅のおわり

本日最終投稿。

本章完結です。


 謁見を終えてから2時間後。

 ブレイドとククリは最低限の旅支度を済ませていた。

 皇后からの贈り物があると聞いて、僕たちは王城の厩舎に足を運んだ。

 そこには軍用馬の中でも選りすぐりの名馬たちが飼われている。

 王族や上位貴族が利用するものだという。


▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆ライダー28号】

『これは、名馬だねえ。

 G1レースのパドックもかくやと言ったところだ』


【転生しても名無し】

『魔王軍の勢力範囲を突っ切るなら馬で駆け抜けたほうがいいからね。

 結局、急がば回れというか、問題を全部解決して皇后様の助力を得られたのは正解だったかもね』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 皇后の家来は僕らを厩舎の奥にある、物々しい鉄の檻の前に連れてきた。

 その檻の中には六本の脚を持つとてつもなく巨大な馬が収められていた。


「英雄譚の時代に数多の英雄の乗騎とされた神馬スレイプニール。

 この馬はその先祖返りと目されています。

 どの馬よりも速く、無尽蔵のスタミナを誇りますが気性が荒く、乗りこなせるものは誰もいません」

「上等上等。

 相手を選ぶくらいの気位の高さは畜生にも必要だ」


 上機嫌のブレイドはひと目見て強靭なその馬の体躯に見惚れたようだ。


 檻の錠が外されると、馬はここぞとばかりに走り出そうとするが、ブレイドにその首を押さえられる。


「いい馬力だ。

 コイツは乗りがいがある」


 馬はブレイドを振り払おうとその巨体を震わせる。

 脚から肩までの高さは3メートル近くあり、首も脚も普通の馬の倍以上の長さだ。


「ハハ! まずは躾だな!」


 そう言って、ブレイドは馬の目と目の間に拳を叩き込んだ。

 すると馬は急におとなしくなり、座り込んでブレイドに背に乗るように促した。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ブレイドニキがどんどん世紀末覇者と化していく』


【転生しても名無し】

『だけど僕たちは忘れない。

 レクシーに粗末なもの扱いされて傷心だった頃の君を』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



「さて、と。今度こそ本当にお別れだ。

 俺はやるべきことをやったし、お前たちはたどり着くべきところにたどり着いた。

 この旅は見事な大団円を迎えたわけだ」


 ブレイドは僕とメリアに向き合ってそう言った。


「ダーリスを発っておよそ2ヶ月。

 長いようであっというまの時間でしたね」


 ブレイドの傍らにはいつものようにククリが連れ添っている。



「ブレイドさん、ククリさん……

 本当にありがとうございました。

 そして……すみませんでした。

 ずっと皆さんを騙してきたこと……

 許されないことだと思っています」


 メリアはこらえるように拳を握り、立ちすくんでいる。


「本当にな。

 こちとら命がけでお守りしてやったのに、用済みと分かったらあっさり置き去りだもんな。

 あれは傷ついたなあ」


 ブレイドはメリアの耳元に近づいて、言葉を投げつける。


「まー、いいさ。

 俺もお前さんを利用してここまでやって来たわけだし。

 そこはお互い様ってやつだ。

 ソーエンの男は過ぎたことを気にしない」


 ブレイドはそう言って、メリアの頭を鷲掴みにする。


「だがな。クルスのことは別だ。

 コイツはただテメエを守りたいなんて単純な思考で、その身を張り続けた。

 にもかかわらず、その想いを無下にして裏切って逃げ出しやがった。

 あのデブスですらファルカス殿にほだされて洗いざらいぶちまけたのにな。

 だから、テメエはアホガキだ。

 テメエを思ってくれるヤツのこともテメエ自身の価値も何も理解していない、能無しのアホタレだ」


 メリアはポツリポツリと涙を流し始めた。

 ブレイドはため息を吐いて、笑みを浮かべる。


「お前が生きているのはお前の人生だ。

 他人の考えに身を委ねるんじゃなく、自分で学んで考えて生きろ」


 そう言って、手を離し、ペシリと頭をはたいた。

 痛がるメリアに次はククリが近づく。


「メリア……いやアルメリア殿。

 ご帰還おめでとうございます。

 私、あなたと旅ができて楽しかったのですよ。

 年の近い女友達ができたのは初めてでしたので」

「ククリさん……」


 メリアはククリの胸に頭を預ける。


「また、いつかお会いしましょう。

 その時は帝国の宰相にでもなっていてください」


 ククリは笑いながらメリアの頭を撫でている。

 その様子を横目にブレイドは僕と向き合った。


「……じゃあな」

「ああ」


 色々交わす言葉は頭の中にあったはずだ。

 僕にもブレイドにも。

 でも、その全てを言葉にする必要はないと思う。

 ブレイドが僕にしてくれたこと、僕のために考えてくれたこと、僕の代わりに怒ったりしてくれたこと。

 全部理解しているからだ。

 この旅は僕を限りなく人間に近い思考と感情を搭載したホムンクルスとして成長させた。

 そのきっかけをくれたのがメリアならば、もっとも影響を受けたのはブレイドだと思っている。

 感情の赴くまま生き、思考を張り巡らせ、目的を達成する意志を貫く。

 僕にとってブレイドはもっとも人間だった。

 そして、彼は僕を認め、感情に寄り添ってくれた。

 それは好意を持っていると言っても過言ではないはずだ。


 僕は嬉しい。


 ブレイドの背中に手を回し、胸と胸をくっつけた。

 そして、


「ありがとう」


 と呟いて、彼の頬に唇をくっつけた。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『エンダアアアアアアアアアアアアア!!

 って! ブレイドとかよ!!』


【◆オジギソウ】

『あらいいですね〜』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 舐めることは愛情を確認する行為なのだろう?

 少なくとも、ブレイドは僕に殴りかかってこない。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『アッー!』


【転生しても名無し】

『ブレイドニキ……満更でもない?』


【◆マリオ】

『大丈夫か? ククリが殺しそうな目でこっち見てないか?』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 大丈夫……だと思う。

 驚きはしつつも笑っている。

 メリアと一緒に。



「お前はホント……俺を驚かせてばかりだなあ」


 ブレイドは苦笑する。

 そして、僕の背中を力いっぱい抱きしめてきた。


「皇后に僕を召し抱えてくれるように言ってくれたこと、感謝している。

 これで僕はここにいられる」

「お前が勝ち取ったもんだ。

 俺はただお膳立てしただけだよ」


 僕たちは体を離し、見つめ合った。

 ブレイドの目にも光るものがある。


「こんな時代だ。でも死ぬんじゃねえ。

 俺はお前とジジイになるまで生きていたいんだ」


 僕は、ためらいながらも「ああ」と答えた。

 嘘をついたことを知ればきっとブレイドは怒るだろう。

 でも、それでも本当のことは言えない。

 言えば、彼の描く未来を壊してしまう。

 そのことを恐れているのだ、僕は。



「また会おう。我が友よ」




 ブレイドとククリは巨大な黒馬に乗り、帝都を後にした。

 二人を見送った僕とメリアは街を囲む城壁の通路を肩を並べて歩いていた。


「みんな行ってしまいましたね」

「ああ」


 ファルカスはライツァルベッセに戻り、イスカリオスたちはアイゼンブルグ攻略のための準備に早速取り掛かっている。

 レクシーは皇后の近衛衆の監視のもと、皇后に繋がるありとあらゆる情報の抹消やイスカリオスとの婚約破棄の段取りを行うことになる。

 そして、僕たちは近いうちに皇后に呼び出されるまで帝都で待機するよう命じられている。


「どうして残ったんですか?

 ブレイドさんから一緒に帰るように誘われていたんでしょう」


 メリアの問いに僕は歩みを止めないまま答える。


「ここにいたいと思ったからだ」


 僕の答えにメリアは納得していない様子だ。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『当たり前だ。言葉が足りなさ過ぎる』


【◆オジギソウ】

『言葉がいらないときと、言葉を尽くさないといけないときがある。

 女の子に思いを伝える時は100パー後者だね』


【◆与作】

『がんばれよ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△


 

 ああ、分かった。


「僕は最初、帝都までの道のりを護衛することがあなたを守ることだと思った。

 だけど、旅の中で人間には魔王軍による危険だけでなく、さまざまな、力だけでは解決できないような危険があることを知った。

 メリアはこれからもそれと戦い続けることになるだろう」


 世界のどこにも、安穏として生きることを享受できる場所など無い。

 人がいれば諍いは起きる。

 人がいない場所で生きるには人は弱すぎる。


「あなたは僕に生き方を提示してくれた。

 ファルカス一座に加わるという生き方を。

 それはきっと良いものだろうけれど、僕は別の生き方を選びたい」


 太陽を覆っていた雲が風に流され、城壁に光が滝のように降り注いだ。

 メリアの金色の髪が光を受けて輝き、白い肌の輪郭がふわりと光に溶け込む。

 僕たちは立ち止まり、向き合ってお互いの目を見つめた。


「メリア、僕にあなたを守らせて欲しい。

 あなたを傷つけるすべてのことの盾になりたい。

 もし、傷ついたときには逃げ込むことができる場所になりたい。

 それが僕が望む生きることだ」


 メリアの瞳に涙が滲んだ。

 顔を上に向けたり、まぶたを繰り返し閉じたりして涙がこぼれないようにしている。


「そんなの……良いものじゃないですよ。

 クルスさんの知っている私は、潜入調査のために作り上げた偽の人格みたいなもので……

 本当の私は愛想がなくて、無感動で、無気力で……

 あなたに身を挺して守ってもらえるような人間じゃない……」

「関係ない。決めるのは僕だ。

 それに、あなたはきっと変わっていく。

 人間とはそういうものだろう」


 レクシーはファルカスの偽物の愛によって変えられた。

 だとしたら、僕たち二人に出来ないことではないはずだ。

 たとえ、変わらなくても、それでもきっと僕はメリアと……


「この生命が尽きるその時まで。

 僕はあなたのそばにいたい」


 この感情の理由を、僕が知っている言葉で表現するのならば――



「メリア、愛しているんだ」



 僕はこの感情を育み、この言葉を伝えるために……今まで生きてきたのだろう。


 キラキラ光る涙の粒を散らして、メリアは僕の胸に飛び込んできた。

 




「今」が終わり、「これから」が始まる。

お読みいただきありがとうございました。

物語はまだ続きますが、最終回の気分で想いを込めて書きました。

本当の最終回に向けてこれからも精進します。


もしよろしければ、感想やレビューをいただければ幸いです。

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[良い点] 聴こえる……聴こえるぞYou Raise Me Up
[一言] 鳥肌もんですわ
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