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第53話 高みの見物の僕とうつむくブレイド

 レクシーはイスカリオスの婚約者でありながら、複数の愛人を囲っているという。

 その情報から妖精の一人、アニーは容姿の優れた男をあてがって、油断させて知っていることを白状させるという作戦を提案してきた。

 馬鹿げた話なので、僕は無視した。

 他の妖精たちにも批判され続けたが、アニーは気にも留めずに作戦の詳細を語り続けた。

 やがて、妖精たちの中にアニーの提案に賛同するものが増えてきた。

 ブレイドの提案は失敗した時のリスクが高く、成功したとしても多くの人的被害が見込まれることから、イスカリオスも首を縦には振っていなかった。

 ので、僕は空回りした話し合いの流れを変えるために、アニーの案を提示したのだが、思いの外好評であり、イスカリオスも「それならば……」と了承し、ブレイドも「まだるっこしいな」と言いつつも乗ってくれた。


 だが、レクシーを誘惑する容姿の優れた男というのを誰がやるのかと言う問題があった。

 僕たちやイスカリオスの手下は顔が割れてしまっているので論外として、全面的に僕たちの味方であり、且つレクシーを騙し切るだけの演技力を持ち、しかも容姿が優れている人間なんて思い当たらない。

 ブレイドはベルンデルタあたりから自分の息のかかったものを連れてくるか、と言ったがそれでは時間がかかりすぎる。

 それにメリアの話によるとレクシーは高級嗜好であり、貴族であっても騎士公程度の身分の者は相手にせず、名のある芸術家や大商人であっても血統的に貴族の血が流れていない者には興味を惹かれないらしい。

 それを聞いたブレイドはため息とともに宙を仰いで、


「そこまで徹底してると逆に尊敬できるわ」


 と、呟いた。

 企画倒れになるかと思った瞬間、僕の頭の中で――



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆アニー】

『そんなのファルカスしかいないに決まってるじゃん!

 主演ファルカスで脚本アテガキしてんだから!』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



「ファルカス?」


 思わず声に出てしまった僕のつぶやきはその場にいるメリアたちにも聴こえていたらしく、


「ファルカスさん……

 帝国に戻ってきたのはつい最近でレクシーに顔も存在も知られていないし、クルスさんに助けてもらった恩があって、当代一と言っても過言でない芝居の天才で、見た目も絵に描いたような貴公子の上、正体は名門ミルスタイン伯爵家の御子息のファルカスさんですか!?」



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『メリアちゃん説明あんがと〜』


【転生しても名無し】

『しかも歩く種馬が如く、視界に入った女をことごとくモノにしていくスケコマシだしな。

 なんだうってつけじゃん』


【転生しても名無し】

『改めて聞くと、なんだこのスペック……

 少女漫画の王子様かよ』


【◆オジギソウ】

『え!? じゃああのボンレスハム令嬢がファルカス様に抱いてもらえるの!?

 役得すぎる。この作戦は却下!』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ブレイドも「ファルカス殿をこんなことに巻き込むのは……」と渋っていたが、他に代案が見つからない以上、公私を分けろと言い聞かせた。



 そして、僕たちはレクシーから黒幕の正体を聞き出すための『貴公子の蜜壺』作戦を決行することになった。



 作戦の第一段階として、レクシーはカルハリアス家の別荘の地下に監禁した。

 そして、イスカリオスの手下たちに覆面をさせ、あえてカタコトのイフェスティオ語で尋問し、レクシーを拷問にかける。

 その様子を【遠見】の魔術をつかえる魔術師が銀盤に投影した。

 僕らはその銀盤で拷問の状況を眺める。


「しかし、すげえな。あのデブス。

 痛みに慣れているワケでもないのに全く口が割れそうにない。

 大したもんだよ」


 感心したようにブレイドが呟く。


「実際に彼女は優秀だ。

 儂も状況を打開するため調査していたが、何の手がかりもつかめないどころか、返り討ちに合うものまで出た始末だ。

 たとえ、拷問の末に自白を引き出せたとしてもそれが真であるとは思えん」


 イスカリオスは頭を掻く。

 僕もそう思う。

 メリアに対して、拷問されることも考慮に入れ、情報を与えずに送り出したんだ。

 自分に対しても、その手の保険をかけている可能性が高い。

 たとえば、自白した内容が敵をハメるための罠だったりとか。


「レクシーは卑劣ではありますが愚鈍ではありません。

 悪辣ではありますが芯のある人です。

 だからタチが悪い……」


 メリアは銀盤を見ようとはしない。

 嫌っていても知っている人間の拷問の現場を見ることは極力避けたいようだ。

 こういうところもレクシーとの違いだろう。


「よーし! じゃあ、俺も出演するかな!

 ……ファルカス殿、ちゃんと割って入ってきてくださいよ。

 止められなかったら、あのデブス抱かなきゃいけないんで……」


 痛みによる拷問が効かないならば、とブレイドはレクシーを辱めることをする。

 もちろん、それはファルカスを舞台に上げるためのキッカケ作りだ。

 貞操の危機を颯爽と現れた貴公子に助けられるのは、女性的に興奮するシチュエーションらしい。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『俺も好き! さらに言うなら服が破れてあられもない姿になっている女の子に着ている上着をかけたりしたい!』


【転生しても名無し】

『↑お前とは旨い酒が飲めそうだ』


【転生しても名無し】

『私、女だけど分かんない。

 こういうのにロマンを感じる男がいるから女はレイプ願望があるとかいう迷信が生まれるんだよ』


【◆オジギソウ】

『まあまあ。でもファルカス様の格好良さ10倍増しでとどまることを知らないね』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 助けるのも迫られるのも経験しているが、僕にはよく分からない嗜好の話だ。



「ホント! ちゃんとタイミング間違えないで入ってきてくれよ!

 あんな女と致して、ククリの不興を買うような真似はしたくないんだ!」


 ファルカスに懇願するブレイドはかなり必死だ。

 だが、ファルカスは涼やかな笑みを浮かべ、


「そうですか。別に悪いとは思いませんがね。

 ふくよかな女性は抱き心地いいですし、男性経験も豊富なら悦ばせ方もお上手でしょう」


 と言った。


「はぁ!? じゃあ貴殿はアレ……抱けるの?」

「ええ。元よりその覚悟でお引き受けしましたし。

 どんなキツイのが待っているかと思えば、まだ若いですし、令嬢らしく清潔感もある。

 意地の悪そうな顔をしていますが、乱れるとどんな表情を見せてくれるのでしょうね。

 公演が終わったばかりで、私も楽しみたいと思っていましたし、オトすことができたら喜んでお相手させていただきますよ」



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ファルカスさんぱねえ……

 何が凄いって、あんだけ綺麗な女優さんたち食い散らかしてゲテモノも美味しくいただけるって男としての器がデケエ』


【転生しても名無し】

『おい、レクシー。そこ変われ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 唖然とした表情のブレイドは、無言でファルカスに頭を下げて地下室に向かった。

 その背中は少し煤けて見えた。



 銀盤上に映し出されたブレイドはズボンを脱いで、下半身をあらわにしてレクシーの前に立っている。

 予定では、全裸のブレイドにレクシーは恐れおののくはずだが……


「何? その粗末なモノで耳掃除でもしていただけるのかしら?」


「そまっ……!?」


 レクシーは恐れるどころか、笑みさえ浮かべてブレイドの身体的特徴を揶揄した。


「プッ!」


 誰かが声を押し殺そうとする息が聴こえた。

 ……メリアの方からだ。


▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『粗末wwwwwwwwwww』


【転生しても名無し】

『バカヤロウwwwwそれを言っちゃダメだwwwww』


【転生しても名無し】

『ブ、ブレイドニキが粗末なわけないじゃないか!

 強がりだ!!』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ブレイドは平静を取り戻そうと深呼吸をしている。

 どうやら、レクシーの予想外の発言に動揺しているらしい。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『動揺っていうか……ブチ切れてるんじゃない』


【転生しても名無し】

『てか、噂に聞くほど男好きなら色んなもの見てきたでしょうし……

 ファルカスは大丈夫?』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 イマイチよく分からないが、僕はファルカスに尋ねてみた。


「ファルカスは大丈夫か?」


 ファルカスはクスクスと笑いながら、


「どこに出しても恥ずかしくない、私の相棒です」


 と、言い残して、足取りも軽やかに地下室に向かった。




 その後、打ち合わせどおりにファルカスはブレイド一味を薙ぎ倒し、レクシーを救出した。

 遠見の魔術は予め魔法陣を設置した上で、直線距離にして10メートル以内に居なければ使用できない。

 僕たちはファルカスたちを追うようにして屋敷を出る。


 高みの見物を気取っているようだが、実際に追い詰められているのは僕たちの方だ。

 レクシーが口を割らないまま時間が過ぎれば、彼女の裏にいる黒幕が動き出す。

 下手をすればもう、僕らの行動は観測されているかもしれない。

 侯爵家の令嬢を拷問してしまった以上、その罪は看過されることはない。

 僕らの行動が明るみに出る前に、レクシーから情報を引き出し、黒幕を追い詰め、イスカリオスが指示を受けたという皇后の元に引きずり出し、事の顛末を白状させる。

 それができなければ、僕たちもイスカリオスの一派も帝国のお尋ね者だ。


 僕たちが先回りをしてミルスタイン伯爵家の屋敷に到着し、ファルカスを待っている間にブレイドが合流した。

 ブレイドは僕らの目も見ず、ずっとうつむいたまま、


「あのデブス絶対殺す」


 と何度も呟いていた。

 

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