第6話 安全を確保。森の魔女はホムンクルスの関係者?
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【転生しても名無し】
『今北三行』
【◆体育教授】
『ホムホムが森で超強い大蛇に遭遇
ホムホムボロボロになるも女の子に助けられる。
女の子の家にお呼ばれ』
【転生しても名無し】
『サンクス』
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僕とメリアが招かれた家は森の中の花畑に囲まれた丸太作りの家だった。
2階建てで1階部分に居間と台所があり、2階部分に少女が使う寝室とゲストルームがある。
メリアはホッとしたのか家にたどり着くと気を失うように眠ってしまったため、居間のソファに寝かせた。
その後、僕は居間の椅子に腰掛け、少女と正対した。
少女はフードを外している。
緑色の髪、紫水のような瞳、そして長く尖った耳。
明らかに人間族とは異なる異種族だ。
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【転生しても名無し】
『エルフたんキター』
【転生しても名無し】
『ロリババアなのか?ロリババアなのですか?』
【転生しても名無し】
『メリアちゃんがスラっとした美少女なのに対し、この子はマスコット的な可愛さがある美幼女だね』
【転生しても名無し】
『ホムホムの周り美少女だらけだな(血涙)』
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あなたたちは異種族に嫌悪感を抱かないのか?
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【転生しても名無し】
『可愛いは正義』
【転生しても名無し】
『そういうのがいるのが当たり前の世界なんだからそれにとやかく文句つけるつもり無いよ』
【転生しても名無し】
『少なくともその子にはホムホム助けてもらったりしてるし嫌う理由ないよね』
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そういうところは合理的なんだな。
「さて、自己紹介がまだじゃったの。
わらわの名前はフローシア。
何者かと問われれば、森の魔女と応えるようにしておる」
「僕はクルスだ。
僕は……」
僕は自分の正体を明かすべきか悩み、言いよどむと
「分かっておるよ。ホムンクルスじゃろ。
血だらけの虚脱状態だったのが、ほんの数分であの娘を担いで歩けるようになるほどの自然治癒。
ところどころ浮世離れした言動に、作り物めいた端正な顔立ち。
それにな、人間とは明らかに匂いが違うのじゃよ。ヌシたちは」
フローシアは全てを見透かしたかのようにそう言った。
「しかし、少々変わり種のようじゃな。
サンタモニアの連中はホムンクルスを矢や魔石程度の使い捨ての兵隊として運用しているはず。
ところがヌシは戦術価値もない負傷した娘を大事そうに守りながら旅をしている様子。
くっくっ。奇特な命令を出すマスターもいたものじゃな」
フローシアの認識に僕は反論する。
「違う。
僕は命令なんて受けていない。
僕はただ生きているだけだ。
メリアを守るのは僕がそうしたいと思ったからだ」
僕がそう言うとフローシアは緑色の髪を揺らして笑った。
「カッカッカッ。
これはこれは、失礼した。
変わり種どころか突然変異の新種だったか。
クックックッ、現代の錬金術師どももとんでもないものを作ったものじゃな。
アーサーみたいな出来損ないの木偶人形からよくもまあこんな生き物めいた子どもが生まれたもんじゃ」
アーサー、30年前に作られた僕らホムンクルスの最初の一体。
確かに僕にすれば先祖のようなものだ。
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【転生しても名無し】
『フローシアたんの口ぶり、なんかアーサーのこと知っているっぽくね?
口悪く言う割に妙に懐かしげですしおすし』
【転生しても名無し】
『ホムホム、そこんとこ詳しく』
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「アーサーのことを知っているんですか」
「くっくっ。知っているも何もあやつの魔術回路はわらわがこしらえてやったものじゃからな」
フローシアはそう言うと、糸を取り出してみせた。
髪よりも細い無色透明の糸だ。
「魔術繊維と呼ばれる魔力浸透率の高い糸じゃ。
古くから魔術対策の防具に使われることの多い素材じゃの。
防御魔術を吸わせて、敵の攻撃魔術を相殺するなどが一般的な使い方じゃが、これで魔法陣を描いてやったのじゃよ。
もっとも、子どもの落書きのようにただ、魔法陣を描いたわけではない。
錬金術師共は掌や背中に魔法陣を描こうとしておったが、それでは魔法陣に蓄積されただけの魔力しか行使できん。
そもそも魔法陣とは魔力を行使できない落ちこぼれの錬金術師が編み出した劣化版の使い捨て魔術回路じゃからな。
人間の魔術回路は魔族のそれと比べれば稚拙で単純なものじゃがそれでも魔法陣よりかは理にかなっておる。
体内のエネルギーや周囲のマナを魔力に変換できれば、行使できる魔力の量はセンス次第でいくらでも増えるし、出力を調節することもできる。
新しい魔術を覚えることも理論上は可能じゃ。
ホムンクルスを兵器として人間と同じように運用するためには魔術回路の搭載は必須だったわけじゃ。
だが、魔術回路をゼロから作り出す技術は現代にはない。
つまり魔術回路と同じような働きをする魔法陣を作る必要があったわけじゃな。
ただそこまで複雑な魔法陣の構築ノウハウは魔法王国と呼ばれるサンタモニアにもない。
だから魔女と呼ばれるわらわに白羽の矢が立ったんじゃな」
フローシアは一息つくようにカップの紅茶に口をつけた。
僕も真似るように紅茶を口に含み飲み干す。
葉の香ばしい香りがした。
「アーサーの素体はサンタモニアで既に完成されていた。英雄譚の時代の剣聖をモデルにしたとかで、それはそれは逞しく美しい美丈夫じゃった。
ここだけの話、工房で誰も居ないことをいいことに色々愉しませていただいたこともある」
色々?
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【転生しても名無し】
『いろいろkwsk!!』
【転生しても名無し】
『なに、このロリババア、下ネタオッケーなの?』
【転生しても名無し】
『ふぅ……けしからん』
【転生しても名無し】
『この変態ババアめ!俺の股間のエクスカリバーでお仕置きしてやらねば』
【転生しても名無し】
『↑そのエクスカリバー1/100スケールだぞ』
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盛り上がっている理由が分からない。
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【転生しても名無し】
『ホムホムは知らなくていいんだよ』
【転生しても名無し】
『てか、ホムホムはイケメンだったのかあ。
なんかがっかり。感情移入できなくなっちまうよ』
【転生しても名無し】
『↑人型なのにゴブリンをモデルにする必要ねえだろ』
【転生しても名無し】
『作り物めいた端正な顔立ちってビジュアル系みたいな?』
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魔術回路や魔法陣の説明をしている時は静かだったのに……
「さて、と。脱線してしまったが話を戻そうか。
オーソドックスな魔法陣は円の中に文字やら図形を描いているものじゃが、人体の魔術回路と同様に体内を張り巡らすにはオーソドックスな円形や方形の魔法陣はそぐわん。
じゃが、魔法陣が円で囲まれているのは構築した魔力を外側に漏洩させないための囲いにすぎん。
つまり、その囲いさえあれば、魔法陣は円形にとらわれることなく、好きなように描くことができる。
さて、ここで問題です。囲いとして使ったのはなんでしょう?」
頭の中の妖精たちは皆、口々に答えを書き出している。
ただし、僕だってその答えを読むでもなく、思い当たる回答があった。
「ホムンクルスのボディそのもの」
「正解。思考力もバッチリじゃな。
要するにホムンクルスの形をした立体魔法陣。
それがホムンクルスに搭載されている疑似魔術回路魔法陣の種明かしじゃ。
平面の魔法陣じゃなく立体に描くことで魔法陣の情報量は何百倍にもなった。
人の体の中に神殿級の大魔法陣を宿しているわけじゃな」
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【転生しても名無し】
『ほえー、えらい手間かかってるんやな』
【転生しても名無し】
『それを使い捨てにするとかもったいなくね?』
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頭の中の妖精たちの疑問にフローシアは応える。
「もっとも手間がかったのはそれを最初に設計したわらわだけで、複製作業自体は容易なことじゃ。
その魔法陣を構築する魔法陣をわらわが作ってやったからの」
僕に話しかけているフローシアはご機嫌そのものだ。
人と話すことが好きなのだろうか、その後もフローシアのアーサーにまつわる思い出話は続いた。
ロールアウトしたアーサーは思考回路が未発達で、戦場における自己判断ができないという欠陥があり、早々に後継種を作ることになったこと。
育成のノウハウを培うため、錬金術師たちはありとあらゆる方法での教育を試行したこと。
その中には人間相手には到底行えないような人道に反するものもあったという。
「思考回路が出来損ないだったのは幸いじゃったかもな。
苦痛を苦痛と感じるのは思考するからじゃ。
人間と同じ姿形をしているのに、結局アーサーは人間にとって人形以上の存在ではなかった。
わらわはあやつが不憫でな。
それ以降のホムンクルスの製造に関わるのは避け、サンタモニアを後にした。
アーサーは魔王軍との戦闘テストで破壊されたと流布されているが、本当にそんな華々しい死に様だったのか。
暗い工房で無茶な実験によって壊れてしまったんじゃないのか。
そんなことを考えると、気が重いわ」
フローシアの声が沈む。
僕は彼女の気持ちを理解することは出来ない。
だが、彼女が後悔をしているのは分かる。
だから僕は――
「あなたのおかげで生まれた命がある。
僕がそうだ」
フローシアは目を丸くして「えっ」と漏らした。
僕は続ける。
「ホムンクルスは人間の代わりにサンタモニアの軍役を担っている。
おかげでサンタモニアはこの時代でも魔術研究に若く優秀な人材を投入できる。
ホムンクルスは並の人間より強い。
だから僕らは求められ、生まれてきた。
戦場で特攻させられる末路しか無いとしても、僕らが生まれてきたことで救われた命はあった。
僕らが守った命もあった。
あなたがアーサーに与えた疑似魔術回路はたくさんの命を救った。
後悔することじゃない」
フローシアはキョトンとした顔で僕を見つめている。
沈黙が流れ、そして、
「カッカッカッカッ!これはこれは、まさかここまで高説を垂れるほどホムンクルスが進化しているとは。
驚きを通り越して笑いが止まらんよ。
クルスとやら、わらわはそなたが気に入ったぞ。
今夜は私の寝床でしっぽりと睦み合おうじゃないか!」
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【転生しても名無し】
『む……むつみあおう??』
【転生しても名無し】
『要するにパフパフしましょうってこと』
【転生しても名無し】
『●録画』
【転生しても名無し】
『キターーー――!!』
【転生しても名無し】
『くっそwww明日朝早いのにwww』
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妖精もフローシアも何を言っているのか分からない。
だが、フローシアの表情をみると僕は正しい選択をしたのだろう。
「むつみあうとはどういうことだ」
「おぉう。それはこれからわらわがじっくりねっとり教えてやるかいの。
とりあえず、まずは気持ちを高めるためにぃ」
フローシアは僕の後ろから抱きすくめるかのように手を回し、顔を近づけて、
「何やってるんですか―ーーーーーー!?」
いつのまにかソファから起き上がっていたメリアが大声で叫んだ。
「ナニするつもりに決まっとろうが。
ヌシも混ざるかいの?
人が多いのは多いので面白いぞ」
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【転生しても名無し】
『何なのフローシアさん。マジ賢者』
【◆与作】
『メリアちゃんも!メリアちゃんも混ざるの!?』
【転生しても名無し】
『メリアちゃん派の俺大歓喜』
【転生しても名無し】
『おいホムホム、そこ代われ』
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メリアは顔を真赤にして、涙目になりながら
「するわけないでしょうがあーーーーーーー!!」
家を揺らさんばかりの絶叫が響き渡った。