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第50話 僕たちは常勝将軍イスカリオスと戦う。

 ナイフをおられたレクシーは青ざめた顔をして狼狽えている。


「くっ……曲者め!

 コイツを今すぐに殺せっ!!」


 僕は拳を握り、勢いよくパンチした。

 レクシーの鼻先に向かって。


「ひいっ!!」


 もちろん本気で殴るつもりはない。

 高速で突き出した拳をピタリと鼻に触れた瞬間に止める。

 風圧と鼻に当たった感触で自分が殴られたと錯覚したレクシーは失神し、膝から崩れ落ちた。


「あなたがいると話が進まない」


 気絶したレクシーに向かって文句を言った。

 そして、メリアにつけられていた手枷と足枷を剣で切って解放した。


「さすがデキる子だね、お前は。

 さて、将軍殿、道化女もいなくなったところで腹を割って話をしませんかね?」


 ブレイドは剣を肩に預けながらそう言った。


「賊と話すことなど無い。

 妨害を解く方法を教えて捕縛されるか、無理やり吐かされるか。

 貴様の選択肢はそれだけだ」


 イスカリオスは頑としてブレイドとの交渉を拒絶する。


「そうかい、そうかい。

 どうやら俺のことを容易く料理できると高をくくっているわけかい」


 ブレイドは構えを取る。

 持ち手を自身の腰より下に構え、刃の切っ先を床につくほど下ろしている。

 一方、イスカリオスは大剣を片手で振り上げ、大上段に構えている。

 両者ともに、睨み合ったまま動かない。


 ならば、僕のすることは周りの手下たちの排除だ。

 見渡すとこの場には8名の手下がおり、うち3人がイスカリオスの援護をしようとしているがそちらはククリが対応。

 残り5人は僕に視線を向けている。


「まさか、こちらが忍び込まれるなんて思いもよらなかったよ」


 先程、僕に裁縫道具を貸してくれた男がぼやくように言った。


「多分、アンタとは割と仲良くなれたと思うんだよ。

 こういう出会い方じゃなければ。

 残念だけどーー覚悟してくれ!」


 そう言って彼は剣を抜き、飛びかかってきた。

 同時に他の4人も僕に向かってくる。


 だが、どれも動きは緩慢だ。

 僕は彼らの剣戟を縫うように躱し、剣の柄での打撃や蹴り技で沈黙させていく。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『あれ……あっけない』


【転生しても名無し】

『諜報員だから戦闘が得意なわけじゃないのかな』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 せいぜい、レイクヒルの冒険者と同レベル。

 悪いが、僕たちの敵じゃない。


 にらみ合うブレイドとイスカリオスは未だに動かない。

 手下たちがイスカリオスを援護しようと、攻撃魔術を放とうとするが詠唱し切る前にククリに駆逐されていった。


 あっという間に、戦闘可能なのはイスカリオス一人となった。


「イスカリオス様! おやめください!

 彼らと戦うのは無意味です!」


 メリアがイスカリオスに向かって叫んだ。

 その表情は必死そのものだ。

 僕はメリアに小声で語りかける。


「心配しなくていい。

 ブレイドも僕もイスカリオスを害するつもりはない」


 だから、安心しろと伝えたつもりだったが、メリアは首を振って、


「そうじゃありません!

 ダメなんです! イスカリオス様と戦っては!

 あなたたちでも勝ち目はありません!」


 メリアが言い終わる直前、イスカリオスが動いた。

 その足元にある床に敷かれた石版にヒビが入り、一足飛びでブレイドと距離を詰める。

 お互いの剣の間合いよりも遥かに近い距離まで瞬時に詰めた。

 面食らったブレイドは反応が遅れ、イスカリオスの膝蹴りを顎に受けてしまう。

 とっさに後に飛んでダメージを減らしはしていた。

 しかし、イスカリオスは続いてその大剣を前に突きつけ、ブレイドを貫こうと迫る。

 ブレイドはかろうじて体を捻り刃を避けるも、イスカリオスは剣を持っていない方の拳を繰り出していた。


「ナメんじゃねえええええええ!!」


 ブレイドはさらに前に一歩踏み込み、イスカリオスの拳を頬でかすめながら、交差するように拳を突き出した。

 槍で貫くが如く直線的に走った拳は、ガツッ! と鈍い音を立ててイスカリオスの口元に直撃する。

 トロルの拳を破壊する拳打の直撃。

 手応えがあったーーと、思った。


 しかし、ブレイドの口元が歪む。


「バケモノか……」


 そう呟いたブレイドの腕が掴まれる。

 イスカリオスは全くダメージを受けていない様子でブレイドに向かって剣を振り下ろした。

 ブレイドも片手で剣を切り上げ受け止めようとするが、力が段違いだ。

 強力な斬撃を受け止めたブレイドの剣は自身の肩にめり込んだ。

 ソーエンの剣は片刃のため、刃がついていない部分を押し付けても切れはしないが、ブレイドの顔が苦悶にゆがむ。


「ブレイド様!」


 ククリがナイフを二刀流にしてイスカリオスの背中に飛びかかる。


「喝!!」


 イスカリオスが声を上げると同時にその体から赤色をした魔力が放射された。


「うあああっ!?」


 暴風に吹き飛ばされるようにククリの体が宙を舞い、天井に叩きつけられた。


「ククリさん!」


 メリアが叫ぶ。


「テメエエエエエエ!!」


 ブレイドがイスカリオスの剣をかち上げる。


「【千の斬撃ぃ! 万の刺突っ! 喰らわせようともまだ足りず!】」


 ブレイドが重い斬撃でイスカリオスを押し止める。


「【我が怒りに灼かれて燃えよ剣っ!】――蒼炎新古流奥義【がら那由多なゆた】」


 魚人族サハギンや魔王エステリアに対して放った超高速の乱撃技。

 手加減のしようがないほど殺傷能力の高い技だ。

 ブレイドは既にイスカリオスを殺しにかかっている。


 ガガガガガガッ、と金属がぶつかる音が連なって響く。


「いい腕だ。

 だが、剣筋が素直過ぎる」


 イスカリオスは息も切らさずにブレイドを評し、剣を捌き切った。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆助兵衛】

『加勢しろ!ブレイドがやられてタイマンになったらお前じゃ勝てん!』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 言われなくとも!


 僕は剣を構えて走り出し、イスカリオスに接近する。



「喝っ!!」



 イスカリオスが怒号を放つと、赤色の魔力が発せられ、壁のように僕に迫ってくる。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【XXX】

『m9(^Д^)プギャー』


【◆マリオ】

『喝っ!』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 封印を一段階解除した剣を横薙ぎに振るう。

 紫紺の光がイスカリオスの放つ赤い光を切り裂き散らす。

 予想外の僕の攻撃にイスカリオスは体ごと意識がこちらに向く。

 僕はさらに踏み込んで剣を突き出す。


 同時に、ブレイドも体勢を立て直し、イスカリオスの脳天めがけて上段斬りを放つ。


 二方向からの同時攻撃だ。

 避けられはしないと確信した。


 だから、防ぎきられたことに僕は戦慄さえ覚えた。


 イスカリオスは右手の剣でブレイドの攻撃を受け、左手で僕の剣を握る両拳をガッチリ掴んで剣戟を止めていた。


超越者イレギュラー三歩手前と言ったところか。

 まだ、成長途上だな」


 イスカリオスは僕の手を握る拳に力を入れる。

 岩に挟まれたように僕の手が押しつぶされていく。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ひいいいいいいい!! ホムホム逃げてええええ!』


【XXX】

『m9(^Д^)プギャー』

【◆マリオ】

『いや、チャンスだ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ああ、捕まえてくれた。


「穿け! 【ライトスティンガー】」


 僕の掴まれた拳から魔力を発出する!

 イスカリオスは顔を歪め、僕の手を離して後に飛び退いた。


「むぅ……」


 イスカリオスは手のひらを見つめる。

 ここからでは詳細は分からないが軽い火傷程度のダメージだろう。

 モンスターの固い体でもやすやすと貫くライトスティンガーであの程度のダメージか……


「まずいな。あの野郎、体内にとんでもねえ魔力を溜め込んでやがる」


 ブレイドは剣を構えたまま僕に近づいてきてそう言った。


「あの赤色の魔力か」

「ああ、アレを自由自在に噴出させることで、攻撃を加速したり、こっちの剣筋を歪めてやがる。

 それ抜きでもキツイっていうのに……」


 ブレイドが弱音を吐いているのを初めて見た。

 だが、不適当とは思わない。


 イスカリオスの戦闘力は以前戦った魔王エステリアすら凌駕する。

 あの時、奴が全力でなかった可能性はあるが、それはまた別の問題だ。


「イスカリオス様! おやめください!

 その方たちは賊などではありません!

 私を助けてくれた方々です!」


 メリアが悲痛な叫びを上げる。

 だが、イスカリオスはメリアの方を向きもせずに、


「関係ない。そなたも邪魔立てするな」


 と言い切った。

 だが、メリアは引き下がらない。


「いえ! 邪魔します!

 この方達はいたずらに戦乱を招くようなことはしません!

 むしろレクシーに脅されて良いように扱われている今こそがおかしいです!

 帝国が誇る常勝将軍イスカリオスともあろうお方が何故ーー」

「黙れっ!!

 女が戦いに口出しするなと言っておるのだ!」



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『サイテー、女性差別だ。

 ヘイトスピーチだ』


【転生しても名無し】

『まー、この世界じゃ男女同権とはいかないでしょ』


【転生しても名無し】

『言ってる場合か!

 ホムホムに怒られるぞ、お前ら』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ……………………



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆野豚】

『おーい、ホムホムー』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△




「……あなたが言うのか?」

「クルス……さん?」


 体が熱くなる。

 呼吸が荒れる。

 魔力回路が荒れるように駆動し始める。

 僕の意志に呼応するように。


「あなたが言うのか……

 メリアを、戦いにそぐわない弱い女を戦場に放り込んだあなたが……」


 安全な場所で暮らしていくのがふさわしい少女を戦場に引きずり込んだ。

 戦うことのできないメリアにとって、過酷な任務に送られたのは悲劇だった。

 旅の途中も何度も命の危機にさらされ、人の死を間近で見せられ苦しみ傷ついていた。


 目的があるのだろう。

 そのための道具として抜擢したのだろう。

 今のように異論も反論も許さず、彼女の意志を封殺して。


「メリアの言うとおりだ。

 あのレクシーとかいう女の言葉は聞き入れているのに、何故メリアの言葉を聞き入れない」

 

 僕はメリアを守り続けた。

 メリアの命を、体を、心を、彼女のすべてを守りたいと思った。

 大切だからだ。

 ああ……だから僕は怒っているのか。

 僕の大切な人を傷つけるからだ。


「イスカリオス将軍。

 あなたはメリアを人として扱っていない。

 自分の目的のために道具として、使い潰すつもりで扱った。

 その事を僕は許せない!」


 地面を蹴って、距離を詰める。

 全力で剣を振るうが、イスカリオスは容易く捌く。


「……貴様の苦言、たしかに受け止めよう。

 儂は卑劣な男だ」


 僕の剣と交差するようにイスカリオスの蹴りが伸びてきて、僕はわき腹にダメージを食らう。


「いずれその罰を受けることもあるだろう。

 だが、今はまだこの首くれてやるわけにはーー」


 大剣を振り上げるイスカリオス。

 僕はダメージのせいで動くことができない。


「いかんのだ!!」


 そう叫び、柱のような大剣を僕の頭目掛けて振り下ろす。

 避けきれない、はずだった。


「でやあああああああ!!」


 僕の後方から閃光のような斬撃がイスカリオスの大剣目掛けて打ち込まれた。

 イスカリオスは押し負け後ろにたたらを踏む。


「今だ!! ぶち込めぇっ!!」


 ブレイドの叫びに突き動かされたように僕は、剣をまっすぐ突き出した。

 剣はイスカリオスの腹部の甲冑に突き刺さり、貫通する。


 だが、


「喝!!」


 イスカリオスの怒号と同時に剣が刺さらなくなる。

 魔力放出の力が僕の腕力を上回っている。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『剣で切れないってどうなってんの!?

 もうこの人が魔王でいいんじゃね!?』


【◆マリオ】

『パワーもスピードも技術も凄いけど、最大の強みはこの鉄壁の防御力だな。

 対多数の戦場において敵の攻撃を受け付けない戦士なんて戦術そのものをひっくり返すぞ』


【◆助兵衛】

『地力が違いすぎる。撤退だ。

 逃げるだけならなんとかなるだろう』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 却下だ。

 逃げるつもりはない。

 ここで奴を倒す。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『あかん……ホムホムさんキレちゃってる……』


【転生しても名無し】

「剣も効かない、魔術も効かない、そもそもパワーもスピードも段違い。

 どうしろと……」


【転生しても名無し】

「マリオなんか無い?」


【◆マリオ】

『ゲーム的に考えるなら、地力が無理なら地形やオブジェクトを利用した攻撃ならダメージを与えられそうなものだけど、この空間にある椅子や机をぶつけたところでなあ……』


【転生しても名無し】

『高いところから突き落とすとか水で溺れさせるのも無理だし……

 何の特徴もないただのだだっ広い地下室だからね』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ……いや、そうでもない。


 アレが思ったとおりに作用すれば……やってみる価値はある。


 僕は剣を引き、後退する。

 入れ替わるようにブレイドがイスカリオスに追撃する。

 後ろを振り返るとメリアが立ちすくんでいた。


「メリア、壁に張り付くくらい離れていろ」


 僕がそう言うとメリアはコクリと頷いて走っていった。

 十分に離れたのを見届けて、今度はブレイドに声を掛ける。


「ブレイド!

 こっちに引け!」


 ブレイドはあぁん? と怪訝そうな声を上げるが、イスカリオスの猛攻に圧倒されており、舌打ちをしながら間合いを取り、僕の後方に下がった。

 当然、イスカリオスは追ってくる。


 僕は剣を前面に構え防御姿勢を作る。


「フンッ!!」


 イスカリオスの豪剣が僕を剣もろとも叩き斬ろうと振り下ろされる。

 僕は剣を握る手を離した。

 同時に、振り下ろされたイスカリオスの腕に飛びつき、腕と脚を絡ませる。

 攻撃を外されたイスカリオスの体勢は前方向に重心が偏った。

 肩の関節を脚で極め、そのまま投げ飛ばす。

 イスカリオスの巨体は前方に転がった。

 彼の投げ出された地面には魔法陣が形成されている。

 その魔法陣めがけて僕は腕をかざし、


「【ライトニング・ブレイズ】!!」


 全力で攻撃魔術を放つ。

 青い稲光がイスカリオスを飲み込むように立ち上る。


「喝っ!!」


 イスカリオスは魔力を纏い、僕の攻撃を遮断する。

 その程度の力で自分を倒せるつもりか、とでも言いたげに怒りの形相で僕を睨みつけてくる。

 たしかに、僕の魔術ではあなたの鎧は剥がせない。

 だけど――


「全て持っていけ――【ライトニング・ブレイズ】! 【ライトニング・ブレイズ】!」


 イスカリオスの足元にある魔法陣は【継続】の効果のある魔法陣。

 この魔方陣に干渉された魔術は発動状態が()()する。

 すなわち、僕のライトニング・ブレイズは一度放ってしまえば、魔法陣の効力が続く間、常に敵を灼く光を放ち続ける。

 そこに連続して同じ魔術を重ねがけしていけば――


「ぬぅ……謀ったな!」


 イスカリオスの膝が落ち、甲冑にヒビが入る。

 青い稲光は絡み合うようにして密度を高め、その魔力を結合、凝縮していく。


「【ライトニング・ブレイズ】!」


 さらに魔力を注ぎ込む。

 威力を増していく魔力の奔流はイスカリオスが纏う赤色の魔力の壁を破って体を傷つける。

 やはりイスカリオスの魔力放出は魔術ではない。

 食材と料理が異なるように術として発動していない魔力は魔術の素の域を出ない。

 異なる魔術同士を干渉させて現象を発生させる魔法陣の影響を受けることがない、

 つまり、イスカリオスの防御力は魔法陣の影響を受け、重ねがけされることはない。


「グハッ!」


 イスカリオスは口から血を吐いた。

 かなりダメージが蓄積されているようで、力を振り絞るようにして魔法陣の外に逃げようとする。


「させねえよ」


 ブレイドはイスカリオスの動きを先回りして剣を振るう。

 ブレイドの剣戟を受け止めるためにイスカリオスは魔法陣の中に抑え込まれている。


「クルス! 出し惜しみすんな! あと一息でオチる!」

「言われなくても!」


 僕は魔力を振り絞る。


「くらえ! 【ライト――】」

「うおおおおおおおおおお!!」


 僕が魔術を発動する直前、イスカリオスは雄叫びを上げて、大剣を床に突き刺した。

 床の石板が爆発したかのように弾け飛び、僕やブレイドを襲った。


「いてて……って、オイ!?」


 驚きの声を上げるブレイド。

 僕も目を疑った。

 床に形成されていた魔法陣は床ごと粉々に砕かれて、その効力を失っていた。


 イスカリオスは半径2メートル以内を灰燼に帰し、地面に刺した大剣により掛かるように立っていた。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ホントに人間!? このオッサン!!』


【転生しても名無し】

『かなりダメージはある! イケルで!!』


【◆マリオ】

『いや、ホムホムの魔力はガス欠で、ブレイドも消耗している。

 不利なことに変わりない』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 3人共、ボロボロだった。

 イスカリオスの甲冑は形を残さないほど破壊されており、右肩から胸にかけて巨大な筋肉が顕になっていた。

 ブレイドも上半身の衣服は破り捨てている。

 僕も連射した魔術のコントロールが追いつかなくて服の袖が焼け落ちている。


「人間相手にここまで追いつめられたのは初めてだな……

 その力、轡を並べることがかなわんとは残念なことよ」

「ハァ? 差し出した手を弾き飛ばしたのはテメエだろうが。

 俺が下手に出るなんて滅多にねえんだぞ」


 このままだと、どちらかが死ぬまで戦いは続く。

 二人共当初の目的を忘れているようだ。

 片方が死ねばーー


「ここまでにしておけ! イース!」


 その声の方を全員が向いた。

 声の主はイスカリオスの手下の……裁縫道具を貸してくれた男だ。


「その男を殺せば、娘の刻印が回収できなくなるぞ。

 今までの労力や犠牲が水の泡だ。違うか?」


 男の言葉にイスカリオスは歯噛みする。


「それに、お前をそこまで追い詰める連中だ。

 賊や小悪党にしては洗練されすぎている。

 一旦、話を聞いてみるのもいいんじゃないか?

 お互いに利があるかもしれんぞ」

「そんな呑気な……」

「お前が切羽詰まり過ぎなんだよ」


 そう言って、男はフードを外す。

 赤みがかかった茶髪をした30歳位の男だ。

 兵士、というには小奇麗な印象を受ける容姿の持ち主だが……


「ビ……ビクトール様!?」


 驚きの声を上げたのはメリアである。

 その理由はビクトール本人の口から語られる。


「その名で呼ばれるのは久しぶりだよ。

 如何にも、俺は元ビクトール・フォン・カルハリアス。

 イスカリオスの兄に当たる男だ」


 苦笑しながらイスカリオスに歩み寄る。

 武器も持たずに警戒もせずに悠々と。


「好き好んで茨の道を進む必要はない。

 お前は頑張りすぎだ」

「あなた……兄上がそう仰いますか!?」

「オイオイオイオイ!!

 話が見えねえよ……兄だの何だの。

 剣を引くってことでいいんだな?」


 ブレイドが兄弟の会話に割って入る。


「ああ、そのとおりだ。

 レクシー嬢が目を覚まされたら何を言い出すか分からないけどな」



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『あの女はアカン。

 さっさとトドメをさせ』


【転生しても名無し】

『あんな鏡餅みたいな女でも侯爵令嬢だぞ!

 殺したらダメだって』


【◆助兵衛】

『ま、時間稼ぎだな。メリアに眠らせてもらっておけ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 とりあえずは一件落着か……


 僕は脱力し、地面に尻餅をついて、うなだれた。


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