第24話 迎撃開始。僕は封印を解く。
怪鳥兵は約20m上空から矢を浴びせてくる。
クロスボウを持った船員が迎撃しようとするも頭上から降り注ぐ矢から逃げるのが精一杯で反撃が追いつかない。
僕はメリアを守りながら甲板を駆け抜ける。
布で覆っていた閃光石の籠にたどり着くと、メリアはすぐ様、石を掴む。
「詠唱している余裕はない」
「分かっています」
メリアは腕を真っすぐ伸ばしたまま肩の後ろに回し、グルリと一回転半させて石をほぼ直上に放った。
閃光石は怪鳥の腹に直撃し、爆発を起こした。
力尽きた怪鳥は甲板に叩きつけられたが2体のスケルトン兵は飛び降りて、こちらに向かってきた。
僕はソーエンで買った槍を左手で持ち上げ、スケルトンの頭蓋に突き刺した。
頭蓋は砕け散るも、首から下がまだ動いており、僕に向かって襲いかかる。
だが、右手に握った剣でその体を横に真っ二つに叩き切る。
骨だけのその体はバラバラになって散らばった。
後ろに続いてきたもう一体のスケルトンも、槍を振り下ろし、頭から股間にかけて切り裂くように破壊した。
休む間もなく、次から次へと怪鳥兵は襲ってくる。
しかも、閃光石による攻撃を脅威と見たのか、メリアに狙いを定めて矢を放ってきた。
当然、そんなものを通しはしない。
メリアの正面に立った僕は矢を剣で捌く。
だが、今度は背面から矢が飛んできた。
間に合わない――
メリアの背中に矢が1メートルと迫ったその瞬間、高速で近寄ってきた人影が矢を叩き落とした。
「乱戦で背中を見せるなんて正気ですか?
壁に背中を預けなさい」
ククリはそう言いながらも、目にも留まらぬ速さでナイフを振るい、メリアを襲う矢を弾き落としていく。
メリアは忠告に従い、船の船室の壁に背中を預け、そこから再び閃光石を放る。
さらに一体、怪鳥兵が撃墜された。
「それにしても空からとは……
敵もバカじゃなさそうですね」
「むしろ狡猾だ。
危険地帯を抜ける直前の消耗しきって、緊張感が切れかけているところを狙って総攻撃をかけてくるんだから」
それに、攻撃が始まった瞬間から僕の魔力探知が反応している。
霧を払ったのはおそらく魔術。
怪鳥兵が襲撃しやすいようにしたつもりなんだろう。
怪鳥の背中か、迫ってくる船のどこかに魔術師がいるに違いない。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『てか、敵多すぎねえ!?
怪鳥兵だけでも厄介なのに、船から敵が乗り込んできたら手に負えなくなるぞ!』
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分かっている。
状況は圧倒的に不利だ。
怪鳥兵に対して有効な攻撃手段を取れるのがメリアだけなのが厳しい。
敵もそれを見越してかメリアを執拗に狙い始めている。
今度は二体同時に怪鳥兵がメリアに向かって突撃してきた。
浴びせられる矢の雨を僕とククリは必死で弾くが、そのプレッシャーにより、メリアの狙いが崩される。
石は怪鳥兵の横をすり抜け、上空に飛んでいった。
2組の怪鳥兵はまっすぐこちらに突っ込んでくる。
僕とククリは矢を捌くので手一杯で、突撃には備えられない。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『ヤバイヤバイヤバイ!!
ホムホムなんとかしろ!』
【◆助兵衛】
『メリアはククリに任せろ。
お前が攻撃に転じないと状況が変わらん』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
簡単に言ってくれる。
攻撃に転じたくても空を飛ぶ敵に有効な攻撃手段はない。
どうすれば――
「【跳ね蟷螂】」
目の前の空間が歪み、ヒュン、という風切音が聞こえ、続いて肉が引き裂ける音が響き、二体の怪鳥は空中で両断された。
「雑魚相手に手こずってんじゃねえよ」
メリアが背にしている船室の屋根の上にブレイドは立っていた。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『キャーー! ブレイド様! 抱いて!』
【転生しても名無し】
『今のなに? なにやったの?』
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おそらく、斬撃による真空波……だと思う。
しかし、10メートル近く離れた敵を切り裂くとは。
「クルス。ここは俺とククリに任せろ。
お前は追ってきている船に飛び移って殲滅してこい」
ブレイドの発言にメリアが声を上げる。
「そいつはムボーだぜ! クルスさん一人で全殺しなんて」
「嬢ちゃんが思っているより、コイツは強えよ。
お守りしながら戦うよりかは、効率的だぜ。
ダラダラ戦い続けても、オレがいる限り負けはしないだろうが、犠牲は増えるぜ」
ブレイドの言葉にメリアは歯を食いしばって黙り込み、籠から石を取り出す。
「私が……空を飛んでるのは全部撃ち落とします!
だからクルスさんも!」
「了解した」
僕は船尾に向かって駆けた。
左舷にも右舷にも、すぐそこまで敵の船が並んで迫ってきている。
「バルザーーック!! 左に思い切り舵を切れ!」
僕の叫びに対して、
「アイアイサーー!!」
バルザックの声が響き、船は大きく左に旋回する。
左舷から迫っていた船の船首を軸に180度旋回する。
こちらの船と敵の船が平行に並ぶ形となり、外側に陣取ったことで挟み撃ちを免れる。
そして、手前の敵の船に最接近し、互いの船体の距離は5メートル位まで詰まる。
僕は難なく船を飛び移った。
甲板上にはスケルトン兵がひしめき合っている。
何体いるのか数える気にもならない。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『今、数えた!
全部で35体!』
【転生しても名無し】
『↑すげえな! 野鳥の会の人!?』
【◆助兵衛】
『正面から大勢を相手しようと思うな。
逃げ回りながら、狭い場所に誘い込んで一体ずつ潰していけ』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
了解した。
僕は群れて襲ってくるスケルトンの集団の横にある船の手すりに飛び乗り、一気に駆け抜ける。
集団の後ろに飛び降り、最後尾の一体を剣と槍でメッタ斬りにする。
スケルトンの集団は振り返ろうとするが、その前に持っていた槍を思い切り投げつけた。
放った槍は3体のスケルトンの頭蓋を串刺しにした。
続けて、
「薙ぎ払え! 【ライトニング・ブレイズ】!!」
さらに目の前のスケルトンをまとめて、魔術攻撃で破壊する。
そして、後ろを向いて走り、敵集団と距離を取った。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『今ので10体! 残り25体!』
【◆助兵衛】
『数が減っても油断するな。
ガレー船ということは船内にまだ漕手の兵が残っているぞ』
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もう一つの船と合わせれば100体以上いてもおかしくないということか……
僕は剣の柄に目をやる。
柄にはフローシアによって巻かれた5本の糸が等間隔で並んでいる。
スケルトンは耐久力が高い。
一撃で確実に倒すだけの火力が必要だ。
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【転生しても名無し】
『え? それ外しちゃうの!?』
【転生しても名無し】
『ちょ! それ外すとまたあの気持ち悪い書き込みが!!
ホムホムも意識持っていかれちゃうよ!』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
フローシアは強くなったら外してもいい、と言っていた。
あの時は自分が成長するなんて思いもしなかったが……今なら大丈夫かもしれない。
僕は一本の糸を解く。
剣から魔力が溢れ出るのを探知した。
僕の状態は……大丈夫、何も変わらない
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『よっしゃ! ホムホムちゃんとレベルアップしてる!』
【転生しても名無し】
『一気に蹴散らしちまえ!』
【XXX】
『m9(^Д^)プギャー』
【転生しても名無し】
『ん?』
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何だ今のは? 一瞬、クラリとしたぞ。
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【XXX】
『m9(^Д^)プギャー』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
また……
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【転生しても名無し】
『しっかりしろ! ホムホム!』
【転生しても名無し】
『この煽り顔文字書き込んでる奴なんなんだよ』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
なんだか、顔みたいなのが流れる度に変なノイズを感じる……
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【XXX】
『m9(^Д^)プギャー』
【◆マリオ】
『てす』
【転生しても名無し】
『今のはどうだ?』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
今のは一瞬で顔が消えたから、特に影響はない。
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【◆マリオ】
『多分だけど……これこの前のあの気持ち悪い書き込みと同じヤツだ。
ホムホムの反応見ると、この顔文字が最新レスに置かれているとホムホムに影響を与えるみたい』
【XXX】
『m9(^Д^)プギャー』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
ッ……その推測は正しいだろう。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『なんつー鬱陶しい煽りだよ!』
【◆助兵衛】
『ならば、その煽り厨に最新レスを踏ませなければいい話だ』
【◆マリオ】
『俺に任せて。
あんまりみんなで書き込みすぎるとそれはそれでホムホムが混乱するから』
【XXX】
『m9(^Д^)プギャー』
【◆マリオ】
『ほい』(このレス間、わずか0.3秒)
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
……妖精に剣の呪いに、僕の思考回路内はどうなってしまうのか。
と、自分の行く末を心配していると、スケルトンたちは距離を詰めてきていた。
一体のスケルトンが先行して、サーベルを掲げて飛びかかってくる。
僕は下から切り上げるように剣を振るう。
すると、剣は薄っすら紫色の光の尾を引きながら、スケルトンの体を両断した。
さらに、切断面から魔力が伝播し、その骨の体はバラバラに砕け散る。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『すっげー! 魔法剣だ!』
これなら勝つる!』
【XXX】
『m9(^Д^)プギャー』
【◆マリオ】
『させるか』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
これなら、浅く切りつけるだけでも致命傷を与えられる。
行くぞ。
僕は両足に力を込め、スケルトンの集団に突撃する。
振り下ろされるサーベルや斧の攻撃をすり抜け、剣を叩き込む。
紫紺の光がスケルトンの体を貫き、次々と爆散していく。
▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽
【転生しても名無し】
『今のが20体目! 後15体!』
【転生しても名無し】
『いや、さっき視界の端の方で床が開いたのが見えた。
漕手が上がってきはじめている』
【XXX】
『m9(^Д^)プギャー』
【◆マリオ】
『甘い』
△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△
剣の呪いはマリオとかいう妖精が完璧に封じ込めてくれている。
おかげで何の制約もなく戦える。
「【ライトスティンガー】!」
剣を持っていない方の腕でスケルトンを貫き、そのまま、他のスケルトンに目掛けて投げつける。
怯んだスケルトンに接近し剣で叩き切る。
僕らの船の方角に目をやる。
船から逃げるように飛ぶ怪鳥兵が、メリアの閃光石をまともに食らって上に乗っているスケルトン諸共海に落ちるのが見えた。
空を旋回している怪鳥は二匹、これならまもなく全滅させられる。
【◆助兵衛】
『油断するな! 敵の動きがおかしい!』
助兵衛の言葉に僕はハッとする。
スケルトンが僕から距離を取っている。
先程まではがむしゃらに突っ込んできていたのに。
「っ……!」
僕は足元に気配を感じて、反射的に飛んだ。
次の瞬間、僕の立っていた床を突き破って巨大な腕が突き出された。
その手が僕の足首を掴み、床に引きずり倒されてしまう。
床に背をつけた僕が首を僅かに上げると、穴から巨大な人型で、青色の肌をしたモンスターが現れた。
巨人族か!
獰猛そうな顔をした巨人族は大口を開けて僕を喰らおうと引き寄せる。
圧倒的な力に為す術なく持ち上げられてしまうが、焦らず、掴んでいる指を剣で切り落とす。
「グオオオオオオ!!」
巨人族は体に似つかわしい巨大な声帯を震わせて低い悲鳴を上げた。
僕は懐に飛び込んで剣を縦に横に薙ぎ払う。
紫紺の剣閃が巨人族の腹に刻まれ、緑色の血を吹き出させる。
「フッ!!」
僕は息を吐き出して、渾身の斬撃を巨人族の首に通し、そのままの勢いで体を回転させ、踵回し蹴りを頭部に叩き込む。
僕の胴体よりも大きい巨人族の首は体から離れ甲板を転がって海に落ちた。
まさか、この狭そうな船倉の中にあんな巨人族を控えさせていたなんて……ん!?
魔力探知のセンサーが反応する。
僕の横側からその魔力は放出され、まっすぐ向かってくる。
回避は間に合わない!
咄嗟に左手に魔力をまとい、剣と十字に構えてその魔力を受け止める。
ボンっ! という爆発音と、高熱が感じられた直後、その衝撃で僕は吹き飛ばされた。
反射的な防御が功を奏したのかダメージはそこまでひどくない。
さっきのはファイヤーボール。
炎属性の攻撃魔法だ。
放ってきたのは10メートルほど離れた位置に立っている紫色のローブを着たオークだ。
メイジオークという奴だ。
魔術が使えないオーク族の突然変異で魔王軍の兵士の中でも中堅あたりに属する強力なモンスターだ。
コイツが戦闘開始時点から魔力をちらつかせていた犯人か。
メイジオークは再び魔力を充填し、魔術を発動させる。
先程と同じくファイヤーボール。
人間の頭ほどの火球が僕にめがけて飛んでくる。
それを横に飛んで避ける…………
しまった!!
僕が避けた火球はそのままの勢いで後方にある僕達の船の船体に直撃した。
爆発音と同時に船体の板が剥がれ、大きく船は揺さぶられた。