第14話 ダーリスにて待機。ありがとうを形にする
僕たちは買った武器を家に届けてもらうよう手配し、鍛冶屋を後にした。
明日の朝には短槍2本、長槍1本とメリアが押し付けられた背負籠一杯の閃光石がブレイドの家に届く。
「ブレイドさん、私が爆発物を送りつけてきた、ってお怒りになられませんでしょうか……」
「武器を調達しただけだ。問題ない」
「そうですか……」
うーん……と、うなりながら歩くメリアは浮かない顔だ。
僕たちは街の中心部に戻ってきた。
今、歩いているのは衣服や雑貨を取り扱う商店が並ぶ通りだ。
店は扉を取り外し、街路から店内の商品である衣服や雑貨が目に入るようにされている。
メリアはキョロキョロしながら眺めており、ある店の前で立ち止まった。
その店は髪につけると思われる飾りを取り扱っているのだろう。
人の頭を模した首だけの人形の髪の部分に商品を取り付けている。
「見たいのか?」
「え……ああ、実は」
メリアははにかみながら答える。
武器の調達が完了したいま、僕の用件は完了している。
僕はメリアを連れて店に入った。
「わあ……」
メリアは細かい細工を施された色とりどりの髪留めに目を奪われたまま動かない。
時に手に取ったり、時に頭に当てて鏡で自分の姿を見たりを繰り返している。
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【転生しても名無し】
『女の子がアクセサリー好きなのはどこの世界も一緒だな。
あと、買い物が長いのも』
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よくわからない。
あんなものでは頭部を守れないのに。
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【転生しても名無し】
『そういう目的で作られていないからな!』
【転生しても名無し】
『あれは女の子を可愛く見せるアイテムなんだよ。
言わばステータス向上アイテムだ』
【◆与作】
『メリアちゃんって元々結構な商会の娘だったんだよな。
冷遇されてるとはいっても、アクセサリーくらいは持っていただろうし。
なんだかんだで昔を懐かしんでたりするんじゃないかな』
【転生しても名無し】
『そう聞くと、切ないね……
服もらったりお風呂入れたりした時も喜んでいたし。
本来、冒険の旅とかする子じゃないのかもしれないね』
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妖精たちの解析に僕は同意する。
メリアは臆病で、戦うことや厳しい旅に向いている性質ではない。
爆発する小石程度に怯え、市井の人々が楽しむ飾り物や服を楽しめる。
僕とは違うのだ。
戦闘用に作られた僕とは………
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【◆野豚】
『何言ってるの。
ホムホムも十分楽しんでいるじゃない
食事にお風呂に綺麗な景色に、それにこないだはお酒まで楽しんでいたし』
【転生しても名無し】
『せやな。
最初のうちはもっとロボット臭かったけど、人間らしくなってる気がするよ』
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人間らしく……僕が?
僕は自分の胸に手を当てた。
人間と違い、僕の胸に心臓はないから脈打たない。
僕は間違いなく人間じゃない。
だけど人間らしくなっている。
僕は……変性している?
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【転生しても名無し】
『成長っていうんだよ、それは』
【転生しても名無し】
『いいじゃねえか。
人間に囲まれて生きていくにはそっちの方が都合いい。
メリアちゃんだって兵器のホムホムより、人間臭いクルスさんのほうが好きだと思うぜ』
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好き……よくわからない。
僕にとって、メリアは仮想目的だったはずだ。
生きるという目的を遂行するための道標になれば、と彼女と旅をしてきた。
だけど、今は……
「お父さん、本当に買ってくれるの!?」
声の方向を向くと、小さな女の子が男と会話をしている。
「ああ、お母さんが寝込んでいる間、いい子で弟たちの世話をしてくれたからな。
頑張ってくれたお前に、お父さんからのありがとう、の印だ」
「お父さん……ありがとう!!」
女の子は男の腰に抱きつく。
男の手のひらには布でできたの髪飾りが乗せられていた。
しばらく時間が経ち、ようやくメリアが店内の物色を終えた。
「あっ! クルスさん、すいません。
夢中になっちゃって……」
メリアは照れくさそうに笑いながら、店の玄関にいた僕のもとに戻ってきた。
結局、メリアは見ていたばかりで何も買っていない。
僕は店を出ると、日が傾き始めていた。
しばらく通りを歩き、角を曲がって店が見えなくなったところで、僕は立ち止まった。
「クルスさん?」
メリアは突然立ち止まったことに疑問を感じているようだったが、僕はメリアに向き直り、持っていたものを差し出した。
青みがかった緑色の髪飾り。
布でできていて、蝶のような形をしている……リボンというらしい。
店内の他の客や商品見本から見るに髪を結ぶのに使うらしい。
メリアが店内のいろんなものに夢中になっているうちに会計を済ませておいたのだ。
「これ……私に……?」
僕は頷く。
メリアは両手でリボンを受け取り、じっと見つめている。
「メリアの髪の毛が伸びた。
肩にかかっている。
結ぶものがあったほうが良いと思った。
僕も髪の毛を束ねてもらって、心地よいから」
僕は自分の束ねられた後ろ髪をなでながら、リボンを付けるべき理由を述べる。
メリアはその碧翠色の瞳で僕の目を見る。
リボンの色はメリアの瞳の色に似たものを選んだ。
それが、メリアにふさわしいと思ったから。
「いいんですか?
クルスさんはこういう飾りとか、その、必要じゃないものとか、好きじゃないと思ってたんですけど」
僕は再び頷く。
「メリアは好きなのだろう。
だったらそれは必要なものだ」
僕はメリアに言うべき言葉を探す。
人間はこういう時、どういう言葉を使うのか、考え、探し、口にする。
「あと……メリアは頑張っているから。
僕一人じゃここまできっと来れなかった。
僕からの……ありがとうの印だ」
僕がそう言うと、メリアは開きそうになった口を自分の手で隠した。
碧翠色の瞳は潤んでいる。
「そんなの……私の方こそ……
私がクルスさんを巻き込んで……痛い思いや怖い思いをさせ続けているのに!
どうして……ありがとうなんて……」
メリアの声は震えていて、消え入りそうな程小さかった。
巻き込まれた、確かにそうかもしれない。
だけど、僕がメリアについていくのも、メリアを守ろうとするのも自分で選択したことだ。
傷ついたことも自分で選択した結果だ。
そして、僕はその結果を良い結果だと考えている。
きっと、僕ひとりでは、今の僕にはなれなかった。
メリアは手で自分の目をゴシゴシと拭って。
「嬉しいです!
本当にありがとうございます。
こんなにうれしいプレゼント、初めてもらいました。
きっと、一生大事にします!
おばあちゃんになってもこのリボンを私はつけますから!」
満面の笑顔でそう言うメリアに、僕は何故か目を合わせることを躊躇ってしまう。
その理由はわからないけど、ひとつ確かなことがある。
僕はメリアを喜ばせることが出来た。
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【転生しても名無し】
『ホムホムッ!最高だよ……お前は!』
【転生しても名無し】
『俺達のホムホムがどんどんリア充になっていく』
【◆野豚】
『結局、プレゼント選びも僕達の意見聞かなかったしねえ。
でも、やっぱホムホムが選んでよかったよ』
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妖精たちも満足しているようだ。
メリアは目を輝かせながら手に取ったリボンを見つめている。
さて、と。
僕は衣服の袖に手を入れる。
ソーエンの衣服の袖は広く、小物をしまえて便利だ。
そして、取り出したものをメリアに差し出す。
「……あのー、これはなんでしょう?」
「ソーエン製のロングナイフだ。
刃渡りは30センチ。
片刃ではあるが、切れ味は良いし突きにも向いている。
使い方は船旅中にブレイドにでも聞けばいい。
接近戦では閃光石は使えないだろうから、小回りの利く携行武器を持っておくべきだ。
とりあえず腰の布にでも挿しておけ」
「あ、はい」
メリアは腰の布にナイフを挿す。
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【転生しても名無し】
『ホムホムwww最高だwwwお前はwwwwwww』
【転生しても名無し】
『俺達のホムホムは俺達のホムホムだったwwww』
【転生しても名無し】
『逆だろ!逆ぅ~ーーー!!
そっちは事務的に先に渡して、後にリボン持ってこいよ!!』
【◆オジギソウ】
『キュンキュンしていた私の胸のときめき今すぐ返せ』
【◆助兵衛】
『脇差し突きつけて……切腹でもさせるのかと思ったわ』
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妖精たちが騒がしいが、まあいいだろう。
僕は踵を返し、ブレイドの屋敷に戻ろうとする。
しかし、手をメリアに握られた。
「あのっ! 実は、私もこのリボン見ててクルスさんに似合うと思ってたんです!
でも……クルスさんはこういった飾り嫌がるからやめておこうと、買わなかったんですけど……
やっぱり、買って、プレゼントさせてください!」
メリアは僕の手を引いて、先程の店に戻るため、走り出した。
僕ははじめて人からプレゼントというものをもらった。
メリアと同じ型で紫紺のリボン。
僕の瞳の色に合わせたのだと、メリアは言っていた。
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【◆五月雨きょうすけ】
2日ほど投稿をお休みします。
次回投稿は土曜日の午前中を予定しています。
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