第13話 ダーリスにて待機。メリアと物資の調達を行う。
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【転生しても名無し】
『これ、何が起こってるの? 3行で』
【◆体育教授】
『異世界のホムンクルスにこのスレ見えてる。
ホムンクルスは少女と旅をしている。
スレ住民はホムンクルスにあーだこーだ好きなこと言って反応を楽しんでる』
【転生しても名無し】
『いつも乙。
体育教授は3行でレスするのになんのこだわりがあるの?』
【◆体育教授】
『実は元陸上部。
三段跳びの選手をしていたので
リズムが染み付いている』
【転生しても名無し】
『なるほど、分からん』
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僕たちはブレイド・サザンと和解することに成功した。
というより、彼が勝手に怒り、勝手に襲ってきて、勝手に満足したのだが。
どちらにせよ、彼は僕達の旅に同行してくれるという話で落ち着いた。
ただ、彼はそれなりの立場にいる人間であり、仕事を引き継いでからの出立になる。
ブレイドの口添えにより、バルザックはダーリスーアマルチア間における禁制物資の密輸に一枚噛ませてもらえることになり、その打ち合わせに東奔西走しているらしい。
と、いうことで出立までの3日間、僕とメリアには自由行動の時間が与えられることになった。
僕とメリアは今、ブレイドの屋敷に滞在している。
ブレイドの屋敷はダーリスの郊外にある大邸宅だ。
その敷地内には、20以上の部屋があると推測できる3階建ての本宅の他に4つの離れがある。
僕とメリアに与えられたのはその離れの一つ。
森の中にあったフローシアの家と同じような部屋の作りで、広すぎず狭すぎない家だ。
ブレイドと戦った後の僕は全身がひどく損傷しており、宿泊場所について、すぐ布団に横になり、機能停止した。
翌朝、僕は布団から起き上がり、自己検査を行う。
自己検査の結果は良好。
予想以上に回復している。
ポジティブな計算エラーだ。
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【転生しても名無し】
『嬉しい誤算というやつだね』
【転生しても名無し】
『回復力が高いって便利だな。
負傷して、その度に入院とかしてたら旅どころじゃなくなる』
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ホムンクルスの戦闘力や装甲自体はノーマルの人間と大差ない。
ただ、継戦性能は魔獣級モンスターに匹敵するレベルで設計されている。
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【◆助兵衛】
『スペックの向上よりも燃費の良さや耐久性に重点をおいた設計思想か』
【転生しても名無し】
『これでブレイドみたいな戦闘力があれば、魔王軍イチコロじゃね』
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それができればな。
ブレイドはおそらく超越者だ。
人類において突然変異的に発生するとされている、異常に戦闘能力の高い個体。
その戦術価値は少なく見積もって並の兵士100人分に相当する。
サンタモニアでも長年に渡って、その発生の仕組みや再現手段について研究を続けているが成果はないらしい。
妖精たちとの交流を切り上げて、僕は居間に向かう。
テーブルには食事が用意されていて、メリアが朝食を摂っていた。
メリアは既に活動していた。
「クルスさん、大丈夫ですか?
死んだように眠ってましたけど」
「問題ない。回復した」
メリアはソーエンの民族衣装に着替えていた。
薄桃色の生地に花が、腰に巻いた白い布には葉の模様が描かれている。
「あっ、これはブレイドさんがくれたんですよ。
外を歩き回るならこの国の衣装を着たほうが心象がいいからって」
メリアは立ち上がり、その場でくるりと回って僕に服を見せつける。
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【転生しても名無し】
『和服(風)メリアちゃんキターーーーーー!!』
【転生しても名無し】
『ふう……食事中に立ち上がるとは、はしたない』
【◆まっつん】
『メリアちゃんを褒めろ!
キレイだって褒めろ!
頼む! オレの代わりにほめてやってくれぇええええええ!』
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「綺麗だ」
僕がそう言うと。
「そうですよね。
独特の作りですけど、素敵ですよね。
あ、クルスさんの分もありますよ」
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【転生しても名無し】
「三分の一も伝わっていない……」
【転生しても名無し】
「ホムホムの伝え方が悪い」
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どうしろと言うんだ。
朝食を終え、僕も用意されていた服に着替えた。
紺色の衣服で、形はメリアのものと同じだ。
着替えた姿をメリアに見せると、彼女はニヤニヤしている。
「クルスさん、また女の子と思われているんですね。
いえ、すごく似合っていらっしゃいますよ。
ちょっと、こっちに来てください」
僕はそう言われて、鏡のついた台の前に腰掛ける。
メリアは僕の髪に手をかける。
手には液体がついており、僕の髪になすりつけるようにして、髪全体をふわりとふくらませるように持ち上げる。
最後に後頭部の髪の毛を束にして掴み、持ち上げて、紐で束ねた。
「こちらのほうが似合いますね」
僕は鏡に映った自分を見る。
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【転生しても名無し】
『ポニテホムホムキタあああーーーーーー!!
うわああああああああああ!!』
【転生しても名無し】
『ふう……ホムホムの性別は曖昧、性別は曖昧』
【転生しても名無し】
『バルザックが見たら酒が止まらなくなるね』
【転生しても名無し】
『ワイ将、フローシアちゃん派からホムホム派にFA希望』
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フローシア……そういえばフローシアの魔導書について、ブレイドは満足していたが何が書かれていたのだろうか。
僕とメリアは家を出る前にブレイドに挨拶をするため、本宅を訪れる。
ブレイドは書斎と思われる部屋で書類の山に向き合っていた。
「おう。二人共めかしこんで遊びに行く気満々だな」
ブレイドは流暢なサンタモニア語で話しかけてきた。
昨日とは違い、キチンと折り目の付いた民族衣装に身を包んでいる。
「ウチの若い衆を案内役につけてやる。
それと、コイツを持っていきな」
ブレイドはソーエンの貨幣が入った袋を僕に投げて渡す。
金色の貨幣の光はまばゆく、かなりの金額であると思われる。
「何から何までもろて悪いな、キョーダイ。
この借りはイフェスティオについたら返すからよ」
メリアはソーエン語で感謝の意を表したが、ブレイドは笑う。
「あの、私のソーエン語どこかおかしいでしょうか?」
メリアはサンタモニア語でブレイドに問うた。
「気にするな。お前はそのままでいい。
あと、カネのことも気にするな。
お前らの持ってきたアレとバルザックのオッサンとの商売で出る利益からすれば、はした金もいいところだからな」
と、ブレイドは肩を震わせながら再び書類に目を落とした。
僕たちは案内役の男を従え、街に繰り出した。
そらは小さな雲がところどころ浮かぶだけで晴れ渡っている。
昼間の街は人通りも多く、また道端にも食品や雑貨を販売している店が出ており、活気にあふれている。
そして道行く人、特に男は昨日以上に僕達を注視しているような気がする。
「ソーエン国は野蛮な人ばかりだと聞いていましたけど、全然そうじゃないですね。
売っているものはすごく丁寧に作られたものが多いですし、子どもたちやお年寄りも皆笑顔ですし」
「伝達された情報よりも自分で確認した情報のほうが精度が高いのは当然だ」
「はい。反省しています」
メリアはそういって頬を掻いた。
「出立前に武具を揃えたい。
調達場所はあるか?」
僕は案内役の男に質問する。
男は言葉少なに鍛冶屋が作ったものをその場で売っている工房があることを教えてくれた。
「フローシアさんから借りた剣じゃダメなんですか?」
メリアは僕の腰に下げられた剣を見ながら聞いてきた。
「この剣は今後も使う。
だが、予備の剣は必要だし、槍みたいに射程が長い武器も持っておきたい。
ここからイフェスティオに向かうためには魔王軍の勢力下を通り抜ける必要がある。
戦闘が連続する想定をしている。
武器はいくらあっても困らない」
「分かりました。じゃあ、早速向かいましょう」
僕らは鍛冶屋に向かって歩き出した。
街の中央部からやや離れた路地にその工房はあった。
案内役の男が先に入り、なにやら説明をした後に僕らは招き入れられた。
その工房には所狭しと武器が並んでいた。
短剣、長剣、ブレイドが使っているような大太刀、長槍に短槍、斧、金槌、投擲剣等……
殆どがソーエン独特の作りではあるが、サンタモニアの支給武器とは段違いに良い出来なのは見て分かる。
剣は刃が片側にしかついていなく、扱うのが難しそうなのであきらめ、槍を見せてもらう。
握ったり振り回したりしながら、馴染むものを吟味する。
その間、メリアは投擲武器を見ていた。
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【転生しても名無し】
『港でメリアちゃんが小石を投げて、バルザックの手下に直撃させたけど、心得あるのかな』
【◆バース】
『せやせや! フォームもキレイだったし抜群のコントロールやったで』
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メリアに投擲武器の使用経験があるのか聞いてみた。
「ああ……護身用ということで、小さい頃から手ほどきを受けていたといいますか。
ナイフを投げたりは出来ないですけど、石を投げるくらいは」
メリアが説明すると、老齢の鍛冶師が話に割って入ってきた。
「いいものがある。裏に出ろ」
鍛冶師に言われ、僕とメリアは建物の裏口から外に出る。
広い裏庭があり、おそらく武器の試し切りなどに使うと思われる柱に藁を巻きつけてモンスターを形どった標的が何体も地面に刺さっている。
鍛冶師は掌に収まる大きさの紙包みをメリアに手渡し、中の石を投げてみろ、と20M先の標的を指す。
メリアはうなずいて、紙を剥がし、丸い小石を取り出す。
右手に小石を握り、左手を右手に添えるようにして胸元くらいの高さに構える。
ゆっくりと左足を浮かせ、小石を持った右手を背中の後ろに回し、投擲した。
人差し指と中指にかけるようにして放った小石はかなりの速度で直進し、標的に直撃し――
ドッカーーン!
と、爆炎を上げ標的を粉砕した。
メリアは起こった現象に目を見開いている。
「武器の材料である鉱石を発掘するために使われている閃光石じゃ。
これは衝撃を受けると爆発するように出来ておる。
武器と言うには程度が低いし、売り物にはしていないがお嬢さんの護身用ならば役立つじゃろう。
好きなだけ持っていくが良い」
「こ、こんなアブないもん持って歩けるワケねーだろ!!
誤爆したらどない落とし前つけてくれんねん!?」
メリアは涙目になりながら大声で受取を拒否する。
伝わるようにソーエン語で話しているが、鍛冶師は意に介さない。
「大丈夫じゃて、この空紙に巻いておけばどれだけ衝撃を与えても爆発せんと思うし、多分」
そう言って、閃光石をぎっしり詰め込んだ背負籠をメリアに押し付ける。
「自信ないんかい!!
こんだけあったら船が沈むわ!
ナメたこと抜かしとんちゃうぞ!!」
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【転生しても名無し】
「さっきのメリアちゃんの投球フォーム見た?
良かったよな!」
【転生しても名無し】
「良かったな……裾から見えた白い太ももが」
【転生しても名無し】
「腕振り上げた時に見えた細い二の腕も良かった……!」
【転生しても名無し】
「もっと暑い国に行こうぜ! メリアちゃんが薄着になるような!」
【転生しても名無し】
「水着回を所望する!!」
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メリアがうるさい。妖精たちもうるさい。
僕は工房に戻り、再び武器を吟味した。