第94話 僕は最後の戦いに挑む
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【◆リュシアン】
『さて……と』
【転生しても名無し】
『復活乙!』
【転生しても名無し】
『こん!』
【◆リュシアン】
『おい、人語を話せるやつだけが口を利け』
【◆野豚】
『これは失礼しました。
大魔王陛下。
つきましては、お話したい義がございましてーー』
【◆リュシアン】
『しゃらくさい! お前らと依り代とのやりとりをこの1年余り嫌という程見せられておったわ!
無責任な提案に無節操な猥談に無意味な雑談……呆れるを通り越して人間の業の深さを痛感させられたわ。
今更かしこまったところで我のご機嫌を取れると思うな!』
【◆助兵衛】
『そうか。なら体裁を取り繕う必要はないな。
ホムホムに手を貸せ』
【◆リュシアン】
『何故、貴様ら風情に指図されなければならん。
そもそも妖精などとのたまっておるが貴様らもただの人間であろう。
しかも相当にできの悪い』
【◆まっつん】
『誰のデキが悪いんじゃあああああ!?』
【◆マリオ】
『先輩! ROMってて!』
【◆リュシアン】
『フン。道具に心を持たせ、よその世界を引っ掻き回した挙げ句、最後は世界をかけてこの大博打か。
外の世界の連中というのは随分と享楽的と見える。
いや、それも当然か、貴様らにとってはこの世界は盤上の駒を動かす遊戯に過ぎん』
【◆与作】
『そんなことない!
俺は本気でメリアちゃんもホムホムもその周りの人間達のことが大好きだ!
彼女たちが笑って過ごせる世界になってほしいと心から願っている!』
【◆リュシアン】
『この依代は死ぬぞ。
身体も魂も一切残さず虚空に消える。
我を顕現させた時点で、既に貴様の願いは潰えている』
【転生しても名無し】
『やっぱ……無理なの?
奇跡的な何かが起きてホムホムは無事でペーシスを倒してメリアちゃんと幸せな余生を送ることはできないの?』
【◆リュシアン】
『無理だ。そもそもこやつは依代として不完全過ぎる。
生命の理ではなく、人間の技によって作られたこやつの肉体は魂魄である我と相性が悪い。
因果としての強固さがない生命が我の顕現によって変容しようものならば、この世界に存在を保てなくなり数分と経たぬうちに光となって消えるまで。
せっかくの顕現がこの有様では我も期待はずれというものだ』
【◆マリオ】
『その数分をホムホムのために使ってあげてくれないかなあ?』
【◆リュシアン】
『我がそんなことをする利点があると思うか?』
【◆バース】
『ワイらに感謝されるし、帝国の人々が救われる』
【◆リュシアン】
『道化にしても笑えんわ』
【◆野豚】
『だったらどうして、死を受け入れずに魂を残すようなことをしたんだ?』
【◆リュシアン】
『我に質問をするのか?』
【◆野豚】
『応えないなら当ててやろうか。
君もアカシアによって定められた世界にうんざりしていたんだ。
運命を捻じ曲げようとその力を奮ったが、何も変えられなかった。
魔王軍は滅び、神代は終わり、人の世が来て、再び人と魔の戦いが始まる。
それは神によって定めしことだからとあきらめるには君は力を持ちすぎていた」
【◆リュシアン】
『何故……我がアカシアの存在について知っていたと……』
【◆野豚】
『たかが一魔王のペーシスが知っているものを大魔王たる君が知らないわけない、と思ってカマかけただけ。
その様子じゃアタリかな?」
【◆リュシアン】
『小賢しい真似を……』
【◆野豚】
『なにしろこちとらできの悪い小市民なんでね。続けるよ。
なにかやりたいことがあった。
だけど、それはアカシアに否定された。
当然、君はアカシアのシナリオを覆そうとしたが上手くいかず、残された時間が少ないことを知り、イチかバチかで魂を貶すことでこの世界の理から外れた。
現に君は凄いよ。
ホムホムを媒介してだけど、異世界の僕たちと直接コミュニケーションを取っている。
世界の理に介入する一歩手前の大偉業だ』
【◆リュシアン】
『……そうだ、一歩手前にまでたどり着いた。
だが、同時にそれは我が大望を無意味なことに貶めた。
貴様らがこのホムンクルスを特異点とし、アカシアのシナリオを粉砕したのだからな!
我が魂を貶し、何億年かけてでも行おうとしたことをものの一年たらずでやってのけた!
もはや我に執着する望みはない……』
【転生しても名無し】
『まあ……そりゃあ凹むわな。
1000年ずーっと剣の中に押し込められて虎視眈々と機会を伺っていたら、遊び半分の他人にかすめ取られた日にゃあ』
【転生しても名無し】
『↑煽るんじゃねえ!』
【◆オジギソウ】
『いやいや、大魔王さん。
あなた、目的と手段が逆転してない?』
【◆リュシアン】
『何だと?』
【◆オジギソウ】
『だってそうじゃん。
アカシアの定められた運命を拒んだのは世界の何かが気に食わなかったからでしょ?
もし、全てが思い通りになっているのならば全てが定められた運命だろうと、それは自分が神に愛されているとでも思い込んで気にならなくなるんじゃない?
それが些細なことか大きなことかは聞くつもりはないけど、あったんでしょ。
反発したくなるような何かが』
【◆与作】
『だとしたら今は千載一遇のチャンスじゃないか。
ペーシスも言っていたけど、ホムホムに関わったヤツはアカシアの未来を変革させるんだろう。
なんでふてくされてるんだよ』
【◆リュシアン】
『……今更、我の願いなどをこの世界に持ち込んでなんとする。
既に世界のシナリオはアカシアの手元から引き剥がされた。
それだけで、溜飲も下がってしまったわ』
【◆アニー】
『その時の自分が今、目の前に現れたらなんて言ってくると思う?
「このジジイ! 今なら縛られること無く世界を変えれるのにこんなところで愚痴りやがって!」
あたりかな』
【転生しても名無し】
『おいおい、お前ら大魔王を煽って良いのかよ!
やりたい放題やれって言ったら、それこそペーシスと手を組んだり』
【◆助兵衛】
『それはない。もし、ホムホムの不利益になることがやりたいことならコイツは一瞬の時間でも動いている。
溜飲が下がった? そんなタマが大魔王なんて名乗るものか。
ホムホムと俺達には恨み骨髄だろう。
八つ当たりの一つでもしてやりたいんだろうさ。
それをせずにうじうじしているって事は、コイツとホムホムは利害が一致しているということだ』
【転生しても名無し】
『マジで!? なに大魔王さんこっち側の人?』
【◆リュシアン】
『お前らの側に括られるなど……反吐が出る。
たまたま、この状況において利害が一致していると言うだけでそれ以上でもそれ以下でもない!』
【◆バース】
『分かった分かった。
もう好きにしい。
やけど一つだけ言っとくわ。
ホムホムも言っとったけど、この世界を動かしているのは必死で生きている連中や。
やる気のない死にぞこないはさっさと成仏の準備でも始めとけ!』
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「やれやれ……なにか面白いことが始まる予感がしたが、どうやら思い過ごしだったな」
「クルスさん! クルスさん!
しっかりしてください!」
「無駄だ。魂を喰われたんだぜ。
肉体は生きていようともはや抜け殻さ。
……それにしても、君の感情はいい味をしている。
人間など食い飽きたと思ったが……
たまには原点に帰ってみるのも悪くないな」
「いや……来ないで!!」
「クルスくんに見せてあげたかったなあ。
君が生きたまま無惨に食いちぎられる姿をーー」
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【◆リュシアン】
『いつまで寝ている。
さっさと目を開け!』
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……言葉が……声が……聞こえる?
まぶたを開いた。
視界に飛び込んでくるのは、地面にへたりこんだメリア。
そして、僕に腕を押さえられているペーシス。
「意識が……ある?」
目が見える。声が出る。音が聞こえる。
「よかった……」
メリアの口から溢れる安堵の言葉が胸を和らげる。
心もちゃんと僕のものだ。
「どういうことだ……?
こんな力……君には?」
『久しいな、ペーシス。
悪食は1000年経っても変わらないようだな』
僕の口から意識していない言葉が出る。
何だこれはーー
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【◆リュシアン】
『貴様、自分のしたことを忘れておるのか。
この我を顕現させるなどという身に余る不遜な行為をやらかしたうつけ者め』
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大魔王……リュシアン!?
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【◆リュシアン】
『ようやく、まともに会話できるようになったな。
封印されたままでは何を言っても
m9(^Д^)プギャー
としかならんかったり、単純な言葉しか使えなかったり、なかなか不愉快な思いをしたぞ』
【◆マリオ】
『じゃあ……なんで剣を使うたびにしつこく出てきたのさ』
【◆リュシアン】
『嫌がらせに決まっておろう』
【転生しても名無し】
『根性悪い!』
【◆リュシアン】
『ともかく、依代よ!
今はこの体に我と貴様の相乗り状態だ!
貴様の因果の脆弱さも肉体と精神が繋がっていれば、身体の崩壊を少しは遅らせられる!
我の遠慮にむせび泣いて感謝せよ!』
【◆江口男爵】
『説得を成功させた俺たちにもな』
【◆ミッチー】
『お前糞ほどの役にもたってねえよ』
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「その口ぶり……そして、先程の顕現詠唱……
やはり、リュシアン陛下ですか!?」
『そういうことだ。
仮初の身ながら1000年の永き眠りからようやく解放された』
リュシアンの言葉にあの余裕ぶっていたペーシスの顔が強張っている。
が、すぐに相好を崩す。
「陛下が取り憑かれたというのであれば、私の取るべき行動は一つです」
まぶたを閉じ、腰を曲げたかと思ったその瞬間、剣による刺突が僕の眼前に迫る。
咄嗟に左手で剣の腹を叩き、軌道を逸らせた。
ペーシスは口が裂けるほど口角を広げ、上半身全体をビクンビクンと震わせながら声を発した。
「俺の……俺の退屈を止めてくれよおおおお!!
魔王も超越者も全然敵じゃないんだよおおおお!!
趣向を変えてみることにした。
命の価値を肉体的な強さではなく、内面にある感情の機微にあると推論付けた。
おかげで数百年は楽しめたが……それももうすぐ終わる。
ついさっき、極上の感情を味わってしまったからな。
もう、この世界に俺が食らうに値するものは殆ど残っていない」
『そうか。ならば疾く死ね』
「嫌ですよおおおおお!!
クルスくんとリュシアン陛下!
二人も俺の大好物が目の前にぶら下げられて死ねるわけないじゃないですかああああ!!
殺して踏みにじって!
その余韻に浸りながら人間をつまみ食う!!
ヨダレが止まらねええええええ!!」
瞳孔が開き、ヨダレだけではなく汗も涙も鼻水もありとあらゆる分泌が放出され、体は蠕動している。
情緒の乱れも凄まじい。
先程までは文字通り人の皮をかぶっていただけということか。
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【◆オジギソウ】
『超怖いんですけど!!
さっきまでも怖かったけど、もっと触りたくない感じの怖さなんですけど!!』
【◆リュシアン】
『これがヤツの本性だ。
美食家など程遠い。
その性根は食欲、破壊欲、征服欲によってのみ生きる暴食の魔神。
醜悪で下品でこの世の全てに害をなさずにはいられない救いようなき邪悪。
ヤツを殺すことも我のしたかったことの一つだが、アカシアの目に映す未来にヤツは存在し続けていた。
この時代よりもはるか先の時代にまで』
【◆マリオ】
『なるほど、たしかに利害は一致するな』
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ああ、こんなヤツ世界に置いておける訳がない。
「メリア。巻き添えを食わないように離れていてくれ」
「で……でも」
「メリアに比べればこんなヤツ大したことない。
よっぽどコッチのほうが効いた」
メリアの叩いた頬をさすって笑いかける。
上手く笑えているか不安だったが、メリアの表情が緩んだのを見てホッとした。
メリアの離れていく背中を見届けて、僕はペーシスに向き直る。
「さて、じゃあ始めましょうか。
お時間も取らせられないでしょうし……
初手からぁ、全力でええええええええ!!
ウビャォオオオオオオオオオオオ!!」
ペーシスの魔力が膨れ上がり、体が变化していく。
膨れ上がった筋肉は硬化し、鎧のようになり、顔の皮を引き裂くようにして口が顔の半分以上を占めるまで大きく広がった。
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【転生しても名無し】
『ぎゃああああああ! グロいグロい!』
【◆ミッチー】
『ビジュアル的に怖すぎなんですけど……』
【◆リュシアン】
『フン。こちらも魔力を解放する。
本来の貴様なら数瞬で燃え尽きてしまう出力だが、そこは我が調整してやる。
2分間。
それが貴様のタイムリミットだ』
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了解した。
と、脳内で返答すると全身から黒い魔力が溢れ出してきた。
そして、体には今まで感じたことのないとてつもない力が宿っていることを感じる。
これならば……戦える!
封印を完全に解かれ、リュシアンの魔力が注ぎ込まれることによって剣も姿を変える。
刀身は巨大化し、柄には華が開くように装飾が生えるように出現する。
これが僕の使ってきた剣の真の姿か……
禍々しくも生きているかのようなその存在の鮮烈さを僕は美しいと思った。
リュシアン……力を貸してくれ。
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【◆リュシアン】
『いちいち口に出すな、こそばゆい。
貴様は貴様の、我は我の目的のためにこの一瞬に力を尽くすだけよ』
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ああ……そうだ。
僕はメリアと……この世界のために、ペーシスを倒す!
明日、最終話を投稿します。