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第90.5話 生涯最期の一太刀と英雄の登場

※ブレイド視点です

「あと何体だ……っと!」


 敵のホムンクルスの剣を体を捻って避け、スキのできた脇腹に通すように剣を振るう。

 二つに分かたれた敵の体が俺の背後に転がった。


「……フンッ!」


 俺の言葉を無視してイスカリオスはその巨体をはるかに上回る超大剣を薙ぎ払い複数の敵を吹き飛ばした。

 奴が使っている大剣はエステリアがあの得体のしれねえ『どこでも倉庫』から引っ張り出してきたモノだ。

 絶対に壊れない剣をコンセプトにありとあらゆる手段で剣を鍛え上げたら誰も使うことができないほど巨大なクズ鉄が出来たそうな。

 そんなクズ鉄だが武器の使い方が荒い常勝将軍様にとっては割れ鍋に綴じ蓋というやつで、全力で振り回しても壊れないことにご満悦らしい。


 で、エステリアはというと……


「数かぞえてる余裕なんてないっしょ!

 どーせ全部倒さなきゃいけないんだから余計なこと考えないッ!」


 敵ホムンクルスから放たれる魔術攻撃から逃げ惑いつつ、スキを見て尻尾や爪で反撃している。

 陰陽の特性に早々に気づいたハイムは手下どもにエステリアに対しては魔術攻撃を徹底させている。


 それにしても、つくづくクルスは優秀だったなって。

 アイツならどんな状況でも敵の数を瞬時に数え上げて報告してくれた。

 予想より少なけりゃあとひと踏ん張りと気合いを入れなおせるし、多けりゃ策を練ろうと頭を切り替えられる。

 とはいえ、無い物ねだりを延々としているほど愚かしいこともないってな。


 壁際に追い詰めた敵の腹部に蹴りをくらわせる。

 壁と挟まって人間なら内臓破裂で勝負アリなんだが……


「……おっと!」


 突き刺さる俺の脚を破壊しようと肘を振り下ろしてきた。

 それをかわして剣で脳天を貫き、かき回すようにして搔っ捌く。

 そこまでしてようやく動きを止めた。


「危機感もなければ痛みもねえか。

 クルス(兄貴)に比べて随分な劣化ぶりじゃないか!」


 俺の皮肉にハイムが大笑いする。


「劣化!? 違うな! これは進化だ!

 恐怖や痛みによる警告がなければ危険を見落とすという発想こそが人間が自身を完成された生物であるという思い上がりの現れ!

 真に完成された生物にとって警告はいらぬ!

 必要な状況分析さえできていればネガティブな感覚は不要!」


 おかげでめんどくさいことこの上ねえ。

 完全に活動停止するダメージを与えない限り、餌を欲しがる鯉のように群がってきやがる。

 たかが100体そこそこの数で魔王と常勝将軍とこの俺をここまで疲弊させてるんだからな。

 もしこんな連中が大挙して他国を襲い始めたら……


「ゾッとしねえなッ!」


 後ろに飛び、イスカリオスの背中に身を預ける。


「あつくるしい」

「そう言うなって。

 今は仲間同士だろ?」

「共通の敵を持っているだけだ。

 状況が変わればこの剣の切っ先は貴様に向く」

「そうかいそうかい。

 じゃあ、この状況どうやって切り抜けるよ」


 正確には数えていないが50体近くの敵が残っている。

 半数以上は倒したが、疲労とダメージが蓄積した状況でコイツらの相手は厳しい。

 一体一体が金龍隊の末席クラスの力を持っている上に消耗というものがない。

 もし、俺たちの中の誰かがヘマして拮抗状態を崩してしまえば一気に追い詰められる。

 それくらい事態は緊迫している。


「撤退も視野に入れたほうが良い」

「敗走なんて常勝将軍の名折れじゃないかい?」

「最後に勝利すればただの後退だ」

「違いねえ」


 余力が残っている今なら逃げ延びられる可能性は高い。

 エステリアを囮にして全力で走れば、俺とイスカリオスは追撃を振り切れる。

 だが……


「フフ、それはいいね! いい考え!

 クルスくんとおばあちゃんは尊い犠牲ってコトで」


 エステリアが俺たちの隣に飛んできて、考えを見透かしたかのような言葉を吐く。


「ざけんな。そんなダセえ真似するくらいなら死んだほうがマシだ」

「アタシを切り捨てるのは心痛まないくせに」

「当たり前だ。何の酔狂で魔王の身を案じなきゃいけねえんだ。

 散々迷惑かけてきたんだから俺たちのために死ね」

「くあー! 今からでもアッチに寝返ろうかなあ!」

「二人とも無駄口叩く余裕はあるのだな」


 言い合いをしている俺達に呆れるようにイスカリオスが呟く。

 続いて納得させるように、


「ヤツらはそう簡単にはやられん。

 儂らがここの連中をある程度引きつけてやれば後は自力でなんとかするだろう」


 どうやらクルスはイスカリオスに大層見込まれているようだ。

 帝都で暮らしていた日々の中で何度か剣を交えることもあったらしいが、なんとも爽やかな間柄なこった。


「だとすれば、置き土産はしてやんねえとな」


 俺はハイムを見やる。

 ホムンクルスにおぶられて自力で地面にも立っていないが、あの妖怪ジジイは厄介だ。

 俺たちの出方を見ながら適切にホムンクルスを運用している。

 アイツが生き残っていると撤退の可能性が大きく下がる。

 それに、ホムンクルス製造の第一人者である以上、生かしておくことは危険すぎる。

 奴が生きている限りイデアの部屋の計画は止まらない。

 逆に言えば、奴を討てればここに来た目的の半分くらいは達成できたことになる。


「じゃあ、こういうのはどう?」


 エステリアが俺とイスカリオスにゴニョゴニョと耳打ちをする。

 なるほど、ただ逃げ回っていただけというワケじゃないみてえだ。

 食えねえ奴だ。ヘボくてもさすが魔王。


「【我は人類の剣なり】」


 作戦を了承したと言わんばかりにイスカリオスは剣に魔力を集中させ始める。

 大技を発動させまいと、敵が突進してくるが、


「邪魔すんなよ!」

「うっとうしいなあ!」


 俺とエステリアが迎撃する。


「とりま、そこの薄汚いジジイの首はいただくよー!」


 エステリアは敵の頭を踏みつけ高く跳躍し、ハイムに襲いかかる。


「バカめ! スキだらけじゃよ!」


 敵のホムンクルスたちは前方に壁を作るようにしてハイムを守り、宙に浮かんだエステリアに向かって魔術による一斉攻撃をしようと狙いを定めるーーが、


「フフッ、ちょっと〜だけよっ!

 大サービス!」


 エステリアは身にまとったドレスを破り脱ぎ捨てた。

 破られたドレスは瞬時に広がって巨大な黒いスライムになり、敵の群れに覆いかぶさった。

 強力な粘着性と柔軟性を持つそれは瞬時に手足を絡め取り、身体の自由を奪う。


「そいっ!」


 全裸になったエステリアは尻尾をムチのようにしならせて振り回して、ハイムの周りのホムンクルスを弾き飛ばしていく。

 護りがいなくなるのを危惧したハイムは自分を背負うホムンクルスに指示を出し、エステリアから距離を取ろうと逃げ出した。


「やれ! オッサン!」

「言われ……なくともぉ!!」


 逃げるハイムに向かって後方を薙ぎ払うようにイスカリオスの剣が放つ魔力の奔流が襲いかかる。


「ワシをかばえ!」


 ハイムの言葉に反応して射線上にホムンクルスが集まってくる。

 それらを蹴散らしていくイスカリオスの砲撃だが、阻まれたことにより魔力は減衰し、ハイムを追う速度も遅くなる。

 全速力で逃げるハイムを乗せたホムンクルスが壁にたどり着く頃には魔力は霧散しきっていた。


「チッ! 【飛び蟷螂】!」


 俺は斬撃によって真空波を放ち、ハイムを追撃する。

 全部で8発放ったが、ハイムを乗せたホムンクルスは軽やかに足を捌いて回避しきった。


「カ……ハッ!」


 魔力を大量に消費したイスカリオスがその場に膝をつく。


「フォフォフォッフォ!

 決め損ねおったな!

 しかも手札は使い尽くした!

 悪あがきもここまでじゃな!」


 高笑いを上げるハイム。

 だが、その高笑いにかぶせるようにーー


「アハハハハハハハハハ!!

 それがオマエの遺言かなあ!?」


 狂ったような笑いを上げ、エステリアは床に手を着いている。


「『剣の要塞(ソードカタストロフ)』改め、『剣の一夜城(ソードクリティカル)』なんてね」


 エステリアがペロリと舌を出した瞬間、ハイムの足元から何十本もの剣が突き出した。

 無様に逃げ惑っているように見せながら部屋の中の何箇所かに、俺達との戦いで使った『剣の要塞(ソードカタストロフ)』の簡易版を即席で拵えていた。

 そこに俺たちはハイムを追い込んだのだ。

 威力は数段落ちるが、ホムンクルスを破壊するには十分な威力と速度。

 乗っていたホムンクルスごとハイムの小さな体は刃で貫かれた。


「グボワアアアアッ!!」


 汚え悲鳴だ。

 と、ズタ袋のようになって地面に落ちるハイムを見て思った。


「大成功っ! あられもない姿を晒したかいがあったネ!」


 エステリアは上機嫌でハイムの死骸を掴み上げている。


「よし。さっさと逃げ出そうぜ」

「ああ……あと、アイツに服を着せろ」


 オイオイ……オッサンほんのり顔を赤く染めてやがるじゃねえの。

 女とはいえ魔族じゃねえか。

 コイツ、さては女に免疫ねえな。


 帰ったらからかってやろうという愉快な気分でズラかる算段を立てようとした、その時だった。

 勝ち誇ったようにハイムを掴み上げていたエステリアの表情が一瞬にして曇ったかに見えた瞬間、バチバチッ! と音を立ててハイムの体から稲妻が走り、エステリアに襲いかかった。


「キャアアアアアアっ!!」


 悲鳴を上げて床を転がるエステリア。

 稲妻はエステリアの体を灼き、肉をちぎっていく。

 何が起こったのか判断する前に俺は剣を振りかぶってハイムに飛びかかった。


「バカめ」


 断末魔の表情を変えること無くハイムの声が奴の腹あたりから聞こえ、稲妻が俺に向かって放たれた。


「チイイッ!!」


 剣を振り回し、稲妻をせき止めるーーが、斬撃の隙間を縫って俺の体に着弾し、瞬時に体を駆け巡った。


「ガアアアアッ!」


 全身を引き裂かれるような痛みが走り、俺はその場に崩れ落ちる。

 剣を握る手から力が抜け、ガシャンと床に取り落とす。


「くっ……ああッッ!!

 な、なんだこの威力……」


 エステリアに操られたビクトールに全身を焼かれたことがあったが、その時とは比にならないダメージを俺は受けている。

 自分の足で歩くことすらままならない老人の扱える魔術じゃないぞ……


「超一流の超越者二人に魔王まで手を組んでいるとなると、容易くはいかんのう……

 我が本性をさらけ出させたのは流石じゃ」


 刃で切り裂かれたハイムの腹から芋虫のような影が這いずり出る。

 じっくり見るとそれは芋虫ではなく、人間の赤子のようなナニかだった。

 巨大な頭部に対して貧弱でか細い胴体と四肢。

 2つの目は顔の上半分をほとんど覆うかのように大きく、その肌は血管がびっしりと浮かび上がり、老人のようにしわくちゃでグロテスクだ。

 魔物のたぐいは色々見てきたがここまで不快感を覚える姿の生き物を見たのは生まれて初めてだ。


「妖怪みたいなジジイどころか……完全に妖怪だったんだな……」

「醜くかろう。じゃが、その価値観もいずれ消え去る」


 小枝のように細い四肢で這いずり回るハイムを守るようにホムンクルスたちは円陣を作って囲み、そのうちの一人がヤツを抱き上げた。


「たくましい体に強い力が備わるという物理的な生物の優位性はまもなく前時代のものとなろう。

 物理的法則を無視して世界に発現する魔術を備えていれば、必要な肉体などこのくらいで十分なのじゃ」


 大きな目を細めながら笑みを浮かべるハイム。

 立ち上がろうと力を入れるが全身の筋肉が麻痺していてろくに動けない。


「その気持ち悪い姿が人類の進化の先だとか……

 冗談にしても笑えねえ」

「あくまで試行の一つに過ぎんよ。

 この体は生殖機能もなく、運動機能もほぼ皆無じゃからな。

 新人類ネオテニーと名付けてはみたが、これらで社会を構成するのは不可能じゃ。

 それでも攻撃魔術の威力は並程度の錬金術師だったワシが超越者を打ちのめすことができる貴重な形態に違いはない」


 ハイムの目がイスカリオスに向いたと思うと、稲光が襲いかかった。


「喝っ!」


 魔力を前面に放出し、稲光を遮ったイスカリオスだが表情は芳しくない。

 何十体ものホムンクルスと戦った上に、切り札の魔法剣まで使い切っている。

 ヤツの魔力は殆ど残っていないだろう。

 そして、俺もエステリアも瀕死の状態。

 戦況は絶望的だ。


「ふふふ、今日は良い日じゃ。

 新型の戦闘テストができた上に、超越者に魔王という最高の素材が手に入ったのじゃからな。

 そなたらには期待しておるよ。

 その強靭な肉体を使えば、今まで出来なかったような実験ができるじゃろうからな。

 短い付き合いにはせぬから、安心せい」


 オイオイオイオイ……

 楽に殺すことすらしてくれねえのかよ。

 実験動物として扱われて最終的にはあんな化物に作り変えられちまうってか?

 勘弁してくれよ……


 ホムンクルスたちが俺とエステリアを拘束する。

 イスカリオスもジワジワと追い詰められている。


 ここまでか……

 あのジジイに弄ばれて地獄見せられた挙げ句、研究の手伝いをさせられるくらいなら舌噛んで死んだほうが世のため人のためか。


 舌の腹を奥歯に潜り込ませて、覚悟を決めようとしたその時……

 ソーエンを出る前の事を思い出した。




 その日は生憎の雨だった。

 屋敷の玄関で空を見上げた俺に、板張りの床の上で正座をしているククリが傘を手渡して、


「ご武運を、ブレイド様」


 と、床に額をつけるほど深々とお辞儀をした。


「おう。すぐ片付けて来るから大人しく待ってろ」


 最近、ククリは体調を崩していた。

 長旅を終えて帰ってきてから暫く経つのに疲れが抜けないのだろうかと先日、医者にかかれと命令したところだった。

 よって、今回の作戦には連れて行かないことにした。

 顔色の優れないククリは、俺を見つめて口を開く。


「……戦地に向かう貴方様に余計な迷いを生じさせてはならぬ、と自分に言い聞かせてきましたが……」

「バーカ。言いたいことがあれば包み隠さず申せよ。

 俺の器は世界を注いでもまだあまりがあるくらいだ」


 クシャクシャとククリの赤い髪をかき乱す。

 ふわっと広がる花のように甘い香りが俺の鼻孔をくすぐった。


「分かりました。一昨日、医者に身体を診てもらったところーー」


 空を走る稲妻が、俺に向かって降り注いだかのような衝撃を覚えた。






「……何が世のため、人のためだ!?」


 両脇を押さえるホムンクルスの腕を振りほどき、渾身の拳で顔面を殴り飛ばす。


「全身を稲妻で灼かれながら、動けるじゃと!?」


 驚愕するハイムの声を背中で聞きながら剣を拾う。


「テメエのションベンくせえ稲妻なんか……効くかよ……」


 体の感覚がねえ、そのくせ痛みだけが頭をチリチリと灼きやがる。

 だが、それがどうした?

 俺は生きている。生きている限り、剣は振るえる。


 剣を正眼に構え、呼吸を整える。


「チィっ!! 四肢を切り落としてしまえ!!

 動けぬ肉の塊であろうと十分な研究素材だ!!」


 全身全霊の一太刀……言葉にするには容易いが体現するのは難しい。

 だが、この死にかけの身体で目の前の敵を斬るにはそれしかない。

 全ての筋肉と神経を集中させ、この一太刀を生涯最期とするつもり……いや、するのだ。

 俺という剣士が生きてきた時間を、振るった剣を、すべて込める。


 一体のホムンクルスが全速力で俺に目掛けて剣を突こうと突っ込んでくる。


「【この剣は……唯一無二の一太刀なり】」


 生涯最高と確信できる一太刀。

 風のように目に見えず、水が低い所に落ちるように自然と、死を運ぶ。

 目の前の敵を両断していく。

 一人、また一人と。


 目の前の敵がいなくなった時、俺は地面に倒れた。

 だが、生きている。


「ええいっ!! 四方から一斉に刺し殺せ!!

 其奴はすでに死に体じゃ!!」


 起き上がれ。何度も同じことを繰り返せ。


 万回斬れば万の敵を殺せる。

 億回斬れば億の敵を殺せる。


 立ち上がれ。死ぬな。俺は生きている。

 生きている限り……剣を……



「やはり悪あがきするか。

 それでこそブレイド・サザンだ」


 聞き慣れた声によって、身体から切り離されかけていた意識が引き戻される。

 目の前の壁を突き破り、フローシアを抱えたクルスが現れた。

 何があったのやら無くなったはずの左腕がしっかり生えている。


「まるで英雄の登場だな……

 やっぱ舞台役者向きだぜ、お前」

「また帝国劇場で芝居をする予定だ。

 観に来てくれるか?」


 緊迫した状況だというのに淡々とのたまうその姿には余裕が伺える。

 ちゃんと状況を打破できる算段がついているということか。


「当然……ソーエンから一家総出で鑑賞させてもらうぜ」


 俺の返答に対してクルスがフッ、と軽く笑ったような気がした。


「きさまが戻ってきたと言うことは……

 カレルレンめ! しくじりおったか!」


 ハイムはクルスを指差すと、ホムンクルスたちが一斉に剣を構える。


「しくじった……そうだな。

 ヤツは間違っていた。

 だから滅んだ。

 歪んだ願いとともにな」

「あやつが死のうとイデアの部屋もワシの野望も途絶えはせん!

 魔王軍とともに古い人類が消え去った後、この世を統べるのはワシの作り出す新たな種じゃ!

 アセンション計画は止めさせん!

 旧型の欠陥品は古い時代の強者たちとともにここで朽ち果てよ!」


 ホムンクルスたちが一斉にクルスに向かって突進してくる。

 個々の戦闘力ではクルスがギリギリ一枚上手だろうが、これだけの数に群がられては勝ち目が無いはず。

 さあ……どうするつもりだ!?


 クルスが左腕を突き出すと紫色の魔力が出現し、発光し始める。


「【止まれ!】」


 クルスの身体を囲むように紫色の光が広がり、波のように部屋全体に広がった。

 すると、駆け寄ってきていたホムンクルスたちは糸の切れた操り人形のように力を失い、その場に倒れこんでいく。


「エステリア、イスカリオス、巻き込まれるな!

【ライトニング・バースト・ビット】!」


 クルスの腕から何十本もの光の槍が放たれ、それらは宙で一時停止した後に切っ先の向きを変え、倒れこんだホムンクルスの頭部を的確に貫いていく。

 何十体といた強力なホムンクルスは瞬く間に全滅した。

 自らを抱え上げていたホムンクルスを失い、地べたに這っていたハイムは生き残っているが、驚愕に顔を引きつらせている。


「まさか! その腕は!?」

「ああ、アーサーの腕だ。

 僕がフローシアから譲り受けた。

 中に仕込まれた対ホムンクルス用の魔法陣も解析済みだ。

 僕を緊急停止することはお前でもできない」


 クルスは剣を取って脇に構えた。


「待て! きさまがアセンション計画に反対していることは分かった!

 こうしよう! 計画を練り直す!

 ワシとフローシアで新たなホムンクルスを作り上げる!

 魔王や超越者どもを素体とすれば、今まで以上……いや、この世界で最強のホムンクルス器ができる!

 さすれば魔王軍など物の数では無い!

 人類を滅ぼすことなくこの世界をともに救おうでは無いか!

 我が息子よ!」


 ハイムの野郎……勝ち目が無いと分かると命乞いに切り替えやがったか。

 たしかに、数の暴力とはいえ俺たち3人を圧倒したホムンクルス軍団よりもさらに進化した個体が生まれれば魔王といえど敵じゃねえ。

 世界を救う方法としては合理的だがーー


「誰が貴様と手を組むか。

 妾のアーサーを無作法にいじくりまわした挙句、カレルレンのような愚物に渡した時点で貴様は万死に値する」


 ババアは忌々しげにハイムを睨みつけた。

 すると、虫のような短い手足で大仰な身振り手振りをし、


「フローシア! ワシはずっと、いなくなったそなたを想っておった!

 今度会う時はちゃんとワシの純粋な想いを伝えようとーー」

「気持ち悪いわ!

 研究者として見込みがあるから手を貸してやったが、貴様を男として見た事など一度もない!

 妾が男好きの色ボケであることは認めんではないが、相手を選ぶくらいのことはしておる!

 貴様に想いを寄せられるくらいなら小鬼ゴブリンの慰み者にでもなった方が遥かにマシじゃ!」


 言うねえ、ババア。

 赤ん坊らしくハイムが顔を真っ赤にしてキレてやがる。


「ワシは……ワシは……

 この世界の父になるべき器だと言うのに!!」


 激昂したハイムから膨大な魔力の稲妻が解き放たれた。

 だが、クルスは落ち着いた様子で脇に構えた剣を振るった。

 剣からは紫紺の光が刃のように解き放たれ、稲妻を切り裂いてハイムを頭から両断した。


「ぶへえっ! 何かの間違いじゃ……

 ワシはこんな……こんなところでっ……!

 死にたくないいいいいい!」

「死にたくないのは誰だって一緒だ。

 お前の作ったホムンクルスたちだって……そうあるべきだった」


 クルスは冷たく言い放って、さらに刃を飛ばす。

 ハイムの体は微塵切りにされ、床にぶちまけられた。

次回からは最終章。

どうぞお付き合いください。



また、本日未明、完結までの書き溜めが完了しました!

今年の3月から書き始めたこの物語も今月中を目処に完結する予定です。

推敲作業が終わり次第、順次投稿していきます。


最終的に70万文字にも及ぶ大長編を小説初心者の私が書き上げられたのは、読んでくれる方がおり、時には感想をいただけたおかげだと思っています。

少し早いですが、本当にありがとうございました!

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