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第1話 思考回路にエラー。妖精の介入を検知

 僕は魔法王国サンタモニアで作られた戦闘用ホムンクルス。

 第9世代エルガイアモデル。

 個体識別コードは9E079。



 サンタモニアは魔王軍と呼ばれる勢力と150年以上前から戦争状態にある。

 魔王軍は「魔王」を称する魔族が率いる軍団で、人間族の絶滅を掲げて人間族の国に侵攻した。

 サンタモニアは魔法王国と称する程に古くから魔術が盛んな国家であり、進んだ魔術によって国家と民の暮らしを支えてきた。

 僕のようなホムンクルスが作られるようになったのもそのためだ。


 人間は基本的に脆い。肉体的にも精神的にも。

 時々、超越者イレギュラーと呼ばれる個体が出現することもあるが、彼らがまともに戦闘に参加できるようになるまでに少なくとも誕生から10年もの月日を要する。

 そして、まず多胎出産することがない。

 兵器として人間はあまりに非効率的であった。

 そこでサンタモニアの錬金術師は人間に代わって戦闘を行う兵器としてホムンクルスを開発を開始した。

 今から遡ること30年前のことである。


 開発開始から10年、最初のホムンクルス(ファースト・ワン)『アーサー』が誕生した。

 アーサーの開発成功から、サンタモニアはホムンクルスの量産を開始し、今日までに10万体以上のホムンクルスが製造され、魔王軍との戦闘に投入された。

 僕もその1体である。


 ロールアウトしてすぐ、武器の扱い方から敵国の軍備情報まで、兵士として必要な最低限の機能と情報をインプットされ、そして戦場に送られた。

 その戦場は魔王軍によって支配されている城塞都市だった。

 サンタモニアにおいて数少ない人間族の指揮官が囚われているという情報を得た上層部は、その指揮官を奪還するため、僕を含め50体のホムンクルスを派兵した。


 夜襲をかけて、彼の指揮官が囚われているという牢獄にたどり着いた僕たちが見たものは無残に食い荒らされた彼の死骸だった。

 指揮官が囚われているという情報は魔王軍の出したデマだったのだ。

 即座に脱出しようとした僕達だったけれど、すぐに取り囲まれて各個破壊されていった。


 僕は建物の屋根の上を走って逃げている最中、敵兵の攻撃を頭に受けて、茂みに落下した。

 破壊こそ免れたが、運動機能の低下は著しく、戦闘継続は困難である。

 地面に背中を預けて夜空を見上げる。

 やがて、夜が明ければ僕はたやすく発見されるだろう。

 この作戦はすでに目的を失っており、脱出ができないのであれば、1体でも多くの敵を倒すことが優先される。

 だが、こんな状態ではそれすらままならない。


 どうすればいい?


▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽


『______。___!』


△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 なんだ?



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽


『ち___!__って!』

『_______ざ____!!』


△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 頭の中にノイズ交じりの言葉……いや文字列が浮かぶ。

 それはやがて鮮明になっていく。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ちょ!こんなところで終わりかよ!』


【転生しても名無し】

『おちつけ、まだあきらめる時間じゃない』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 なんだこれは?



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『てか、全部あの無能な指揮官が悪い』


【転生しても名無し】

『ホムホム、がんばれー』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ほむほむ?

 無能な司令官……ヴァイツェン司令のことか?

 たしかに情報の精査も行わず派兵し、退路の確保もせず僕たちを突入させ、夜行性のモンスターが多いという情報を無視して夜襲をかけさせた司令の判断は適切ではない。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『お、わかってるじゃん。ホムホム。その通りだよ』


【転生しても名無し】

『ホムンクルスは使い捨ての武器だと割り切ってるんだろうね。それでもひどいけど』


【転生しても名無し】

『ん?てか、これってホムホム俺らのレス、返してね?』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 なんだこれは?

 僕の思考が伝わっている?



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『あ、やっぱそうだ!』


【転生しても名無し】

『いったい何が起こってるんです!?』


【転生しても名無し】

『おう聞こえるか? 聞こえるなら自分の頬っぺたをつねって舌出してみろ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ……僕はそっと自分の頬っぺたをつねって舌出してみた。

 すると―――



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『キターーーーーー!!』


【転生しても名無し】

『ちょ、ナニコレ!? 相互通信できんの?』


【転生しても名無し】

『どうなってんのこれ!?』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 どうなっているのかは、僕が聞きたい。

 頭の中を文字列が流れているせいで、ザワザワする。

 しかもその文字列はサンタモニアの公用文字でないどころか、文法も見たことがない。

 それなのに僕には自然と理解できる。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『お、じゃあ言葉の壁はクリアできてるんだね』


【転生しても名無し】

『おい、だれか3行で説明してやって』


【転生しても名無し】

『無茶言うなし』


【転生しても名無し】

『てか、コテ誰かつけてるやつ書き込んで』


【◆ダイソン】

『てす』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ダイソン?これは名前か?



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『おおーーーーっ!すげえ!コテまで読み取れるんだ!』


【◆野豚】

『こんな感じで読めるか? ホムホム』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 野豚?さっきから君たちは僕のことを『ホムホム』と呼んでいるのか?



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『漢字もいけるんだ! すげえ!』


【転生しても名無し】

『そうだよ! 君はホムホムだよ! ホムンクルスだからね!』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 なるほど、ホムンクルスの頭の2文字を取って繰り返してほむほむ……

 いや、そんなことよりも――



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆体育教授】

『俺たちは別の世界の住人。

 君が見ているものも聞いているものも頭の中で考えていることも手に取るように分かる。

 君が生まれてからずっと、君を見ていた』


【転生しても名無し】

『体育教授有能』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 別の世界? 生まれてからずっと?



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『せやで。ロールアウトした瞬間からずっとな』


【転生しても名無し】

『最初のうちはかったるかったけどな。

 世界観の説明やら軍事教練やらで。

 やけど出撃命令が下りてからここ数日で見ている人増えたなあ』


【転生しても名無し】

『今は深夜だから過疎気味だけどね』


【◆野豚】

『詳しいことは説明が難しいし、興ざめだから省略するよ。

 まあ、暇な妖精が君の頭のなかに住み着いたってことでいいんじゃないかな?』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 妖精……超常的な何かが、僕に取り付いている?



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『その理解でおけ……オッケー』


【転生しても名無し】

『さて、盛り上がってまいりました!』


【◆体育教授】

『ホムホム、君が戸惑う気持ちは分かるけど、とにかく俺たちの考えていることは一つ。

 君にこんなところで死んでほしくない。

 手助けをしたいから、話に乗ってくれないか?』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 死ぬ?『死ぬ』は生き物に使う言葉だ。

 ホムンクルスは物だ。『壊れる』が正しい。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆野豚】

『人と同じ形をして、五感が備わっていて、知識や経験を吸収して思考することができる君のどこが生き物じゃないと言えるのかな?』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 でも僕は人工物だ。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆野豚】

『ならば人間すべてが人工物だよ。男と女の営みのね。

 とにかく、僕らは君が死ぬのが嫌なんだ。

 生きて生きて、その生きざまをもっと見ていたいんだ』


【◆バース】

『せやな。特にワイはハッピーエンドが好みやな』


【◆まっつん】

『あきらめるなよ! とにかくあきらめるな!

 あきらめそうになったらまずあきらめるな!』


【◆微課金】

『あーあ、みんなコテつけまくりじゃん』


【◆ヘロー】

『オマエモナー』


【◆体育教授】

『君が生きるのを手伝わせてほしい。

 生きるというのはまだ知らない何かに出会い、知ること。

 君は生きるのをあきらめていいほど生きちゃいないから……生きろ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 生きろ。


 その言葉は僕の頭にある記憶装置の中枢部分(コア)にインプットされた。

 その領域は『命令者マスターの命令を聞く』『人間に危害を加えない』といった僕の基本行動指針ポリシーをつかさどる部分である。

 それらに異物を書き加えられてしまった僕はやはり壊れてしまっているのだろう。


 だが、不思議と自己検査を行う気にはならなかった。


 生きろ。


 使い捨ての作戦命令よりもよっぽど難解であるが故に、僕の思考回路は熱を発するほど駆動している。

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