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ゾンビ都市  作者: mello
2/2

学校基地

フルスロットルで暫く走った後、冷静になってバイクのハンドルにマウントしてあるiPhoneに表示されているGoogle Mapを確認すると、当初とは全然違うルートを通ってはいるが、残り2.7kmと表示されていた

そこで再びエンジンを低回転に抑えソロソロと徐行運転を開始した

それだけ冷静に動けても頭は真っ白だった

さっきの『アレ』は何だったんだろう

ゾンビ…なのか?

………それ以外に考えられない

今はともかく生存者を発見し、この状況の説明をして欲しい

その後無心で走り15分もすれば目的地の中学校が見えてきた

しかし

その姿は普段とは全く違っていた


いや、正確にはここは地元ではないので『普段の中学校』を知らない為、普段の中学校と違うと言い切ることはできないが常識内の『中学校』の姿ではなかった


敷地沿いの一部は簡単に乗り越えられる柵になっているのだが、その上部には有刺鉄線が複雑に張り巡らされていた

恐らく、この有刺鉄線を張った者も『今外せ』と言われても外せないであろう程複雑であった

敷地沿いにバイクを走らせていると校門が見えた

ここ聖心第二中学校の校門は大門・小門の二つが横並びに設置されていた

小門は人が二人なんとか並んで通り抜けられる程度の横幅で

大門は普段は締め切り車の入出門の時に開けられるのだろう

大門は二つの門で構成されていて二つとも小門とは反対方向へ開くようだが、片方だけ開ける事も可能なようだ

そして門が分離している真ん中で、古そうなしかし錆びてはいない拳大の南京錠で二つの門が同時に動くようにし小門とは反対側の端で、敷地側にフランス落としが落とされ門を固定してあるようだった、また有刺鉄線が複雑に張ってあった

小門の方も、敷地側にフランス落としが落とされ、そのフランス落としに南京錠がなされ鍵をかけられ、上部には当然有刺鉄線が張り巡らされていた

しかし、小門の上部の有刺鉄線だけは簡素に張られ、門の開放を邪魔しないよう配慮されていることが伺えた

つまり中の人は普段、外に用事がある場合この小門を開放し外へ出ていることが分かる

そしてこの小門が出入り口として利用しているという事は、中の誰かがこの校門付近を見張っているのではないかと予想できた

しかし、周囲に人影は確認できず敷地の中に建つ校舎の中も人がいる気配はなかった

先程、バイクで裏側に着きほぼ半周しながら敷地内の様子を伺ったから分かったが

校門が南側にあり、校門の奥には栽培スペースがあり真ん中の門を中心に左右対称に花壇などが設置されている

その奥にL字型の校舎が向かい合って建っており、Lの縦に対し横が短い

そして校門前から、向かって左側の校舎がL字の横部分が手前にあり右側が奥側にある

そのL字の横部分がちょうどの長さで揃えられていて、校門側からは校舎の奥にあるグラウンド・体育館・プールが隠れるように作られていた

校門から向かって右手側の校舎のL字の横部分の直ぐ裏側に体育館があり、その奥にプールがあった、その二つの西側は全てグラウンドで、北西の端に筋トレの器具や体育で使う器具を保管する倉庫があった



それはそうと、中学校の敷地内に入るにはどうしたらいいんだろうか

有刺鉄線によるバリケードが敷かれている以上、外側から力をかけて開く方法はないのだろう

やはり、中の人に開けてもらうのが一番ではあるのは百も承知ではあるが、その中の人が見当たらない


ここは賭けだ

騒音を鳴らし、中の人が気付くのを祈るしかない


俺はHORNET250のギアをニュートラルに入れ、スロットルを全開にする


シュイイイイィィィィィィンンンンン‼‼‼‼‼‼


元に戻す

少し待って反応が無かった為もう一度


シュイイイイィィィィィィンンンンン‼‼‼‼‼‼


その、常時であれば近所迷惑と通報案件な行為を4回程行った時、異変を発見した

東側の校舎の陰から女の子が現れた

薄い紺のデニム生地のホットパンツに青いパーカーを着て、コンバースの赤いオールスターを履いていた

暗い茶のボブ程度の長さの髪を揺らし全速力で走っている


彼女を見付けた為、騒音行為を辞める

HORNET250のエンジンを停め、鍵を抜いてポケットに入れ、降りる

そうした後再び彼女を見ると手ぶらで無い事に気付いた



その右手には不釣り合いな黒光りする金属

拳銃が握られていた


その事を認識した瞬間ふいに頭が後ろへ吹っ飛ばされた



最初は何があったか分からなかった

しかし、すぐに女の子の右手に握られていた物を思い出した

そうこうしている内に声をかけられた


「起きて」


正直、吹き飛ばされた衝撃で頭がクラクラしていたが言う事を聞かなければ撃たれると思い立ち上がる


「ヘルメットを脱ぎなさい」


目の前には、二十歳前後のどちらかと言えば綺麗系な女の子が俺に拳銃を構えているという非現実的な光景が目に入った

俺はガチャガチャと急いでヘルメットのバックルを外し脱ぐ

見るとSHOEIのロゴの部分から右側が半分砕けていた

彼女は体を左右に振り俺を横から見た

視線の高さから首か、耳辺りを見ていると思う


「舌を出しなさい」


「なんだって?」


摩訶不思議な事を言い出した


「舌よ舌。アッカンベー知らないの?」


馬鹿にしたように彼女は舌を出した

普通のアッカンベーというには口が開きすぎている気がするが

まあしかし、敷地内に入るには言う事を聞くしかあるまい

また撃たれても怖いし…………


「早くしなさい!撃つわよ‼」


ある考えに気を取られ、彼女の言葉を無視するような形になってしまった

言われるままに舌を出す

すると先程首の辺りを見た様に目を細め、注意深く観察した後

彼女は右手の銃を下した


「もういいわ」


なんの為の儀式なのだろうか

どうでも良いから早く中に入れて欲しい


「なぁ、外にヤバい奴がいるん…」


彼女は俺の話を聞いているのかいないのか、小門の足元へ行き

南京錠を解錠した


「分かってる」


フランス落としを上げ、小門を開く


「入りなさい」


俺はいそいそとバイクを押しながら敷地内に入った

中に入った後、破損したヘルメットが邪魔に感じ、バイクのヘルメットホルダーに固定した

その間に彼女は小門を再び閉め、フランス落としを落とした


「付いて来なさい」


彼女はこちらを見るでもなく発しサッサと歩きだしてしまった

俺は慌ててバイクを押しながら追いついた

そこで先程の疑問をぶつけてみる事にした


「ところで、もう一人の子はもう撃ってこないよね?」


俺の言葉を聞くと彼女は立ち止まった


「どういう事?」


「どういう事もなにも、俺を撃った銃と君の持っている銃は別の物だ。恐らく狙撃銃だろう」


彼女は少し眉を顰めた


「君の手にあるブローニングM1935の口径は9mm。先ほど後ろを見たが地面に弾痕が明らかに9mmの弾で出来たにしては大きすぎた。しかもヘルメットは砕けてる、貫通したのではなく、砕けてる。だから君の銃ではない」


ここで一度言葉を区切る


「しかも君は銃を撃てない」


すると彼女から反感を買った


「撃…撃てるわよ」


「いや、少なくとも今は無理だ。その銃、マガジンが無いだろう?その状態だと、マガジンセーフティという安全装置が作動していて、発砲することはできない」


彼女はその手にある銃の底を見た

底は空洞だった


「でも、この銃の中に1発だけ入ってるって聞いたけど」


「ああ、マガジンセーフティという安全装置は全ての拳銃に装備されている装置ではないからね。でもそのブローニングには付いてる。」


彼女は下唇を押し上げ『なんだか納得いかない』といった表情で銃をジロジロ見ていたが直ぐに諦めた


「少しは期待出来そう…かな?」


再び歩き出した彼女は独り言のように言った


「え?なんだって?」


「アンタに言ったんじゃない」


その後ろを重いバイクを押しながら付いていった



校舎の奥まで歩き右手側に見えだしたのは体育館だった

体育館の奥に更衣室、更に奥にプールの為のコンクリートが見えた

先程、敷地外から見た時は気付かなかったがこの体育館もバリケードが成されているようだ


体育館は敷地の問題か一方の壁は敷地の外壁、一方は校舎に面していた

グランド側には授業中の換気用と思われる観音開きの扉が3つあった

しかし、真ん中と北側の扉はごちゃごちゃと机や椅子が乱雑に置かれ、机と椅子のバリケードとなっている

それに有刺鉄線を巻き付け、触れられないようにしてあった


唯一バリケードが解かれている南側の換気扉の前まで着くと、独りでに扉が開いた


「凛、彼は?」


扉の奥から現れたのは

黒髪のオールバックに、黒いTシャツにテーラードにスラックス

屈強な体躯にスリッポンのようなスニーカー

歳の頃は30代中頃のといったぐらいの青年…いや中年か

第一印象はいけ好かない、いかついイケメンのおっさん

と言った雰囲気だった

いや、いけ好かないというのは年上の人間嫌いな俺の性格のせいかもしれないが…


「一応、感染者でもないし保菌もしてなさそうです」


彼女は扉を開けた男に俺の状態を報告しているようだった


「そうか…なら、生存者は大歓迎だ」


男は扉を大きく開け、凛と呼ばれた彼女と俺を招き入れた

石段が二つ程あり、バイクを押しながら入るのは苦労したがなんとか体育館の中に入ると、中は常時の体育館内とは明らかに違っていた

入ってすぐ右手側に舞台に上がる為の舞台袖に続く扉

舞台袖は、舞台の両脇にあるようで反対側も同じような作りの様だった

だが反対側の舞台袖へ続く扉の前は何やら、会議等で使用する折り畳み机が何個も連続して置かれ、その上にはガスコンロやガスボンベ、ペットボトルが数本に、そのペットボトルが敷き詰められているであろう段ボールが数個、まな板に調理器具等が整理されて置かれていた

そのまま壁沿いに少し距離を置いて体育館の玄関側には

どうやって体育館内に持ち込んだのかは不明だが自動車が2台並んで駐車してあった

1台は軽ワゴン、1台はSUVのようだ

そして舞台上は真ん中を境に用途を区切っていた

調理器具等が置かれている奥側半分に、これまた会議用折り畳み机が数個置かれ、手前側半分にマットが敷かれた上に布団が6組並んでいた


「バイクはあちらの車の横にでも駐車するといい」


男は体育館の玄関側に駐車してある自動車らへんを指差した

案内されるまま、バイクを押して自動車の横に駐車したが、自動車が壁側を向いている事を不審に思いながらもバイクも壁側へ向けて並んで駐車した

そして振り返り入って来た扉辺りを見ると、扉を開けてくれた男が、この基地内の人間を集めていた

全員で6人居た

布団と同じ数だ

その様子を見ながらとりあえず出入口の扉の方へ戻る


「さて、じゃあ新入りが来たことだし、自己紹介をしようか」


そのまま言葉を繋ぎ


「俺は長尾トラ。一応この集団のリーダーをしている。担当は全般の補助がメインだ」


扉を開けてくれた男がこの集団のリーダーらしい


「あたしは大友凛。担当はバリケードの保守…ってとこかな」


長尾の隣に居た俺を校門前まで迎えに来てくれた女の子が自己紹介した

そしてそのまま


「それでこの子が、長宗知佳ちゃん。担当は狙撃、校門で貴方を撃ったのもこの子」


両手で肩を持ち、自分の前へ連れて来て頭を撫でながら小さな女の子を紹介した

小さな女の子…長宗知佳は全体が紺のセーラー服に首元の襟に2本の白いラインがあり、胸の辺りを赤いリボンで結んでいた

うっすら茶色がかったショートカットで身長が小さい事もあるが、人を見る時少し上目遣いになるようだ警戒心が強いのかもしれない

そこまでは一見普通の幼げな容姿の女子中学生に見えたが、違和感が2点

まず、自己紹介を人にさせている

それからこれがかなり大きな違和感を占めているのだが、彼女はその小さな体に不釣り合いな狙撃ライフルを両手で大事そうに抱えていた


その狙撃ライフルを訝し気に見ていると凛が釈明をしだした


「ちーちゃんは人と話さないの。貴方とだけじゃないから安心して」


ふむ、話さないとな…


「それから私は、相馬亜希って言います。私はあんまり荒っぽい事は出来ないので食事や洗濯のお世話です」


その隣にいたあからさまなお嬢様な雰囲気な女の子が自己紹介した

その『あからさまなお嬢様な雰囲気』の正体は、いわゆる世に言う『童貞を殺す服』だろう

確かブランド名がNO.S PROJECTといったはずだ

白のレースのシャツに、膝辺りまでふわっと隠れる紺のコルセットスカート

そしてシャツの肩にふんわりかかる縦巻きの黒髪、極めつけにこげ茶色の長めの紐ブーツ

なんとなく上品で神秘性を感じさせる雰囲気を醸し出す容姿

炊事洗濯が担当と言っているが要領が良いのか手等は荒れていたりはしない


リーダーと女の子達の自己紹介が終わると、長尾の横に居た男が自己紹介を始めた


「僕は片倉圭吾。銃火器全般の担当になるかな」


年齢は長尾よりかは5歳くらい下に見えた

銃火器担当とは思えない優し気な雰囲気で、それほど長くはない髪をセンター分けにしている

しかし服装はかなり危険な印象を受けた

上はアロハシャツに下は迷彩パンツ、右腿辺りにガンホルスターが巻き付けられていて、そこにはトカレフが入っており、手には長宗知佳と同じようなライフルが握られている


「最後は俺か、俺は黒田鷹。俺は刃物類の担当だな」


最後の男はかなり好戦的な雰囲気だった

髪はかなり短めで坊主といっても差し支えない長さだ

黒のチノパンに白のタンクトップ、その上にホルスターを着けており

左脇の下にS&Wシグマが一つと、左胸のやや上あたりにCOLTナイフが逆さ向きに入っていた

そのホルスターの留め具を外してはナイフを手に持ち、また直しては留め具を留めるという行動をしていた


最後に長尾が締めくくるように言った


「この学校基地にようこそ」


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