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第七十七幕 シスコンが病ならば喜んで罹ります

ギルア城のゲストルームは誰がいつ来てもいいように常に整えられている。

室内に設置されているリネンもバスローブもすべて毎日交換され、もちろん掃除に関しても然り。

私達メイドは急な来客にいつでも応対出来るように心がけているのだ。


そんなゲストルームの鈴蘭を模したシャンデリアの下で、私は人知れず嘆息を漏らしていた。

何も突然メイド部屋からここ――鈴蘭の間に部屋換えされたのが理由じゃない。

さすがに姫だと正体がバレてメイド部屋を使用させてくれないって事は理解出来るから。


じゃあ、どうして私の気分が晴れないのかと言えば、目の前で繰り広げられている光景。

それが原因だ。


「ねー。リクもラズリもいい加減にしてよ!」

私の目の前――扉のちょうど前にて青年二人が言い争いをしている。

ハニーゴールドの髪色の青年と、海色の瞳を持つ青年……つまり弟と旦那様だ。

かれこれ十五分は経過しているだろうか。

二人とも譲り合いの精神を一切所有していないようでお互いに引く気配がちっともない。


「僕以外に姉上のエスコート役がいるというのですか? いたらを是非拝見したいですね」

「俺だろ、俺。俺以外いるわけないだろうが。いい加減、シスコンは引っ込めよ。ここは夫である俺の出番だ」

「夫? 妄想も大概にしなさい。姉上はまだ結婚しておりません。貴方がおっしゃる契約書も本物という証拠がない」

「なぜこんなにもシスコンって面倒なんだよ!」

リクとラズリはこんな感じに口喧嘩をしている。

その間、いくら止めようがまるで私の言葉が聞こえないかのように無視されていく。

どうやら二人にとって私は眼中にないらしい。


「もういっそエスコートなしでは駄目なのかしら……?」

これからバルト様主催の歓迎パーティーへと向かうんだけど、そのエスコート役を誰にするかで揉めている。そんなに喧嘩の原因になるほど重要な事ではないのに……


数刻前にそのお話を頂き、私はササラさん達に嬉々とドレスに着替えさせられ、それからメイクもヘアスタイルも全て完璧にして貰いお姫様のようにして貰った。

……のだけれども、それも無意味に終わるかも。この二人次第では。

だって時間に間に合いそうにないし、下手したらパーティーが終わるまでかかりそうだもん。


思えばずっと言い争いばっかりの二人だ。

私が身に纏っているドレスの段階で、すでにあの二人は揉めた。


リクが買ってくれたドレスがあったんだけど、ラズリもハイヤードからドレスを数十着持参持してここに訪れたみたい。

ドレスなんてうちに無いと思っていたけど、どうやら私が卒業後に戻ってきた時のためにとラズリとユリシアが城に用意してくれていたものなんだそう。

ドレスだけじゃなく、シューズもケースに入って何十足も。

「急ぎでしたので、これしか持ってこられませんでした」って笑っていたけど、これが少しならどれだけ買ったの!? って不安になった。


それでどちらのドレスにするかで喧嘩。

まぁ結局ササラさん達の仲裁で、ドレスはラズリでハイヒールや宝石等のアクセサリーがリクでとケリがついた。それで一安心と思いきや、第二幕が勃発しこの様だ。


「ねぇ、もう誰でもいいからエスコートして。埒が明かないわ」

振り返って後方に控えている騎士達へと声をかけた。

だってこの二人の喧嘩に終わりが見えないから。

さすがに時間も時間。歓迎される側が遅れるわけにはいかない。


「……え? 俺達の誰かですか?」

騎士達は私の問いにお互いの顔を見合わせている。

そして「うわっ……」と声を上げると、「無理無理無理無理」と首を左右へ振り、その上顔の前で掌をぶんぶんと降った。

さすがにそんなに全力で拒絶されると傷つくんですが……


「姫様、絶対に辞めて下さい。いいですか? 大事なのでもう一度言います。エスコート役を我らの中から指名するのはお辞め下さいませ」

「そうですよ! あの鬼畜の逆鱗に触れる事はなりません。誰が止められますか? 唯一止められる、シド団長が居ないのに」

「後生ですから、姫様! 心臓が持ちません……」

やたら顔色の悪い騎士達が、慌てて私の元へ走ってきて跪きそう乞われた。

まるで命の危機にでもあるかのように拝みこまれているが、エスコート一つでなぜそうなるのだろうか?

どうやら騎士達にエスコート頼むのは却下らしい。


「なら、ロイにお願いするわ」

「それも不可能かと……」

「え? なんで? あぁ、仕事とか……?」

「いいえ先ほどラズリ様の奇襲に…いえ、ラズリ様とお会いしたのでメンタルやられて…ではなくて、

お話をされ相当疲れていると思いますのでちょっと無理ですね」

「お話するだけでそんなに疲れるの?」

「積もる話が多々あったのです。それはもういろんな話がね……」

騎士達は全員どっか遠い所に視線を向け、哀れんだ瞳じっと何かを見つめている。


「そうね。たしかに長話は結構体力消耗するわね。ロイってアカデミー時代からラズリと仲良かったものね。週一で文通してたし」

「あ、あれは…――」

騎士達が何かを言いかけた瞬間、「シルク!」と名前を呼ばれ、はじかれるようにそちらへと顔を向けた。すると物凄い形相をしたリクがこちらに足を進めているところだった。


「行くぞ」

がしっと二の腕を掴まれ、私は「は?」と間の抜けた声を出してしまった。

もしかして私が騎士と話している間にどちらかに決まったのかしら?

……と思ったんだけど、違った。


「だから僕の姉上に気安く触るな!」

とラズリがこちらに来ると私の腕をリクから引き離し、私を自分の背へと隠した。


「お前のじゃない! 俺のシルクだ! この病的シスコン患者め!」

「シスコンが病気ならば、僕は喜んで罹りましょう」

「患うな! お前はこれからシルクと一緒に居れるだろうが。俺は遠距離になるんだぞ!? 

二人の時間を過ごさせろ!」

「えぇ、そうですね。あと3日で姉上と貴方はお別れですね。僕はずっと一緒に居られますが」

「ずっとじゃない! 一年だ。一年。きっかり期間が来たらシルクの事は迎えに行くからな」

やつぱりまだ続いていたのね……


「もう。二人ともいい加減にしてよ。あと3日でハイヤードに帰るのに……」

私はハイヤードに一時帰国する。

『――だったら貴方が本気だというのを見せて下さい。姉上と離れても想っているという証拠を。

そしたら貴方と姉上の件考えてやってもいい』

ラズリのその言葉にリクは、結婚を認めて貰うためにその条件をのんだ。

絶対に約束守って1年で帰国させろよと、リクは正式に証書を作成しサインさせていたけど。

あっ、そう言えばラズリが『どちらかに好きな人ができたら破断』という制約もつけていたわね。


期間は1年間。

精霊王の儀式やお輿入れの準備でだいたいそれぐらいかかるみたい。

1年きっかりにリクがハイヤードまで迎えに来てくれるんだって。


だから、それまでの3日間は良い思い出で終わらせたかったのに……

どうやら前途多難のようだ。





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