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第七十四幕 この体もこの心も全てお前のモノ

長いので分けます。

「なんでお前らがいるんだよ……」

ドアノブを握り締めたまま、リクの体の力はがくっと抜けその身が扉枠にもたれ掛かった。

何をそんなにリクが衝撃を受けているかと言えば、室内にいた顔ぶれが問題だ。


私達が打ち合わせをする応接室は、中央に赤いカーペッドが敷かれその上にテーブルや

ダークグリーンの落ち着いた深みのある革張りのソファなんかがある。

そこにはキキ様が座っているんだけれども、そこまではリクも予想がついていたと思うの。

だって、キキ様がいらっしゃっていると呼びに来てくれたのはリクだし。


問題は――


キキ様が座っていらっしゃる反対側にある空席のソファの後方に、顔なじみのササラさんを初めとするメイド仲間が一堂に会している。

リクが憂う原因はそれ。

私は時間を聞かれたので、来ると思っていたけど。


「あら。何か不都合でも?」

「俺とリノアの結婚式だ。お前らには関係ないだろうがっ!」

獣がうなり声を上げるかのように、リクはササラさん達を威嚇するけど、

それは春風の如くササラさん達には弱すぎるみたい。

表情を一切崩すことなく、受け答えをしている。


「リクイヤード様だとリノアのドレスがダサくなってしまうので……」

「お前、またダサイって言ったな!?」

「えぇ。どうせ他人に見せたくないとか言って、以前のように全身を覆うようなタイプにするおつもりでしょ?」

「当たり前だろ! 誰が見せるか」

ササラさんは鼻でリクを笑うと、私に向かってほほ笑む。


「さぁ、リノア。そんなところに立ってないで、ほら座って座って」

「え、あのっ……」

戸惑う間もなく私は手首を掴まれ、引きずられるよういして連れて去られてソファへと腰を落とした。

するとタイミング良く、ルナさんが紅茶をテーブルへとそっと置いてくれる。

湯気が揺らいで届くのは柑橘系のさわやかな香り。

これはアールグレイのようだ。


「俺の存在は無視かっ!?」

ドガドガと無闇矢鱈に足音を立てながら、リクはこちらにくると不貞腐れた表情のままをどがっと隣へと座る。

その様子にキキ様が一瞬引き攣った笑みを浮かべたが、すぐに鞄からいろいろと布地カタログなど

取り出し、目の前にあるテーブルへと並べ始めた。


「早速ですが、先日リノア様に大まかなご要望を伺いまして、このたび数点デザイン致しました。こちらがそのデザイン画です」

キキ様がデザイン画の書かれた紙を私とリクの方へ見やすく五・六枚並べてくれた。

どれもすごく素敵で、私は感嘆の声を上げたんだけど、どうやら隣の人は違ったみたい。


「なんだこれはっ!」

リクはデザイン画を手にし、手を震わせ驚愕の表情を浮かべている。

信じられないものでも見ているかのように。


――え? そんなに大きなリアクションするようなデザインではないのだけれど……?


「お、お気に召しませんか……?」

リクのあまりの剣幕に、キキ様がおそるおそる伺うようにしてリクへと訪ねる。

それにすかさずリクが、デザイン画をキキ様の前へと掲げるようにつきだした。


「足っ!! 足が出ているだろうがっ!!」

「ほらー。やっぱり始まりましたわ。リクイヤード様のダメ出し」

後方ではササラさん達の呆れた声音での合唱が始まり、それをリクが振り返り目を細め睨んでいた。

ササラさん達はそれを鼻で笑っているけど、傍から見れば王子とメイドには見えないかも。

だって上下関係が……


――なんか、お姉さんと弟みたい。


「足が出ていると駄目なの?」

デザイン画はどれも裾が通常より短めにカットされ、歩きやすいようになっているのは、

私が歩きやすいドレスというお願いをしたから。

前方が膝丈で後方にいくにつれ裾が長くなっているデザインとか可愛い。


「リノアの綺麗な足を見るのも触るのも俺だけでいい!!」

「は?」

あまりの突拍子もない発言に、最初はリクが何を言っているかわからなかった。

触る? 触るって……!?


「ちょっと! 変な事言わないでよっ!」

ばしばしっと音が出るまでリクの腕を叩くけど、リクはぐっと眉間に皺を寄せ私の両手首を掴んだ。


「いいか、お前は俺の物だ」

「また人を物扱いする」

「そして俺はお前の物だ。この体もこの心も全て――」

リクは掴んでいた私の手を自分の頬に当てそしてゆっくりと首筋へと滑らせ、

そしてやがてリクの左胸へ――

固い筋肉質な肉体が衣服を介してだけど伝わってくる。


「……なっ」

「誰にも触れさせない。だからお前も触れさせるな」

「き、きゅうに何を言っているのよ!?」

血液が顔や頭に集中してくらくらする。

この走りまくっている心臓の音はどちらのものだろうか?


「俺もこの体はお前以外に触らせない。触らせるはずがない。だから、おま……――」

「あ、リクイヤード様。糸くずが」

リクが力説している中、ひょいっと腕が伸びリクの肩へとササラさんの指が這う。


「あら~。触れちゃいましたわ」

つい数秒前に言った言葉が数秒後に綺麗に破られた。

それはもうあっさりと。

そのため、リクは俯き小刻みに震え出す。


「あの、でもほらアレだから。ゴミとか付いてたらしょうがないよ」

どうフォローすれば良いのだろうか? 私は正論を言っているはず。

だが、リクの怒りは収まらず「ササラ」と地獄を這うようなリクの声が耳に届き、

「あぁ……」と私は頭を抱えた。


ササラさん、なんてタイミングが悪い……って、え?


たまたま視界に入ってきたササラさん。

だが、彼女は少しばかり様子がおかしい。

口角を片方だけ上げ不敵の笑みを浮かべてみせたのだ。



一体何を考えているのかしら? ササラさん。


リクをちらりと見れば、まだ俯いたままでササラさんの方を見てはいない。

そしてそっと私はまたササラさんへと視線を戻せば、口角はいつものように戻っている。


「お前わざとだろ!?」

やや間が空いてリクは立ち上がり、唾が飛びそうなぐらいに感情的になりながらササラさんを怒鳴り散らす。それに対し、ササラさんは涼しい顔をして「あらあら」と口元に手を当て言った。


「わざとって酷いですわねー。私達は常にご主人様――リクイヤード様のために動いているのに」

「何処がだ!?」

と、またいつものように言い争いが起こった。

お互いに譲らない口論。

肺活量すごいですねと言わんばかりに息もつかないスピード感。


その後どうなったかと言えば――


「リク、大丈夫?」

「……」

結果的にリクはソファに沈んだ。

ササラさんとの口論でいろいろと消耗して、私に膝枕してもらって子供のように腰にしがみついている。

ぐったりとしてダウン中。


「さて、これでゆっくりと決めれるわね!」

そう言ったササラさんの笑顔がまぶしかった。

どうやらササラさんはこれを狙っていたみたい。






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