第六幕 逃げ切ったと思ったのに
やっぱ、旅と言ったらこれでしょ?
片手に袋を抱えながら右手に持っているそれを頬張ると、口の中に甘ずっぱさが広がっていく。
ん〜、うまっ。この国の特産物のララナという果物を煮詰めて入れたパンらしく、ここでしか食べれないらしい。
その国でしか食べれなかったり、見れないものを見たりしないと旅をした気になんないよね。
ここは大国『ギルア』
さすが大国というだけあって、とにかく人や建物がやたら多くてごみごみしている。うちの国とは大違いだ。
ハイヤードは、何も無い――じゃなくて自然豊かな所。
だから、こことは正反対。
んでもってそんな大国になんで私がるのかというと、よくわかんない。
馬に乗って逃げる最中、突然友達に貰ったネックレスが光って気づいたらここにいた。
いきなりの瞬間移動に驚いたけど、逃げられたから別にいい。
『ハイネ』ってば、このネックレスになんかしたのかな?
ハイネは、魔術師なので魔法が使える。
だから、転移魔法でも施していれば移動する事が可能だ。
「騎士達今頃、プレサの近くの町探してるんだろうな〜」
そんでもって、目撃情報なくてパニくってるはず。
彼らが血眼で探しているのを想像しちゃって、少し罪悪感というものがわいてきてしまった。
……無事ですよって事だけは教えておこうっかな。
だってさ、減給とかクビとかになったら可愛そうじゃん。
悪いのバーズ様なんだし。
残っていたパンを口に放りこむと、掌で円を描くようなしぐさをする。
すると淡いピンクの色の蝶が何処からともなく現れ、指先に止まった。
「一応無事だからって伝えて」
そう言うと、その蝶は私の周りを一周すると飛び立っていった。
さて、今度は何処の国に行こうってかな〜っと。
教会前の噴水に腰掛け鞄から地図を出すと、それを眺める。
地図には所々バツが付いてあって、私はその国には行けない。
その時、何の前触れも無く頭の中に声が響き渡った。
『シルク様』
声は聞こえるが、姿は見えない。
精霊が宿るのは自然の中だけでなく、古い建物や物にも宿る。
この辺りで古い物と言えば、この後ろの教会ぐらい。
おそらく十中八九そこだろう。
あの教会にいるのか――
会いに行こうか迷ったが、まず話を聞く事にした。
「どうしたの?」
『あの赤い服を着たご婦人の店の壁際をご覧下さい』
は?壁際?
じーっといわれた方向を見ると、男の子が壁に隠れるようにして見ている。
四・五歳ぐらいかな。
服もかなり上等の物を着ているから、たぶんどっかの貴族の子供だろう。
その子供は私と目が合うと落ち着きなく視線を彷徨わせては、またこっちを見る。
私が近寄ると体を右に行ったり左に行ったりした。
「何か用かな?」
しゃがんで視線を合わせる。
細いブラウンの髪に、青い瞳。かなり色が白い。
「さっきの」
さっきの……ああ、もしかしてアレ見てたのか。
前と同じようにして、手から蝶を出しその子の指先に乗せてあげた。
「あげる」
「ほんと!?」
すると強張らせていた顔から、笑みがこぼれおちる。
おっ、可愛い。
「これ私の意識だから、時間断つと消えちゃうけどね」
そう言ってその子から離れようとした時だった。
本日二回目の包囲にあったのは。