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間幕 一ヶ月後のあの人達は

ハイヤード城。国王執務室。

数カ所ある窓からは西日が入るためその部屋は日当が良く、展望がきくため城下町が一望できる。

大都会のギルアとは違い、神殿以外差しあたって大きな建物がないハイヤードでは障害物の影響がないためだ。

ここからならば肉眼で人々の行きかうメインストリートを見る事が可能ということもあり、民の平穏な生活を背に守りつつ、執務を行えるこの部屋をハイヤード国王・バーズは気に入っている。


だが、今はその穏やかな日常をぎりぎりと歯をかみしめながら忌まわしそうに見つめていた。


双眼鏡を覗きながら――


「なんなのあれ!?」

バーズ国王はレンズ越しに見られる光景に対し、腹を立て樽の様なお腹を揺らし地団駄を踏んでいる。

国王が持っているのは、カラクリの国・ラッシュアドより取り寄せした最新式の双眼鏡。

倍率も自由に設定出来き、主に軍用に使用されるはずの代物。

だが、国王が見つめているのは敵ではない。

とある男。それも自分と縁のある人物だ。


「本当に何なのっ!!」

そう叫びつつバーズ国王は双眼鏡を一旦下げた。一国の国王がなぜこうも心が荒れているのだろうか。

まるで彼の直ぐ傍にある執務机に乱雑に置かれている書類のよう。

彼の心模様の様に荒れて荒れて荒れまくっている。


「民は騙されておる! あやつは腹の中は真っ黒なのじゃ」

そう言ってバーズ国王は再び双眼鏡を覗きこむと、ハンカチを噛みしめる。

彼が監視するように覗いているのは、彼の息子――ラズリ王子。

ラズリ王子が優秀な秘書官を引き連れ、城下町の人々と触れ合っているという実に微笑ましい風景。


民に囲まれ笑顔で応対する王子は、さすがは聖人君子。

ラズリ王子は民だけでなく臣下や他国にまで名を広げ、その功績が広がっているのだ。

そしてそれがだんだんとバーズ国王の存在が薄まっていく原因でもある。

最もそれがバーズ国王の心が荒れる核。


「ほら見てみろ! でた! 闇より闇色な黒さを隠しての天使笑顔エンジェルスマイル

「天使の笑顔だけで良いではないですか……前半は不要ですよ。バーズ国王、もうお辞めなされ。一国の王が覗きなんて。しかも御子息を……実に優秀で親としては誇れるではありませんか」

執務室にあるソファセットに座りズズズッと茶をすすりながらそう諭すのは、ハイヤード公国・元騎士団長にて、暁の獅子こと現騎士団長・シドの父親であるフォード。

彼は現役を退いた後は、こうしてバーズ国王と茶飲み友達となっている。

そして最も国王の愚痴を聞く羽目になる人だ。


「とにかくお辞め下さいませ。ほら、こちらにて茶でも……」

フォードが菓子の入った籠をバーズ国王へ向け差し出すが反応がない。

相変わらず息子監視の手を緩めてないのだ。


フォードは溜息を吐きながらテーブルの上にあるカップへと手を伸ばした。

すると何気なく視界の端にあった新聞に目が止まる。

これも長年の感なのか、フォードはそれを手に取り、「あぁ……」と呟いた。


――これか。これが原因か。


『若き時期国王、名スピーチ。ハイヤード公国ラズリ殿下。彼ならばハイヤードの繁栄は約束された』

新聞一面にでかでかと肖像入りでラズリ王子を褒め称え記事が書かれている。

どうやらこの間外交で行った先の事らしい。


このようなラズリ王子万歳的な記事は差し当たって珍しくもない。

問題は同じようにスピーチしたバーズ国王の記事が小さいのだ。

左端にちょこっとだけ。


「繁栄は約束されたって何!? わしじゃ繁栄約束されないっていうの!? 若くてイケメンならいいわけ!? わしの記事小さいんだけど。ラズリを一面にすると部数が違うって、そんなにラズリ人気なわけ? 鬼畜王子なのに!」

「……バーズ国王」

「フォード、おぬしもそう思うじゃろ!?」

返答できない答えに、フォードは隠れてため息を吐く。

その時だった。

バタバタと複数の足音と共にノックも無しに扉が開け放たれたのは。


「ど、どういうことですか!? 国王様!!」

半泣きになりながら部屋になだれ込むように入ってきたのは、騎士達だった。

皆、顔色が土色。唇をぷるぷると震わせている。


国王、それに現役を退いたとは言え、元騎士団長がいるのに礼の一つもとらずに無礼だが、

そんな事を咎める状況じゃない事を二人は悟った。

嫌な予感がする――おそらく二人の胸の内は同じだろう。


「ラ、ラズリ王子が……」

その名に、国王の顔色も騎士たちと同じになった。

そんな国王の代わりにフォードが先を促す。


「十五分後に召集がかかったんです! しかも第一から第三まで」

「騎士団の三分の二ではないか! まさか戦か!?」

フォードが思うのは無理もないだろう。

だが、違う。


真実は――


「姉上奪還ですよ」

鈴の音のように透き通った声。

それが執務室へと波紋のように広がっていく。

だが、国王を始め騎士達には地獄の子守唄。

死神の囁き。


おそるおそる室内に居た全員がその声が聞こえて来た、扉方向へと視線を向ける。


「父上。僕に隠れて面白い事してくれましたね?」

そこには彼がいた。

民を始め大半からは聖人君子と崇められ、一部の騎士や国王からは鬼畜王子と呼ばれる、ラズリ=ハイヤードが。

やたらと顔色の悪い舞姫と演奏者を引き連れて。













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