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第六十一幕 白黒つけませんか?

「――……さっきのお話は本当ですの?」

それはササラさんの靜かな問いかけだった。

氷よりも冷たく凍えそうなぐらいの温度。

その表情は顔の筋肉が動くのを忘れているようだ。

それに対しスレイア様とロイは、首をかくかくとからくり人形のようにひたすら縦に動かしている。


二人とも借りてきた猫のように大人しく、じっと身を縮こませながら椅子に座っていた。そうなるのも無理はないかもしれない。

だって彼らの周辺にはぐるりとメイド達が取り囲んでいて、ついさきほどまで尋問があったのだから。


「迂闊でしたわ。まさかそういう理由でラッシュアドに向かわれたなんて……しかし、一体何をお考えなのでしょう? アレは」

ササラさんは顎に手を添え、ふぅっと憂いを帯びた表情を見せ溜息を一つ零した。

一国の王子をアレ呼ばわりしているのに、周りの人は誰も気にも止めず、

むしろ「本当にねー」「お土産すら渡せないヘタレのくせに」などといろいろ口走っている。


「いや、全くだ」

「ほんとそうですねー」

スレイア様とロイはこの状況の中ゆえか、相槌をうったり、同意する言葉を話したりと

している。

どうやら以外と世渡り上手らしい。


「というか、スレイア様。どうしてお止めしなかったのですか? 一夫多妻だから問題ないとでも?」

「も、もちろん私は止めたぞ!! たしかにギルアの王族は一夫多妻制。父上にも妃や妾は大勢いる。それはあの人の女癖の悪さというか、美しい花は愛でなければならないという趣向からだ。その結果、さまざまな面でうちとの利益があるのはたしかな事。だがリクイヤードとカシノ姫との婚姻を結ぶというのはまた違う。たしかにラッシュドの技術力は欲しい。だが、それは資金援助という名の協力で見返りとしてうちに回して貰う事も可能なんだ。それに仮に婚約としても、リノアとの事を区切りをつけてからが礼儀ではないか」

「そうですわよね。あんなプロポーズしておいてさっさと次って。一言何かいって下さればよろしいのに」

「もしかしてまた女好きな病気が再発とか?」

「あー。どうだろう。リノアの事本気なはずだと思うんだけどなぁ」

「私もリノアの事は本気だと思うぞ」

なんだろう。自分の事を話題にされているため、話に入るのを躊躇してしまう。

そもそも聞くのすら躊躇う事なので、私は席を外してスレイア様とロイの紅茶を入れる事にした。


「ですが、リクイヤード様にもきっとお考えが……」

ロイのそんなフォローも今は無意味。

「まぁ、伺いたいですわ。では、どういう考えですの?」

みんなのナイフのような視線に、ロイは顔を俯き加減で「それは……」と口ごもる。


「ねぇ、リノア。さっきから気になってたんだけど、あんた驚いてないわね」

「え?」

紅茶をスレイア様とロイに渡していると、ふとルナさんに尋ねられ動きを止めてしまう。

ただゆらゆらと湯気が天に昇っていく。それは不安定な私のようだ。

行かないで欲しいと思っているくせに、リクとカシノの件をどこかで安堵している。


「もしかして知っていたわけ?」

「……知っていました」

「それ、リクイヤード様に直接伺ったの?」

「いいえ。たまたま聞いてしまっただけです」

「それで? ちゃんと聞いたの?」

その問いは、私に首を横に振らせた。

するとみんなの表情がさっと曇る。


「まさかどうでも良いから聞かないわけ?」

「どうでもは良くないですけど、ギルアは一夫多妻制です。それに私がとやかく言う権利はありませんので……」

だから私が口を出す事は出来ない。

だってリクはギルアの王子なのだから。


「言えば良かったのに。もしかしてあの方、リノアのために動いているのかもしれないわよ?」

「どういう事?」

メルさんがルナさんを見れば、彼女は「勝手な推測だけどね」と告げた。


「だってさ、考えてみなって。仮にカシノ姫との婚姻のため邪魔になったリノアを郊外の屋敷へ移す。それっておかしいわ。別に他に妻を娶るのは一夫多妻だから問題ないわけじゃん。それなのにわざわざ違う屋敷を? カシノ姫に配慮してだとしても、リノアとの婚姻はまだなのだからそれを白紙に戻せばいいはずよ」

「それってさー、単純にカシノ姫が一番だけどリノアも手放せないとかじゃない?」

「リノアには悪いけど、私もそう思うわ」

「そうなんだけど……でも、あのリクイヤード様よ? そんなにすぐに他の女に気が変わるかしら?

それにもし仮にそうならば、リノアからプレゼントされたピアスを肌身離さずまだ使用しているなんてことする?」

「そう言われてみれば、そうよね。でも、だったらなんで?」

みんな首を傾げている最中、ササラさんが「あっ」と言葉をあげた。

そのため何事かとみんなが顔を向ければ、彼女は酷く思いつめた表情をして口を開いた。


「逆だったら?リノアを守るために、カシノ姫を犠牲にするってパターン」

「逆?」

「それってどういうこと?」

ミミさん達が騒ぎたてる中、「あぁ、なるほど」と頷いた人達がいた。

それはルナさんを始めとするメイド歴の長い先輩達。


「つまりカシノ姫を表に立たせ、リノアから視線を外す。城や外交関係は全部カシノ姫に、

リノアは警備の行きとどいた郊外の屋敷で心身の安全を守るって事」

「リサのようにリノアに危害を加えようとしている奴から身を守るためか。ありそうね」

「そんなの駄目です!!」

急に声を荒げた私に、みんな目を丸くさせた。


「カシノは私の友人なんです。危険な目にあわせるなんて出来ません」

「それ、リクイヤード様ご存知?」

「はい。以前話しました」

「なら、余計可能性あるかも。事情を知ったカシノ姫が協力する理由になるし、それにリノアの話し相手にもなる」

「そんな……」

それなら話が違う。

リクがカシノの事を好きならば、この気持ちにも区切りが付けられるかもしれなかった。

それなのに、仮にそんな事を考えているならば止めなきゃ!!


――でも仕事が。


ギリギリの人数で仕事をしているし、用事がある人は休みを取っている。

そのためシフトを変えるには、誰かに融通を利かせて貰わねばならない。

一日や二日ぐらいならなんとかなるかもしれないけど、ラッシュアドまでは日数がかかりすぎてしまう。


「確かめて来なさい」

「え……?」

見つめる先には、みんなが笑っている顔が。


「なんとかするわよ。だからこっちの事は気にするな」

「そうそう。白黒はっきり付けて来なさい。もしリクイヤード様がカシノ姫を純粋に好きになったのならば、その時は今度騎士団の人とでも一緒に合コンしよう!!」

「ごっ……」

合コンですか。

なぜそっちに?


「そうよ。新しい出会いも必要だものね。男はリクイヤード様だけじゃないし」

「いいねー。合コン!!私も行くわ!!」

「私もーっ!!もちろん幹事やってくれますわよね? スレイア様、ロイ様」

「も、もちろんだ。なぁ、ロイ」

「え、えぇ」

みんなの勢いの押されたのか、スレイア様とロイは渇いた笑いを浮かべていた。


「でも……」

「いいから行って来なさい」

ササラさんは柔らかく笑微笑むと、私の方へカップを差し出してくれた。

どうやら新しい紅茶を入れてくれたみたい。

華やかな香りに気分もほんの少し浮上する。


「ねぇ、リノア。リクイヤード様が他の人と結婚するって聞いてどう思った?」

「嫌でした。でもそれと同時にどっか安堵したんです。私と結婚するよりはカシノとの方がいいって……」

「そう。ならそれをリクイヤード様に言いなさい。ちゃんと話をすることも大事よ」

「はい」

私は頷くと、マグカップに手を伸ばした。

少し熱い紅茶を冷ましながら、私はリク達の事を思った。

まだ着いてないよね、ラッシュアド。


「さてと。じゃあ、メル。リノアの旅費準備して」

「はぁ!?なんで私がっ!?」

「あのっ、ササラさん。私、自分のお金がありますから大丈夫です。ちゃんとお金もためてますから」

いざという時の逃走資金に結構ためているの。

だから旅費は宿や馬車など贅沢しなければ足りるはず。


「いいじゃない、メル。どうせ報告に行くんでしょ。それとももうすでに報告済み?」

「そうそう。何もあんたに払えって言っているわけじゃないのよ? 貴方のバックにいる人。

貴方の雇い主に頼めば出してくれるんじゃない? リノアの事気にいっているみたいだし」

「……その顔だと誤魔化せないわね。いつから気がついてたわけ?」

「さぁ? 私達はメイドですから」

「答えになってないんだけど。それにメイドじゃなくて間者の間違えじゃないの? 隠密行動出来るわよ」

「それ、よくリクイヤード様に言われるわ」

「まぁ、いいや。頭に血が上ったからまだ未報告よ。だからお伝えする。すぐに用意して下さると思うわ。私もあの方もリノアの事心配だしね。あ、でもこの騒動を起こしたリクイヤード様の御身までは世話しないわよ」

「それは問題ないわ。自業自得ですし」

にっこり微笑むササラさんに、悪魔の尻尾が見えた気がした。




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